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003 スズキ・クロキのステータス

 ──ペチン!


 それは、眠りについていた俺の耳にまで届くほど、清々しい音だった。


 眠たい目を擦りながら、俺の真横に正座している何者かに問う。


「誰だよ。気持ちよく眠っていた俺の頬を引っ叩きやがった奴は?」

「あたしよ。サラスウェルよ。というか、今何時だと思っているの? 朝になったわよ」


 ……サラスウェル。

 あぁ。そっか。

 俺って異世界に来たんだ。

 ここはいつもの布団の上ではないのだ。

 だからと言って、すぐに身体を起こせる筈もない。

 俺の腹時計によれば、まだ寝てもよい時間だ。


「……はぁ。分かった分かった。……おやすみ…………」


 俺は、再び目を閉じ、眠る姿勢に入る。


「ちょ、ちょっと! クロキさん! 何も分かってないじゃない! あと、宿の人が朝食にパンを運んできてくれたわよ。それを食べて、身分証を作りに行きましょうよ」

「……そっか。でも眠いからもう少しだけ……」

「これだからニートは……。あのね、あたしだって暇じゃないの。一応これは、女神に昇格するための立派すぎる試験なんだから」

「………………」

「もう。もうもうもう! ……よし。今から、起きるまで顔面をぶっ叩くわね!」


 その恐ろしい言葉に、俺は反射的に身体を起こす。

 生存本能が呼び覚まされたのか、先ほどまでの眠気がどこかに飛んでしまったようだ。


「暴力はやめろ! わかった! わかったから! ほら。起きたから!」

「よろしい」


 サラスは悪魔の笑みを浮かべ、うんうんと頷きながらそう答えた。



※※※※※※



 朝食を食べ終えた俺達は、身分証の発行ができるという町の役所の前まで足を運んでいた。


「役所ってここよね」

「地図と照らし合わしても、ここで間違い無いと思うぞ」


 その建物は、民家の集合地から少し離れた場所に立地している。

 辺りには、訓練をしているのか、剣を振っている人などが大勢。

 そして、小さな闘技場のようなものまであった。

 おそらくここは、役所兼、冒険者の溜まり場と言った場所だろうか。


 役所の入り口まで行き、木製の観音開きのドアを開ける。


「えっと、どこ行けばいいんだ?」

「カウンターがいくつかあるわね。あ、それぞれカウンターの上に文字が書いてるじゃない」

「ほんとだ。……どれどれ?」


 右のカウンターから、『クエスト受注』、『換金』、『身分証発行』、『落とし物』。と書かれている。


「あれじゃないか? 左から2番目の」

「そうみたいね。よし、行ってみましょうか」


 サラスは「早く早く」と、足早にカウンターの前まで行き、受付の女性に声をかける。


「身分証明書の発行ですか?」

「ですです」

「あ、俺もお願いします」

「分かりました。2名ですね。……では、まずこの紙に必要事項を書いてもらいます」


 そう言って店員が渡してきた、紙に目を通す。

 名前と年齢。それから住所。その他諸々。

 ……いや、住所って言われてもな。


「すみません。俺、家無いので住所書けないんですが」

「あー。そうですか。じゃあ、そこは空欄で構いませんよ。実際、家を持ってないという方は沢山おられますしね」

「分かりました」

「あ、あたしも家無いです」

「空欄で構いませんよ」


 えーっと。

 名前はスズキ・クロキ。

 年齢は18……っと。

 身長と体重は、まあ覚えてる範囲で。

 ……よし。


「書き終わりました」

「あたしも」

「はい。…………不備は住所以外は無いようですね。……では、次に血を少し頂きますね」


 ……と言って、店員はゴソゴソとどこかから二本の注射を取り出す。

 ん? なんで血とるの?

 え、怖い。怖い怖い怖い。


「あ、驚きましたか? 大丈夫ですよ。少しチクッとするだけだから。私こう見えても、医師の免許を持ってますから」


 そのセリフ、医者が注射を怖がる小学生に言うやつじゃん。

 医師の免許持ってるったって、痛いのには変わりないし。


 俺は、意を決して強く目蓋を閉じる。


「はい。では……。……ちょっと力が入りすぎですよ。落ち着いて落ち着いて……」


 ────‼︎


「終わりましたよ。それじゃあ、次は女性の方」


 俺は、注射されテープを貼られたところを軽く撫でながら、涙目でサラスの方に目をやる。

 サラスはえらく落ち着いた様子だ。

 やがて、サラスの綺麗な腕に注射が刺さり、赤黒い鮮血が注射器の中に入る。


 そして、店員は「少しお待ち下さいね」と言って、引っ込んでいった。


「ふぅー。終わったわね。……? クロキさんどうしたの? なんでそんな泣きそうな顔になってるの? もしかして、注射が怖かった?」

「え、ま、まぁ。先端恐怖症だからしょうがない」

「先端恐怖症? なにそれ? 嘘くさー」


 サラスの言う通り、もちろん大嘘だが、注射が怖いっていうのもダサいので無視しよう。


「はい。お待たせしました。こちらが身分証明書となります」


 ……と言って二枚の小さいカードをカウンターの上に置いた。 

 

 なるほど。免許証みたいなもんか。


「では、そのカードに触れてみて下さい」


 言われた通りにするとこれは驚いたが、ホログラフのように何かが映し出された。

 

 何これ。

 異世界の技術ってすご。

 それなのに、音楽は無いし、楽器も無い。

 変な世界だ。


「はい。……今、映し出されているのは、あなた方に先程書いて頂いた個人情報と、ステータスです。説明が遅れましたが、このステータスを反映させる為に、血を摂らせて頂きました」


 おぉ!

 これが、ステータスか。

 いよいよ、ファンタジー的になってきたな。


「あなた方はまだ、何の職にも就いておられませんよね。……今から、ステータスを確認します。ステータスに応じた、おすすめの職を言いますね」


 俺とサラスは黙って頷く。


「ステータスは上から、【魔力蓄積量】【物理攻撃力】【魔法攻撃力】【物理防御力】【魔法防御力】【敏捷性】【知力】【器用さ】【運】の順番となっています。……では、ステータスを確認させて頂きますね。まず女性の方から。……ちなみに、あなた方はレベル2のため、レベル2の平均ステータスを言いますね。……【魔力蓄積量】24、【物理攻撃力】32、【魔法攻撃力】20、【物理防御力】31、【魔法防御力】20、【敏捷性】15、【知力】39、【器用さ】10、【運】5、がレベル2の平均ステータスです。勿論、個人差はありますがね。……それでは、確認させていただきます」


 レベルが2なのは、最初に音楽を普及させたリスモンスターの経験値でも入ったからだろうか。

 身分証がなくても、経験値は得られるらしい。


 店員は無言でステータスに目を通す。

 やがて、目を見開き驚いたような声をあげた。


「なんと! これは、すごいですよ! 【知力】と【運】以外は、平均より少し上でこれもすごいことなのですが、【運】の値は127もあります! 残念なのは、【知力】の値が8ということだけで。……ですが、これくらい運が高ければ知力の低さもカバーできますよ。レベルを上げれば、そこの値も上がっていくため、気にする必要はないと思います!」

「あたしの運のステータスそんなに高いんだ。やった! これは嬉しいかも」


 知力8って多分、相当低いんだろうな。

 そういえば、『テレポート』の魔法は、並程度の知力さえあれば失敗しないって、警官が言ってたよな。……この知力の低さじゃ失敗するのも納得だ。


「えぇ! 本当にすごいことです。この運の高さだったら、職業は【盗賊】とかいいんじゃないですかね? あ、いや、盗賊と言っても、強盗みたいな物騒なのではなく、ダンジョンのお宝を見つけたりするのが得意な職です」

「ふーん。なるほど。盗賊か……」


 サラスは数秒間、下を向き「うーん」と唸り声を上げ、そして何かを思いついたようにパッと顔を上げた。


「よし! じゃあ、あたしはその盗賊ってのにするわ!」


 言い終えた後、サラスは小声で『天使っぽくは無いんだけどね』と付け足した。


「分かりました。盗賊で登録しますね! ……では、次は男性のステータスを確認させていただきます」


 よし。ここからが本番だ。

 こういうやつのお約束ってのは、ステータスが異常に高いとかだよな。

 さっきから店員の顔を伺ってはいるが、驚きの表情になったり、落胆の表情になったりと何故か変化が激しい。

 そして、見終わったのか、身分証をスッと俺の方に差し出し、


「これは、自分で確認した方がいいかもしれません」


 と、あきらかにトーンを下げて言った。

 その時点で少し嫌な予感をしたが、身分証に目を落としステータスを確認する。


【魔力蓄積量】300

【物理攻撃力】10

【魔法攻撃力】0.8

【物理防御力】10

【魔法防御力】5

【敏捷性】50

【知力】60

【器用さ】130

【運】5


 うん。なんか色々とおかしい。

 店員の表情の変化が激しかった理由はおそらく【魔力蓄積力】が300なのに対し、【魔法攻撃力】が0.8、だということだろうな。

 【器用さ】が高いが、店員の反応を見るに、あっても無くても変わらないのだろう。


「はい。確認しました」

「……えっと。あなたにおすすめの職は【商人】とかでしょうか。物づくりも得意ですし、鉱物の採掘なども得意ですよ」

「はぁ」

「そ、それに、魔法攻撃力が低くても器用度に依存する魔法もありますから……」


 これって、気遣われてるよな。

 ステータス、チートどころか、ゴミクズじゃん。

 ……無意識に川柳まで作ってしまった。


 ……いや、待てよ。

 一瞬目的を見失いかけたが、俺たちって、この世界に魔王を倒しに来たとか、そういうわけじゃないのか。

 むしろ器用さが高いということは、かなり魅力的なんじゃ?

 商人として、平和に物作りしそれを売る。

 その合間に音楽普及。

 いかにもスローライフ感があって寧ろ良い!


「いえ、俺は【商人】で大丈夫ですよ」

「え? いいんですか? あなた、その若さからして、冒険者か何かになるのかと思いました。それで満足していただけるのなら、こちらとしても嬉しい限りです。……では、次にスキルの習得について説明しますね」


 お。きたきた。

 こういうのを楽しみにしてたんだよ。

 ま、威力は高くなくても魔法が使えるってだけで、かっこいいもんな。


「まず、身分証の『スキル』と書いてある場所に触れてください。……『スキル習得』というものが出てきます。また、それに触れます。……そしたら、各職業の『初級スキル』『中級スキル』『上級スキル』『最上級スキル』という文字が出てくるかと思われます。スキルの取得には、スキルポイントを使いますが、初期の状態では5ポイントですが、レベル2なので、今は7ポイントありますね? レベルアップでスキルポイントは貰えるので、とりあえずその7ポイントで好きなスキルを習得してください。習得の際は、気に入ったスキルの欄に2回触れれば習得できますよ。……ちなみに、魔法とスキルの違いというのは、魔法は自身のレベルが上がることで、ご自身の職業にあった属性の魔法を覚えることができます。……えーと、盗賊は風で、商人は土ですね」


 なるほど、覚えないといけないことが多そうだな。

 スキルと魔法には一応違いがあるのか。

 でも、サラスはレベル1の時から、『テレポート』や『ヒール』を使えたはずだ。

 天使は伊達に天使ではないらしい。

 まあ、とりあえず、初級の商人のスキルから見ていくか。


掘削(くっさく)】 岩や硬いものを掘る際に使用。威力は器用さに依存。 消費ポイント1

【ストレンクス】 一定時間、自身の物理攻撃力・魔法攻撃力を倍増させる。 消費ポイント1

【プロテクション】 一定時間、自身の物理防御力・魔法防御力を倍増させる。 消費ポイント1

【スピード】 一定時間、自身の俊敏性を倍増させる。 消費ポイント2

【アナライズ】 動物の名前や植物の名前、物や道具の名前、効果がある程度わかる。 消費ポイント3

【製造】 材料があり、構造や仕組みが分かるなものなら、自動で作れる。 消費ポイント3

【初級レシピ】 簡単な道具の作り方を即座に覚える。 消費ポイント2


 まあ、初級スキルはこんなもんか。

 【初級レシピ】は、スキルなのか正直怪しいよな……。

 他にもあるのだが、あんま使えそうなのがないな。

 よし、次は、中級スキルを見てみるか。

 

【アースクエイク】 自分がハンマーで叩いた地点を震源とし、あたりを揺らす。威力・範囲は器用さに依存。 消費ポイント3

【収納】 物体の大きさを4分の1まで小さくする。 消費ポイント7

【ラック】 一定時間、自身の運を倍増させる。 消費ポイント5

【スマート】 一定時間、自身の器用さを倍増させる。 消費ポイント5

【リープ】 一定時間、自身の跳躍力をかなり上げる。 消費ポイント6

【ドロップ】 自分が上に投げた物を速い速度で落とすことができる。 消費ポイント9


 使えそうなのはこれくらいか。

 スキルポイントは、7ポイントしかないみたいだし、この中から適当なのを選ぶか。

 えっと、【掘削】と【アースクエイク】ってのを試しにとるか。

 どっちも有用っぽそうだしな。

 3ポイント余ってしまうが…………とっておこう。


 よし。

 これで習得できた筈だ。

 何も起こらないけど大丈夫だよな?


 最上級スキルってのも少し気になるし、みてみるか。


【エクス・プロード】 大爆発を起こす。 消費ポイント35 

【ディストラクト】 岩や硬いものを粉々にする。 消費ポイント28

【セルフ・ディストラクト】 自爆。 消費ポイント40

 

 ここまで見て、すぐに見るのをやめた。

 なんか、すごく物騒なんですけど。

 もう何個か種類あるみたいだったけど……。

 これって商人のスキルであってる?

 まあ、いい。

 最上級スキルを使う機会は無いだろうしな。


「よしと。俺はとってみたぞ。サラスはどうだ?」

「うん! 結構良いのあったわよ! 【宝探知】とか【貴金属探知】とか、宝探しに使えそうなスキルばっかりで」

「おい。そこの守銭奴天使。お前は、この世界に宝探しにきたのかよ」

「まあ、この世界で一生を過ごすのも悪くないなって」

「いや、駄目だろ。……まあ、それはさておき、だ。早速スキル使ってみたいんだけど」

「それいいわね。じゃ、今からメープルがくる時間になるまで、外でスキルを試しましょ」

「そうだな。……店員さん。ありがとうございます。では──」


 俺は踵を返し、役所を出ようとした、


「お客様。料金の支払いがまだですよ~!」


 あ、そうか。

 金いるのか。

 そりゃ、身分証の発行がタダなわけねーよな。


「あ! すみません。今から払います!」


 身分証の発行だ。

 1000ルピア程度で済むだろう。


「はい。料金は1人10000ルピアです」

「ん? 1000の間違いでは?」


 思わず聞き返していた。

 その値段の高さに驚愕した。


「いえ、10000ですよ」


 たけーよ。

 サラスも10000も払いたくはないだろ。

 というか、宿代が払えなくなってしまう。


 ……と思った時には、もう遅かった。


「分かったわ。じゃあ、20000ルピアね。……はい。これで、きっちり20000ルピア」

 

 もう、サラスが金を払っていた。


「……はい。20000ルピア。しっかりと頂戴いたしました。ありがとうございました。……あ。そうそう。ここでは、クエストの受注も承っておりますので、お暇があれば是非」

「分かったわ」


 と言って、サラスはスタスタと役所の扉まで歩いて行く。


「ちょっと待て。宿代はどうすんだよ」

「そんなこと気にしてたの? さっき【宝探知】のスキルをゲットしたじゃない。それで、金稼げばいいわよ」

「そっか。そういや、サラスって運のステータスも高かったな。じゃあ、金の件に関してはサラスに任せるからな」

「おっけー。じゃあ、今から街の外で【宝探知】を試してみるわ」


 サラスは外に出よう扉に手をかける。

 その時、役所の扉が勢い良く開かれた。

 サラスの顔面に扉が思いっきりあたる。


「いった~。ちょっと! あんた何すんの──」

「お前ら邪魔だ」

「「すみません」」


 扉を開けた人物は、血管から血が噴き出しそうなくらいに、こめかみにしわを寄せていた。

 目ん玉が飛びださんばかりに目を見開いたそいつは、圧倒的な威圧感を放っていた。

 俺はこの人物を覚えている。

 やばい。

 絡まれる前に、さっさと────


「お前、俺の家に不法侵入してたやつだよな?」


 その男に俺は背中を向けたまま返答する。


「いえ、違いますが?」


俺の声は震えていたかもしれない。


「おいッ! 嘘だって分かってんだぞッ! ちょっと今から、表に出ろ! 俺ァな、あの件のことでイライラしてんだ。ちょっとだけでいいから、ストレス発散させろや」


 俺は、手を握り潰す様に捕まれ、引きずられる様に引っ張られながら、広い場所まで連れてこられた。


「ここは、役所の土地である闘技場だ。お前に決闘を申し込む。なぁに、手加減してやるからビクビクすんなって」

「もし、負けたら……」

「ああぁん⁉︎ 『もし』とかねぇんだよ! とりあえず俺にボコボコにされろや!」


 目の前の大男は余裕の笑みと言わんばかりに、ニヤリと笑った。

 これは舐められてる。


 ……もういい。

 開き直ってやる。

 お前を俺のスキルの練習台にしてやるよ。

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