石の上にも三百年
「問題があるとしたらまずその呼び方なんだけどさ。相方ってなんで?」
「え? だって生涯の伴侶、人生を共にする相方やろ?」
くっ、やはりそんな方面のつもりか!
「た~ての糸はぴぴぴ~。よーこの糸はぴぴよ~」
「スワッグ、話の流れを読んだBGMは辞めてくれ」
「おっと失礼しましたぴよ」
重い話が終わったとなると絡んできたなこの鳥。
「レイさんも。この際だからきっぱりと言うけど、俺はチーム関係の誰とも結婚とか恋愛とかそういう関係になるつもりは無いから」
俺がそう言うとレイさんは心底わからない! という顔になった。
「え? なんで!?」
「なんで? て……モラルの面で。監督は公私混同しちゃいけないし、不公平さとか出たらいけないし」
「そこは双方が努力すればええんちゃう? 夜伽のフォーメーションとかローテーションとか決めて……ねえ?」
「未成年のエルフが夜伽とか言うんじゃありません!」
しかもローション、もといローテーションは分かるけどフォーメーションてなんやねん!? 複数プレイ前提やないかい!
「でも大事なことやで?」
「その分野なら俺が詳しいぴい。最大13股くらい経験あるぴよ。『ペ○ソナ4の主人公かスワッグか?』と言われたくらいぴい」
「ほら! スワッグにいさんもそう言ってはるで!」
いやレイさん絶対にP4知らんやろ。てかP4とか4Pとかいやらしいな!
「そんな事を言っても駄目なモノは駄目! それよりいつからステフねえさんとスワッグにいさんになったの?」
ステフとはどちらかと言うと険悪な空気になった関係だし、スワッグとはそれほど接点が無かった筈だが。
「子守して貰って以来、妹がスワッグにいさんの事をえらく気にいってなあ。ステフねえさんはおかんの道具を運ぶ時に命がけで矢面に立ってくれたし。トモダチ手帳を書いて渡す時に二人に弟子入りしてん」
そう言えばレイさんの家族付近もトモダチ手帳に入れていたか。スワッグは本当に抜け目がないな。
「命がけ、言うたらイリス村ででウチらを守ってくれたのは相方もやで?」
いやアレは殆どステフの功績で俺は震えてただけだぞ?
「めっちゃ格好よかったやん。びっくりしたわ。ありがとうな」
そう言うとレイさんは俺の手を掴んで自分の胸に押し当て、潤んだ瞳で俺を見つめる。
「それだけやない。言われた直後は図星で悔しかったけどウチが本当はサッカー好きな事、プレーしたがった事も教えてくれたんは相方やん。今までウチをそんなに見てくれる大人はおらんかった。だから本気で感謝してるし本気で相方とめおとになりたいと思ってます」
ねえさんにいさんの話題で逸れたと思った話がまた結婚の方へ帰ってきてしまった。しかもイリス村での時間稼ぎの件だけなら
「それは吊り橋効果だよ?」
で何とかなったかもしれないのに、これでは誤魔化しようがない。
「レイさんの気持ちは嬉しいけど、イリス村の件もサッカーの件も必要に迫られてと言うか……」
俺は何とか言い逃れを考えようとするが、手に伝わるレイさんの心臓の鼓動と胸の柔らかさが思考を邪魔して何も考えられない。
せめて何かでそう、時間稼ぎを……あ! 時間稼ぎ!?
「何というかその……時期が早いと思うんだ!」
「時期?」
俺は閃いた事を一気に口にする。
「ああ! ご両親にも君にも説明したと思うんだけど、君には『スカラーシップ』制度のプロトタイプというか宣伝モデルになって欲しいんだ。それにはサッカー選手をしながらも学校の方もちゃんと卒業して欲しい。大変だよ、両立は。だから……」
俺はそこで言葉を止めて彼女の理解を待つ。
「ウチの卒業まで待って欲しい、てこと?」
「そういう事!」
スカラーシップ制度設立の為に調べた時に知った事だが、エルフの学生時代は長い。日本で言うと高校生に当たるレイさんの場合でも最低5年はある上に、長大な寿命を誇るエルフはある意味生涯学習というか、一生をかけて研究の人生を送るタイプもいて『卒業』という概念すら無い場合もある。
それだけ永い時間があればレイさんの人生観も変わるだろうし、素敵なエルフ男性に出会うかもしれないし、俺も老いるし……。きっと結婚なんて無かった事になってしまうだろう。
「うーん」
レイさんは首を傾げて考え込む。寄せた胸に挟まれて俺の手が不味い事になったが心を無にして耐える。
「相方はあの制度、絶対に成功させたいんやね?」
「ああ」
俺が力強く頷くとレイさんは再び考え込んだ。だが最後には顔を上げて言った。
「分かった! じゃあウチも頑張る。サッカーも勉強もしっかりやって、ちゃんと卒業してから結婚する!」
よし! そんなこと言っても実際に結婚には至らないだろうがなククク……と喜ぶ俺にレイさんが
「ただし……お願いがあんねんけどええ?」
と甘えるように続けた。
「ええよええよ。なんぼでも言って」
彼女にどんな考えがあるか分からないが、これは勝ち確ですわ、と俺も機嫌よく返事する。それに続いて彼女が口にした『お願い』は少しショックなモノだった。





