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現場監督

 新しく生まれ変わったアローズの練習場「エルヴィレッジ」及びクラブハウスの前には奇妙な生物が背を向けて立っていた。

 長身、筋骨隆々の背中、頭部が異様に大きく何やら可愛い声で大工さん達に指示を出している。現場監督さんか何かか?

 ダリオさんもまたマニアックな種族と契約したもんだ……と近づく間に正体が分かった。

 ザックコーチと肩車して貰っているジノリコーチ、筋肉紳士なミノタウロスとドワーフ幼女のコンビだ!

「ザックさんジノリさん!」

 俺は久しぶりの再開に嬉しくなって思わず駆け寄って声をかけた。

「おお、ショーキチ監督!」

「あわわ急に動くな! おう、監督にナリン君!」

 振り向き俺に気づいたザックコーチは近づくなり俺を逞しい両手で抱き上げ、高い高いをした。

「お帰りなさい、ご無事でなにより! しかしまあ、よくぞここまで素晴らしい環境を用意されたな!」

 いやいや前もされたけど高くて怖い! あと俺を抱き締める腕に付けてる腕輪が痛い! ってこれよく見たら俺の付けてる翻訳のアミュレットと同じだな? ちゃんと手配されてて良かったがそっか、彼だと腕輪のサイズになるのか。

「お、お帰りなのじゃ! 旅はどうじゃった? こちらの準備は……ばっちりじゃぞい。……いつでも良いぞ?」

 こちらはジノリコーチだ。高い高いされた俺と顔が至近距離になった事に途中で気づき、何やら顔を赤らめている。メンタルも幼女(純情)か。いや知ってたけど。むしろこれくらいがありがたいけど。

「ザックさん怖いので降ろして下さい!」

「おう、すまなかった。あ、ナリン殿! おかえりなさい!」

 お願いするとザックコーチは俺を降ろしつつ、近づいたナリンさんに声をかける。しかしドワーフ女性を肩車しつつ俺を抱き上げるって、本当に凄い筋肉してるなこの牛。

「ただいま戻りました。お二方がクラブハウスの建設指導もされていたのですよね? ありがとうございます」

 ナリンさんは帰還の挨拶もそこそこに二人に礼を言う。そう、迷宮に住むミノタウロスと建築に詳しいドワーフ、その二人なら建物関係の適切なアドバイスも出来るだろうと思って(俺の希望を伝えた上で)建設の立ち会いもお願いしていたのだった。

「ふふん、どうじゃ? なかなかの出来じゃろう?」

 ジノリコーチはザックコーチの上から、得意げに背後のクラブハウスを指し示す。ほぼ完成に近いその建物は2階立てマンションのような外見で細長く結構なサイズに広がっている。大小様々な部屋数も多く、森の中に佇む様子はリゾートホテルにも見える。しかもその全体は木製で窓やベランダが多く、暖かみを感じるようなデザインになっていてさらにリゾート感を増している。

「ええ、素晴らしいです」

 物理的にも精神的にもジノリコーチに上から言われるのはちょっと癪だが、確かに凄い。これほどしっかりした「建物」のクラブハウスを持てるのは地球のプロクラブでも一部カテゴリーではなくだけだろう。

 って癪も何もこれを作らせたのは俺だし内緒だけど所有者も俺なんだけどな!

「ほえ~幾らかかってるんだろこれ」

 遅れてきたルーナさんが俺のモノを見上げて呟く。いや俺のモノであるのは内緒だ。ついでに言うと施工費用も内緒だ。

「さあ? ダリオさんに聞けば?」

「ほれ? そちらの女性は?」

 とぼける俺にジノリコーチが訊ねる。

「確か君は……ノーのやつをスライディングで吹き飛ばしたDFのルーナさんだね? フィジカルコーチのザックだ、宜しく」

 俺が紹介するより早くザックコーチが思い出し、握手を交わす。そうだよな、そりゃ印象に残っているよな。

「そうか、お主がルーナか! ワシはヘッドコーチのジノリじゃ! ビシバシ鍛えてやるから覚悟……おいザック君! 動きが気持ち悪いからおろせ!」

 続いてジノリコーチが握手をしようとしてバランスを崩し、危うく落ちかける所をルーナさんの手を借りて地面に降りる。ザックコーチの動きが気持ち悪かったのは、彼が立ったりしゃがんだりしながらルーナさんの全身をくまなく見回しているからだ。

「コーチたち、宜しく。でも何?」

「いや君、良い筋肉してると思ってな」

 出会って三秒でが……観察かよ! やはり筋肉マニアの元ミノタウロス代表監督は違うな!

「ルーナはエルフと人間のハーフなので、やはり我々エルフとは少し筋肉の質や量が違います。速筋と遅筋のバランスも。あとオフの期間も農場で働いていて体も絞れていますし」

「ほう。すると一般的なエルフとは違うから彼女をベースにフィジカルトレーニングを組み立ててはいかんのだな? 因みに農場ではどのような動きを……」

「確か利き足が左じゃったよな? 左利きのCBであればDFラインからの組立ではじゃな……」

「えっ? え? ええ?」

 コーチ三名によるディスカッションがいきなり始まってしまった。肴になってしまったルーナさんもただただ戸惑っている。これは嬉しい混乱だなあ。

「みなさん、その熱意は非常にありがたいんですが先に中に入りましょう。あと議論する時は記録とデータを必ず取って。記憶や印象を根拠にするのは危険だし、せっかく言った良い事を忘れるのも良くない」

 しばらく見守った後で俺がそう言うと三名ははたと口を噤み、顔を見合わせて赤面した。

「すみません、駄目だったんじゃないです! むしろ本当に嬉しく思ってます。でも早く中も見たいです! 今の議題は本日の夕食時に、メモ等を準備した上で改めて……でどうですか?」

 そう俺が提案するとコーチ陣は強く頷き、ルーナさんはほっとため息をついた。

「では中へ参るか!」

「ワシが案内するぞ!」

 今度は肩車せずにザックコーチとジノリコーチが歩き出す。ゆったりとしたサイズで作られているクラブハウスとは言え、流石にミノタウロスの肩にドワーフが乗ると頭を打つんだろうな。

「助かったよ、ショーキチ監督」

 動き出した一列の最後に並びながらルーナさんが言った。

「え? いや、こちらこそゴメン。びっくりしたよね?」

「ううん。いや、やっぱりびっくりしたかな。ショーキチが意外とちゃんと監督してるんだな、って」

 意外とちゃんと、とはなんやねん!

「ははは。まだまだ精進だよ」

「……そんな所までパパに似てるなんて」

「え? 何?」

「なんでもない。行こう」

 誉められているのか貶されているのか分からない空気のまま、ルーナさんが足を早める。俺も分からないなりに後に付いて中へ入った。

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