006 謎の場所
「──。──い。──おい。起きろ」
暗闇の中から声が聞こえる。
母さんが俺を起こそうとしているようだ。
「母さん。まだ起きるような時間帯じゃ……」
「誰が母さんだ! 起きろ。そして今の状況を確認しろ!」
硬いベッドから起き上がり、眠たい目を擦りながら辺りを見回す。
どうやらここはコンクリートで作られた、小さな四角形の部屋みたいだ。
俺が寝ていたのは硬いベッドではなく、地面だったらしい。
右隣に眼鏡をかけた美人な女性、左隣にはサラスが仰向けになって寝ている。
俺を起こしたのは、母さんではなく、右隣にいた女性だったようだ。
「今の状況が理解出来たか?」
少しピリピリとした様子でそう問うてくる。
「……はい」
確か、サラスが使った『テレポート』でめっちゃ怖いおじさんの家に飛ばされて。
窓から逃げようとしたら、そこが2階で。
それから……。
「まだイマイチ理解出来ていないようだな。君達は気絶していたんだよ。だからここまで運んできた」
「そうだったんだな。ありがとう。でも、身体が全然痛くない気が……」
「私が回復したのだよ。それよりも、だ。刑務官に向かって、その口の聞き方はなんだ?」
……。
…………。
………………ゑ?
つまり、ここは刑務所……ってことか?
何でこんな場所にいるか分からないけれど、これ以上この刑務官を刺激するのは良くない気がする。
よし。媚び諂おう。
「あなた様が回復して下さったのですね。感謝してもしきれません。この恩はいつか返させてください」
自分でも、気持ち悪いくらいの切り替えである。
「あ、あぁ。どういたしまして。……なんか急に…………いや、何でもない」
語尾に自分でもよく分からない敬語を使い、一人称を僕にする。
効いたみたいだな。
警務官の顔を見る限り、多少困惑しているみたいだが。
「それで疑問なのですが、僕達はどうしてこんな場所に連れてこられているんでしょうか?」
「覚えてないのか? 住居不法侵入罪の疑いで連れてきた」
あぁ。なるほど。
大方、あの怖いおじさんが警察に俺達の事を通報して、ここに連れて来られたのだろう。
しかし、どうやってこの状況を切り抜けるべきか。
サラスが寝ているのをいい事に、罪を擦り付けるか?
……それは有りだが、サラスの『テレポート』が無ければ俺達は死んでいたかもしれない訳で、流石に擦り付けるというのは気が引ける。
「おい。だんまりか?」
ずっと考えこんでている俺に痺れを切らしたのか、イライラした調子で俺に問うた。
「あ、いえ。そんなつもりは──」
「もういい。待っとけ、少し尋問をしてやるからな。……あと、横にいるそいつも起こしておけ」
「え、はい……」
部屋のドアをバタンと勢いよく閉めた刑務官を見送り、サラスの方を見る。
すげー呑気な顔だな。
その顔に天使の面影は一切も無く、ただただ気持ちよさそうに寝ている中学生の女子って感じだ。
こんな気持ち良さそうに寝てるとこを起こすのは、少々気が引けるが……まぁいい。
サラスの肩をポンポンと叩きこう呼びかける。
「サラス。起きろー」
が、無反応。
「サラス! 起きろーーーーー!!」
両肩に手を回し、ブンブンする。
すると、身体全体をビクッとさせ、目を驚いた様に大きく見開いた。
「うわっ。何事よ! ……ん? あれ。クロキさん?」
「はい。クロキさんでございます」
「あ、そうでございますか」
そう言うとサラスは目をゴシゴシして、身体を起こした。
「で、ここどこなの?」
「刑務所。今から尋問されるらしい」
「え、まじですか?」
「まじですよ」
「尋問って……え、まじ?」
「まじ。だからさ──」
バンッ!
「「うわっ!」」
個室のドアが開かれる。
警官が帰ってきようだ。
尋問が始まる。