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消える●球のナニがダメなのさ

☆本話の作業用BGMは、『ハイスクールララバイ』(イモ欽トリオ)。やっちまった……また置き去りにして申し訳ございません。

 作曲&編曲は、またも細野晴臣氏(YMO)。イントロは「ライディーン」のパロディだそうで。

 思えば、エアー・バンドのハシリと言えないことも……?

 某人気バラエティ番組より誕生したヒット曲。

 まあ、ワレワレの世代からすると懐かしいかな……なあっ!(※お約束)


(※執筆2023年10月)

 気付けば十月も中旬を過ぎ――やがてあっという間に、「胸中に(こがらし)()き続ける」季節になるのでしょうね、お母さま。※1


 

 夜五ツ(午後八時頃)を迎えるあたりで来客です。

 恐らく、本日最後のお客さんとなるのでしょう。


 上下濃紺のジャージ、幅広の某かを肩掛けに。ボストンバッグをひとつ提げ。

 耳も片目も覆い尽くす長髪の青年。すこぶる長身。

 唯一覗く左目が、暗い光を湛えております。


 椅子に近付き、高みから机上を一瞥しました。

 スラッとしたカバー掛けのラケットを肩から下ろし、机に立て掛けます。

 


 椅子に弱々しく腰を下ろすと、


『ワレ●ユク アオジロキホホ●ママデ――』※2


 というボタンをそっと押下します。


 初めからやり直しのような沈黙が訪れました。



☆☆


 

【……僕は、指導者として失格です。ウ●コです】

「……インコ?(小声)」


 ジャージ男性はひと言溢し。

 徐に、小さい缶コーヒーをしゅるると啜りました。

「あったかい」が出回っているのですね。


【某高校で、羽球部の雇われコーチをしております】

「うきゅうぶ?」

【バドミントンです】


 カタカナで言われる方が腑に落ちる場合もあるようで。



 他校との親善試合帰りだそうです。


 団体戦のシングルスを任せている少年A――どうにか勝利を収めた彼に、


【……試合後、思わず言っちゃったんです】

「なんと?」

【「僕は、ああいう捏ねくりまわすのは好きじゃないなー」って】


 長い息を音もなく吐き、微かに俯きます。



 非力な痩身の少年は「守備型のプレイヤー」。

 相手の攻撃をのらりくらり躱すうち、いつの間にか勝っている「烏賊(イカ)のような選手」(コーチ談)。


「――宗方さん」

【――誰です?】

「そんな選手も面白いと思いますけど。多様性の時代だそうですし。あにょちゃんも言ってますよ(ケッ)」

【やっぱり、王道を求めてしまうんです】

「王道?」

【力強いプレースタイル……団体戦の(シングルス)は、パワフルであってほしい、というか】


 米国に於ける大統領――男の中の男のような? ユーアーキング・オブ・キングス。


 コーチ宗方は涙目で――。


【んあああん!】


 迸るように叫ぶと、


【僕の身勝手な理想を……】

「(ヤバい人かな)」

【彼は泣き笑いのような表情で……一言も発しませんでした】


 ご自身がそんな顔を見せて、囁いたのでございます。



☆☆



【通常、強打のスマッシュが決め()になるものですが……スマッシュ分かります?】

「勿論。誰にもー負けーはしーなーいー(棒)」※3

【それはテニスです。「新・狙え!」の歌詞――】

「いけませんか? 条例に抵触しますか?!」

【ちょ、何怒ってるんです?】 

「熱いー熱いー(鼻声)」

【(無視無視)彼のウイニング・ショットは「ドロップ」で】

「サクマ?」

【(サクマぁ?!)コート後方からネット際に落とす、緩いショットです。ラリー中の緩・急における「緩」属性ですね】

「それが決まっちゃうのですか?」


 野球なら、フォーシーム(直球)に対するスローカーブのようなモノでしょうか。


【ええ。不思議と決まります。都大会レベルの上位陣相手でも、度々効きます】

「へー」

【彼は微妙なフェイントを合間に入れるので、金縛りの如く相手の足がピタッと止まっちゃうんです】

「ふうん」

【勿論、そればかり打っていても効果は無いのです。ここぞで彼が頼る、そんな不思議なショットです】

「なるほど」


 心持ち、コーチっ鼻のホールが拡大したような。

 目を凝らすと、その洞穴で暖をとる旅人が一人……なんて幻が(疲れてんのかな)。


【なんというか、カッコ良くないんですよね……やはり最後はスマッシュで……彼がもう一段上に行くためには……】


 ハイタッチを躊躇う、(にわか)ウェ~イの如き中途半端な顔でブツブツ愚痴ります。

 終いは聞き取れないほどの呟き。

 旅人も、いつの間にか消え失せました。


【ああ、男子部の皆からは「消える()球」と言はれもす】

「野球盤の?」

【野球盤?】

「(ちっ、通じないか)大リ●グボール2号の方でしょうか。重いコンダーラの」

【あ、多分それです(知らんけど)】

「左様で」



 そんな少年Aを中心? に据えているのですよね?


「その、少年Aのストロングポイントはどの辺でしょう」


 コーチの眉間にさざ波が漂います。


【そう、ですね……まあ、消えるアレと……】

「それから?」

【え……と、無尽蔵のスタミナ】

「ムジ・ンゾウ……他には?」

【……なんだか「あたしの好きなトコ100個言ってみ?」って感じ】

「木の精です」


 思い出したよにパァッと破顔すると、


【それと「足」です! フットワーク! 軽快に走り回って、粘っこく拾いまくります!】

「ほほう」

【二流以下の選手だと根負けしますね】

「二流以下……」


 結構「武器」をお持ちなんですね。

 十分な気もいたしますが。


「スマッシュ、全く打たないのですか?」

【いえ、偶に打ちます。通常、シングルスのスマッシュはライン際を狙って打つ事が多いのですが】

「ふむふむ」

【彼の場合、それだと追い付かれちゃうんです。スピードが無いので】

「……」

【打球に角度がつかないので、いっそ相手の胸を狙うこと多いですね】

「ボデー狙い?」

【意外と返し辛いんですよ! 体狙われると】


 何がそんな嬉しいのか。

 練習でよく狙われてらっしゃるのかもしれませんね。このスケベ(?)。



 ――ふと気付けば。

 先程のミクロな旅人……汗が一粒浮いたコーチの人中(※鼻の下の窪み)に、のんびり釣糸を垂らしてらっしゃいます。

 釣れますか。そんな水溜まりで。


 なんとなく、幻にエールを送りたくなりました。





 少年Aに対するネガを愚痴りますが。

 その割に語り出すと、「自分がどれだけ彼女を好いているか熱弁する彼氏」のような塩梅です。

 ご自身、気付いてないのかしら。


「結局、アレですか……少年A、♪ハイリハイリ――」※4

【僕にも分かるようにお願いします】


 被され……れ。


「わんぱくでもいい・逞しく育ってほしい、と 」※5

【……力さえ……いや、パワーさえあれば……】


 一緒。一緒でんねん。

 はあ、頑固ですね、コーチ。


「トキではなく、ラ●ウになってほしい?」

【…………】

「あれ?」


 腕組みするコーチは視線を上げません。


 仕様がないですね。も一度トライしてみましょうか。

 W杯も盛り上がっておりますし。

 んね?


「トキはラオウに憧れたかもですが、そのモノにはなれませんでした」


 ゆっくり(おとがい)を上げると、目にじわじわ光が灯ります。


「選手間のアレやら選考等でも、めんどい事情がおありかと存じますが――」

【そう……そうなん……】

「まあいいじゃないですか、大好きなのでしょう?」

【は?】

「好きだから抜擢したんじゃないの?」

【…………】

「愛してるんだろッ!」

【そっち?!】



 宗方さん。

 物体Xと遭遇でもしたように、奇っ怪なお顔で固まっちゃいました。




「……嘗て、蟻の女王は言いました」

【なんの女王?】

「ありのーままでーって」

【…………然もアリなん】


 ニコリともせず、一度頷いたのでアリます。



☆☆



 宗方(仮)さんがチュッとコーヒーを飲み干すのを待って。


「コーチ……彼女いないでしょ?」

【しっつれいな!…………あの、占い師?】

「ええ。来世では」

【そこは「前世」でしょう?】


 少しだけ仰け反って苦笑を溢しました。


 紅みを差すお顔に向けて、


「少年Bに謝ったげてくださいよ」

【それはもう……って誰に?】





「ゴッド・ブレス・ユー」


 お時間です。唐突に。



 夜空でも見上げながら、腰を伸ばしてお帰りください。

 お足元に気を付けて。



 ひときわ(まばゆ)いと思います、今日のお星さまは。

 ね。お母さま。

「青春」……を思い浮かべつつ、無駄に熱く語ってしまいました……


※1・2 『昴』(谷村新司)より抜粋。

※3   『青春にかけろ!』(VIP)より。

    『新・エースをねらえ!』OP主題歌でした。

※4   丸大食品のCMより。「お~きくなれよ~」って。

※5   同じく、丸大食品のCMより。


さらば、昴……あーりがとぅ。

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