表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
128/147

ぼくたちは成功\(^_^)/

★本話の作業用BGMは、『Young Bloods』(佐野元春)でした。

 静かな冬のブル●スに眠る……ほーん。

 もっと売れて、ザ●ベ●トテンで見たかった(観た記憶が無い)。

 まあ、TVには出なかったかもですが。

「国際青少年」年(年がクドイですけど)のテーマソング。

 PVの舞台は代々木公園だそうです(※by ニコ動)。

 イイ感じでーす。


 〆めは『走れ正直者』(西城秀樹)。

 ハムジャナイ……。

 南岸低気圧の影響で、未明からお見事な雨が降り続いております。

 都心でも積雪の恐れがあったりなかったり、とか。

 所詮、TVの天気予報です。

 そ●じろーもツッコみませんし。一言も喋りませんし。

 し●じろーの方が、ビジュアルもエンタメ性も優秀だと思うのですが。

 おまけに喋るし。

 どう思います、お母さま。


☆☆



 雨が上がり、町中(まちじゅう)に寒気が置き去りにされております。


 ぷりぷりしながらリモコンを掴み、室温を数度弄って心中が落ち着くのを待ってみます。

 ついでに脈拍も測ってみたり。


 ……20秒で26回。さて、1分で幾つになるでしょう…………か。

 寒さ(ゆえ)か恐れからか(←正解が導けないという)、右手が動きません。

 こんな歯痒い心持ちになるなら、初めから1分で測るべきでした。


 

 悶々とするなか来店されたのは、文字通りピチピチ(死語?)の若い女性でした。

 臙脂色(えんじいろ)のジャージを羽織り、限界まで上げられたファスナーが顎先をそっと隠しております。

 お胸の辺りが窮屈そうに腫れ上がってらっしゃる。

 なんぞ、重い(物理)(やまい)でも患って……慢性爆乳症?


 下も同色の短パン。

 黒タイツかレギンスか知りませんが、時折キラつくおみ足は、起伏に富んだ美しい曲線を描いて――(なまめ)かしさが淡い熱を伴って匂い立つようです。

 真っ白なスニーカーが、そこだけしくじったように清楚な光を弱く放っております。


 ド忘れいたしましたが、リアルなんとか――なんてファジーなフレーズが浮かびます。



 知らぬまにつと流れた鼻血をもそもそ拭っていると、女性が椅子に腰を下ろしました。

 ジャージのポケットに両手を忍ばせ、ボタン群を覗くと、鮮やかな短めの金髪がサララと流れました。

 押下したボタンは、『走る疾る俺たソ』。

 また誤植でしょうか。

 一応仕事なのですから、少しはプロ意識を――。


【こんにちは】

「赤貧のツイてない御苑へようこそ。お寒くないですか」

【はい。暖かいです。27.5度くらいですね】


 それこそ走ってらしたのでしょうか。


「このボタンは、ひょっとして中●くん?」

【多分、●野くんです】


 珍しくも正解。


「たい●きやいた……」

【その人です】


 ふと思い付いて引き出しを開けてみましたが、サングラスは見当たりませんでした。



 袖から指だけ覗かせ、その白い両手指で口元を覆うと、目を瞑ってハァ♥とやってみせます。

 あざとい……あったかいって仰ってましたのに。

 またポタリと鼻の血が滴りました。んむぅ。

 今日は無事におうち帰れるでしょうか。


【高三男子の家庭教師をしてまして】

「字面だけで()せそうです。というと、大学生ですか?」

【ええ。JDです】


『J』はいらん。見りゃ分かる。


【じゃDで】

「あ、聞こえました? でも『D』だけじゃ」

【あおがくです】

「ああ、駅伝で有名な」

【え。駅伝のどこ?】

「どこ? といはれましても」

【青山様学園大学です。私立の女子大】

「申し訳ございません。全っっっ然耳にしたことが……」

【八丁堀の青山様が名誉理事長で――】※1



 失礼ながら、在籍する大学やビジュアルからすると……よくぞ家庭教師として()われたものじゃ――新入りの脳内評議員(自称・仙人)が呟きました。

 激しく同意です。


【彼の学力からして、志望校は少し難儀な感じなんだねぃ】

「江戸弁?」

【あ、ごめんなさい。青山様に心酔している生徒は、時折江戸弁が】

「……そうですかぃ……」


 落胆した下っ引き(岡っ引きでも可)みたいになってしまいました。


【やがて彼が――「合格したらご褒美をください」って言い出して……】

「言っちゃったか」

【言ったんだねぃ】

「…………で?」

【あたしに出来ることならいいぜぃ、って】

「言っちゃったか」

【言ったんだねぃ】


 そろそろ本試験だそうです。

 なかなかご褒美について口を割らなかったそうですが、ついに。


【「ぼ、ぼくが(受験に)せ、成功したら」】

「性(コウ)(聞き間違いか)?」

【…………】

「あれれ? だぜぃ」

【正解はCMのあとに言うもんだぜぃ】

「………………マジですかぃ?」


 漫画のようなお話、あるのですね、現実に。


【安請け合いを……ちよと後悔してる……ぜぃ】


 気のせいか火照ったお顔。

 鼻から下を、やはり指先だけで覆ってらっしゃいます。


「彼にはアレですが、お断りされては?」

【…………】

「断んなぃ、姐さん」


 あーあれですか。


「順番が違うだろ? ってことですかぃ、旦那」


 記念でイタすことでもないとは思います、毛ど。


【……単純に、青臭い男子高生の、肉欲への渇望「ダケ」が言わせたモノなのか、それとも……あたしを好きになったから付き合いたい、って気持ちから出たモノなのか……ふ、複雑な心持ちになっちゃって】


 イソギンチャクの如く、指先が賑やかに踊ります。


「お付き合いされたご経験は?」

【……いえ。恋人いない歴21年……】


 ほう……このビジュアルで。

 いや。そこじゃないか。


「大人の恋愛は、『付き合おうぜぃ』から始まらないと言いますが」

【う、嘘でぃ!】

「そう言われるとねぃ……」


 何れにしろ、処●にはキツいお話でございます。


「身体の相性は\(^_^)/だね→付き合おうか! もアリかなあ、とは個人的に思ったり思わなかったり。まあ、受け売りですが」

【…………】



 JDは下を向いたままです。

 頭頂部から(はかな)げに煙が漂い……。

 故障かもしれません。

 JDが。

 故障。


 じっと見詰めていると、時折、微かに、二の腕や太股をモジモジ擦り合わせます。

 あ、摩擦熱?


 私もまた一滴、血を溢してしまいました。

 (こら)えて。私。



 彼女が小さく、熱を持った吐息を洩らしました。

 ――堕ちた…………か?

 すりゃイカンですばい。


「妄想捗る中、(はなは)だ恐縮ではございますが……熱いモノを全部吐き出して、冷静になってください。勢いでノっちゃうのはよろしくないと思います」


 赤い顔のJDが、ぼんやり視線を寄越します。


【でも、約束……】

「元々、公序良俗に反する契約です。取り消しましょう」

【……】


 JDが目を潤ませつつ、数度、深呼吸を繰り返しました。


「貴女が衷心から欲しているなら(やぶさ)かではありませんが」

【欲してません! そんな、まだ早いもん……】


 ん? 成人……?


「では、常識的な範疇にハードルを下げていただいて――」

【「じゃあ、お●ぱい揉ませて」って言われたら!】


 食い気味。ふう。


【お●ぱい揉ませてって言われたらっ?!】

「落ち着いて&泣かな~いでぇえ~↗(by 舘ひ●し)。肉欲絡みは却下しましょうか」※2



 この人、ご自身が発しているモノを解ってらっしゃらないようですね。

 そこがこの問題のややこしさ(?)のようにも思うのですが。


 かの高校生。

 血を吐く思いで我慢しているのかしら。




 願わくは――


『じゃあ、合格したらボクと付き合って』


 彼女が一番欲している(may be)言葉を、彼が口にせんことを。

 順に進んだ方がこの人の為……のような気がいたします。



「顛末を是非、お教えくだされぃ(後学の為に)。ゴッド・ブレス・ユー」



 白桃のようなお顔……少しだけ熱も引いたようで。

 愛らしい紅い唇には、キリッと力が宿って見えます。



 お陰様でようやく、私の鼻血も止まりました。


 折角止まったところでナンですが。

 もし――近い将来、同じような状況で、爽太くんにこんなアレをねだられたら私も……。

 はい~喜んで! って言っちゃいそうな気もいたしますね。



 ……心配ご無用です、お母さま。

 爽太くんは、こんなこと口にいたしませんよ。

※1 『八丁堀の七人』第7シリーズまで制作されたテレビ朝日系の時代劇。

 主人公の上司が、与力の青山様(村上弘明さん♥)。江戸弁が渋い。


※2 『泣かないで』(1984年)。同名曲が多いらしいですが、ここでは舘さんのお歌をイメージしております。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ