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129号室のエデン  作者: ツルツル泥団子
4/4

貴女の涙、私の決意

はーいどうも~。

ツルツル泥団子でーす。

4話目ですね。

今回はアリスの視点で物語が進んでいきます。

それではどうぞ。

 隣の部屋でミシェルさんが泣く声が聞こえる。


 さっき写真を撮っていた時はあんなに楽しそうだったのに、今は声を押し殺して隣の部屋で泣いている。


 押し殺した声が、それでも私の部屋まで聞こえている。


 こんな時は一人にしてほしいだろうか、こんな時は聞かなかったふりをして寝た方が良いだろうか、こんな時は、こんな時は……………


 こんな時は、傍にいて欲しいだろうか。


 私はミシェルさんの部屋に向かうことに決めた。


 一人に出来なかった、聞かないふりを出来なかった、そして何より、私が、傍にいてあげたかった。


 私の独りよがりかもしれない、余計なお世話かもしれない、だけど、じっとしていられなかった。


 ベッドからおりて廊下に出ると泣き声がピタッと止んだ。


 私に気付かれないために、布団の中でさらに声を押し殺して泣いているのかもしれない。


 彼女の気遣いに、物音一つしない真っ暗な廊下を、自分の部屋へと引き返したくなる。


 だけど、踏み留まって彼女の部屋の前まで来た。


 これはたぶん、お節介だ。


 それも飛びっきり最上級の。


 私は、私のエゴで動いている。


 ドアをノックしようとする手が震えた。


 嫌な顔をされるだろうか、私の事を嫌いになるだろうか。


 迷いが、私を石みたいに動けなくした。


 その時、ガチャとドアが内側に開いた。


 「うわっ、ビックリした!こんな時間にどうしたの?」


 「な、何だか眠れないので、その、ミシェルさん起きてるかなって……」


 「そうなんだ~、丁度良かった!実は私も眠れなかったから、眠たくなるまで喋ろっか。飲み物とか取ってくるからリビングで待っててね」


 そう言ってミシェルさんは暗い廊下を歩いていった。


 そのまま彼女が暗闇に消えてしまいそうな気がして、その背中を見失わないように、早足で追いかけた。


 「アリス何飲む?」


 「ホットミルクでお願いします」


 「お子ちゃまだねぇ」


 「まだお子ちゃまですので」


 えへへ、といつもみたいに笑うミシェルさんを見て私はどんな顔をすれば良いかわからなくなった。


 ソファーに座ってテーブルランプをつけると、小さな暖かい光がランプを中心に広がる。


 時計の針は一時を少し回ったくらいだった。


 キッチンで飲み物の準備をしているミシェルさんを見る。


 やっぱり、いつもと何も変わらない。


 さっき泣いていたのは私の聞き間違いだったのだろうか。


 そんなことを考えながら、ボーっとミシェルさんを見ていると、目があった。


 「どうかした?」


 彼女はにっこりして首を傾げている。


 「何…」


 何かあったんですか、そう言いかけて、やめた。


 「何でもないです」


 聞いちゃいけない気がした。


 「もうすぐ出来るから待っててね」


 「わかりました」


 私はミシェルさんから目を逸らした。


 「よし、完成!熱いから、しばらく冷ましてから飲んでね」


 コトリとテーブルの上にマグカップが2つ置かれる。


 ミシェルさんは私の隣に座った。


 「夜更かし、しちゃうね」


 私を見て彼女が微笑む。


 「ですね」


 私もつられて笑顔になる。


 「明日はアカデミーに行かなくていいの?」


 「明日はきっと、体調不良です」


 二人してクスっと笑う。


 「アリスがここに来てから、もう1年も経つんだよね」


 「あっという間でしたね」


 「ここでの生活には慣れた?」


 「はい、毎日とっても楽しいです」


 「良かった~。初めてアリスがここに来た時は、もんっの凄く無愛想で同じ家でやっていけるのかなぁって思ってたけど。こんなに笑ってくれる子になってお姉ちゃん嬉しいよ~」


 そう言ってミシェルさんは昔に思いを馳せるように天井を見た。


 「もの凄くは余計です。でも…感謝してます」


 「あ、今日はお姉ちゃんって言っても良いんだ?」


 「今日だけ、特別です」


 ミシェルさんはとても嬉しそうな顔をした。


 「じゃあ~特別ついでに、一回聞いてみたかったんだけどね、アリスは初めてここに来たとき、私の事どう思ってた?」


 「どう……ですか。初めは…うるさい人だなって思ってました。でも今は、姉みたいで妹みたいでお母さんみたいな存在……ですかね。いたらこんな風だったろうなって思います」


 「なーんで妹なのよ!こんなにもお姉ちゃんぽさに溢れているというのにっ…!」


 「いや……なんというか存在が妹っぽいというか…」


 「これ以上私に属性が加わったら詰め込み過ぎってクレームが来ちゃうわ……」


 「いったい何の話ですか…」と言って私はマグカップを取って両手で包み込むようにして持った。


 マグカップを通してホットミルクの暖かさが身体中に伝わる。


 一口飲んでから私は「そういえば今日、何で急に写真なんて撮ろうって言い出したんですか?」と聞いた。


 「あー、それね。今日は皆、追悼式でちゃんとした格好してたでしょ?そんなのって滅多にないから写真に納めたいなって思って。次はいつちゃんとした格好で集まれるかなんて、わかんないからね」


 そう答えるミシェルさんはどこか遠くを見ているようだった。


 「あぁ、そういうことだったんですか。アリスは一番初めに撮ったあの写真が好きです」


 私はテレビの横の棚に飾ってある写真を指差して言った。


 「その私がずっこけてるやつ?私もそれ好きだなぁ…皆の驚いた顔が面白くて良いよね」


 「どことなく躍動感がありますよね」


 「だね~」


 「私だけアカデミーの制服で少し浮いてるのが残念です…」


 私が何気なく言ったその言葉にミシェルさんがピクッと反応した。


 「ねぇアリス…」


 ミシェルさんはどこか真剣な雰囲気だった。


 「な、何でしょう」


 「アカデミーはいつ卒業できそう?」


 「それは勿論、再来年ですけど…それがどうかしましたか?」


 ミシェルさんは「やっぱそうだよね…」と小さく呟き「いや、何でもないの。今のは忘れて?」と言って自分のマグカップを空にした。


 「…わかりました」


 とは言ったものの私の中で何かが引っ掛かった。


 そんな何かを飲み込むように残りのホットミルクを飲み干した。


 「飲み物も無くなった事だし、そろそろ寝よっか」


 そう言ってミシェルさんはマグカップを2つ持って立ち上がる。


 「あ、洗うのは、アリスがやります」


 私はマグカップを受け取ってキッチンへ行った。


 マグカップを洗いながらミシェルさんのことを見ていると、また彼女が暗闇に消えていってしまいそうに思えて、すぐに洗い物を終わらせて彼女のもとに戻った。


 「早かったね、じゃあ部屋に戻ろっか」


 そう言って歩き始めたミシェルさんの腕を私は掴んだ。


 「今日は…一緒に寝て欲しいです」


 言ってから恥ずかしくなったが、言ってしまったものは仕方がない。


 このままミシェルさんを一人にしてはいけない気がした。


 「今日は一段と可愛いな……」


 やっぱり一人にしても良かった気がする。


 「や、やっぱり」 「女に二言はないね!ね!」


 私が掴んでいたはずが逆に腕を掴み返されて、ミシェルさんの部屋へと引きずられていった。


 ベッドに連れ込まれ電気を消された。


 「それじゃあ、おやすみなさい」


 「何もしないで下さいよ?」


 「何もしないよ?抱きつくだけ~」


 「……抱きつき禁止です」


 「鬼かっ!?」


 そんな他愛もないやり取りをしているうちにミシェルさんはスヤスヤと眠ってしまった。


 ミシェルさんが寝返りをうって私に背中を向ける。


 私はその背中にそっとすり寄って後ろから抱きついてみた。


 「なんか違うな……」


 今度は背中合わせで寝てみた。


 背中越しにミシェルさんの暖かさが伝わる。


 その心地良さに包まれたまま、私もいつしか眠っていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 パンケーキの甘い匂いがする。


 「…んーっ。ふわぁ~」


 思いっきり伸びをして起きると、時間は10時を過ぎたぐらいだった。


 隣にミシェルさんはいない、たぶんキッチンで朝ごはんを作ってくれているんだろう。


 まだ起ききっていない重たい体にムチをうち、ベッドからおりる。


 ふと、ベッドの横のゴミ箱の中にあるぐちゃぐちゃに丸められた紙に目がいった。


 紙を開くと、それはミシェルさんの健康診断書だった。


 回っていない頭でぼんやりとそれを眺めていると推定稼働年数という項目が目についた。


 1年半、その数字を見て私の頭は一気に覚醒した。


 それと同時に、昨日あった事が全て繋がった。


 やっぱり昨日の夜、ミシェルさんは部屋で泣いていた!


 自分の寿命を突きつけられて、どうしようもなくて泣いていたんだ!


 皆で写真を撮った意味、昨日の夜に私に聞いたあの質問、全て、全てが繋がった!


 胸が鉛の塊を入れられたように重く苦しくなって、はち切れそうになる。


 「アリス~起きた~?」


 リビングの方でミシェルさんの声がした。


 私は慌てて診断書をぐちゃぐちゃ戻してからゴミ箱に捨てた。


 「起きましたー!」


 泣き出しそうになる自分の頬を叩いて活を入れる。


 私は飛び級でアカデミーを卒業してミシェルさんに自分の軍服姿を見せることを心に決めた。


 「アリスさ~昨日の夜、私に抱きついてきたでしょ。私あの時起きてたから知ってるんだよ~?」


 ドア越しに聞こえるいつもと変わらないミシェルさんの声に、少しだけ、涙が溢れた。


 「抱きついてません!」


 そう強く言い切って、これで涙を流すのも最後にしようと心に誓った。


 「嘘だってバレちゃったか~。ほんとは今日の朝、私がアリスに抱きついたんだ~」


 えへへと笑うミシェル。


 「知ってます。私、その時起きてたので」


 そう嘘を吐いて、私は部屋を出た。

読了ありがとうございます~。

今回のお話はどうでしたか?

今回の話は前回の日の夜にあたります。

今回はアリス中心の話だったので次こそシロやラストについて書こうと思います……

掃除屋さんについても書こうと思ってます…

ちゃんとね思ってるんですよ?

本当に。

さて、今回も例に漏れず寝ずに書いて朝投稿という流れになっているので所々文章がおかしいかもしれません。

そんな時はいつもサイレント修正を入れているので悪しからず。

一話の冒頭に大幅な加筆と修正を加えました。

よろしければそちらももう一度ご覧になってみて下さいね。

感想お待ちしています。めちゃめちゃ待ってまーす!

それではまた次のお話で。

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