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君こそスター 舞台開幕編(3/4)

☆本話の作業用BGMは、『愛をとりもどせ!!』(クリスタルキング)でした。

 アニメ「北●の拳」OPであります。初見で激しく動揺した覚えがございます。

 どうしたクリキン⁈ て感じで。

 当時、「こっちがショックだよ!」と突っ込まれた方も多かろうと存じます。

 それが今はどうしたことでしょう。何の違和感もなく耳に馴染んでござるよ。

 毛ど……夜ヒット出演時の映像、「あの」衣装でお歌いになる皆様のお姿を見て、他人事なのに未だ顔が火照るのであります。


 で、締めは『虹の都へ』(高野寛)。

 この間、「じ●ん散歩」観てたら流れてまして。


 ※本話も、ばりフィクションです。

 ――幕が下りると、会場が微妙にざわめいた。

 杉良●郎御大のワンマンショーは盛り上がりを見せたものの、異常に早いテンポで繰り出される巻き舌に聴衆は戸惑い、胸の(うち)では置いてけぼりを喰っているようだった。

 それでも微かに、「……マ~ン」「ポリ~スマ~ン……」というフレーズが、名残惜しそうにふわふわ漂っている。


 観客はご老体が多いが、最前列はそれより若い男性で占められている。

 チャリティコンサートを謳っているものの、合間に漫才や落語が差し込まれ、ご老体方々にはギリ飽きない構成だ。

 演歌歌手に混じって時折若いアイドルも登場し、(たび)に最前列のみ異様な盛り上がりを見せた。



 いよいよ大詰め。

 照明の落ちた客席には、あちこちで蛍のような光がぼんやりと浮かび上がり、夏の夕暮れを思わせるような幻想的かつ静かな光景が広がっている。

 パンフレットでは、トリに登場するユニット名が「×(バツ)」となっている。

 誤植でなければ「xジ●パン」でないのは明らかだ。



 MCの甲高い声が会場に響き渡る。

「××××」というユニット名が披露されると、濃霧のような不穏な何かが一斉に漂った。



 大音量のBGMが鳴り始めると同時、幕が上がり始める。

『Y●Uはショック!』とのエコー()かったフレーズに、


「歌ってるの誰?」

「××××さんじゃね?」


 客席端っこのJKと思しき少女二人組が困惑気味に囁いた。


 舞台中央奥に、ヅ()風の大階段が鎮座している。

 手前に小さな丸い卓と一対の椅子があり、左脇に背の高い男が猫背気味に突っ立っていた。

 中世の騎士風装束で帯剣した黒髪の――神幸だ。今日はさすがにメイクが濃い。


 階段右脇に、やはり長身の男。 

「××い彗星」と見紛うような深紅の軍服姿。ライオンのような長い金髪で凛々しく立つ――桜子だった。


 その側で、玉座の如き黒光りする革張りのソファでゆったりと寛ぐのは、金髪「眼鏡」の――美冬。

 裾の広い、眩いばかりの豪奢なドレスに身を包み、冷めた顔で優雅に扇子を揺らしている。


「オ●カル様―――っ!」

「ギャ――ア●ドレー!!」


 途端、あちこちから黄色い声が飛び、BGMと激突する。

 芝居の内容が漏れていたのか? 

 が、パンフレットをよく見ると、


『あのオ●カルとア●ドレ、魂の邂逅――』


 保険約款の如き小さな文字がひっそり……まるで「そこに触れてくれるな」と言わんばかり。

 なるほど可哀想に……客席の女性陣は、半ば騙されてやって来たようなものなのだろう。


 BGMがフェードアウトすると、ざわつく客席の淡い期待に応えるように、


「久し振りだな社長室長――いやさ、ア●ドレ!」


 オ●カル(桜子)が、よく通る力強い第一声を轟かせた。

 ビシッとアンドレを指差すと、山吹色の風がパアッと舞台を照らす。


 客席が静まる。

 次いで、老若男女を問わず、幾重にも折り重なった「ほうう……」という溜め息にも似た空気が漏れ聞こえた。

 堂に入ったひと声だった。

 桜子には、元々「主役」の血が濃密に流れているのかもしれない。


 ア●ドレ(神幸)は猫背のまま、チラと脇の人物に視線をズラし、


「社長――いえマリー様、急がないと今晩のお接待に間に合いません」


 辛うじて聞こえる、力の入らない声で懇願した。

 社長(マリー=美冬)は答えず、つーんと澄まし顔であさってを向いた。


「違うだろアンドレ!」

「……えーと」

「『えーと』じゃない!」

「えー……てめえに会う為に、地獄の底から這い戻ったぜー(棒)――これでよろしいですか、オスカル取締役広報部長」

「もう少し緊張感を持てアンドレ(素)」

「お二人共、探しましたよ」

 アンドレが(おこり)を零した。



 オスカルは腕を組んで睥睨(へいげい)しつつ、


「マリー様はお接待など行かぬ。ひどくお疲れだ」


 険しい顔で吐き捨てると、


「……疲れた」

「ほらあっ!」


 ため息を漏らす社長へ、すかさず被せた。


「碌に仕事してないですから、疲れたもヘッタクレもないでしょうよ」

「どうしてもマリー様をお連れしたければ――私の✕✕✕()を越えて行けいっ!」

(しかばね)になるご予定なんですか」


 一発ジャンが鳴り響き、舞台右袖から達磨(だるま)のような男がのっそりと現れた。

 肉襦袢を着込んだような海賊風のハゲ男――綾女だった。


「私が相手をするまでもない。まずはその男――ハートと()ってもらおうか」

「ブヒッ」


 肉襦袢男(綾女)が豚のように鳴いた。


「……仕様がないですね。時間が勿体無いのでさっさと済ませましょう……で、お題目は?」


 無表情で剣の柄に手を添え、瞳孔が開いたような精気のない目で問い掛けるアンドレ。

 爛々と輝く瞳で、気持ちアガッた笑みを浮かべたオスカルは、


「――勝負は『五目ならべ』だっっ!」


 舞台で「五目ならべ」――斬新かもしれないが、客席は夜の海辺のように静かにさざめいてみせた。



 二歩ほど歩を進めたハートに、腰を屈めたアンドレが、


「ささ、上座へ」

「上座がわからんブヒッ」


 言う割に、(ハート)は卓の右側に腰を下ろした。

 アンドレが満足気に左の席へと静かに座る。


「両人共、ルールは分かっておるな? では―――始めぃっ!」


 二人同時、カッと碁石を摘まむ。


「―――と言ったら始めてくださいっ!」

「めんどいな」

「開始の合図はマリー様直々にな」

「左様で」


 オスカルが一段高い壇上から、意味もなく前方宙返りで降り立った。

 会場がドッと沸く。

「ギャーッ」という下品な悲鳴が混じる。


 アンドレを見下ろしつつ、

 

「貴様ではハートに勝てぬ。プゲラ(^ω^)」

「?」

「そいつは特異体質でな。別名『オセロ殺し』と呼ばれているのだ!」


 ババーン!

 では何故「オセロ」をチョイスしなかったのか――。

 アンドレは浅い思考に沈み、眉間に「?」の皺を刻んだ。


「……五目ならべ、でいいんですよね?」

「不満か? 『黒く咲いても、白く咲いても碁石(バラ)碁石(バラ)』だろ?」※


 不思議そうな顔で呟くオスカル。

 

「始めぃっ!」


 唐突に社長が号令を飛ばした。

 弾けるように最初の碁石を置こうとするハート。

 アンドレがすかさずペットボトルの麦茶をハートに浴びせる。


「なにするブヒッ?!」

「そのチェケラが熱くなかったのを幸いに思えYO!」※

「ラッパーか?!『ショコラ』だろブヒィッ!」


 アンドレの啖呵? に微妙な歓声が上がる。

 有名な台詞……?


 ジャンケンが終わるや否や、アンドレが攻勢に出た。


「アータタタタタッッ!」


 北●百裂拳のごとき勢いで碁石を置くと、瞬時に「五目」を完成させた。


「わたくしの前には、ただの脂肪の塊にすぎません」

「散々インチキしといて戯けたことをッ!」


 抗議するでもなく、ブタはブヒブヒ泣きながら舞台袖へと走り去った。



 会場は静まり返っていた。

 みな正気に戻ったようだ。


 空いた席にオスカルがドカッと腰を下ろす。


「ふん……昔のアンドレではないようだな」

「昨日社員食堂で会いましたよね?」



 席に着いたオスカルを、頬を朱に染めたアンドレが妙にキラキラした目で見詰めている。

 キッと見返すオスカル。

 会場から勘違いの悲鳴が上がる。



 ソファに身を預けたまま黙って成り行きを見守っていたマリー様が、(おごそ)かに口を開いた。


「……ひとつ、よいか? 二人とも」

「「なんなりとっ!」」


 アンドレは逸る心持ちを抑えるよう、卓の上で両手をガッチリ組んだ。

 金髪の麗人は軽く目を伏せ、主の言葉を待つ。


「今日は……憧れるのをやめましょう」※


 マリーのドヤ顔に、アンドレの口がパカッと開いた。

 オスカルが静かに頷く。


 会場が一拍遅れてドッと湧いた。

「M・V・P! M・V・P!」という合唱が虚しく木霊(こだま)した。



 ――続く。


 

※正:「赤く咲いても、白く咲いても薔薇は薔薇」 

※正:「そのショコラが熱くなかったのを幸いに思え!」

 漫画『ベルサイユのばら』(池田理代子)より。


※言わずと知れた(ですよね?)WBC決勝前、侍ジャパンのロッカールームにて大谷選手が皆に掛けたお言葉より。

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