夢で終われない
数時間前、なし崩し的にニャイアーさんをGKコーチへと引き抜けた(と思う)俺たちだが、素性を調べた上でのヘッドハンティング対象の本命はドワーフ代表のDFコーチ、ジノリさんだった。
最も早く地球のサッカー戦術に反応し、模倣した存在。それがなくてもリーグ随一の若き才能、そしてライバルチームの頭脳。そのような芽は摘んでおく、出来れば摘んだ上で自分の家に植え替える。そうしたいに決まっている。
だが障害は山積みだった。こちらの契約上は問題ない。ダリオさんに何度も確認して、ドワーフだろうが何だろうが俺の希望通りスタッフを採用できるようになっている。だがジノリさん側はどうだろう?
ジノリさんが「エルフ代表チームのコーチとして就任したい」と思う事はあるだろうか? エルフ代表チームは現在の所、あまり強くないし面白いチームではない。強くない、の部分はニャイアーさんへのアピールにはなったが。(たぶん。100%ナリンさん目当てだったら俺は泣く)
報酬は? ニャイアーさんの時にちらっと考えた通り、払えるものはある。しかしジノリさんが、そしてドワーフ女子が金でチームを裏切ってライバルチームへ移籍するとは思えない。
となると(地球ではブラック企業の十八番だが)「やりがい」とか楽しさしかない。エルフ代表に来たら面白い戦術でコーチできるよ? 難しいけどやりがいはあるよ? みたいな。恐らく彼女はそれにだったら乗って来るような気がする。身辺調査の結果からして。あとぶっちゃけかなりの戦術ヲタクっぽいし。
長くなりました、ここで俺の出番だ。そもそも彼女に戦術面でアピールすると言えば俺しかいない訳で。地球で発展した様々な戦術をちょっとでも教えるからウチに来て学ばないか? と釣ってみる役割だ。
とは言えアピールも何も俺と彼女には接点が何もなく、エルフとドワーフの仲を考えたら交渉の場に立つことすらも難しい。
そこで発起されたのがこの『だけど気になる昨日よりもずっと。アイツの夢見たせいよ、と思わせて交渉を有利に働かせよう! 作戦』である。
まずは現実の方でジノリさんに接触を持つ。そしてめっちゃ強い印象を残す。それも悪い感じの印象を。次に彼女の夢に現れ、甘々な態度で接触する。めっちゃ優しく。恋人の様に。
普通ならあり得ない。本人と相手の情緒を疑う話だ。しかしこれは夢の話である。なんでもあり得る。なんなら
「出会いは最悪だったけど~、夢に見るって事は案外、相手のこと気になってたんじゃないの~? 向こうも向こうでさ、『好きな子に意地悪しちゃうタイプ』だったんじゃない? 今度はいっちょ、自分から声をかけてみる?(シャマーさん談)」
と誤解することだってあり得る。(本当か?)
そうなったらこっちのモノだ。後は向こうから接触して来るのを待つ。来たら
「ごめん。実はお前の事が気になって」
と打ち明ける。そうしたら
「え!? 実はアタシも……」
となる。(本当に本当か?)そこでエルフ代表にDFコーチが必要な事を話し、
「俺んとこ、来ないか?」
である。そうすればワンナイトカーニバル確定である。(あひゅー! って本当か!?)
「じゃあナリンの台本と演技を魅せて貰おうかな~」
出会いどころか性格が最悪なシャマーさんが嘯く。嘘です、出会いは最悪ではなかったです。あとこの作戦の肝も彼女です。
他人の夢に侵入する魔術の遣い手にして相手の心を誘導する悪魔の様な心理戦の達人。聞けば俺をハメたダチョウ倶楽部ドッキリのアレも、リハーサルを当人たちの夢の中で行ったらしい。
なんか長期連載の学園モノでクラスに一人はいる便利なマッドサイエンティストみたいだな……いつか互いの精神が入れ替わる魔法とか性別が逆転する禁術とか暴発させるんじゃ……?
「えっと、次は逆転してショーキチ殿が受けに回る展開なんですが」
ナリンさんが自慢の台本の中身を語り出した。長い夜が始まりそうだった……。
「ダリオさん、遠くまでありがとうございます」
「いえ、来賓の一人として、リーグカップ決勝の観戦は元から予定していましたので」
翌日。アーロンスタジアムではBOX席に佇む俺たちの姿があった。今日はフルメンバー、旅の仲間である俺、ナリンさん、スワッグ、ステフに加えシャマーさん、エルフの国からある目的の為に来てくれたダリオさんと勢揃いである。
これだけの人数が入ってもBOX席にはまだ余裕があった。流石、VIP用。軽食まで用意されていてサッカーに興味ないステフはそれに夢中だ。エルフのリーブズスタジアムには無い設備なので是非とも導入して欲しい。
「ダリオさん、エルフ代表にもこういうの必要ですよ」
「確かに。……でもショウキチ殿には睡眠の方が必要では?」
ダリオさんが心配そうに囁いた。それもその筈、俺は昨晩ずっと夢の中でリハーサルを重ねた後、ジノリさんの夢に出張してなんというか……凄い事をしたので心底つかれ果てて目の下に隈がガッツリできているのである。
「そうだよね! ショーちゃん、お疲れなら私の膝枕で試合開始まで寝ちゃう?」
「いえ、それなら自分の方で!」
シャマーさんとナリンさんが争う。彼女たち、まだ夢の中か? あ、今更ではあるがBOX席内は魔法が使えるので通訳は必要としていない。というかこの場そのものが魔法で保護されており、気温や雨、サポーターが投げ込むゴミやピッチから飛び出すボールに気を使う必要がない。
「寝るんだったら俺の腹が最高ぴよ? 天然羽毛100%ぴい」
広いので遠慮せず普段サイズのスワッグがいつものドヤ顔で言った。悔しいが今回ばかりは彼の言う通りだ。
「すみません、そうさせて貰います。みんな、試合が始まったら起こして下さい」
「分かりました。その間に私は、旅でここまでショウキチ殿が疲弊した原因を問い質しましょう。ね、ステファニー?」
「ぐえぇ!?」
牛串と岩石のような塊肉にかぶりついていたステフが目を丸くした。彼女には可哀想だが俺には訂正する余裕はない。
「じゃあスワッグ、頼む」
「まかせろぴい。ねーむれー」
「子守歌は必要ない」
繰り返すが余裕はない。俺はスワッグの腹の毛をかき分け、もたれ掛かるスペースを作ると体を預けて瞼を閉じた。





