008 いざ、楽器作り!
「よし! 早速、楽器を作ってみるか」
「え~。宿に帰るなり、いきなりそんなこと言わないでよ。ちょっと休憩してからにしましょ!」
……とサラスはベッドに潜り込み、寝る態勢に入った。
「さっきから言ってただろ。今日は楽器を作ってみるって。サラスだってそれに賛同していただろ?」
「しーらない。……足が疲れたんだもの。ちょっとだけだから……ね? てな訳でお休みー」
「勝手に話を進めんな」
「…………」
こいつ無視するの大好きかよ。
まぁいいか。1人でやろう。
そう思い、俺は床上にあぐらをかき、先程購入した銅板と亜鉛版をそこに置いた。
えーっと。次はスキルの『製造』だな。
スキルの詳細、見ておくか。
身分証を取り出してっと。
どれどれ?
【製造】
材料があり、構造や仕組みが分かるなものなら自動で作れる。
但し、魔力の消費量は物の価値が高くなるに連れ激しくなる。
なるほど。
じゃあ、早速使ってみるか。
……と言ってもどうすりゃいいんだろうか。
適当に手をかざして力を放出するイメージでやってみるか。
よく分からんけど。
そう思い、俺は銅板と亜鉛板を重ね、そこに右手をかざす。
作りたい物、それの構造を頭にイメージして。
「『製造』!」
瞬間、右手から大量の魔力が溢れ出す。
すると、二つの金属板が徐々に合わさり出し、やがて薄いオレンジ色の金属板となった。
真鍮だ。
どうやら成功したらしい。
よし次だ。
トランペットを作ろう。
金管楽器で吹けるのはこれ以外にないからな。
……と思ったのだが。
……そういや、トランペットの材料って真鍮だけか?
あれ? これってそもそも材料足りて無いんじゃ。
思い返してみれば、ピストンってバネとか使われてるよな……。
まぁ、失敗してもいいからやってみるか。
材料が足りないという事実に気付き、半ばやる気を失くしつつ、今程した通りに手をかざす。
一応楽器の構造もなんとなく頭に入れて、
「『製造』」
魔力の消費量がさっきよりも激しい?
そういや、スキルの詳細に価値が高い物ほど、魔力消費が激しいってあったな。
成功する筈もないし、売って少しでも借金返済の足しにするか。
などと考えている内に、目の前の真鍮は複雑に動き、やがて動きを止めた。
「おぉ」
出来たものの意外さに思わず言葉を漏らしていた。
そこにあったのは、ビューグル。所謂、軍隊ラッパだった。
軍隊がファンファーレをする時によく使われているやつだ。
長い棒を一回グルっと巻いた様な単純な構造。
マウスピースと楽器は一体化しており、楽器の前部分はアサガオの様に美しく開いている。
ピストンこそ付いてはいないものの、これは結構いいんじゃないか?
でも、このラッパって確か出せる音限られてんだよな。
……楽器に触るのなんて久しぶりだ。
少し試し吹きするか。
せっかくだしサラスの近くで……。
俺はベッドへ忍足で近づき、楽器を温めるためラッパに息を入れる。
こうすることで、気持ち良い音を出すことが出来る訳だ。
人の耳元で楽器を吹くなんて事は、本当は絶対にやってはいけない事だ。
……こいつは天使だし大丈夫だろ。
十分に楽器を温めたところで、俺は息を大きく吸い、
──パァァン‼︎
大音量で吹いてやった。
それとほぼ同時にサラスが全身をビクンと跳ねつかせ、慌てて耳を塞ぐ。
「な、なにごと⁉︎ あれ? クロキさんの持ってるそれってビューグル? 楽器作れたんだ。もしかしてあたしの耳元でそれを吹いたの?」
俺は無言で頷く。
すると、サラスのこめかみに一気にしわがよる。
「はぁ⁉︎ クロキさん、あなた馬鹿じゃないの? いや、馬鹿なのよね? 今でも耳がキーンってなってるんですけど! 人様にそんなことしていいと思ってるのかしら?」
「……お前は天使様だろ」
……と、俺は何回もやった返しをサラスにしてやった。
「様を付けたことだけは褒めてあげる。でも、あたしの快眠を妨げたことだけは許さない! 目を瞑りさなさい!」
俺は、狂犬の様になったサラスに言われるがまま目を瞑った。
そして、サラスは俺の耳元で叫び声の様な大声をあげた。
その後、宿の管理者などから苦情がきたのは言うまでもない。
※※※※※※
ラッパを持って外へ出る。
爽やかな風を頬に感じながら、俺達は目的地へとやってきた。
「で、なんでここに来た訳? クロキさん」
「ラッパをもっと吹きたいから」
「えぇ……」
この場所は、音楽といえる音楽を最初にした公園だ。
せっかくだしここで吹こう。
宿だと、苦情がでるからな。
「よし」
公園の真ん中で空に向かってラッパを構える。
楽器に温かい息を一回、二回と吐き、
しっかりと温まったところで、構え直す。
大きく息を吸い、
パァン!
ドの音を出す。
空気の塊はどこまでも飛んでゆく様で、
決して美しいとは言えないその音は街全体に木霊する。
たった一音。
サラスに対し嫌がらせで吹いた音とは全く違う音。
その時、不思議と様々な思い出が走馬灯のように頭の中を駆け巡る。
懐かしく感じてしまった。
地球にいた頃のこと。
「クロキさん、やるじゃん。結構いい音出せるじゃん──って泣いてるの?」
サラスにそう言われて気付いた。
知らぬ間に感情が顔に出ていたらしい。
両頬に涙がつたうのを感じる。
「……地球にいた時の頃を思い出した」
拾ってくれた義理の親に何の不自由もなく育てられ、吹奏楽部で自由に吹いて。
友達こそいなかったけど幸せな。そんな日々。
「……地球に帰りたくなったの?」
サラスが優しい声で問うた。
「そうかもしれない。なんとも言えないけど」
ニート生活をしていた時にも感じなかったけど、これがホームシックってやつなのかもしれない。
「そっか。じゃ、早く音楽普及しましょう! あたしも女神になりたいからさ!」
サラスは今まで見せたことないくらいの無邪気な笑顔でそう言った。
「あぁ! つーか、なんか人だかりが出来てない? 気のせい?」
「気のせいじゃないでしょ。きっとクロキさんのラッパの音に連れられて来たんじゃないかしら」
「そっか。じゃ、観客も集まった事だし、セッションしてみるか? 俺とお前で」
待ってましたと言わんばかりに、サラスは「ふふ」と微笑む。
「えぇ! 曲はあれでしょ?」
「勿論。俺が大好きな曲──」
「「きらきら星!」」




