五時 痔
とんでもいことが起きた。俺はこの事実をすぐに伝えにいかければならない。
そう思い、コピー室から出た俺は全力で走り
オフィスにたど着いたときには息も絶え絶え。深呼吸しうとしたら咳き込だ。
「どしたんだ? そなに慌てて」
課長が俺にそう言ったが、正しく聞き取れたかもわかない。集中せねば。
でも、息が苦しく、頭がぼーっする。
見るに見かねのか、俺の意中の人である女性社員が
小さいサズのペットボルの水をくれ、俺はそれを一気に飲み干した。
だが、勢いつきぎて変なとろに入ったのか咽返り
俺の液混じりのが彼女にかかってしまった。
彼女キャーと叫び退散。
他の社員もやれやれと俺を蔑だ眼で見た後、またパコンやら何やらに視線を戻した。
「それでどうたんだ?」
課長が俺にそう言ったがその顔には、まあ聞きたくないがなというのが滲み出てい。
俺はそなら話してやらなくてもいいだぞとも思ったが、そいう訳にもいかない。
足がふらつき、目眩がす中、俺は床に膝をつき、言った。
「じです」
「ん? なんだ?」
馬課長がそう訊き返しので俺はまた気力を振り絞り言った。
「じです!」
「……君はふざけているのか?」
と、ここで何かがおしい事に聡明な俺は気づた。
ほら、今もだ。字が抜けてる。まただ。意味は同じだが抜けた。
俺は『文字が抜けてる』と頭で思ったのだ。
そう、字が抜けている。そのせいで伝わないらしい。
何が原因か農家、うん、農だろうな。いや違う。農家は悪くない。
お米お野菜ありがとう。大地よ神よ恵みに感謝。
と、五時までしている。違う、奇しくももうすぐ五時だが違う。
五児。違う。俺は未婚だ。俺が見込んだあの子と結婚したい。
そのためにも俺は伝えなければならない。
「じなんです!」
「は? 次男? 君が? で、それがなんなんだ?」
「じ! で! す!」
「じ……君は痔なのか?」
違う違う血がう。切れ痔なら血は出るがそう言うことではにゃあ。
お、猫か? おいでおいで。
いやいや、鳴き声なんてしにゃい。するのはクスクス笑い声。
そしてプルプル震える我が家長、いや課長。敬服してますとも。
「そんなくだらないことで注目を集め、楽しいかね!
そもそも、ああそうだ、コピーを頼んだんだった。資料はどうしたのかね!」
「えてしまいました」
「は? 得て? 持っているということか?」
「さいです!」
「さいです? そうですの訛りか? 君、出身どこだっけ?
いや、答えなくていい。持っているのなら出して。ほら、早くしなさい」
「ない、ないす! それも、だいです!」
「何で急に褒めた? いや、そもそも上司に対してナイスなんて言葉遣いは、まったく
君という奴は前から……」
クドクドと馬鹿な課長のやつが説教を始めたので俺は黙るしかなかった。
俺が顔を伏せたのをやつは土下座だと勘違いしたらしい。ますます、声が調子づいた。
でもこの体勢のお陰で少し楽になった。今なら伝えられるかもしれない。
でも何だか眠い。疲れたのか。
ああ、もういいか。それにいずれわかる話だ。そもそも言い出しにくい。
むしゃくしゃしてコピー機を叩いたら火花が出て、どうにかしようとはしたが無理で
今、下は火事です、大火災ですなんてことを……。