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009 素晴らしい異世界

 爽やかな風が全身を触る。

 今は丁度、秋らしい。

 目の前にいる多くの人が、俺達の方を不思議そうに見ている。

 セッションが成功するかは分からない。

 この世界に来て物事がうまく運ぶ事の方が、そもそも少ない。

 俺だってこのラッパ──ビューグルは、今まで吹いたことのあるトランペットと勝手が違う。


 でも、今の俺は何故だか調子が良い。

 成功する。

 根拠の無い確信が俺にはあった。


「サラス。声の準備は出来てるか?」

「ちょっと待って。……あーあー……コホン。……良し。良いわよ!」

「俺も準備万端だ。俺達の『音楽』を聴かせてやろうぜ!」

「……なんかクロキさん、さっきからイキってますね。いつも以上に」

「うるせぇ」

「じゃ、あたしが合図をするわね」


 そしてサラスはもう一度コホンと咳払いをする。


「ワン、ツー、さん、し」


 そして歌い出した。

 このラッパ、ビューグルは出せる音が限られている。

 吹いてみた感じ、俺に出せるのはドとミとソの音くらい。

 だから俺は伴奏、サラスの歌の引き立て役だ。

 サラスの出した声とハモらせる、そして最高に綺麗な音を出す、これが俺の仕事。

 サラスの歌声を聴くのは二回目だが、やはりこいつは歌っている時にだけ天使になるらしい。

 以前よりも、その声は美しかった。


 一番だけしかやらなかったため、演奏は1分もかからずに終わった。

 パチパチ、パチパチと住民達の方からまばらな拍手が聞こえる。

 やがて、それは大きな歓声へと変化した。


 この世界に来て初めての──


 大成功だ。



 ※※※※※※



 観衆の熱気が冷め、しばらく落ち着いた後、2人きりになった俺達は興奮気味に言葉を交わしていた。


「サラス! やったな!」

「えぇ! やったわね!」


 セッションの後、俺達はありがたいことに多くのチップを頂いたのだ。ざっと5万ルピア程もだ。

 借金返済までには程遠くはあるが、希望の光が差し込んだ気がする。


 それに、音楽の事も認めて貰えたのだ。

 渋々な住人もいたにはいたが、「こんな美しいものが、あの忌々しいオンガクと一緒なはずが無い!」……と言い切った方のおかげで、全員が賛同しこの街に「音楽」を普及することが出来たのだ。


 人が喜んでくれるっていうのは、言葉に出来ないくらい嬉しい。

 心の底から湧き上がるような、とても温かい気持ちだ。

 感無量というのは、まさしくこの事を指すのかもな。


「いやぁ~それにしても、音楽ってめっちゃくちゃ楽しいな!」

「だよだよ! あたしも、こんな拍手喝采を貰ったのは初めてよ!」


 明るく快活に笑いながら、愉快に話し合う。

 サラスも本当に幸せそうな顔だ。


「音楽普及余裕そうじゃない?」

「ふふふ。そうね! あたし、最初借金もして、クロキさんのステータスもクソザコナメクジ以下で、本当にどうなるかと思ってたけど、これなら頑張れそうね!」

「はっ! 今ではお前の皮肉ですらも、褒め言葉に聞こえるね!」

「いや、それは重症だと思うわ」

「……うるせ。ま、まぁとにかく! 希望が見えたってことで宿に帰ろうぜ!」


「……うん。ねぇ。クロキさん」


 サラスが、明るいテンションは何処へやら、少しショボくれた様に唐突にそういう。


「ん? どうしたんだよ。急に暗くなって」

「い、いやね。あたし、クロキさん結構食ってかかってるけどさ、クロキさんがパートナーでよかったなって思ってるの」

「お? 急にどうした。ヒロインみたいな事言いだして」

「うるさい! ……えっと。だからさ」


 一拍、間を空け息を吸う。


「……音楽普及、これからもよろしくね!」


 サラスはそう言った。

 今の天気よりも明るくて眩しい、晴れ晴れとした笑顔をこちらに向けながら。

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