仮面を付けた少女との出会い
神様の提案で地球とは別の惑星トライアルトへとイケメンになって転生した俺は、可愛い女の子に追い掛けられる事や、美人とお話をする事を期待していたのだが……
「よし、話し合おうじゃないか! 頭に落ちたのは悪かった、だからそんなに怒るなって」
『ゴルルルルルル』
「よーし良い子だ、そのまま動くなよーー」
『ゴアウウウウウウウウウウ』
「だから動くなって! ちくしょーーーー!!!」
何が悲しくて、生まれ変わった先で直ぐに死にかけなければならないんだ……
「はぁはぁ……くそっあの神の野郎……こんなとんでもない化け物がいる森に転生しやがって。街とか、せめて人が居る所に転生させてくれよ」
化け物から命からがら逃げていた俺は、奥行きの少ない小さな横穴に逃げ込んだ。
それにしても、凄い速さで逃げれたものだ。息もそこまで乱れてないし、能力値が上がってるってのは伊達じゃ無いみたいだ。それでも、あんな化け物と戦う気にはならないが。
「ぬぅ、これからどうするか……」
俺が穴の中で体育座りをして途方に暮れていると、頬にペトっと冷たい感触がした。
「冷た⁉︎ なんだコレは?」
冷たいと感じたものを手に掴むと、紫色をした如何にも毒ヘビですと主張した蛇が俺の手の中に居た。
「うおっう⁉︎」
情け無い声を出して、横穴から飛び出すと……
『ガルルルルルルル』
ベストタイミングで、俺を探していた化け物と再び遭遇してしまった。
「ははは、運が悪すぎるだろ俺と言う奴は……」
『ガアァァ!!!』
獣の牙が容赦なく俺に向かって来る。はぁ、新しい人生は本当に短いものだったな。
俺は目を瞑り、逃げる事を諦めた。しかし、幾ら待っても獣の牙が俺へと辿り着かない。不思議に思った俺が目を開けると、獣がワイヤーの様な物で動きを封じられていた。
『ガ……アガ……』
「何が起きたんだ?」
俺が困惑していると、右手をグイッと誰かに引っ張られた。
「走れ! 長くは持たぬぞ!」
「なっちょっ、うおおっとと」
俺は誰かも分からない人物に手を引かれながら、一緒に化け物から逃げ出したのだが
ブチン! ブチン! ブチン! バキン!
『ガオオオオオオオオウ!!!』
金属の切れる音と共に、化け物の遠吠えが木霊する。捕らえていた金属製のワイヤーをもう断ち切った様だ。
化け物は一度首を大きく左右に振ると、再び俺たちを追い掛けてきた。
「くそっ、もう切られたか……ぬしよ! 目と耳を塞ぎ身体を低くせよ!」
「えっおっおう分かった!」
俺が返事を返すと同時に、俺の手を引っ張った仮面にフードを被った人物は、懐から二本の筒を取り出して安全ピンの様な物を引き抜くと、化け物に向けて放り投げた。
その二本の筒が化け物の目の前に降り落ちると
パァァァン!
キィィィィィィィィン!!!
目と耳を塞いでいても分かるほどの閃光と、大きな音を出して弾け飛んだ。
『ギャイイイン⁉︎』
視覚と聴覚にとんでも無い衝撃を受けた化け物は、その場に崩れ落ちた。どうやら気絶した様だ。
「すごいな、まさか倒すなんて……たっ助かったよありがとう」
「礼など要らん、偶然通りかかったから助けただけだ。それにまだ倒しておらぬ」
俺の感謝の言葉など気にして無いかの様に、仮面の人物は腰にぶら下げている青い液体が入った瓶を一本取り出して、仮面を少しだけ上げると一気に飲み干した。
そして腰の剣を鞘から抜き出しブツブツと何かを唱え始めた。
(剣まで持ってるのか……でもあんな化け物が出てくる世界なんだしそれが普通なのか)
俺がそんな事を1人考えていると、剣が青く光り炎を纏い始めた。そして仮面の人物は、化け物まで一直線に掛けて行き、何の躊躇いも無く胴体を突き刺した。
『グッウゥゥン……』
絶命の声を漏らして、化け物は今度こそ倒れた。仮面の人物も「ふぅ……」と安堵の溜息を零す。
「終わったぞ、それよりもぬし、そんな軽装で良く森の中に入って来たな。剣は愚か何の道具も持っていない様だが?」
「えっ、あーいやこれは訳ありで気が付いたら此処に居たというか、準備する暇も無かったというかだな」
俺があたふたと説明していると、再び溜息を零された。
「何か訳ありの様だが、早急に森を出た方が良い。何の準備も無く生きられる程この森は甘く無いぞ」
厳しい言葉を浴びせられる。しかし、今気が付いたがこの仮面を被っている人物は声色からして女性、いや若い声色からしてまだ少女の様だ。
でも、イケメンにしてもらった筈なのだがあんまり好感触では無い。俺は本当に顔が変わったのだろうか? いや、初対面の相手に怖がられないと言う事は少なくとも顔は変わっているのだろう。鏡か何かが有れば良いのだが。
「おい、聞いているのか? 早く森を抜けろと言っているんだ」
俺がそんな事を考えていると、仮面の少女から強めの口調で問いただされる。
「えっ、あぁすまん! いやそれが森を出る道も、何なら街がどこにあるかさえも分からなくてな……」
「……ぬし、野盗では無いだろうな? 我を騙して何処へ連れて行く気だ?」
先程の剣を俺に向けて突きつけて来た。炎はもう消えて無くなっていたが、それでも化け物の血で紅く汚れている剣を突き付けられると生きた心地がしない。
俺は両手を上げて全力で野盗である事を否定した。
「違う! 野盗なんかじゃない! 信じて貰えるか分からんが、俺はこっちに来たばかりなんだ! だから自分がいる場所さえ分からないだけで、それで……」
「そのまま手を下ろさずにいろ、ふむ嘘では無いようだな……」
仮面の少女は首にぶら下げていた小さなレンズ越しに俺を見てそう呟くと、血の付いた剣を拭い鞘へとしまった。
「その木の側で座って待っておれ、アレの解体が終われば街まで連れて行ってやる」
仮面の少女は再び倒れた化け物へと向かって行った。何か手伝おうかと聞いたが、貴重な素材を壊されたら叶わないと断られてしまった為、言われた通りに木の側に腰掛けて解体が終わるのを待っていた。
「はぁ……何か思ってたのと違うな。いきなり死にかけるし、イケメンになってもやっぱりモテない奴はモテないままなのだろうか……」
ブツブツと呟いているとグゥーと腹の虫が鳴く。そう言えば死んでからずっと何も食べていなかったな。まぁ魂の状態の時は、そもそも腹が減ると言った概念そのものが無かった訳だが、身体を持った今は顕著にエネルギーを欲してくれる。
「この辺の木の実とか食べれるのか? 美味そうには見えるが……ぶえっ酸っぱ! 不味!!」
近くに生えていた木苺のような赤い実を一口食べてみたが、とても食べられたものじゃ無い。口の中一面に酸っぱさが残って気持ち悪い。
「ぺっ、ぺっ、何だこの実は」
「おい、ぬしよ!」
「ぬっ⁉︎」
呼ばれた声に反応すると、仮面の少女が頑丈そうな鞄から干した肉と、水の入った小さめの皮袋を取り出して俺に渡してくれた。
「良いのか?」
「ぬしを助ける為に使った道具と、それとを合わせて10000リラ程貰いたい所だが、どうせ一文無しなのだろう? 今回だけだ」
そう言って、仮面の少女は再び解体に戻って行った。
見ず知らずの俺を助けただけで無く、食事までくれて……俺は酸っぱさを消す為に水だけ二口程飲んで立ち上がる。
「やっぱり俺も手伝うぞ! 腕力には多少覚えがある。力仕事なら任せ」
『ギャウウウウウウウウウウウウ』
「なっ⁉︎ 」
「もう一匹⁉︎」
ズドォォォォン!
俺が解体を手伝おうとした所で、森の奥からもう一頭青黒い化け物が姿を現した。しかもさっきよりも大きく、額にはツノまで生えている。
新たに現れた化け物は、既に息絶えている化け物の解体をしていた仮面の少女へと襲い掛かる。
「くっ、この時期に番いだったか油断した」
仮面の少女は腰の剣を取り出そうとしたが、化け物はその隙を与えない。
「ガオオオオオオオオウ!!!!」
「ぐあぁぁぁぁぁ!!」
仮面の少女は化け物によって、地面に押さえつけられてしまった。
仮面の少女はメインヒロインです!