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なんでもない日常が紡ぐ物語

恋におちた瞬間を、僕は覚えてる

作者: 夜野 碧

彼女に出会ったのは、二十数年前。

僕がまだ、高校生の頃。

彼女は、僕の親友の彼女の、友達だった。


ある日の放課後、自分の席で帰り支度をしていたら、後ろから肩を叩かれた。


「ゆ、う、じっ。これから、カラオケ行こっ。なぁ、良いだろ? 女の子も来るよぉ。お前、彼女居ないよな? ちょうど良いじゃ~ん。一緒に行こうぜ!」


行くとも行かないとも言ってないのに、健太がまくしたてる。


学校帰り、友達とつるんで出掛けるのは、ゲーセンかカラオケだったあの頃、まだケータイもなくて。

遊ぶ約束をするのは、顔をあわせて直接、だった。


「お前、彼女いるのに合コンかよ。」


「違うよ! 彼女がさ、オレと二人だと、オレがやらしいこと考えてそうだから行かないって。友達誘って、みんなでなら良いって言うんだよぉ。」


「あー、健太やらしいこと考えてそうだもんな。」


「そりゃ、健全な男子高校生ですから。彼女の手取り足取り、あんなことや、こんなこと。ムフッ・・・。って、それは今いいだろ!」


「うわぁ、そりゃ彼女も引くわ。」


「いや、だから、カラオケ! 一緒に行ってくれよぉ。頼むから。オレの割引券使っていいから。」


「割引券は、俺も持ってるし。暇だから行くよ。」


「よっしゃ、行こうぜ!」


健太と二人、教室を出て自転車置き場に向かう。自転車にカバンを積んで学校を出た。


並んで走りながら、健太が聞く。


「じゃ、このまま行く?」


「ああ。○○堂の前のカラオケだろ? 俺は家の前通るから、カバン置いてくけど、健太は?」


「オレ、家反対側だからさぁ、裕二ん家にカバン置いといてもらって良い?」


「ああ、良いけど。健太、制服のまま行くのか?」


「えっ! あー、そっか。うわぁ、どうしよう。」


「遅くまで遊ぶつもりじゃなかったら、別に制服でも良いんじゃない?」


「裕二も、カバン置くだけで着替えるなよ?」


「わかってるよ。あ、信号変わるから、こっちから行くぞ。」


大通りの交差点を渡って、住宅街の路地に入る。

裏道を駆け抜ける自転車は、他の移動手段よりも早く目的地に着けそうで、友達と話しながら走るだけで、何より最強な気分だった。


自転車で五分ほど路地を走り、建て売りの同じような家が並んだ一角にある、自宅に着く。


健太のカバンを預かって、自宅に入る。

母は健太を小さい頃から知ってるから、顔を見たら「健ちゃん、お母さん元気? 今日ご飯食べてく?」と、やたらと健太をかまう。

思春期の男子的には、そういうオバチャンとは、できれば関わりたくないので、健太は「家の前で待ってるから、荷物よろしくな!」と僕にカバンを押し付けたのだ。


「ただいま。母さん、健太と遊び行ってくるから。健太の荷物、置いといて良い?」


「あら、健ちゃん来てるの? え、出掛ける? 後でまた来るのね。晩御飯は?」


「あー、僕は多分家で食べるから、遅くなるかもだけど、置いといて。」


「健ちゃんも、ご飯食べてくの?」


「あー、どうだろ? 他にも何人か来るみたいだし、そいつらと食べるかもしれないから、いらないんじゃないかな? じゃあ、いってくるね。」


まだ何か言ってた気がするけど、いってきます、と振り切って、家を出る。


「健太、お待たせ。」


「遅いよ。」


「母さんが、健太もいるなら、晩飯食うのか?とか、うるさくて。」


「おばさん、相変わらずだな。」


「そう、なんか、お前の事、好きすぎるよな。わはは。」


「えー、俺、彼女いるし、遠慮しとく。アハハ。」


二人で下らないことを言って笑いながら、自転車を走らせる。


カラオケボックスの前に着くと、健太の彼女と、その友達が待っていた。


「健太くん、遅ぉいっ。」


健太の彼女が、プンプン怒ってた。


「由香っち、ごめん。こいつ、なんか時間掛かってさぁ。待った? 待ったよね? ホント、ごめんな。」


彼女の側でデレデレしてる健太は、僕の全然知らない人の様で、『彼女ができると、こんな風になるのか』と、新しい発見をした気分だった。


「由香ちゃん、ごめん。僕ん家に寄ったから、時間掛かっちゃって。二人ともごめんね、待たせて。」


「裕二先輩は、別に謝んなくていいですよぅ。どうせ、健太くんが荷物置かせろとか言ったんでしょう? でも、由香の大事な友達待たせたのだけは、謝ってね。」


「ごめんな。由香っちの友達も、待たせてごめん。」


「ごめんね、初めましてなのに、待たせちゃって。」


健太と僕は幼馴染みで、由香ちゃんは中学の後輩で。そんな僕らの会話に入れなくて、俯いていた彼女が顔をあげ、小さな声ではにかんだように言った。


「あ、いえ・・・。大丈夫です、そんな、待ってないから。」


顔を上げた彼女の、ちょっと人見知りして困った表情と、緊張で少し掠れた声とが妙に色っぽく感じて、僕はボーッと見とれてしまった。


それが彼女との初めての出会いで、僕が恋におちた瞬間だった。


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