002 暗闇の中で
「うっ……」
慌てて飛び込んだクローゼット。
そこは二人分のスペースはあるものの、衣服が混在しており、そこから舞い起こる埃に思わずむせそうになる。
口を抑え、呼吸を整え、静かにこの場所に身を潜める。
クローゼットの扉の僅かな隙間からさす光で、なんとなくサラスの様子も確認できた。
閉じた口の前に人差し指を立て、静かにサラスに訴える。
衣服の擦れる音と共にサラスはゆっくりと頷いた。
「お嬢様、大丈夫ですか⁉︎」
扉の外から騒いでいた声の主はついに痺れを切らしたのか、ドアをバンと勢いの良い音を立て、脱衣所へと入ってきた。
それとほぼ同時に反対側のあった風呂場の扉が開かれる。
「リーン! ねぇ! 今の誰!?」
ロリ声の慌てた声に、先まで声を荒らげていた女性の声が安心したように「はぁ」と一つ溜息をつき、冷静に答える。
「誰かいたのですか?」
「うんうん! いたんだよ! 変な男と変な女が!」
ロリ声はやや興奮気味に言う。
「でも、私はお嬢様が脱衣場に入ってからは、ずっと扉を見張っていましたよ? その前に誰か風呂場にいたわけでも無かったですし」
「い、いや! 本当にいたの!」
「ふふ。お嬢様、きっと疲れてるんですよ。早く着替えて部屋でお休みになられたらどうですか?」
「お休みになるって……。これ朝風呂よ! また眠るなんて。……というか、私疲れてるわけじゃない! 本当にいたんだって!」
「そうですか。んー、でも──」
「ほんとだってばぁ……」
威勢の良かった彼女の調子は次第に衰える。
「……分かりました。では、後で確認してみましょうか。まずは朝食ですよ」
「……分かった」
「あ、お嬢様。お風呂はどうしますか? 今まで入り続けていたようですが」
「もういい。着替える」
明らかに不機嫌な声。
落ち込んだ顔の様子が容易く想像できる。
少し気の毒だ。
……というか、「お嬢様」やら広すぎる風呂やらで思ったんだが、ここってどう考えても貴族とか、とりあえず地位の高い人の家だよな。
などと考えていると。
やがて着替え終わったのか、ちょうど二人分の気配がこの部屋から無くなった。
ひとまず、詮索されなかったことに、俺はそっと胸を撫で下ろした。




