4 謝罪
話が終わり、僕は父親に色々と質問をします。
僕は、父さんの話をなかなか理解することができなかった。
ただ、話の中に出てくる出来事は、母さんなどから聞いた話と合致していた。
父さんには兄弟がいたが、幼くして亡くなったこと。
父方の祖父母は僕が生まれる前に、2人そろって急死したこと。
それから、父さんは昔から「音が出るもの」が嫌いだった。
特にスピーカーがついたものは大嫌いだったから、家で音楽を聴くときはいつもイヤホンを使わないといけなかった。
だからといって、父の話の内容は荒唐無稽すぎる。
らしからぬ行動ではあるが、やはり父は自分をからかっているのではないだろうか。
「えっと……。父さんが話した通りならさ、父さんが生きていくのに、誰かを犠牲にしなきゃいけないってこと?」
「……そうなるな。」
「だって、
「……7年。」
「え?」
「理由は分からん。でも、おそらく1人あたり7年待ってもらえるようだ。」
「どういうこと?」
「俺が、最初に蔵でラジオの「声」を聞いたのが、7歳のときだ。」
「7歳……。」
「その次に「声」を聞いたのが、お前がまだ母さんのお腹にいたころだから、28歳だ。」
「21年後……。」
父さんが7歳のときに亡くなったのは、3人だ。
「……でもさ、2回目の後からは、「声」はなかったんだろ? たまたまじゃないの?」
父さんが28歳のときに亡くなったのは2人だ。
1人当たり7年だとすると、14年後の42歳のときに「声」が現れていないとおかしい。
父さんは今年49歳。今まで何もなかったのであれば、人が亡くなったのは偶然だと片付けていいのではないか。
父さんの方を見ると、父さんは黙ったままで、じっと仏壇を見つめていた。
父さんの視線をたどり、僕はぞっとした。
父さんの視線は、母さんの位牌に向いていたのだ。
母さんが亡くなったのは7年前。
そのとき父さんは、42歳。
「ねえ……、3回目は、なかったんだよね……?」
父さんは何も言わない。
「ねえ……、まさか……。」
「…………。」
「悪い冗談でしょ……。」
僕はまだ、父の話が本当なのか冗談なのか判別できずにいた。
普段なら、こんな不謹慎な冗談を言えば、自分は父さんにめちゃくちゃに怒っただろう。でも、今はむしろ冗談だと言ってほしかった。
万が一、この話が本当だとしたら? 3回目があったのだとしたら?
7年前に亡くなったのは、1人。
父さんの言う通りなら、4回目は今年になる。
今年は、誰が……。
背中に冷たいものが走る。
心臓が早鐘を打つ。
隣にいる父親が、急に恐ろしいものに思えてきて、思わず身を離す。
「凌。」
急に名前を呼ばれ、ビクッとしてしまう。
「ごめんな。」
父は僕の顔をじっと見て、そして目を伏せた。
そしてそのまま静かに立ち上がり、和室を出ていった。
父がリビングを抜け、廊下の方へ歩いていく足音がした。
おそらく自室に戻るのだろう。
僕もふらふらと立ち上がり、自分の部屋へと戻った。
扉を閉め、ベッドに腰掛ける。
見慣れた自分の部屋にいると、やはり、今聞いた話が現実とは思えなかった。
だけど……。
僕は、床の上で充電中のスマホに目を落とす。
こいつは、昨日まで何の問題もなく使えていたのに、今日になって急に調子が悪くなった。
ラジオアプリが勝手に起動し、耳障りなノイズがずっと続くのだ。
アンインストールもできず、再起動を繰り返しても変わらない。
仕方なく今は電源を落としている。
ラジオ……。
それ以上考えるのが嫌になり、仰向けにベッドに倒れこむと、だるさに襲われる。
疲れたな……。
視界の端にちらっとスマホが映る。画面が光った……?
急に身体がずんと重くなった。
何だか熱っぽくなってきた気がする。
まさか……。
父さんの所に、もう「声」は来たんだろうか?
そうなったら、僕はこのまま……?
くらくらする頭の中、母さんの声を聴いた気がした。
あなたは来てはだめ。
僕は、力を振り絞ってスマホを掴むと、ドアを開けて廊下に放り投げた。
お読みいただいてありがとうございました。次はがらっと場面が変わります。ぜひ続きもお楽しみください。