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STORIES 041 :想い出と、列車に揺られて

作者: 雨崎紫音
掲載日:2024/03/03

STORIES 041

挿絵(By みてみん)



電車が僕の主な移動手段だった頃。


行き先の駅を確認する。

使う路線や乗り換え駅を調べる。

場所によっては、時刻表や特急料金、指定席も。


シートに座り、少しだけ両隣に緊張する。

吊り革に両手をかけて外を眺める。

昇降口横の手すりにもたれて吊り広告を眺める。


ホームに並ぶ。

到着する列車の先頭を眺める。

人の流れを避けて乗り込む。


よく見かける人にときめく。

知らない人たちとすし詰めにされる。

ガラガラの車両で足を伸ばす。


本を読む。

酔ってうたた寝する。

立ったまま寝そうになって、2人組の女子高生に声をあげて笑われる。


つまり、むかしは…

電車の生活もそれなりに気に入っていた。


そして、もっと古い記憶。


.


4人がけのボックスシート。


窓は両手でレバーを握って持ち上げると開けられる。

窓際の狭いテーブルに冷凍みかん。

その下には灰皿も設置されている。


3両目あたりにはトイレ。

単線区間は、駅で調整時間が10分もあったり。


ホームの駅弁売りからアイスクリームを買う。

お茶はペットボトルじゃなく、コップ付き容器。


幼い頃は…

横並びのシートに座るやいなや、靴を脱いで両膝で立ち、窓の外を眺めたりしていた。


田園や木々の間を抜けてゆく車両。


大人に連れられ、そんなローカル線に揺られて…

映画を観に行ったり、百貨店へ買い物に出掛けたりするのが楽しかった。


.


退屈な暗闇の世界を抜けて、街なかの風景に変わる。


都心部から地下を走ってきた電車が、ようやく太陽の下に出て笑顔を取り戻した。

僕は吊り革に手を掛けて、遠くの家々を眺める。


コツコツ…


視線をチラッと足元に移す。

僕のワークブーツを、スエードのショートブーツのつま先がつついている。


僕はまた窓の外を流れる景色に目を奪われる。

車窓から飛び込んでくる風景を眺めるのが、子供の頃から好きなのだ。


次から次へと、現れては消えてゆく。

情報量が多過ぎて処理しきれない。


近過ぎると輪郭も掴めない。

遠いところはゆったりと流れている。


時間の流れは均一ではないのだ。


.


コツコツ…


ショートブーツの足先がまたつついてくる。

僕の前に座った彼女は、何か話そうとしているらしく…


少しずつ車内が空いてきたのだ。

まだシートは埋まっているけれどね。


僕は、立ったまま吊り革に身を預けている。

こうして流れる風景を見るのが好きなんだ。


だからもう少し窓の外を見ていたい。

もうじき大学のある駅に着く。

少し笑いかけてまた顔を上げる。


もう少しだけ、僕は窓の外を眺めていたい。

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