鬼顔は天界で審査を受ける
俺の名前は二宮隼人17歳の高校3年生だった。過去形な理由はお察しの通り、俺は死んでしまって今は魂の様な状態なのだ。
「はい、それでは二宮隼人さんですね、 えーと死因はボールを追いかけて道路に飛び出した少女を救おうとして、トラックに跳ねられそうになるも何とか少女を抱き抱えて回避に成功。 しかしその後で経年劣化していた歩行者用の信号機が頭部に直撃し圧死と……かなり運が無い死に方しましたね貴方」
「はっははは……実際笑えないな」
病院で俺の死亡が確認された時に、泣いている両親の側を溜息を吐きながらぷかぷかと浮いていると、いきなり現れた黒いスーツを着た黒縁メガネのサラリーマン風な男に、貴方を迎えに来ました。
と、魂管理センター営業部と書かれた名刺を渡されて、あらよあらよと言う間に連れてこられた魂管理センターで俺は申請を行っていた。
「ん〜うわぁ他の経歴も運が無い事ばかりですね、うわっコレなんて酷いですねー、迷子の親を探してたら警察に通報されてるし、うわっ好きな子に告白しに行ったら命だけは勘弁して下さいって言われたんですか⁉︎」
「もう良いだろ!早く判子を押せ! まだまだ回らないと行けない所があるんだ」
バンッと机を叩き、思い出したくも無い過去をペラペラと喋る職員に書類の返却を催促した。
音に驚いたハゲ頭の職員は、ズレた眼鏡をクイッとあげ書類に判子を押す。
「あぁはいはい、御免なさいね。 中々面白い魂でしたのでついつい長話をしてしまいましたね。はい、コレで完了です、次は3階の罪の重さ測定課の方へと向かって下さい。階段を上がって右手側に有ります。それでは来世ではマイルドな顔に生まれ変われる様祈っておりますよ」
「ぐっぬぐぐぐぐっ……」
俺は職員から少し乱暴に書類を受け取ると、三階へと向かった。
そう、俺の顔は少し、いや結構、かなりかも知れないが強面なのである。
鋭すぎる目付きに、長い八重歯、それに加えて身長が2メートルもある。
夜中に健康の為にランニングをすれば職質され、曲がり角で鉢合わせた子供には泣きながら防犯ブザーを鳴らされ、街を歩いていれば必ず不良グループに絡まれる。
クラスで付いていたアダ名は、鬼人やら般若、ヤクザの大親分など、こんな顔だからか彼女は愚か友人すら出来た試しがない。
「アレって鬼かしら?」
「やっぱり死んだ後の世界にはあんなのが居るのね怖いわ〜」
「あぁん⁉︎」
「ひっ! コッチを見たわ!」
「ごっ御免なさい!」
死んだ後でも扱いは生きていた頃と同じ様だ。非常に混雑している場所なのに、俺の周りだけ円形に妙な空間が出来ている。お陰で歩きやすいがとても悲しくなって来た。
「はぁ……あぁここか、それにしてもあの世ってイメージと全然違うな。もっとこう針山地獄とか血の池地獄とかがあって、閻魔大王みたいな奴に審判をされるのかと思ったが普通の市役所と変わらんな」
そんな独り言を呟きながら扉をゆっくりと開ける。
「すんません、罪の重さを図りたいんだが……」
「ふぎぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
「ほらほらほら、貴方の罪の分だけ重くなってるのが分かるかしら? さぁどんな気分かしら、もっと良い悲鳴を聞かせなさーい!!!」
「んがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
扉を開けると針の上で鉄球を持たされた男達が、鞭を持った嬢王様の様な格好をした女に痛ぶられていた。
前言撤回、イメージ以上だったはここ。
「ふぅ、貴方達5人は最下位ランクのF棟で来世の生まれ変わり抽選を受けなさい! まぁ万が一にも人間や知的生命体に生まれ変われないと思うけど! ほらさっさと行きなさい」
「あぅぅぅ」
「虫は嫌だ、虫は嫌だ」
「畜生、何で俺がF棟何だよ……」
文句を垂れていた男達5人は、別の屈強な職員に連れて行かれた。そう、ここに来る途中死神に説明を受けたのだが、生まれ変わる際には、自分の生前の功績や、罪の重さで生まれ変われる環境や肉体、はたまた種族が決まるらしい。
ランクはS〜Fまで有り1番良いSランクだと、最低でも人間に生まれ変われて、家庭環境良好な場所に生まれ変われる様だ。その他にも秀でた才能を持って生まれたり、整った容姿で生まれ変わる事も可能らしい。
逆に最下位のFランクだと、かなり惨めな生命体に生まれ変わるらしい。
「あら、はぁはぁ……新しい子達が来たのね! 先ずは目視で選別するわ! んーと貴方達はそっちの測定器を使いなさい!」
俺の後ろにかなり離れて並んでいた老人や若い女性の魂は、昔の体重計の様物で罪の重さを測る様だ。しかし俺が案内されたのは
「さーー貴方達はこっちよ! 特に貴方はどれ程の重さを抱くかしら? 今から楽しみだわ〜〜鬼の魂を測るなんて初めてですもの」
「俺は人間だ! ったく」
嬢王様は俺を指差し高らかに笑っている。こいつ、間違いなく俺の顔で悪い事してる奴って判断しやがったな。
しかし、駄々を捏ねても仕方がないので、言われる通りさっきの男達が正座して居た場所へと向かった。
「はっはい、そっそれではコレをおおおお持ちくだくだ下さい」
スーツを着た短髪の女性が、カタカタと震えながら四角い風船の様な物を手渡して来た。俺が受け取ると、女性は足早に離れて行き、ほぅと一息付いて汗を拭う。
「んんっ……それでは皆さん風船は行き渡りましたね。今は軽いですが、罪の重さ分だけ重くなりますのでご注意下さい。罪の判断基準はコチラの裁量で決まりますので、人の法律等はあまり関係ありません。ご理解下さいませ」
説明を受けた後、俺達は風船を持った状態でふかふかな雲の上に正座させられる。
「おい、隣の奴何人くらい殺してるだろうな」
「ありゃぁ2桁は軽く行ってるぜ! 凄腕のヒットマンだったに違げーねぇ」
隣の奴等が俺の事を好き勝手に言っていると、パシンっと鞭を叩く音が聞こえて来た。
「雑談はお終い! うふふ、今は柔らか〜な雲だけど、罪が重ければ重い程座っている物が過酷になるわ〜! それでは、測定を始めるわよ〜! レッツショータイム!」
嬢王様の掛け声と共に、持っていた風船がほんの少し重くなったが、座っていた雲は柔らか目なクッションに変わっただけでそれ以上変化する事は無かった。俺の他の6人は4人が持っていた物が石臼になり、下が石畳へと変わり、もう2人が鉄球に針山へと変わった。
「んがぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「ひぃぃぃぃぃぃぎぎぎ」
「あははは予想通りの結果ね、貴方達は皆E〜F棟がお似合いよ〜! あら? 貴方だけ可笑しいわね?」
高らかに笑っていた嬢王様が、俺を怪訝な目で見て来る。
「ん〜機械の故障なんてあり得ないし、貴方そんな顔して善人なのね意外だわー」
「ほっといてくれ!!」
胸に突き刺さる一言を言われて気分が落ち込んだが、俺は直ぐに立つ様促された。
「まぁ良いわぁ、それじゃあ貴方はA棟行きよ〜! 余程運が悪くない限り素敵な生まれ変わりが出来るから楽しみにしてなさ〜い。余程運が悪く無ければね〜」
嫌なフラグを建てられながら、俺はA棟へと案内された。
「はい、それでは整理番号順に並んで前へとお進み下さい。皆さんは48階での最終審査となります。48階に着きましたら入り口正面に赤いボタンの付いた機械がありますので、一度だけ押して下から出てきた紙の内容が次回の転生先となりますので、それを手に取って奥の受付へとお持ち下さい!」
爽やかな顔をした役員の話を聞いて、皆一様にざわざわとし始めた。思っていたよりも事務的に新しい転生先が決まる事で皆驚いてるのだろう。
「あっあのぉ質問良いでしょうか?」
「はい、何でしょう」
少し歳をとった女性の魂がおずおずと挙手をする。それに対して役員は笑顔を向ける。
「新しい命になる訳ですが、こう何でしょう神様とか天使様によって、貴女の生まれ変わる先はこちらですみたいな神託をして頂けるとかは無いんでしょうか? 一応私は神様を崇拝する職業に就いていたもので、ちょっと余りにも事務的に事が進んでたから驚きを隠せなくて……」
「あぁ、結構貴女の様なイメージを持たれている方は多いですが、実際はこう言った形で行われていますよ! 言わば私達が貴女の言う天使でしょうか。あぁでも一応神様はおられますよ! 滅多に働いてくれませんが」
女性の魂に職員が笑顔でそう答えると、女性は苦笑いを浮かべながらもお礼を言って列へと戻って行った。
「はい、それでは他に質問のある方はおられませんね! あっ1つ注意事項です! 転生先はランダムでは無く運命によって決まるものですので、気に入らなかったからと言って何度も押すと無条件で二度と転生の出来ないG棟へと送り込まれますので気を付けて下さい! 皆さんに分かりやすく言えば地獄の様な場所ですね!」
爽やかスマイルに場を凍りつかされた俺達は、重い足取りで48階へと向かった。
そして転生先を決めるボタンを押した俺は……
G棟へ連れて行かれる事になってしまった。
取り敢えず今日は2話投稿しました。これから毎日1話投稿出来たらと思います。