宙空の迷宮
☆本話の作業用BGMは、『ブルー』(渡辺真知子)だー。
天才シンガーソンガーだー。
「ブルー」の意味が未だに分かんないー。
〆は、「色」繋がりで『パープルタウン』(八神純子)。
天才シンガーソンガー! どんだけNY好っきゃねん、というお歌だー(?)
店がハネたあと。
兄様と二人、上野・不忍池方面へと繰り出しました。
夜五ツ半(午後9時)を回っても、真夏日はそのままの真夏日です。
何しろ、明日の最低気温は30°C。熱帯夜どころの騒ぎではありません。
日本はどうしちゃったのでしょう、お母さま。
この異常な暑さ、私の短い生涯で記憶にござんせんよ。
微かに温い風が吹き抜ける寺町通りを西へ向かい、上野のお山を右手に見つつ、不忍通りへ。
池畔はいつものように開放的で、軽装で愉しげに行き交う往来には、外国人の姿も(かなり)多く見受けられます。
以前とは違い、欧米系の方が目立つ気がいたします。
あとインドのお人。サリーと言いましたか、あのお姿は流石に間違えようがありません。
この酷暑は、お国と比してどんな風に感じられるものでしょうか。
水上音楽堂前を左へ切れ込めば、広く暗い池畔とは正反対な、ちよと猥雑で明るい街並み。研ナ●コさんの歌うバラードが流れてきそうな雰囲気です。
リーマンの皆様とすれ違いつつ、一面にレンガの敷かれた賑やかな路地を歩むと、雑居ビルの二階に目指すお店がありました。
チーママ・渚さんの在籍する、クラブ「ホームルーム」です。
「時は来た」のであります。
兄様が看板を見上げ、
「なんかボトル入れよう!」
「はあ」
「い●ちこー」
惚けたコトを抜かすので、私の方は(彼に)「リバーブロー」を上品に入れて差し上げました。
ひりついた喉を宥めつつも早いとこビールを流し込みたい……衷心よりお願いを申し上げる次第なのであります。
(※この模様は後日にでも)
☆☆☆
楽しい宴から16時間後。
二日酔いの頭痛を抱える私の前で。
マジックミラー越し、渚さんが座してらっしゃいます。
下ろした黒髪にデカイ花を突き刺し。
白いルーズソックスに女子高生風のエロ装束。
一見、アラサーにしては違和感なく仕上がっておりますが。
抑えようのないフェロモンは、JKのそれではありません。
街へ放てば鼻血ブーの男性を量産しかねまい……。
こりゃあけしからん……けしからんですよ、お母さま。
JKに擬態した生き物はスマホを睨めつけ、桃色吐息を漏らしつつ『学年ビリのギ●ルが(以下略)』というボタンを押下します。
石●恋さん、でよろしいか?
【昨日はありがとうね~】
「昨夜はお世話になり申した。あのう、そんな散財せんでも――」
【公私(?)の別はアレしないと! それと、練習相手になってほしくてえ】
「練習相手?」
言いながらも、スマホをチラチラ窺います。
「夜半にその装い、大丈夫ですか? 間違って補導されちゃうんじゃ」
【だいじょぶ、この後カレと同伴だから】
「な~る」
警察官と一緒なら、まあいいか。
どっちにしても、JKが補導されてる絵面ですけど。
……いや。制服で同伴はないな(お互い)。
早速、渚さんが吠えました。
【今日のお題は、「首都高で『ツイてない』或いは『ツイてねえ』」でーす】
「どんどんどんパフパフー」
【超YMでワッショイ!】(※ヤル気満々で盛り上がってこー!)
「なんて?」
本日、クラブは『ギャルデー』なんですと。
何故。お店で着替えないのか(謎)。
☆☆
「そうだ、免許取得おめでとうございます」
【あざまし!】
「あざ? ちょ、ちょっ! なんだよもうっっ!」
【? なに怒ってんのよぉ~ぅ】
所謂ジャブ、ジャブです。フフフ。
井上●弥ばりのボディストレート。
「ドライブは行かれました?」
【この間、車借りて彼ピッピと練習しに行ったの。首都高に】
「(ピッピ?)首都高……チャレンジャーですね。勿論、渚さんの運転で」
【あたし助手席!】
「なんの練習? ナビかよ?!」
【嘘うそ、運転したよ? でも舐めてた、首都高マジありえんてぃ。ラビリンスだよー】
見習い冒険者にとって、首都高は難易度高めのダンジョンというのが定説です。
道幅も狭く、罠(エロエロ)も多い。渋滞は日常茶飯事。
そもそも、首都高は何号線まで存在するのか。
ひょっとして「ロ●ド」並みに……(※大袈裟な比喩)。
そして――。
【あの「壁」の威圧感と……「分岐」だね。えーと……】
渚さんはスマホをチラ見して、
【マジやばたにえん!】
鼻息が抜けます。ドヤ顔。
「ギャル語お上手ですね(棒)。スマホがアンミカなんですか?」
【「アンチョコ」ね。今日イベントデーなのに覚えらんなくてえ。一夜漬けダメだた】
「左様で」
【……ガチしょんぼり沈殿丸】(※落ち込んでます)
「…………」
なんとなくニュアンスは伝わるのですが。
ふうん。
【首都高の分岐はヤバいよ。分かり辛いよっ! 超MMC!】(※超マジむかつくし殺す)
「えーと」
【分岐間違えて出て、ネズミーランド&シーへ逝きそうに――】
「千葉まで……」
【3回も逝ってられっかよー!】
「2回は行っちゃったんですね」
【ウケるw】
「他人事みたい」
余裕が無いのだそうです、首都高。
精神的な圧迫感が凄まじいのだとか。
ただでさえ初心者マークなうえ、当然ながら「信号は無い」ので、じっくり考える時間も((T_T))。
数ある分岐は無法地帯(言い過ぎ)、右から左から合流するので、軽いパニックになったそうです。
トンネル内でも分岐&合流があったり……。
彼ピッピの助言も脳に到達しないという始末。
【特に「ハコザキ」だよ……奴はレベルだんち。要塞みたいな……】
日本橋箱崎町、水天宮そばに鎮座する魔の迷宮――「箱崎ジャンクション」。
「お噂はかねがね」
【バミューダトライアングルだよ! 見たこと無いけど! もう、あそこ通りたくないよぉ……】
「トラウマ級だったのですね」
【パニクってUターンしそうに~】
「首都高で?!」
それは恐るべき事態です。
「ハコザキ」魔力パネエ……。
「まあ、頑張って打ち勝ってくださいよ」
【他人事だと思ってぇ……】
渚さん、両腕で体を抱き締めると、ブルッと身震いひとつ。
【……超SBS……】
「??」
青白い顔で呟きます。
唇カサカサです。
速攻検索→「超スーパービューティフルセクシー」。
何の脈絡も?
「コレ絶対違うヤツです」
【トゥクン……】
アンミカの記載ミス?
☆☆
結局その日は、首都高ぐるぐる回って終了したそうです。
「ローリング族みたい」
【下界に降りたら、めちゃほっとしたよー】
「でしょうね」
【一周するだけなら、って思ったんだけど】
「ふむふむ」
【何回か間違って降りて入り直したから、結構(金額)いった……】
「ご愁傷さまです」
ふっと力が抜けた渚さん、だらり両足を投げ出しました。
ルーズソックスが意外な重装備に思えてきます。
はだけたスカート、その奥のパンツは何色のナニ?
【でも、彼……彼ピッピは、「無事に降りられて良かった。次は大丈夫だよ!」って】
「高速降りると、速度緩く感じるそうですね」
【たしかしw それと信号あるし。信号のありがたみってヤツがさあ~】
「わかりみw」
うんうん頷きます。
【信号待ちでチュッチュ出来るし】
「ktkr!」(※キタコレ!)
【マジ・キタコレ!】
〆はやはり、惚気になるようですね。
【流れで最後まで逝っちゃったの~】
「獣めぇ~おのりぇ~」
【アクセルとブレーキ間違えた~ん♥】
「マジ気を付けて! ゴッド・ブレス・ユー!」
――幸せそうに破顔一笑のJK(※擬き)。
そんな渚さんの頬に朱が戻ったころ――。
丁度、お迎えの彼ひっひ(?)が顔を覗かせたのでございます。
☆
行動範囲が極々狭い(いいとこ4特別区)私には、首都高は全く無用の――。
精々、自転車で下界をぬる~っと走らせていただく処女んでございますよ、お母さま。