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場面が曽我の家に移ります。

 曽我の家は大学から10分ほどの距離だった。


 3人でコンビニに寄り、飲み物などを買ってから行くことにした。桐人によると、佐々山は30分くらいしたら到着するとのことだった。


 曽我の部屋はこぢんまりとした1Kであったが、物が少なくきちんと片付けられていた。

 端に布団が畳まれ、カーペットの敷かれた部屋の真ん中にローテーブルが置かれている。


「どうぞ、狭いですが。」


 と、言いながら、曽我がテーブルの周りにクッションを置いていった。


「おじゃまします。わあ、曽我くんって、家の中きれいだね。」


 朝葵が褒めると、曽我は照れた様子で言った。


「そんなことないよ。」

「いや、綺麗だな。ちゃんと生活しているという感じがする。」


 真面目な顔で桐人が言うのを聞いて、朝葵は桐人の机の上の雑然とした様子を思い浮かべた。


(先輩、ちゃんと生活していないのかしら。)


 集中すると動かなくなるし、痩せているし、食事なんかもいい加減なのかもしれない、と朝葵は心配になった。



 各々がテーブルの周りに座ると、桐人が口火を切った。


「じゃあまず、事実関係を整理していこう。」


 朝葵と曽我が頷く。

 朝葵はレポート用紙を机の上に用意し、ペンを取り出しながら言った。


「先輩、私が書いていきましょうか?」

「ああ、頼む。」

「ありがとう、吉良さん。」


 人物と出来事をまとめると、以下のようになった。


 =====================================


 ばあさん:健一の義祖母。義父の母親。

 父ちゃん:健一の義父。母親の再婚相手。

 母ちゃん:健一の母親。義父の後妻。

 義兄:義父の前妻の子。

 義妹:義父の前妻の子。

 健一:曽我くんの父親。

 陽子:曽我くんの母親。

 凌:曽我くん


 健一が7歳より前 

 健一の母親が後妻に入る。健一は連れ子。義父には前妻の子である義兄や義妹がいた。

 健一は義兄や義妹にいじめられる。母親は義祖母にいびられていた。


 健一7歳(42年前)

 健一が義兄や義妹に蔵の中に閉じ込められる。

 蔵の中でラジオを見つける(最初は何も聞こえない)→ラジオから声が聴こえる。

 『こんにちは』『こっちにおいで』→『代わりに誰かをちょうだい』と言う。

 健一が義兄・義妹の名前をラジオに言う。母親に相談した際、義祖母の名前も言う。

 その夜に義兄・義妹は熱を出した。義祖母も「具合が悪い」と言った。その後3人とも他界。


 健一28歳(21年前)

 陽子妊娠中。健一の義父・母親にいびられる。

 この日は義父と母親は1階の部屋で、健一と陽子は2階の部屋で寝ていた。

 夜、部屋のラジオから声が聴こえる。

 『また来たよ』→『また誰かを代わりにちょうだい』

 朝になり、両親が亡くなっているのを発見する。


 健一29歳(20年前)

 凌誕生。

 凌が物心ついたときには、音楽プレーヤーなどの「音のでるもの」は父が嫌って家に置かなかった。


 健一42歳(7年前)

 健一と陽子が口論。

 翌日陽子他界。高熱を出し、救急搬送されるが他界。


 健一48歳ごろ(去年)

 凌に対しての態度が素っ気なくなる。


 健一49歳(今年)

 健一より、お盆は帰ってくるように、と連絡あり。 

 ラジオアプリからノイズ。 

 健一が凌に「ラジオの声」の話をする。

 陽子の声で、「あなたは来てはだめ」と聞こえたのち、凌はスマホを投げ、意識を失う。

 翌日、健一他界。スマホは電源が切れたまま。


 =====================================


「まあ、こんなところだろう。」

「……そうですね。きれいにまとめてくれてありがとう、吉良さん。」

「書くのは嫌いじゃないから。……ね、曽我くん、大丈夫?」


 曽我の顔色が先程より青い。改めて細かく振り返ることで、父の死や「声」の恐怖を思い出してしまったようであった。


「ちょっと休憩しよう。私紅茶買ってきたんだ。お湯沸かしてもいい?」

「あ、うん。えっと、そこのポットを……。」


 曽我と朝葵が立ち上がり、キッチンの方に向かう。桐人は朝葵の書いたメモを見ながらじっと考えていた。


「……。」


 桐人は曽我を今日初めて知ったが、礼儀正しい、感じのいい青年だと思った。母に次いで父まで失ったところだというのに、人を気遣う心を忘れていない。


『四十九日もまだ終わっていないので、本当は実家にいた方がいいんでしょうけど……。恥ずかしながら家も祭壇も怖くて……。』


 法要の日に日帰りで行くのが精いっぱいだと、曽我は弱々しく言っていた。

 四十九日までは「後飾り」と言われる祭壇が仏壇の傍に立てられる。まだ忌日法要が行われる時期であるし、本来であれば毎日ろうそくを灯したり、線香を焚いたりするものだ。今のような状態でなければ、曽我は実家で過ごし、きちんと祭壇の手入れや法要の準備をしていただろう。


 曽我自身も、いったんは父親の話が眉唾だと信じたかったらしい。

 しかし、相続の手続きに必要なため、父親の出生時からの除籍謄本を取り寄せなければならなかった。その内容を確認したところ、亡くなった人間の人数・関係・没年などが全て一致した。仏壇の位牌も改めて確認したが、やはり父親の話の通りだった。

 それで余計に恐ろしくなってしまい、実家に近寄りたくないとのことだった。


 曽我が特に気にしていたのは、父親が自分を殺そうとしたのかどうかということと、父親の話に出てきた「ラジオの声」の正体だった。


 彼が言うに、昨年あたりまでは父親との関係は良好だったらしい。

 母親が亡くなってからは、父親と家事を分担しながら暮らしてきた。父親はお喋りなタイプではなかったが、雑談もするし、一緒にテレビを見て笑うこともあった。進路の相談をしたときには、一緒に悩んでくれた。曽我が大学に入り、家を出てからも、実家に戻ったときには、いい酒を買っておいてくれたり、食事に連れて行ってくれたりした。

 それを聞く限り、桐人にも、元々父親が曽我を疎んじていたようには思えない。


 そして、今回話を整理していて、曽我が新たに思い出したことがある。

 母親が亡くなる前日、両親は口論をしていたらしい。


『僕のことを話しているみたいだったので、あんまり聞かないようにしていたんですけど。』


「子供がいるのに、どうして言ってくれなかったの」と母親が怒った様子で言っていたのは覚えているとのことだった。


 しかし、それでも情報が多いわけではなかった。

 だから、曽我の家に起きた出来事について、納得のいく筋道を作るには想像で補うしかない。


(彼が経験したこと、実際にあった出来事、それら全てと整合性があるストーリー……。)


 少ない部品から、全体像を考えていく作業だ。分からなくて当たり前だ。


(だが、もう少し情報があれば、うまくつながりそうな気もするんだが……。)


 桐人はメモを食い入るように見つつ、悶々としていた。



 曽我と朝葵が、3人分の紅茶の入った紙コップを運んできたところで、玄関のチャイムが鳴った。

お読みいただいてありがとうございました。次は佐々山が登場します。ぜひ続きもお楽しみください。

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