002 宿の中で
「いっらしゃいませ~! 何名様でしょうか?」
宿に入った後、こちらに気付いた受付の女性定員が開口一番にそう言い放つ。
俺は宿の中をパッと見回してみる。
入ってすぐ右側に受付、左側に広いスペースが用意されており、そこにはイスやテーブル、ちょっとしたバーのようなものまであった。
奥には階段があり、おそらくあの階段から各部屋に行けるのだろう。
流石異世界。予想通りの内装である。
店員の問いにサラスは受け答える。
「2人よ」
「は~い」
「あの、この宿の一泊する料金っていくらかしら?」
「一部屋3980ルピアですよ~!」
なるほど。
メープルの言っていた通り、約4000ルピアだな。
「分かったわ。じゃあ、二部屋取れるかしら?」
「かしこまりました! 確認するので、少し待ってくださいね~」
店員は部屋の空き具合を確認するためか、紙を取り出しそれを凝視する。
俺は店員に聞こえぬようサラスに耳打ちする。
「思ったんだけどさ、一部屋4000の部屋を二つ取るって、結構すぐに金が無くなりそうな気がするんだけど」
「それくらい分かってるわよ。これから稼げばいいでしょ。さっきみたいに」
「金を稼ぐっつってもそんな上手くいかないだろ。さっきはメープルだったから上手くいっただけでさ」
こう言った俺に、サラスはやれやれといった様子で答える。
「クロキさん。あたしの超超美しい美声を聞いたでしょ? あれを聞いてお金を投げたくない人なんて存在する訳ないでしょ?」
「美しい美声は二重表現だろ。お前な。もっと堅実にお金を稼ぐ方法をだな──」
「お待たせしました~!」
店員の明るい声が俺の言葉を遮る。
どうやら部屋の確認が終わったらしい。
「えーっと。大変言いにくいのですが、部屋がもういっぱいでして、一部屋なら空いてるのですが……」
うわ。
ベタな展開だ。
まさか、こんなハプニングが現実で起こってしまうとは……!
俺は、またサラスに耳打ちする。
「どうする? 一部屋しかないって言われても困るよな?」
「んー。今から他の宿に行くっていう手段もあるけど、もう外は夜だし…………もうほんっっとに、しょうがないけど、二人で一部屋とろっか」
「まぁ、サラスが良ければ別に俺はいいけど」
「分かったわ。……店員さん。二人で一部屋とるわ。とりあえず一週間ほど泊まりたいのだけれど、一週間分部屋をとることって出来るのかしら?」
え、サラス、一週間いっぺんに取っちゃうの?
いや、別にいいんだけどさ。節約にもなるし。
だけどサラスは一週間も男性と同じ部屋ってことに抵抗はないのか?
「分かりました。1週間ですね。代金は27860ルピアとなりま~す!」
「……えっとお金は……」
「あ、後払いでも構いませんよ~。この宿はそういう形式ですので」
「へ~後払いでもいいのね。不思議な宿ね」
「そうでしょうそうでしょう。よく言われるんですよ~。……はい。これ、部屋のカギです。部屋は階段を上って一番奥の部屋ですからね~!」
「どうもありがとうございます。……じゃあ、クロキさん行こっか。と言うか、あたしに店員との対応を任せないでよ」
「すまん」
サラスに軽く頭を下げ、自分の部屋へとその場を後にした。
※※※※※※
「ふい~~」
部屋に入り、一目散にベッドへと飛び込む。
今日の疲れを全部込めた様な溜息が、布団にかかる。
「クロキさん。あなたの息を布団にかけないで、と言いたいところだけれど、正直疲れたわね」
「だな。ナチュラルに傷付く言葉を言われた様な気がしたが、気にしないでおくとして、本当に内容の濃すぎる一日だったな」
ベッドの上をゴロンと転がり仰向けになる。
「でもあたし、これからが結構楽しみよ?」
椅子に座り、机に頬杖をついて、なんだか楽しそうに、笑顔でそう言ってくる。
「そうだな。異世界だから、まずもちろんハーレムやら、最強のステータスで無双とか、他にも王族の少女と恋に落ちるとかだな。色々な未来が待っていると考えるだけで、なんだかソワソワするな」
「それは、ラノベの見過ぎとしか言い様が無いわね」
「別にいいだろ! 夢を見させてくれよ!」
「今から寝れは夢くらい見れるわよ?」
……コイツ。
なんか煽られた気がする。
が、別に悪びれてなさそうな様子が余計にタチ悪い。
そんなサラスを横目で睨む。
と、サラスはそんな俺の様子を気にもとめず、急に椅子から立ち上がり、何かを思いついた様に手をポンと叩いた。
「……あ、そうだ! 明日、自分の身分証明書を作りに行かない? その身分証があれば、自分のステータスとか確認出来たり、魔法を覚えたりする事が出来るわよ。メープルに貰った地図に、そう書いてたわ」
「お! マジか! そうそう、そういうのだよ! 俺が求めてた異世界のテンプレというのは!」
「あたしも、他の魔法も使ってみたいし楽しみだわ! あたし他にも──」
そうやって、どうなるか分からない俺達の未来について、疲れすらも忘れ語りあった。
楽しげな声が、いつまでも部屋に響き渡ってた。




