「そういう人」の赤●絆
☆本話の作業用BGMは、『美・サイレント』(山口百恵)でした。
レジェンドのご登場です。本日のヴォイスでもあります。
口パクが斬新な曲です。「口パク」ですよ? お歌なのに!
今思うと、ほんと優秀なブレーンが付いてらっしゃったなあと。
締めはやはり『プレイバックPart2』(同)。
途中で演奏が止まったのにびっくり。まさか仕様だったなんて。
某国営放送の番組で歌った際、歌詞の「ポ●シェ」が「くるま」に改変されたという逸話は有名でございますね(放送法抵触を危惧したそうで)。
(※サブタイトルの伏せ字は、百恵ちゃんの「赤いシリーズ」に配慮したものであります)
なん……ちゃっ…………て……
週明けの月曜。
開店前に、美冬ちゃんがいらさいました。
支部に寄った帰りだそうで。
真っ白な半袖ブラウスに細身の黒いパンツ、颯爽としたコントラストが目にも眩しいです。
「過日は申し訳ございませんでした。ミケさんが足止めを――」
やはり夢では無かったのですよね。
ええ、納得はしておりますよ。
だって、今も居るし。
【Ⓕミユキさん、貴女の牛乳をください!】
美冬ちゃんの頭上に蹲る白い仔猫が、セク●ラぽい台詞を投げ下ろしました。
「シロ……」
「遠慮なしですね、シロちゃんは」
冷蔵庫を一応漁ってみると、安っぽい賞味期限ギリギリの牛乳があります。
未開封の紙パックをテーブルにドンと置き、
「さ。好きなだけどうぞ」
【これじゃ飲めニャい……】
「お子ちゃまには開けらんないか」
【よーし戦争だ!】
情勢が緊迫するなか、表がカランと鳴りました。
「ご来客ですか?」
美冬ちゃんが首を延ばして囁きます。
入口で佇んでらっしゃるのは、初老の男女二人。
店内をキョロキョロ窺っております。
「そのようですね」
美少女にひと言断りを入れ、椅子に腰掛けインカムを装着します。
予め店内マイクをオンに。
おなしような背丈の二人は、すっと腕を組んでゆっくり歩み出しました。
力みの無い、自然な足取り。
グレーの頭髪を緩いオールバックに整えた男性と、やはり銀色の髪を顎のラインで揃えた薄化粧の女性。
ひそーりソファに腰を下ろすと、揃ってボタン群を眺めます。
やがて、
『あなーたのー……×××……が欲●いのDeath~』
という日替わりヴォイスを選択し、女性がそっとボタンを押下しました。
ああ、伝説のアイドルですね。
「×××」部分を妄想した事もありましたが、大分昔に考えるのをやめました。
「……楽しみです」
クスッという小さな音と短いひと言を、私の背中がふわっと受け止めると。
知らず背筋がピッと伸び、体が勝手に身震いをいたしました。
☆☆
【こんにちは】
マジックミラー越しに微笑んで挨拶したのは、女性の方です。
男性は無言。
縁なし眼鏡のレンズは淡い茶色で、その奥の目は微妙にあさってへと向けられています。
「こんにちは。ツイてない御苑へようこそ。ご夫婦で?」
【ええ。一度二人で来てみたくって】
「ありがとうございます。今日はどのような――」
背後から、ピチャピチャという音が小さく届きます。
どうにか有り着いたようですね。
二人繋いだ手が、夫婦の谷間にそっと収まっています。
女性はハンカチを取り出して口に当てると、
【このひと、兎に角喋らないんですよ。外に出ても挨拶もしないの。だからというか、専ら深夜に独り散歩しています】
「お仕事は」
【物書きです。一日中家で執筆を】
「なるほど」
ちらと窺うと、ご主人の視線は天井へ。
【散歩中あちこちで職務質問受けて――都度電話で叩き起こされて、引き取りに行く羽目に】
「それは……(喋らんから?)」
旦那さんが奥様に首を向け、どこぞの指をピッと立てます。
奥様は呆れ顔で、
【――「間違っているのは俺じゃない。世界の方だ」ですって】
「え? 今そんな事……あれ?」
ごいすー。たったアレだけでそこまで慮る……。
「ご主人、中学生じゃないですよね?」
旦那がしかめ顔で右手をわきわきさせると、
【えと、「混沌を望み、世界の支配構造を破壊する者」だそうです】
「は?」
【そして、「お前の野望を打ち砕く者だ!」って】
「何故。初対面でいきなり打ち砕かれるのか……」
奥様の翻訳能力……いや、旦那が能力者なのかな。
「職質、何回ぐらいお受けになりました?」
【「お前は、今まで喰ったパンの枚数を覚えているのか?」ですって】
「ああ言えばこう言う……」
旦那はスンとした顔で――口元は引き結んだまま。
おま●りさんも、さぞイライラしたことでしょう。
筆談でこんな遣り取りばかりだったら……。
【ぶはは!】
後ろで猫が爆笑してます。
「シロ! 静かに! 向こうまで聞こえますよ」
【シロいオレと黒いオレ、どっちもあるから楽し――】
ぺん! と鈍い音が飛びます。
「ご主人、昔から無口だったので?」
【えと、「ある日、円環の理に導かれて」?】
「意味わかんない」
専らジェスチャー、時折口パクも交えますが、やはり旦那は一言も発しません。
これが日常……やっていけるものなんですね、手話でもないのに。
熟練の夫婦ならでは、なのでしょうか。
瞠目です。
「毎回呼び出される奥様も大変でしょう」
【いっつも、「私は正義の味方じゃないの! 悪の敵よ?」って叱るんですけど】
「奥様が?」
あれ? 似た者夫婦?
【連れ帰るたび、「駆逐してやる! この世から、一匹残らず!」て静かに暴れるの。もう疲れちゃって】
「♪ 馬鹿にしないーでよぉう……と言ってあげておくんなまし」
牛乳を啜る音に紛れて、しゃくり上げるよな空気の漏れが聞こえます。
首を廻して窺うと、突っ伏して小刻みに震える美冬ちゃんの姿。
青く美しい旋毛が揺れています。
「深夜じゃ視界も悪いですし、すりゃ不審に見えますよ」
【でも、「この眼は闇がよく見える」っていつも言ってるの】
「(無視無視)犬など連れてたら、奇異な目を向けられないかもしれませんね」
夫婦が、ゆっくりと目を合せました。
「なんぞ、飼ってらっしゃいます?」
【いいええ、なにも】
思案顔の奥様。
旦那が奥様の膝を揺すります。
【え、なに。フクロウ? フクロウがいいの?】
ほんと、よく伝わるものです。
【でも、生き物……私達より先に逝かれるとねえ……】
【生と死は等価値なんだよシ●ジくん!】
仔猫がノリノリで叫びました。
「犬なら二十年くらいは……」
突然、ご主人立ち上がって、拳を握ります。
【「これは俺達のドラマだ! 筋書きは俺達が決める!」って】
「そりゃもうご自由に」
奥様にサムズアップを見せると、
【え? いいの? 犬で。……「汝、我と盟友の誓いを結ぶなら、我が手を取れ」?】
奥様おずおず立ち上がると、旦那がその手を掬い取りました。
【爆ぜろリアル!】
なぜか猫が吠えます。
じっと無言で見詰め合う老夫婦。
【「ぼくは新世界の神となる」……ってなあに?】
「お好きにど・う・ぞ。ぶぅー」
不思議なご夫婦。
こんなコミュニケーション……究極の形かも?
「お話は以上でよろしいですか」
【あ、はい、ごめんなさい……え?「我が魂の赴くままに」?】
「どういう意味でしょう」
【「これからも頑張ります」って】
最初からそう言えばいいのに。
「左様で。では、ゴッド・ブレス・ユー」
ご自愛ください、奥様。
☆☆☆
ふーっと長い息を吐き、振り返りますと。
目に映ったのは、ひっくり返ったミルク皿と、倒れた紙パック。
寝そべるシロちゃんが、前足を押さえてプルプル震えております。
「あー零したの?」
【…………くっ。鎮まれ、オレの腕よ、怒りを鎮】
「神幸さんごめんなさい、『全ての穢れを受け負いし聖布』はございますか?」
「雑巾ね」
二人共、封印されし記憶がアレしちゃったの? あ~あ。
一応、お薬飲んどきましょうか。
「常識と言う名の闇の炎」でいいかな? 錠剤のヤツ。
美冬ちゃんは、思い出したようにツボっては泣き笑いしつつ、えほえほ言いながら床を拭いました。
楽しんでいただけたなら良かったです。
シロちゃんは薄暗い隅っこで、片目に前足をあてて大人しく座っております。
なんか、疼くんですって。片一方の目が。
――眼科行け? そりゃダメか。
【……離れろ、オレから……早く離れるんだ……】
ブツブツ独りごちてます。
要は働かない子ですね。
なるほど了解です。
こんな塩梅ですけど、幾つ分かりました? お母さま。
中二病の代表例(という噂)を羅列しただけの回です……。
※引用元=(※おおよそ順)「ヘルシング」、「コードギアス反逆のルルーシュ」、「シュタインズ・ゲート」、「ジョジョ……」、「D.Gray-man」、「魔法少女まどか☆マギカ」、「偽物語」、「進撃の巨人」、「NARUTO」、「エヴァ……」、「黒子のバスケ」、「この美術部には問題がある」、「中二病でも恋がしたい」、「デスノート」、「アイドルマスターシンデレラガールズ」。
ほっとんど分からん! ぷぅ!