003 脱出計画
「うーー。へっくし!」
身体にまとわりついた埃を払っていたサラスが、我慢を開放と言わんばかりの大きなくしゃみをする。
「ちょ! でかい音出すなよ! くしゃみしたい気持ちは分かるが、少し抑えよう。な?」
「うー、わかった。……へっくし!」
「おい! これ以上したら口を塞ぐぞ」
「でも、これだけ大きな音だしても、部屋の外から足音の一つも聞こえないわよ。近くに人がいないと、あたしは推測するわ……へっくしゅん!」
「うわ! こっち向くなよ!」
「うへぇ、ごめんなさーい」
「……はぁ。まぁ、サラスの言い分も理解できるが、まずこの場所を抜け出す方法を考えないとな」
「普通に脱衣場の外いって、玄関から出ればいいじゃない」
「普通の家ならそれが通用するかもしれないが、ここはなんかお偉いさんの家のようだ。警備員とかいる気がする」
「じゃあ、窓から出る?」
「それが一番現実的だとは思うが…………あ、そうだ。『テレポート』はどうだ?」
そう問うと、サラスは表情を曇らせた。
「……んっと。魔力切れで使えないのよ」
「よし。ならこの場所を脱出しかないな」
「うん。そうね」
サラスは曇った表情のままゆっくりと頷いた。
テレポートが使えないことに申し訳なさを感じているのだろうか。
「テレポートが使えないのは気にすんなよ? ここから出ればいいだけの話だからさ」
「……。あ、うん。そうだね。ありがと」
どこか悲しそうな顔をしているサラスだが、鼻水が垂れててどうもギャグにしか見えない。
本人は多分気付いてないのだろうが。
「サラス。鼻、出てるぞ」
「ふぇっ!」
指摘すると、慌てて鼻元を隠すサラス。
悲しそうな顔は転瞬の間に、恥じらいを見せる少女の赤い顔になっていた。
「ちょっ。ふ、風呂場で流してくるわ!」
「うーい」
サラスは鼻をおさえたまま、風呂場へと駆け込んだ。
さて、これからどうしたものか。
とりあえず、脱衣場の外で窓がある場所を探すか。
風呂から聞こえる水のパシャパシャって音が、この外に響かなければいいが……。
そんなことを考えながら、脱衣場のドアノブに手をかけ、ゆっくりとドアを押す。
次の瞬間には、目の前に広い廊下が左右に広がっていた。
朝の光がいくつもの巨大な窓ガラスから入り、鮮やかな模様入りのカーペットを照らしている。
なんともそれは神秘的な様子だった。
窓もある。
しかもここは一階のようだ。
よし。あそこからさっさと──
「──から」
「──ですか」
その時、廊下の奥から聞き覚えのある声が聞こえた。
……先までこの部屋にいた二人の声だ。
と、同時に見えた高身長の影と低身長の影。
朝食を食べると言っていたはずだが……。
まずい。
ここから早く場所を変えなければ……!




