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序章・自信しかない公爵令嬢

「王太子妃に立候補した理由ですか? この世代で、わたくしが一番に国を発展させる妃となる自信があるからですわ!」



 王太子妃の選考会で、アリシア・ゲネシス公爵令嬢は王族と宰相、他の複数の令嬢の前でそう言い切った。そのよく通る声は言葉の通りに自信に満ち溢れていて、その場に居合わせた者のほとんどが一瞬呆気にとられた。そんな中、初めに正気に戻ったのは国王だった。



「ふむ、それは何故か聞いても?」

「勿論ですわ、陛下。まず我がゲネシス公爵家は現在、どの貴族家よりも広大な土地を拝領し領地経営をしておりますが、その一部地域はわたくしが治めております。そこで治水管理、農地と農産物による税の見直し、商人組合とのやり取りなど様々な仕事をこなしました。初年度であった一昨年度は失敗が恥ずかしながら続きましたが、トライアンドエラーの甲斐あって、昨年度の人口と税収は我がゲネシス公爵家領地内でトップ。国家運営と領地経営では規模が違うことは承知しておりますが、こちらにいらっしゃるどの令嬢よりも戦力となるかと。また、わたくしは公爵令嬢として恥じぬ教育を受けております。王妃としての振る舞いを覚えるのも早いと存じます。以上が、わたくしの自信の理由ですわ」

「……そうか。よく分かった、ありがとう。では次に――」



 つらつらつらと話し終えたアリシアは、優雅にそして満足げににこりと微笑んだ。貴族令嬢としてはあまりにも癖が強い彼女の後に指名された令嬢たちは少しばかり言葉に詰まっていたが、それでも国王から志望理由を聞かれると何度も練習したであろう台詞を諳んじる。何せ、未来の王妃への第一歩だ。望んでこの場にいる令嬢たちは必死だった。


 ここ、ソムニウム王国には少し変わった風習があった。それがこの、次期国王または女王の王妃、王配の選考会である。選考自体はどの国でも行っているだろうが、この国の選考会は最終的に議会を通さない。伯爵家以上の適齢期の者であれば誰でも立候補ができ、それを国王、王妃、王太子と宰相でのみ見極め、決定するのだ。


 例えばその時の国王と相性の悪い家の出身でも選考会を勝ち抜けるのならば、次期王妃となることは可能であり、またその例もある。本人の資質、王太子との相性などを総合的に見て判断することから、立候補した者たちの地位は選考期間中表面上は同一と見做される。建前として、家同士の確執やパワーバランスなどは加味されないことにもなっている。建前ではあるが、他国では考えられない組み合わせでもチャンスはあるということだ。


 さらに、選考会へ立候補をすれば、選ばれなくても報奨が貰えることとなっている。大昔は現物支給が主だったらしいが、現在では平民が一生を暮らしていけるほどの金銭と記念の宝飾品が貰えるのが通例となっており、こちらが目当てで娘を選考会に送り込む家もあるくらいだ。選ばれても選ばれなくても、得るものは多い。



「では、次に……ああ、これで最後だな。ニア・クニクルス伯爵令嬢、立候補の理由を」

「は、はい! あの、わ、私は、奉仕活動を行っている最中に、小さな子どもや年老いた人々が満足に食事をとれていない現状を目の当たりにして、それで、それをどうにかしたくて、立候補を致しました……!」



 ニアは顔を真っ赤にしながら、それをどうにか言い終えた。集まった令嬢たちの中でも小柄で可愛らしいニアが必死になっている様は、分かりやすく愛らしい。王太子はそんなニアを微笑ましそうに見守っている。



「ふむ、では、王太子妃となって何をする?」

「こ、子どもの教育や老人福祉などに尽力すると共に、王太子殿下をお支え申し上げたいと思っております!」

「そうか、よく分かった」



 国王はそれだけ言うと、王太子であるエドガーに声をかけた。



「エドガー、お前から令嬢たちに聞きたいことはないか?」

「そうですね。では、丁度話がでましたので、奉仕活動について。皆はどのくらいのペースで活動を行っているのかな?」

「わたくしは月に一度は必ず孤児院に行っておりますわ!」

「あたくしは月に二度、教会で子どもに読み書きを」

「病院訪問を半年に一度、ですが回復魔法が使えますので怪我人の治療の手伝いを」



 麗しく将来有望であると評判の王太子エドガーの問いかけに、令嬢たちは我先にとアピールをし始めた。いきなりに場が盛り上がり、けれどアリシアとニアは黙ったままだ。アリシアは先程と変わらず余裕の表情で優雅に黙っているのだが、ニアは他の令嬢たちに気圧されて言葉が出てこないようだった。それに気付いたエドガーは二人に水を向ける。



「ゲネシス公爵令嬢とクニクルス伯爵令嬢はどうかな?」

「わたくしが先でよろしくて?」

「どっどうぞどうぞ!」

「ありがとう」



 通常であれば身分の高いアリシアから話すのは当然のことだが、選考会の最中ではそれが通用しない。アリシアはそれらをきちんと踏まえた上で、ニアに伺いを立てたのだ。王妃がそんなアリシアに対して小さく頷くのを国王と宰相は目の端で捉えた。



「奉仕活動ですが、わたくしは現在年に一度のみ行っております。他の令嬢方と比べ回数は少ないですが、その日は一日教育関係者や教会運営者、福祉運営者と共に行動して施設を見回り、不足がないか、どのような問題点があるかを話し合います。未来ある子どもの教育やか弱い者への福祉は欠かせませんから」

「確かに他の令嬢たちと比べてかなり回数が少ないように思うが、それには理由が?」

「わたくしは既に領地経営をしている身です。単純に時間の捻出が難しいことと、護衛の問題がございます。わたくしが奉仕活動を行うことにより、通常よりも多くの護衛が必要となりますわ。更にはわたくしが動くことにより、道を封鎖しなければならない場合もあります。奉仕活動自体は素晴らしいことだとは思いますが、わたくしの場合はデメリットが多すぎますね。また、支配階級が民と触れ合えば、民がよい暮らしをできるなんて簡単な話でもありません。わたくしはわたくしの立場から民に尽くしていこうと――」

「う、うん、そうか。ゲネシス公爵令嬢はそういう考えなんだね」

「ええ」



 明らかに話を切られたアリシアだったが、彼女はやはり自信ありげに微笑んだ。アリシアの勢いに若干頬を引きつらせながら、エドガーは次にニアの方を向く。



「では、次にクニクルス伯爵令嬢」

「ひゃ、ひゃい!」

「ふふ、大丈夫だからゆっくり話して」



 その穏やかなエドガーの言葉で、一瞬その場の空気が凍った。エドガーがニアに対してのみ微笑んだからだ。立候補した令嬢たちはアリシアを除いて気が気ではなかった。自身より身分の高い人や確実に実力が上に感じるような人ならいざ知らず、まさか伯爵家の、それも会話もまともにできていないニアが注目を浴びているのだから当たり前のことでもあった。



「あの、私は、ほとんど毎日領内の貧しい人々が食事をしに来る施設へ……」

「毎日?」

「い、行けない日もあるのですが、行ける日は夕方の一時間だけでも行っています。洗濯や掃除や食事作り……。やることは本当にたくさんあって、でも、決まっている資金以上は援助できないと父に言われて。せめて働き手だけでもなりたくて」

「貴族令嬢が炊事や洗濯を、ほぼ毎日?」

「は、はい」

「君は、優しい人なんだね」

「え」

「とても素敵なことだと思うよ」

「そ、そんな……」



 エドガーとニアが目を合わせ、また場の空気が凍る。そこで初めてアリシアの口角が一瞬ひくりと動いたが、皆似たようなものだったので誰もそれを視認していなかった。



「エドガー、それくらいにしておきなさい。選考会は数日続く、皆にはこの王宮に留まり生活をしてもらおう。王太子妃の気品を持ち生活ができるのかも見定めさせてもらうからそのつもりで」



 国王がその場を閉じたことで事なきを得たが、これは荒れるぞとアリシアは優雅に微笑んだ。まるで他人事のような感想であるが、実際、アリシアにはどれだけこの選考会が荒れようと関係がないのだ。


 自身がいわゆる自己中心的な快楽主義者であることを自覚しているアリシアの目的は、別段王太子妃になることでもましてや王妃になることでもない。立候補をした以上、選ばれる自信も宣言通り選ばれた後に国を発展させる自信もあるが、それらは言わばおまけ。彼女はこの王宮に、自身の興味からくる知識欲のようなものを満たしに来ただけなのだから。



読んでいただき、ありがとうございます!


久しぶりの投稿となりました。楽しんでいただけると幸いです。作者は静かなおっとり系ヒロインも好きですが、テンション高めヒロインも好きです。

よろしければブックマーク・評価などしていただけるととても励みになります。よろしくお願いいたします。


 タイトルを変え「有能公爵令嬢でも護衛騎士からの求婚は予想外です!!」として女性向け電子コミック誌『コイハル』コイハルvol.36にて、26/1/20コミカライズしていただきました。担当は駆けだしポメラニアン先生、短編読み切りとなります。ご覧になっていただけると幸いです。


ここまで読んで頂き、ありがとうございました。

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