004 隠密行動
「サラスサラスサラス~!」
「な、なによ! 一応女の子が風呂にいるのよ!? ク、クロキさんのエッチ~!」
風呂場へ入るや否や、目に飛び込むサラスの後ろ姿。
俺を変態扱いする発言をしているが、普通に服を着ているし、膝を床に付き、湯船のお湯で顔を洗っているだけである。
「いやお前、服着てるだろ。……ってそんなことしてる場合じゃなくてさ、多分さっきの人がこの部屋にきてる」
「なるほど。天使であるあたしの風呂に入る姿が見たいのね。それは中々にハレンチね」
「うん。違う。だけど、見られたまずいだろ。この部屋って窓無いのか? あいにく、この湯気と部屋の広さのせいで確認がしづらいんだけど」
自信無さげにそう言うと、サラスはこちらへ首をくるりと回し、水滴のついたさっぱりした顔を向け問う。
「一応あったようだけど、高い位置にあったわね。人が登れる高さでは無かったわ」
「まじか。よく見えたな」
「まぁねー。さっき普通に確認しただけどね」
なるほどな。
まぁ、この部屋から抜け出すことは出来ない──
「いやいやいや、ちょい待って。それ、かなりまずいぞ。多分だが、この部屋に近付いてきてる。あのお嬢様っぽい人が駄々こねて確認しにきてると俺はみた」
サラスは目を見開いて固まる。
顔から滴り落ちる水滴だけが、時が動いてることを感じさせる。
どうやら、この状況がどれだけのことか理解したようだ。
ここは貴族かなんかの家だ。
そして俺達が今いるのは異世界。
どういう倫理観か大体察しがつく。
見つかれば無差別に死刑になる可能性だってあるかもしれない。
兎に角、どんな世界か情報がほぼ無い今、迂闊に行動して見つかるのは危険なのだ。
──ガチャ。
その時、背後から扉の開く音がした。
風呂の扉越しからだ。
つまり脱衣場に、さっきの人達が入ってきたのだろう。
ガサゴソと何かを探るような音が聞こえる。
動悸が早くなり、緊張のせいか身体が熱くなる。
『クローゼットには……いないですね。やはり気のせいでは?』
『ち、違うから! ほら次は風呂よ!」
もう。
こうするしか……ないよな。
「サラス……息を吸ってくれ。この中に隠れよう」
と小声で言って、俺は湯船を指す。
ここは今、霧の様に湯気がたちこめている。
風呂に入った後、また濡れたがる奴はそうそういない……と信じたい。
これはもう、ほぼ賭けだった。
「この白い天使服が汚れてしまうのは心が痛いわね。まぁいいけど。……すぅーーーー。んんんーん」
ほっぺたをリスのように膨らませ、空気を溜めるサラス。
口を開かずに、サラスは準備が出来たと訴えた。
……よし。
足音が近づいてる。
俺も息を吸って、
「今だ」
激しい音をたてぬよう、慌てず、それでいて素早く湯船の中へと潜り込んだ。




