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振ってはいけない

「やっダ! だいねえちゃんがきめたゾ!」

 その応援の声が試合会場まで届いた……とは言えないかもしれない。だが事実として画面の中ではカーリー選手がダイビングヘッドを決め、トロッコチームが火薬チームに追いついていた。

「本当に……凄いです!」

 喧噪の中でナリンさんが俺の肩に掴まりながら言う。そうしないと喜び暴れるゴブリン達の波に浚われ、はぐれてしまいそうだった。

「ははは。まさかここまでとは」

 自分が焚きつけておいてなんだが、ゴブリン達の狂乱は凄まじいものだった。見た目が小鬼だけに少し怖いものがあるが、彼らの悪意なき熱狂は観ていてこみあげるものがある。

「これはひょっとすると……おおお!」

 そしてその熱はトロッコチームが次のゴールを決めた時に最高潮を向かえる。

「うおおおお! 最高ダー! こんなのつけてられないゾ!」」

 逆転ゴールを目にして興奮が臨界を越え、これ以上振り回す布がみつからなかったゴブリン達が手をかけるモノはもうそれ(着衣)しかなかった。

「キャー!」

 悲鳴を上げ目を伏せるナリンさんの前で、彼らは自分の上着や腰布をはぎ取って全裸になり飛び跳ねだした。

「あちゃー。フル・モンティ(すっぽんぽん)なのはこっちだったか」

 と自分が建てたフラグ(前振り)に感心している場合ではない。これ以上ナリンさんをこんな所にいさせられない。堅く目を瞑るナリンさんと好奇心丸出しで周囲を見渡すステフの手を引いて、俺たちは宿へ帰る事にした。


「いやあ、良いモンみたなあ」

 宿のベッドに飛び乗ったステフがキラキラと輝く目で言った。

「そっそうですね。ゴブリンという種族をまた一つ、理解できた気がします」

 まだ顔の赤みが収まらないナリンさんが応える。

「そうだな! ゴブリンのゴブリンってあんな風なんだな!」

「わーわーわー!」

 ちょっとステフさんウチの汚れ無きナリンさんにそんな話題振らないでくれます!?

「ゴブリンの性格とか心理に触れた気がしますよね!」

 俺はなんとか真面目な話題に戻そうと声を張った。

「えっ、ええ。対戦時は気持ちで負けないようにしないと……」

「ゴブリンのゴブリンは分かったけど、ショーキチのショーキチはどうなんだ? 負けてない? それともやっぱり小なの?」

 ステフはニヤニヤと笑いながら路線継続を試みる。

「うっせえわ! この名前で生きてきて成人するまでにそのイジリ、100回以上聞いたわ!」

 俺は思わず慎みを忘れて怒鳴り返してしまった。

「ふーん。で、実際は? もしかして図星? 違うなら見せてみ?」

「そんな挑発に乗るかよ! まったくもう……ステフはナリンさんを見習ってくれよ」

「ショーキチ殿のショーキチ殿……」

 ちょっとナリンさん!?

「個人マネージャーとし把握すべきかもしれません……」

「ないない! もうこの話終わり! お休みなさい!」

 きっとこのエルフ女子二人もゴブリンの熱でおかしくなったのだろう。俺は逃げるようにして自分の部屋へ帰った。


 翌朝。一晩経つと流石に街のムードもナリンさんたちも正常に戻っており、俺は安心して本来の仕事、視察を進める事となった。

 試合を行う際の会場、練習場、宿泊施設や提供される飲食物のチェックである。これまでのリーグ戦の歴史上、大きな問題が起こった事はあまり無いらしいが、そこはみなさんファンタジー世界の住人。かなり大ざっぱである。移動に時間がかかって無駄に疲労する事や食事の時間がまちまちであることに疑問を抱いてこなかった様だ。

 それはそれで逞しくて頼もしいが普通に改善点でもあるし、その部分を良くすれば何もしない他のチームに対してアドバンテージ(優位性)を持つ事にもなる。

 そんな訳で俺は練習場をより近い所へ変更し、宿泊施設も静かで良い食事を提供する場所と仮契約することにした。ウォルスは賑やかで活気のある街ではあるが、少々騒がし過ぎるので選手の休養という面では理想的とは言えないのだ。だがこれで少しはマシになるだろう。

 それら宿泊施設などを探す際にはスワッグとステフの広い顔がモノを言った。昨晩の事も含め、一筋縄ではいかない一匹と一名だが極めて有能なのは間違いないな。

 ウォルスを起ちアホウへ繋がる街道に入って、俺はコンビに労いの声をかけることにした。

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