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001 路上ライブもどき

「ここの街並みってフランスみたいで洒落てるわね~。あ、あの建物なんかとっても綺麗よ!」


 今、路上ライブが出来そうな場所を探している途中だが、言い出しっぺのサラスはさっきから、小学生のようにはしゃいでる。


「なぁ。サラスも探そうぜ」

「別にいいじゃない。こういうのって天界からしか見たことないのよ。……あ、こんにちわーー」

「こんにちは」


 サラスはさっきからすれ違う人に対して、挨拶をしている。

 それに対して、笑顔を返すもの。挨拶を返すもの。様々である。

 中には見たことのない生物をペットのように連れ歩いているものもいる。

 こう言うの見ると、ファンタジーの世界に来たんだなって実感する。

 

 いまだに夢のようだ。

 今まで、ゲームの中かラノベの中にしか存在していない世界に来たのだから。

 ここから遂に、俺の異世界ハーレムラブコメ(チートあり)(かっこチートあり)が始まるわけだ。


 まぁ、さっきまで刑務所にぶち込まれていたんだけど。


「なぁそう言えば、刑務所にいる時から気になってたんだけど、なんでここの人達は日本語を喋ってるん?」

「んーっと。女神様が『全言語理解』ってのをあたし達に与えてくれているって言ってたわ。それがクロキさんのチート能力ってことで良くない?」

「そんなんチートでもなんでもないだろ。他の人が日本語喋るチート能力なんて」

「いやいや、現実世界に置き換えてみてよ。アメリカとかに行っても、何もかも日本語よ。それって凄くない?」

「確かにそうだけど、それは現実に置き換えたらだろ? 普通異世界でのチートってのは、めっちゃ強い武器が使えたり、空飛べたり、相手を見つめたら対象が死ぬとかだろ?」

「いいじゃない。そんなのものがあるのはアニメとラノベだけ」

「サラスって意外と辛辣だな」


 天使がそんなこと言う?

 一番非現実なのは、お前の存在だって言ってやりたい……。


「まぁ、そうね。……あ、あの場所とか良くない?」


 話を逸らすように、サラスは指を前の方に突き出しその場所を指す。


 そこはパッと見公園のようで、子供たちが追いかけっこなどをしているようだ。

 家に囲まれており、緑豊かな場所である。


「確かにこの場所良さそうだな。人が集まりそうだし」

「よし。そうと決まれば、早速人の呼び込みをするわよ!」

「人の呼び込みと言ってもどうするんだよ」


 サラスはその問いにすぐには答えず、公園の中に歩みを進めていく。


「決まってるじゃない。こうするのよ」


 そう言ったサラスは、公園の真ん中に立ち、息を大きく吸い込んだ。と、思った次の瞬間。


「みなさ~~~ん‼︎ 今から、面白いことをするわよ~~~‼︎」


 周りの目を気にせず、大声でそう言ってみせた。


「え、ちょ、おま。何やってるし」


 キモオタの様な反応をする俺にサラスは見向きもせず、遊んでいた子供たちを手をちょいちょいと動かし呼んでいるようである。

 それに釣られ、大人の人たちも集まり、いつの間にか数十人もの人が集まっていた。

 そして、サラスは俺の方に向き直り。


「よし、早速始めるわよ! なぁに、あたしに任せといてって!」

「サ、サラスさん? 任せといてって言われても、楽器も何も今ないんだ。何にも出来ないぞ」

「いや、歌よ。歌。それ以外に何があるって言うの?」

「何も無いんだけどさ……っておい。ちょっと待てって!」


 歩みを始めたサラスに呼びかかけるが、サラスはそれを無視し、すぐ近くにあったベンチに立つ。


「皆さーーん‼︎ ご注目! すっごいことするからよく見ること!」


 数十人の人達に向かってサラスはそう叫ぶ。

 民衆はしだいにざわつき始め、何が起こっているかよく分かっていないようだ。

 

 そりゃそうだ。

 傍から見たら、ただのイキリキッズなのだから。

 それにしても、こんな大勢の人数でも物怖じしないサラスはある意味すげーな。

 そういや、警官にも肝が座りまくった態度とってたしな。

 コミュ症の俺には到底無理なことである。


 などと考えている時、俺はふと、あることを思い、歌い出そうとしているサラスに声をかける。


「なぁサラス。歌うって言っても、著作権に引っかかるような曲だけは歌うなよ。まじで」


 この世界に著作権は無いはずだが、このことは重要なことの様な気がする。


「はいはい。分かってるわよ。あたしも、何故だか分からないけど、このことは重要なことの様な気がするから」


 サラスも同じこと思ってたらしい。

 まあ、理解が早いのは良いことだよな。うん。


 ……で、あいつは結局何を歌う気なんだ?


「よし。皆さんお待たせしましたわね。では早速。※※※※※※※※※※※※※※※※※※──」

「──っておい‼︎ 何歌おうとしてんだ!」


 俺は、サラスが完全にアウトな歌を歌い出したところに飛び入る。

 ベンチに立っていたそいつを引き下ろし、全力で引っ叩いた。


「いっった~~~‼︎ 何するのよ! 今、いいところだったじゃない!」

「いや、それ日本でめっちゃ有名な曲だから! というか、歌詞の内容も異世界の人が理解できなさそうな内容じゃん」


 俺がツッコむと、サラスは叩かれた場所をさすりながら、俺に問うてくる。


「じゃあ、何を歌えばいいって言うの?」

「……んーっと。……きらきら星とかでいんじゃないのか? ウケもいいだろ。曲もいいしな。……そして俺が大好きな曲だ!」


 するとサラスは明らかに不満そうな顔で、


「え~。きらきら星~~? もっと良い曲あるでしょ?」

「いや、お前きらきら星舐めんなよ。童謡ではあるが、世界中で歌われていて、モーツァルトにも編曲されているくらい、素晴らしい曲なんだぞ?」

「それは、分かるけどさ~~。……まあ、いいわ。じゃ、きらきら星ね」


 サラスは明らかに渋々了解し、民衆の方に向き直る。


「……よし。では、民衆の皆々様方──って居ない⁉︎」


 俺も同じ方向を見ると、サラスの言った通り民衆は忽然と居なくなっていた。

 サラスとの言い合いが長すぎたせいか、もう帰ってしまったようだ。


「あ、まじだ。サラスのせいだろ」

「いや、クロキさんのせいでしょ」


 ぎゃいぎゃいと俺達が言い合う。

 その時、


「いつ始めるんですの?」

 

 冷たい声が飛んできた。

 そう言ったのは、俺でもサラスでもない。

 さっきまで民衆が居たところに、ポツンと立っていた桜色の髪をした女の子である。

 その少女は、サラスと同じくらいか結構幼く、桜色の明るい髪とは対照的に澄んだ青い目をしていて、少し怒った様子の真顔と質素な服装がどこか儚げな印象を与えた。


 その少女にサラスが声をかける。


「あなた、どうしたの? もしかして、あたしが歌い出すのを待っているの?」

「え、まあ、そうですわ。ウタイダスってよく分かりませんけど」

「ほんと⁉︎ じゃあ、ちょっと待ってて!」


 そう言った少女に対し、サラスは嬉々とした様子でベンチに立つ。

 サラスはどうやら、彼女だけがこの場から居なくならなかったことに、感激しているように見えた。


「じゃ、早速いくわよ」


 サラスは、「あーーあーー」と声の準備をし、


「トゥインク~ル トゥインク~ル リトルスタ────」


 歌い出す。

 その声はまさしく、文字通りの天使の歌声だった。

 透き通り真っ直ぐとしたその声はとても心地良い。

 横で静かに聴いている少女も、サラスの歌声に聴き入っているようだ。


 やがて、1分ほどで終わった歌に、無意識で拍手をしていた。

 それに釣られる様に少女も、手をパチパチと叩き出す。


「どう? あたし、伊達に天使をやってるわけじゃないって分かったでしょ?」


 サラスは満足した顔で、俺に問うてくる。

 

「あ、あぁ。釈だけどすっげー上手い。お前が天使だって言うことを、今実感した」

「ふふ。そうでしょそうでしょ。……あ、そこの彼女はどうだった?」

「え、わたくし? え、えっと、こんな綺麗な声、生まれて初めて聞きましたわ。感動……しましたわ」

「うんうん。もっと褒めてもいいんだからね」

「もっと褒めてと言われましても…………本当に素晴らしいとしか、言いようがありませんわ。ちなみに、それはなんていうものですの?」


 満たされた顔をしているサラスはさて置いて、この問いには、これは音楽というもので、さっきやったのは歌。

 と言うふうに答えるべきなのだろうが、音楽という言葉をこの世界の人達は忌み嫌ってるらしいからな、なんて答えるべきか。


「えっとね。今あたしがやったのは、歌と言って、声の高さを調節して言葉を喋るもの……? ちょっと説明が難しいんだけどね」


 と、一人で勝手に焦っていると、サラスが説明してくれていた。

 絶対に音楽とか言って地雷を踏むかと思ったけど、うまく説明してくれたな。

 

「なるほど。歌、ですわね。……じゃあ、あなたはなんで、歌をしていたの?」

「そ、それはね~。ちょっと恥ずかしいんですけど、お金がなくてですね~」


 え、サラスはこんな小学生くらいの子から金取る気でいるの?

 流石に金持ってるとは思えないんだけど。


「つまり、お金が欲しいということですわね? まあ、全然いいですわよ。あなたのその歌は大変素晴らしいものでしたから」

「え、ほんとに?」

「えぇ。ただし一つ条件がありますわ。……よければ明日もまた、これくらいの時間帯に……」


 また、歌ってほしいということだろうか。

 その少女は、言うのが恥ずかしいのか、顔がだんだん恥じらいの色に染まっていく。

 彼女の言わんとすることを察したサラスは、笑顔でこう答える。


「えぇ! 全然大丈夫よ! こっちこそありがとうね!」


 少女は、ガサゴソとポーチの中から何かを取り出そうとしながら、サラスに答える。


「は、はい! ありがとうございますですわ! ……えっと、お金はこれだけあれば何日かは持ちます。この近くの宿だと、一泊4000ルピアくらいだと思われますので」


 彼女は何枚かの札束や銀貨をサラスに手渡す。

 ルピアというものは、この世界のお金の単位だろうか。

 一泊4000ということは、1ルピア=1円と考えて、よさそうだな。

 というか、こんな女の子が普通こんな大金を持っているだろうか?

 どっかの貴族の人とかか?

 そういえば、さっきからお嬢様口調だよな。

 慣れていないのか、結構ぎこちなく聞こえてしまうけれど。


「念のためこれも。……この町の地図ですわ。見たところあなたは、何も持っていないようですし。あ、あと、あなたの名前は……? わたくしは…………メープル・アクセルと申しますわ。メープルと呼んで頂ければ……」

「うん! メープルね。あたしは、サラスウェル。サラスって呼んでくれて構わないわ! あと、ありがとね。地図とかも無かったから、メープルには感謝してもしきれないわね。ちゃんとお金は返すからね!」

「いや、そんなこと……! わたくしだって、サラスがやった歌と言うものには、感動しましたから、そのお礼みたいなものと思って頂ければ」


 俺は、一言も発せずにいないまま、2人が仲良くなっていく様子を眺めていた。

 俺もなにか言うべきかな?


「メープル。俺からも礼を言う。ありがとうな」


 そういう風に考えて出た言葉は、ただのお礼の言葉である。

 

 それなのに、この場に少しの沈黙が訪れた。


「え、あなた誰ですの? ……あ、さっきサラスの歌を聞いていた人?」

「あ、ごめんねメープル。紹介が遅れたわね。この人はあたしの連れよ」

「どうも。スズキ・クロキです」

「あ、なるほど。いや、さっきからニヤニヤしてたから不審者かと思ってしまいましたわ。……ん? という事は、スズキも金が無いと言うこと? 分かってるとは思いますけど、あなたに与える金なんか無いですわよ」


 真顔で発せられたその言葉が、チクリと胸に刺さった。

 人から悪く言われるのは、何回されても慣れないものである。


「あ! ごめんなさいサラス。もう、帰らないと親に叱られてしまいますわ。じゃあ、また明日同じ時間帯に待ってますわ!」

「うん! またねメープル!」


 見上げると、すでに空は夕焼け色に染まっていた。

 メープルはサラスだけに別れを告げると、振り返り走り出す。

 その時、メープルのポケットから何かが落ちた。


 ……ん? これ、ハンカチか?


「サラス。メープルがハンカチ落としていったぞ」

「あ、ほんとね。まだ、追いつきそうよ? 渡しに行ったら?」


 俺は首を縦に振り、メープルの背中を追う。

 

「お~い! メープル! 待ってくれ」


 走っているメープルに呼びかけるが聞こえてないのか、振り向きもしない。

 すると、数メートル先にいる彼女が、本当に小さな声で何かを呟く。


 それと同時に、彼女は俺の視界から姿を消した。


 …………見逃したか?

 魔法でも使ったのだろうか。

 まあ、いい。

 明日も来るって言ってたしな。



※※※※※※



「すまんサラス。メープルのこと見逃した」

「別に謝ることじゃ無いわよ。明日渡しましょ」

「あぁ。そうだよな。……それはそうと……えっと、お金を貸して頂けないでしょうか?」

「あ、うん。しょうがないから貸してあげるけど、クロキさん。あなた多分メープルからの好感度かなり低いわよ」

「知ってる」

「でも、あの子いい子そうだったから、仲良くなれると思うわよ」

「そういうもんか」

「そういうもんよ。……で、メープルに貰った地図を頼りに宿に行きましょ」


 サラスは、現在の場所を指差し、そこから宿まで指で辿っていく。

 どうやらこの町の名前はプレストという名前らしい。

 地図を見る限り、町全体が円形の城壁に囲まれていて……例えるのなら、ドイツのネルトリンゲンのような感じである。


「あ、結構近いわね。いや~メープルがいて良かったわね。普通、こんなに色々してくれる人なんていないって!」


 そう言いながら、サラスは歩み始めた。


「……そうだな。でも、それほどお前の歌声が美しかったってことだろ」

「ふふ。クロキさんも案外素直なところあるじゃない。あたしに惚れ直したのかしら?」


 横に並んでいたサラスは、俺の前に回りこみ、後ろ歩きしながら意地悪にそう問うてくる。


「もともと惚れてなんかねーよ」


 俺は嘲笑うように返した。

 「あそっ」とサラスは呟き、再び俺の横に並ぶ。

 

「……ニアスがくれたお金が約40000ルピアね。一泊で4000ルピアってことは、十日分よね? じゃあ、1週間はもつわね」

「いや、待て。一泊4000ルピアってのは、あくまでも1人の時の値段だよな?」

「えぇ。多分そのはずよ。…………! ちょっとクロキさん! あたしと同じ部屋で寝たいとか言う気じゃないでしょうね⁉︎ あたしは天使なのよ? そんなあたしの身体を汚すだなんて……」

「そんなわけねぇだろ! どうしてそんな発想になるんだ! いくら自分が可愛いからって自意識過剰だ!」

「いや、いやいや。あたし、クロキさんの考えていること何となく察しがつくけど、絶対一緒に寝たいと考えていたわね。というか、そういう顔の形でしたー!」

「よし。じゃあ、聞こう。俺がお前と一緒に寝ることで起こるメリットは? ……うん。無いな!」


 その言葉にサラスは、「うぬぬ」と唸りながら歯ぎしりし、負けじとと言わんばかりに反論する。


「あるわよ! 高貴なる存在と部屋を共にすることで、クロキさんも少し高貴となれるというメリットが!」

「少し高貴ってどんなパワーワードだよ! そんなんなら尚更、一人で寝るわ!」

「じゃあ、凄く高貴になれるってことで──って、ここじゃないかしら」

「切り替えはや」


 サラスは急に立ち止まり、目の前の建物を指さした。

 二階建ての建物で、窓からはオレンジ色の明るい光が出ていて、薄暗くなった道を照らしている。


 地図と交互に目をやり、再確認をする。


「やっぱここじゃない!」



「じゃ、早速いくか」


 サラスがドアに手をかける。

 開けた瞬間に目に差し込んだ宿の光を眩しく感じながら、俺たちは中へと入る。


 サラスが俺の方を向いて一言。


「ちなみに、部屋は別々で」

「うるさい」

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