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ゲルトサーティーン

 クエンさんが言った『役割分担』はあっさり決まった。まずレイさんと彼女が起こした騒ぎについて正確に調べる為に、コーチの視点を持つナリンさんと立場の近いクエンさんが、レイさんのかつての所属チームを訪ねる。もし乱闘などについてチームの側にも問題があったなら、ナリンさんが気づく……というのを期待しての事だ。あとまた泣かれても困るし。

 次にレイさんの母親フィーさんを、尊み略奪隊の隊長でもあるリストさんとスワッグが訪ねる。元隊長と現役隊長という違いはあるが、同じ役職経験者として話し易いだろうという狙いだ。また現在フィーさんが住む場所はヨミケの外れのやや危険な地域らしいが、スワッグが付き添うなら安心だろう。

 最後に俺とステフがレイさんの父親、フェルさんを訪ねる。男同士という単純な理由もあるが、もし本当にレイさんを連れて行けるのであれば保護者の方としっかりと話し合いを持つ必要もあるからだ。あと住所は調べがついたが万が一不在の場合、彼に預けた魔法の眼鏡を追跡するケースもあり得る。

 以上を決めた上で俺は

「くれぐれもレイさんの気分を害さないように」

と言い含めて皆を送り出し、目的地へ向かった。


 レイさんの父親フェルさんは漫画喫茶を営んでいた。と言っても現代的なブースやパソコンがあるタイプではない。広い店内に多くの座席と本棚があり、少し黄ばんだ漫画が乱雑に並べてある……昔のタイプの

「漫画がたくさんある純喫茶」

に近いものだ。

「ほほう、これは! ゲルト13読みたいゲルト!」

 魔法で例の眼鏡があるのを確認しここまで誘導したステフが、ドアを開けるなりテンションを上げて言った。

「いらっしゃいませ……えっ!?」

 奥のカウンターから出てきたのはレイさんの父親フェルさん……ではなく、レイさんそのエルフだった。

「えっ、なに、ストーカーなん!?」

「ちっ、違います!」

 接客用のエプロンを羽織りトレーを盾のように構えるレイさんに急いで否定の言葉を告げる。

「貴女ではなくお父様に用事があって……」

「おとう……父に? 何やの?」

 そう告げた所で彼女の警戒は柔らがなかった。それもそうか。

「こっちのボックス席で良いや。ブルマン二つな!」

 そんな緊迫した空気を無視するかのようにステフが脳天気な声を上げて座席に荷物を起き、一角の本棚へ向かった。

「ワルシャワに向け核ミサイルを発射!! は何巻だっけ? 分かる?」

「あ、はい、たぶん……」

 毒気を抜かれたレイさんがステフの隣に並び、一緒に背表紙を指でなぞりながら目当ての本を探し始めた。取り残された俺はステフの選んだ席の向かいに座り彼女たちを待つ。

「よいしょっと」

 まずはステフが漫画を3冊ほど持って戻り、座って読み始める。

「(ちょい、ステフ! 漫画読んでる場合じゃないって!)」

「え? なんで? 面白いんだぞ、『ゲルト13』。この濃い顔の主人公が天才的な爆撃手で毎回、困難なターゲットを爆殺してな」

「(なにそれ凄い……じゃなくて! お父さんと話すつもりだったのに、当事者がいたじゃん! てか当事者しかいないじゃん! 本当にあの眼鏡のオーラはあるのか?)」

 俺が小声でそう聞くと、ステフはちょうど太眉主人公(ゲルトさんとやら)の顔の表紙で自分の顔を覆ってしばらく上を向いた。

「うーん、間違いなくある。でも家屋の奥の方だな」

「お父さんが着けてそう? それとも置いてどっか行ってそう?」

「そこまでは分からんて」

 と言う間にレイさんがトレーにカップを二つ載せてやってくる。

「はい。ブルマン二つです」

 そう言う彼女が置いたカップには、黒く光る液体がゆらゆらと揺れている。立ち上る湯気と香り……本当にブルーマウンテン、コーヒーなのだろうか?

「あ、両方こっちに置いて。ショーキチもこっちに来いよ。話があるんだろ? 向かいに座って貰えって」

「え?」

「お前、何を勝手に……」

 と反応したがステフは言いたいだけ言うとコーヒーっぽいものを片手に読書へ戻ってしまう。残された俺とレイさんは何となく逆らうタイミングを逃し、ステフの言う通り対面に座った。

「先日はご家族の時間を邪魔してすみませんでした。あと今日も押し掛ける形になって申し訳ございません」

 俺はひとまず、姿勢を正して謝罪を口にする。意表を突かれたのか、レイさんは警戒しながらも小さく頷いてそれを受け入れた。

「昨日、少し申し上げた通り我々は優秀なサッカー選手を求めています。そこでレイさんに非常に可能性を感じ、あまり余所に見られたくないのと一刻も早く話をつけたいのとで気が焦り、そちらの事情を鑑みず連れ出してしまいました。完全にこちらの配慮が足りませんでした」

 言い訳と説明は表裏一体だ。ただどちらにしても、あまり長々と聞きたい人はいない。俺は過去のクレーム対応の経験を思い出しながら、簡潔に事情を告げた。

「その上で、ご迷惑をかけた上で大変厚かましいとは思いますが、やはり我々は貴女をチームに加えたいと思っています。何か検討に足る条件などありましたら教えて頂けないでしょうか?」

 あかん。完全に仕事モードのかしこまった口調になってしまう。ビジネスとしては何とか合格点でも、これでは気持ちは伝わらないだろう……。

「ははっ、そこまで堅くならんでもええよ」

 少し落ち込む俺の様子を見てレイさんが呆れたように笑った。始めて見る彼女の笑顔は、何日も続く曇天に差し込んだ久しぶりの日の光のように見えた。

「まあ理由も分からんかったら諦めて帰ってくれへんやろうし、言うわ」 

 光は一瞬で消えた。いや、レイさんの顔にはまだ僅かな微笑みが残っているが、言わんとする内容と声には諦観めいたものがあった。

「ウチの家の今の事情、もう知ってる?」

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