STORIES 041 :想い出と、列車に揺られて
STORIES 041
電車が僕の主な移動手段だった頃。
行き先の駅を確認する。
使う路線や乗り換え駅を調べる。
場所によっては、時刻表や特急料金、指定席も。
シートに座り、少しだけ両隣に緊張する。
吊り革に両手をかけて外を眺める。
昇降口横の手すりにもたれて吊り広告を眺める。
ホームに並ぶ。
到着する列車の先頭を眺める。
人の流れを避けて乗り込む。
よく見かける人にときめく。
知らない人たちとすし詰めにされる。
ガラガラの車両で足を伸ばす。
本を読む。
酔ってうたた寝する。
立ったまま寝そうになって、2人組の女子高生に声をあげて笑われる。
つまり、むかしは…
電車の生活もそれなりに気に入っていた。
そして、もっと古い記憶。
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4人がけのボックスシート。
窓は両手でレバーを握って持ち上げると開けられる。
窓際の狭いテーブルに冷凍みかん。
その下には灰皿も設置されている。
3両目あたりにはトイレ。
単線区間は、駅で調整時間が10分もあったり。
ホームの駅弁売りからアイスクリームを買う。
お茶はペットボトルじゃなく、コップ付き容器。
幼い頃は…
横並びのシートに座るやいなや、靴を脱いで両膝で立ち、窓の外を眺めたりしていた。
田園や木々の間を抜けてゆく車両。
大人に連れられ、そんなローカル線に揺られて…
映画を観に行ったり、百貨店へ買い物に出掛けたりするのが楽しかった。
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退屈な暗闇の世界を抜けて、街なかの風景に変わる。
都心部から地下を走ってきた電車が、ようやく太陽の下に出て笑顔を取り戻した。
僕は吊り革に手を掛けて、遠くの家々を眺める。
コツコツ…
視線をチラッと足元に移す。
僕のワークブーツを、スエードのショートブーツのつま先がつついている。
僕はまた窓の外を流れる景色に目を奪われる。
車窓から飛び込んでくる風景を眺めるのが、子供の頃から好きなのだ。
次から次へと、現れては消えてゆく。
情報量が多過ぎて処理しきれない。
近過ぎると輪郭も掴めない。
遠いところはゆったりと流れている。
時間の流れは均一ではないのだ。
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コツコツ…
ショートブーツの足先がまたつついてくる。
僕の前に座った彼女は、何か話そうとしているらしく…
少しずつ車内が空いてきたのだ。
まだシートは埋まっているけれどね。
僕は、立ったまま吊り革に身を預けている。
こうして流れる風景を見るのが好きなんだ。
だからもう少し窓の外を見ていたい。
もうじき大学のある駅に着く。
少し笑いかけてまた顔を上げる。
もう少しだけ、僕は窓の外を眺めていたい。




