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その他いろいろ

恨み列車

作者: たかさば

ピ―――ン・・・ポ―――ン・・・


…誘導鈴が、鳴り響いている。



ピ―――ン・・・ポ―――ン・・・


この音が耳障りだという奴も多いけど。



ピ―――ン・・・ポ―――ン・・・



この音は、僕の願いを叶えるために必要な、サイン。



              (ピ―――ン・・・)   (ポ―――ン・・・)

ピ―――ン・・・ポ―――ン・・・


向こう側のホームの誘導鈴の音が、聞こえて、きた。


            (ピ―――ン・・・)   (ポ―――ン・・・)

ピ―――ン・・・ポ―――ン・・・


この音が。


          (ピ―――ン・・・)   (ポ―――ン・・・) 

ピ―――ン・・・ポ―――ン・・・


重なる時。


        (ピ―――ン・・・)   (ポ―――ン・・・)  

ピ―――ン・・・ポ―――ン・・・


僕の求める列車が、到着する。


      (ピ―――ン・・・)   (ポ―――ン・・・)

ピ―――ン・・・ポ―――ン・・・


間もなく、…来る。


ピ―――ン(ピ―――ン)・・・(・・・)ポ―――ン(ポ―――ン)・・・(・・・)



ピ―――ン・・・ポ―――ン・・・?



疑問符の付いた誘導鈴の音は、列車の到着の予告。


ああ。


…やっとだ。


…やっと、乗せることが、できる。


                     

    (ががっ、)     (がたんたん)    (・・・・)    (ごごっ、)     (ごとんとん)   (・・・)


僕の待ち望んだ、列車が今。



ががっ、がたんたん・・・・ごごっ、ごとんとん・・・



ここに。



ががっ、がたんたん・・・・ごごっ、ごとんとん・・・



到着する。



しゅ――――・・・ぷしゅ―――・・・


電車のドアが開いた。


…乗る場所が、見当たらない。ほぼ、満員。顔のない、駅員が、僕に尋ねる。


「…()()()()()?」


「はい。」


決意を胸に肯定した僕の体が、()()()


…僕の体から、僕がもう一人出てきて、横に並んだ。


僕は、()を、乗せようとしている。


…隣に立つ、()は。


僕の、恨み。僕の怒り。僕の妬み。僕の、悲しみ。

…つまらない感情をすべて背負わせて詰め込んだ、順風満帆な人生を歩む僕に不必要な、もの。


この列車には、生きていくうえで、手放したいと願う悪意や感情を、乗せることができるのだ。


…恨み列車と、呼ばれて、いる。


恨み列車は、全国どの駅にも到着する。

到着のヒントは、誘導鈴の重なりと、疑問符。


今日、ここで、僕がこの(悪意と悲しみ)を乗せることができれば。

僕は、明日から、にこやかに、晴れ晴れとした気持ちで、生きていくことが、できる。


しかし。


電車が満員で、乗れなかった場合には。

この電車に乗っている、すべての怨念を受け止めなければ、ならない。


怨念を受け止めた、そのときは。

命をもって、その怨念を晴らさねばならないらしい。


全国津々浦々、老いも若きも、男も女も。

実に気軽に、実に容易く、この列車に自身の不要物を乗車させてきた。


…皆、自分が乗れなくなるとは、考えもせずに。


…僕も、自分が乗れないとは、微塵も思っていない。


今日、僕はこの列車に、自分に不要な感情を乗せる。

僕は恨み列車の話を聞いてから、何度も分身(悪意と悲しみ)を乗せてきた。


気に入らないあいつに笑顔を向けることができたのは、この列車のおかげだ。

腹立たしいあいつに頭を下げることができたのは、この列車のおかげだ。

理不尽な扱いをスルーできるようになったのは、この列車のおかげだ。

僕の元を去ったあいつを追わなくなったのは、この列車のおかげだ。


この列車に自分の分身を乗せることで、日々耐えてきたんだ。


今日も乗せなければ、ならない。


今日乗せなければ、僕の心は、壊れてしまう。


「さあ、乗るんだ。」


僕は、()を、恨み列車に、押し込んだ。


「奥の方が開いてるだろう!!詰めろ、詰めてくれよ!!」


顔のない駅員とともに、()をギュウギュウと押し込むが。


「ダメですね、乗せることが、できません。」

「はあ?!そんな馬鹿な…!!」


ピュ―――――イッ!!

駅員が、笛を、吹いた。


「この列車は、乗り換えとなります。…皆さん、この体に、乗車してください。」


恨み列車の乗客が、次々に僕に乗車していく。()の体は、どんどん膨れ上がっていく。


「ちょ…!!!どうなるんだ、これは…!!!」

「なーに、なんてことはありませんよ、この恨みをすべて背負って、爆発させる、それだけです。」


「気持ちいいですよ?貯めに貯めまくった負の感情を、あなたが代表してまき散らすんです。」


「遠慮の感情すら、わかない事必至ですね。大丈夫ですよ、迷いもない、ただの暴発ですから。」


「私から、あなたにプレゼントを差し上げましょう。刃こぼれしない、刃物。」


「これで、存分に、命の迸りを浴びることができますよ?」



膨れ上がった僕の体は、天井につくほど、大きく膨らんでいる。

ゆらり、ゆらりと、揺れる、僕の形をしていた、モノ。


それはやがて、小さくしぼんで、僕と同じ大きさになった。


―――重なりましょう、何も、怖くなどないから。



手を伸ばした、()



僕は、その手を…取って、たまるか!!


僕は一目散に逃げ出した!



誰もいない駅構内を、走る。


誰もいない駅構内を、走る。


誰もいない駅構内を、走る。


誰もいない駅構内を、走る。


誰もいない駅構内を、走る。




誰もいない、駅構内は、いつまで続くんだ。


誰もいない、駅構内は、いつまで続くんだ。


誰もいない、駅構内は、いつまで続くんだ。


誰もいない、駅構内は、いつまで続くんだ。


誰もいない、駅構内は、いつまで続くんだ。




僕は、もう、人の世に戻ることすら、できなくなってしまったというのか?


力尽きて、誰もいない駅構内に倒れこんだ。


大の字になって、見上げた駅構内の、天井。



顔のない駅員が、僕の顔を覗き込んだ。



「逃げるんですか。散々悪意を押し付けたくせに。」


「逃げるんですか。散々恨みを押し付けたくせに。」


「逃げるんですか。散々妬みを押し付けたくせに。」


「逃げるんですか。散々怒りを押し付けたくせに。」


「逃げるんですか。散々悲しみを押し付けたくせに。」



「逃げられませんよ?」



顔のない駅員は、僕の胸に、刃物をつきたてた。



ザ…ジュッ…!!!


めりっ、めりっ…。



「アア、アアアアアア…あれ…?!」



…痛くない!!



「あなたが逃げられないよう、この刃物を埋め込みます。」


「明日、貴方のタイミングで、必ず刃物に血を吸わせるのですよ。」


「吸わせなければ、あなたの血が吸われていくのですよ。」




「 い い で す ね ? 」







「はっ!!!!!!!!」



僕は、恐ろしい、夢を見ていた・・・?

ものすごい、寝汗をかいている。

ベッドが…濡れている。


手が、震えている。


部屋のカーテンが、あきっぱなしだ。

いつもきっちりカーテンを閉めて寝るはずなのに。


…僕は、夢を、見ていたのか?それとも。




イマイチはっきりしないまま、僕は出勤するために準備をし、いつも利用している、地下鉄駅へと向かった。




僕はいつも乗車する定位置、6番乗り場に立っている。


一番前。この位置ならば、運がよければ座れるかもしれない。



    (ががっ、)     (がたんたん)    (・・・・)    (ごごっ、)     (ごとんとん)   (・・・)


ががっ、がたんたん・・・・ごごっ、ごとんとん・・・


ああ、電車が、到着するな。そう思って、顔を上げる。


電車が、まもなく、止まる・・・。



!!!!!!!!!!!!!!!



止まる電車のドアの向こうに!!!!


僕が・・・いる!!!!!



ニヤァ…!!!



ドアの向こうの僕は。


僕と目が合うと、不気味に笑って・・・!!!!



しゅ――――・・・ぷしゅ―――・・・



電車のドアが開いた!!





さ あ は じ め よ う か ?




僕が!!!


僕に!!!


重なった!!!!!!




恨め怨め憾め恨め怨め憾め恨め怨め憾め恨め怨め憾め恨め怨め憾め恨め怨め憾め恨め怨め憾め恨め怨め憾め恨め怨め憾め恨め怨め憾め

憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め

怒れ怒れ怒れ怒れ怒れ怒れ怒れ怒れ怒れ怒れ怒れ怒れ怒れ怒れ怒れ怒れ怒れ怒れ怒れ怒れ怒れ怒れ怒れ怒れ怒れ怒れ怒れ怒れ怒れ怒れ

どうして私がどうして俺がどうして僕がどうしてどうしてどうしてどうして私がどうして俺がどうして僕がどうしてどうしてどうして

恨め怨め憾め恨め怨め憾め恨め怨め憾め恨め怨め憾め恨め怨め憾め恨め怨め憾め恨め怨め憾め恨め怨め憾め恨め怨め憾め恨め怨め憾め

憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め

怒れ怒れ怒れ怒れ怒れ怒れ怒れ怒れ怒れ怒れ怒れ怒れ怒れ怒れ怒れ怒れ怒れ怒れ怒れ怒れ怒れ怒れ怒れ怒れ怒れ怒れ怒れ怒れ怒れ怒れ

どうして私がどうして俺がどうして僕がどうしてどうしてどうしてどうして私がどうして俺がどうして僕がどうしてどうしてどうして

恨め怨め憾め恨め怨め憾め恨め怨め憾め恨め怨め憾め恨め怨め憾め恨め怨め憾め恨め怨め憾め恨め怨め憾め恨め怨め憾め恨め怨め憾め

憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め

怒れ怒れ怒れ怒れ怒れ怒れ怒れ怒れ怒れ怒れ怒れ怒れ怒れ怒れ怒れ怒れ怒れ怒れ怒れ怒れ怒れ怒れ怒れ怒れ怒れ怒れ怒れ怒れ怒れ怒れ

どうして私がどうして俺がどうして僕がどうしてどうしてどうしてどうして私がどうして俺がどうして僕がどうしてどうしてどうして



あふれ出す、途方もない悪意に押しつぶされて、僕は思わずしゃがみこんでしまった。


重すぎる感情が、僕の体にのしかかる。

動けない。

顔を上げることが、できない。



「おい!!何やってんだよ!!邪魔だろうが!!!」


どこかのおっさんの苛立つ、声、、、、が、、、。



僕を押しのけて、電車に、乗り、こ、、む、、、人、、、、が、、、。



ザ…ジュッ…!!!めりっ、めりっ…。



僕の、中、、、、から。



刃こぼれしない、刃物が、、、、、。




―――血を、吸わせろ。


―――血を、吸わせろ。


―――血を、吸わせろ。


―――血を、吸わせろ。


―――血を、吸わせろ。



僕を、踏みつけていく、、、クソみてえな、、、、奴ら、、、が。


僕を、踏みつけていく、、、クソみてえな、、、、奴ら、、、を。


僕を、踏みつけていく、、、クソみてえな奴らは。




…血祭りに、挙げてやる。




僕は刃こぼれしない刃物をしっかり握って。


クソみてえな奴らの首を切ろうと上を向いた。





「大丈夫ですか?!」



上を向いた僕の目に、一人の女性が、映った。


…心配そうな、まなざし。


差し出された、手。




その。


手を。


取ろうと、した、僕の手には。



血を欲する、呪われた刃物。




―――血を、吸わせろ。


―――血を、吸わせろ。


―――血を、吸わせろ。


―――血を、吸わせろ。


―――血を、吸わせろ。




クソみてえな奴らのなかに。


たった一人。


僕に。


手を差し伸べてくれた。




たった一人。


たった一人の。




―――血を、吸わせろ。


―――血を、吸わせろ。


―――血を、吸わせろ。


―――血を、吸わせろ。


―――血を、吸わせろ。




僕の手の刃物を見た女性の目が、見開かれる。




僕は。



刃物を。



女性めがけて。




女性めがけて。




ざんっ・・・!!!!!!




「キャ、きゃああああああああああああああ!!!!!!」




目の前の、女性が悲鳴を上げる。


目の前の、女性が赤く染まる。


目の前が、真っ赤だ。


目の前は、真っ赤だ。



噴出しているのは。



僕の、命の(ほとばし)り。



…はは、血を、吸わせて、やったよ。


僕の血だ。


僕の。



僕は、何をやってるんだろう。



僕は、確かに。


悪意を誰かに押し付けようとして。


僕は、確かに。


誰かの力を借りて、悪意と悲しみを処分しようとして。


僕は、確かに。


誰かのことなんか、気にしちゃいなかったのに。





僕は。




僕は。




ああ、噴出している、勢いよく。


あたりに広がるこの香りは。



()せ返る?



はは、(かぐわ)しい、この薫り。


僕の首から噴出す、命の証。




恐怖という感情を、こんなにも近くで見せ付けられて。


戦慄が走る、この空間で。


打ち震える、弱い存在、たった一人のために。




この僕が。



この僕が。





自分を犠牲にするなんて。




女性の目から、涙が溢れ出した。




そして僕は。



そのまま。



倒れこみ。





僕の握っていた刃物が。


カラーンと、音を立てて、線路に落ちた。



その、刹那。



「ちっ…意気地のねえ、魂だよ。」



「血祭りすら挙げられねえ、つまんねえ魂だよ。」



「こんなつまんねえ血なんか臭くて臭くて。」



「自慢の刃が(こぼ)れて(なまくら)になっちまった。」





「・・・巻き戻すしかねえな。」








ピ―――ン・・・ポ―――ン・・・


…誘導鈴が、鳴り響いている。



ピ―――ン・・・ポ―――ン・・・


この音が耳障りだという奴も多い。



ピ―――ン・・・ポ―――ン・・・



僕は、この音を、聞く気になれなくて。


かばんからヘッドフォンを取り出し。


お気に入りの曲を聴き始めた。





僕に、誘導鈴の音は、聞こえてこない。


僕はもう、誘導鈴の重なる音を聞く気はない。




僕はもう、恨み列車に関わる気はない。




僕はこれから。


自分の感情を。



誰かに押し付けたりなんかしない。




自分の感情に。


押しつぶされたりなんか、しない。



そう、誓いを立てて。




僕の運命を変えた、たった一人の、女性を想う。


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[一言] はじめまして。 文字の配列で魅せる作品だと思いました。スクロールできる「なろう」ならではの手法です。勉強になりました。 バッドエンドじゃなくてよかったです。
[良い点] おわぁぁぁ!!!!! [気になる点] ありがとうございます。すっごいお話です。 [一言] 悪意ないと小説書けなくて困りますよ〜
[一言] ホラーですね。 あの文字の羅列が、不気味さを出してますね。 いつものやつが、ホラーにアレンジされてますねぇ。
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