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女神のゴッド・ブレス・ユー

☆本話の作業用BGMは、『ベストセラー・サマー』(ザ・チューブ※当時?)でした。

 デビュー曲ですね。カッコよかったですよ。ええ。

 皆さんお痩せになってましたね。経済状況が如実に窺えます。

 締めは、『D・A・M・E』(前田亘輝)。

 前田さんのソロ曲です(作詞作曲も)。

 バブリーな歌詞、当時のアレがエロエロ散りばめられております。時代ですねえ。

 一度だけ、カラのオーケストラで歌った事がございますが、なんかリキ入っちゃいまして、大分引かれてしまった思い出がございます。以上。

 梅雨の晴れ間、再びあの方が来店されました。

 ミケさんお付きの大柄なメイド美女。

 夏服でしょうか、以前より若干軽快に感じられます。

 真っ白いヘッドドレスが爽快に輝いて見えます。



 今日もお人形さんを片腕で抱きかかえてのご入場。

 と思ったら――人の子のようです。

 めっちゃキョロキョロしてますから、大丈夫でしょう(?)。


 お子を抱いたまま椅子へ腰を下ろし、腿に乗せます。

 大人と子どもは視線を揃えて、ボタン群をしげしげ眺めました。

 天辺にちょんまげを拵えた黒髪の幼女は、目を輝かせてキョロつくと、


『見てチョンマゲ(バラエティ番組にて)』


 まんま、そのボタンをぺちっと押下いたしました。

 上下黄色のTシャツ・短パンは、(あつら)えたようにとても馴染んで見えます。

 一見、未就学児童です。まず相違ないでしょう。



 私は店内マイクをONにして、


『ここがツイてない御苑だっ!』

【ほあっ⁈】


 脅かすように叫んでみますと、女の子が椅子の上でビョンッと軽く弾けました。

 え? 大人げない? まあ。フフフ。


【あー仕様が変わったのですか?】

「バージョンが増えました」

【へえ~、ますますご発展のようですねえ~】


 メイドさんはごく自然に、にっこり微笑みました。


「ところで、このお声はどなたですかね」

【大●真央さんだと思います】


 大御所でしたか。元●塚の? へえぇ。

 受けて立ちましょう、私も元女優ですからね。


【江戸はあっちゅいなあー】

【そうですね~】


 落ち着いたのか、女の子がのんびり零しました。

 江戸?


【トメ!】

【はーい】


 トメさん(?)はポーチに手を突っ込むと、徐に缶ジュースを取り出してテーブルに置きました。

 ド●ターペッパーです。

 幼女は両手を大事そうに添え、こくこく長い事喉を鳴らしておりました。


 ぷはっとひと息つくと、後ろを振り返ります。


【江戸にもコレうっててよかた!】

【最近はよく見掛けますねえ】


 ニッコリ破顔した幼女が、次いで天井あたりに向けてぐるぐる首を回します。


「♫ コーラと間違えないでえええぇぇぇ~」

【普通でいいですよ~消耗しちゃうからー】

「恐縮です。つい。元女優(しつこい)の(さが)、と申しますか」


 トメさんは人差し指を顎に添えると、


【ああ。観ましたよ~姫と一緒に、チャリティーコンサート。お疲れ様でした】

「え、ご覧になりました? こりゃかっちけない」

【「あの老人が――」の(くだり)がよく分からなくてぇ。あとで検索しちゃったー】

「申し訳ございません。あれアドリブじゃないんですよ」


 ちよと盛り上がってしまいました。



「お子さまで?」


 つとめて自然に問い掛けると、トメさんの体が微動しました。


【――えーと】

「――えーと?」

【遠縁のお子でえ、盛岡から遊びに来てるのです。さっき上野の動物園でパンダ見て、散歩がてら寄り道しました】

「左様でしたか」

【パンダかあいかた! あとケ()タいった!】


 幼女が目を輝かせます。


「それはよござんした」

【♪ てれってってってー!】

「それ違うヤツですけどね」

【機嫌直してくれて良かったですよぉ】

「動物園で何かあったのですか?」


 途端、幼女は表情を曇らせ、青白い顔で俯いたのでございます。



☆☆



【猿山を観覧しているとき、側にいた男の子とちょっと揉めましてねー】

「それは……ツイてないですね。あ、動物園もその装いで?」

【そのクソがきが捨て台詞で――】

【「お前も母ちゃんもでーべーそー!」っていったのら!】


 幼女が、ダン! と拳をテーブルに打ち付けました。

 トメさんはスンと澄まし顔であさってを眺めております。


「いまどき古風な。よもや二人いっぺんに(はずか)しめるとは」

【ウカは……】


 俯いたまま、幼女が呟きます。


「ウカ?」

【この子の名前です。ウカノちゃんです。ちなみに「自販機でジュースを買う」のが、日課というか(へき)です】

「誰向けの説明です?」

【毎日ドクペ飲んでますよ。主菜と申しますか】

「主菜?」


 思いがけず、幼女が涙を零しました。


【なぜ……】

「……」

【……なぜ、ウカも母上も……でべそだとしってりゅのだ!】

「まさかの真実」

【いやあ、そんな噂が出回っているんですかねぇ~】

「耳にしたこと無いです」

【……まことでも、いっていいこと・わるいことがありゅの……】

【♪ 名誉棄損んん~】



 その後、持ち直すのが大変だったと、トメさんが苦笑しました。



☆☆



 べそをかく幼女を眺めているうち――。


「……ウカノちゃん」

【……ひっ、ぐっ、なに?】

「おへそ見して♥」

【ぐはーっ!】


 ちょんまげがピコーン! です。デュフフ。


【ちょっと~穿(ほじく)り返さないでおくんなまし】

「ドクペのお替り差し上げますから! ね!」


 ウカノちゃんは――不思議そうなお顔で、可愛らしく小首を傾げました。


【……ドS……】


 呆れたように、トメさんが小さく呟きました。



☆☆



 のろのろトメさんの腿に立ち上がったウカノちゃん。

 トメさんが後ろから、両腕でしっかり支えます。

 まあ♥ タイ●●ックのワンシーンのようですね。


 躊躇いつつ、Tシャツをゆっくり捲り上げる幼女の図。

 うひょーっ!

 ……これ事案かな? 同意あるけど関係ナイねっ!



 露わになったでべそ、それはそれは可愛らしいまるポチでした。

 白く発光しているかのような真球。


「……素晴らしい」

【しゅ、しゅばらしい?】

「大粒の真珠のようです。こんな美しいアレを目にしたのは、生まれて初めてです」

【う、うちゅくしい? わらわのへしょが⁈】

【えー過言でしょ~(おいおい)】

「いえいえ。恐らく東洋イチ――もとい、宇宙イチでしょう!」

【う、うちゅいち?】


 裾を掴んだまま振り返ったウカノちゃんは、確認するように薄目でトメさんを見詰めます。

 トメさんは――苦い顔でへらっと口を歪めました。


「いーないーなー」

【う……うらやましい?】

「羨ましいなー」

【……で、でも、ウカのおへそはあげりぇないの】

「ごめんなさいっ!」


 これはいけません。

 軽いノリで葛藤させてしまいました。



「ウカノちゃんは……きっと、臍の神様に愛されてらっしゃるのですね」



 幼女は――顔をクシャクシャにして、はにかんだのでございます。



☆☆☆



 事務所の冷蔵庫からドクペを取り出し、お約束のとおりウカノちゃんに手渡しました。

 仕様が無いです、置いとくから勝手に持って行けとは申せません。


「ありがとう! にょにん!」

「にょ――偉いですね、ちゃんとありがとうって」

「やっぱりスッピンの方がいいですねぇ~」

「お目汚しを――」


 ――あれ?

 確かに一度、「素」でお会いしたことはありましたが。※1

「御苑の神幸」として顔を晒すのは今日が初めてなのに……コンサート観たよ……?


 ちよと頭が混乱して固まりました。

 脳内評議員たちも「Why?」を連呼します。



 ウカノちゃんがととっと前に()でて、


「すっっっごいたのしかったゾ! これはわらわからのお礼だ!」


 言うや両手を(かざ)し、めっちゃキリッとしたお顔に。


 次の間――眩い白金の如き強烈な光が私を襲いました。

 ――あ。なんか気持ちイ。下腹部がヌルッとあったかいような。

 もしかして、コレが噂のオル●ス●ス――?



 ……気が付くと、尻餅をついておりました。

 はっ⁈ と股間を確認。


「股間でな! ちがた、堅固でなみゆきぃ!」

「綾女ちゃんによろしく~」


 入り口脇で手を振る二人は、そのままぼや~っと姿を消したのでした。



 ぼんやり座り込んだまま、


「あ……ゴッド・ブレス・ユー……」


 ――いえ。

 なんとなく、今日ばかりは必要ない言葉のような気がいたしますよ、お母さま。


 ……そっとお腹を覗くと。

 いつものおへそでした。

 ほっ。

※1 本編三十一話『支部長のため息』

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