桜
スーツを着たポニーテールの女性が黒板の前で「まずは入学おめでとうございます」と言うと黒板に名前を書き始めた。
名前を書くと改めて自己紹介を始める。
「今日からあなた達の担任になる____です、それと数学も担当するからね」
などと先生はホームルームを進めていくが、そんなことはどうでもいいくらいに気になることがあった。
人が座っている中では、僕の席は1番後ろで右端だ。
そう、人が座っている中ではだ。
僕の隣の席には何故か桜の枝が飾られていた。
理由を考えているうちに気がつけばホームルームが終わり放課後になっていた。
「今日は早めに教室を閉めたいので出てくれないかな」
そう先生に言われて仕方なく教室を出る。
教室を出て帰ろうとしてたんだよな?
気がつけば知らない場所、と言ってもオープンスクールでも入試でも来ていない校舎なので知らないのは当たり前なのだが、教室から校門を出るまでの合間に迷子になってしまったことに自分自身驚いていた。
入学したばかりとは言え学校で迷子ってなんだよ
「まぁ来た道戻れば知ってる道まで戻れるよね」
「戻れないから迷子になってるんじゃないの?」
後ろから独り言の返答が返ってきて驚き後ろを見るとそこには小学生の女の子がいた。
「お嬢ちゃんなんでここにいるんだい?迷子が言っていいセリフじゃないけど初等部まで送ろうかい?」
「それはこっちの……あっそっかそれと私は小学生じゃないよ」
最初何か言った気がするが聞き取れなかったので聞かなかったことにする。
「えっ」
「殴られたいの?……まぁいいや、道に迷ったなら正門までは送るよ」
「ありがと」
「じゃ、ついて来てね」
正門まで送ってもらいその場で別れ家に帰った。
学校で数日過ごしているうちにわかったのだが僕の隣の席は僕にしか見えていないらしい。
最初のうちは怖かったがだんだん慣れてきたとはいえ気になるものは気になるのだ、どういうことなのだろうなと考えつつ放課後教室で小説を呼んで時間を潰していた。
今日は家に鍵を忘れてしまい親が帰ってくるまで家に入れない。
ガラガラという教室の扉が開けられる音で振り向くとそこには先日の女の子がいた。
「あっ迷子の子だ」
「迷子の子ってなんだよってかなんでここにいるの?教室間違えた?」
「間違えてないわよ、私が見えてるということは君の横の机も見えるでしょ、そこ私の席よ」
「そうなんだってえっ?」
「驚くのも無理はないよね……私は妖精的なものだと思ってくれるといいわ」
「う、うん」
「それとあなた今時間ある?」
「あるけど?」
「そこの桜の枝をもってくれない?」
言われたので持つと彼女は微笑んで言う
「ありがとその枝ね私じゃあ持てないの詳しくは行きながら説明するね」
「えっどこに」
「いいから着いてきて」
手を引っ張られたので仕方なく着いていく。
「私、ここがまだ中等部だった時に死んだんだ」
「中等部?」
「死んでることには驚かないんだねまぁいいや……何年か前にね高等部の学科を増やすために校舎が建てられたんだけど敷地の大きさ的に入らなかったから今の中等部と今の高等部の場所が入れ替わったんだよ……それであの席が私の席だったんだ、それであの席にと言うよりは生きている人にしか触れない桜の枝に束縛されて今の高等部から抜けれないのさ」
「それで僕に桜の枝を持たせたわけね」
「そういう事、だからねその枝を持って今の中等部に来て欲しい」
「どうして中等部に行きたいの?」
「憧れてた先輩が描いてくれた絵がもう一度だけでいいから見たいんだ」
「わかったよでも僕が行っても見れるのかい?」
「見れるよ、どうやら中等部と高等部あと大学に通う人が制作した作品を展示する部屋があるらしいの」
「わかったそこにはこの枝を持っていけばいいんだね」
「うん、あと私のことはミカって呼んでね」
「僕は西山拓也、好きに呼んでくれていいよ」
「わかった拓也くんじゃあ行こうか」
たわいのない会話をしながら中等部へと向かった
「綺麗」それが例の先輩の絵を見た時の感想だった。
夕日をバックに描かれた桜はとても神秘的な雰囲気を出していた。
タイトルが気になって確認するとタイトルの横に書いてた名前で気づく、兄の名前だったと言っても偶然だろうと思った……
「私気づいてたんだ君先輩の弟君でしょだって先輩にそっくりだもん」
「えっ」
「ねぇお願い私を君のお兄ちゃんに合わせてくれないかな、君のお兄ちゃんが私を見れないことはわかってるでももう一度見たいんだ会いたいんだ私が消えてしまう前に……その枝の花が全て散ると私は消える」
「わかった」
桜の枝を持って家に急いで帰る
勉強を教えてと言う理由をつけて兄の部屋に入る
すると入ってすぐにミカが兄に話しかける
「先輩ずっと前から好きでした……って言っても聞こえてないよね」
「美香さん?なんでここに」
「見えてるの?そか……最後の10分間だけ枝の近くにいる人全ての人が私のことを見えるんだったね……遅いよ……もう少ししかないのに……」
そういうとミカは兄に抱きついた
僕は邪魔をしないようそっと部屋を出た
中等部の展示室に兄と来ていた
そして帰る時に「来てくれてありがと」という声が聞こえた気がした。