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活字中毒者が埋もれている作品について語り合うだけのお話

作者: 茶屋ノ壽

 「読んでいない範囲に好みの作品があるかもしれない、というか、必ずあるのにちがいないという確信があるのですけど、見つけることができないというのは悲しいことだと思いませんか?」夏が終わり本格的に涼しくなってきて、読書のシーズンですね、というような会話から、寂しそうに続けて語る、小学6年生女子の詩織さんでございます。


 「そうですね、現実問題として、人生で読書に使用できる時間よりも、読みたい作品にかかる読書時間の方がはるかに多いというものがありますから、諦める必要はありそうですが?」詩織さん家のリビングで、彼女の書庫から借りてきた年代物の文庫、それも分厚くて、直方体に近いようなもの、からちょっと目を離して、答える隣人の優さんです。


 「それを言ってしまうと、いろいろ残念なのですよ?際限なく沸き続ける作品群を端から読み尽くすためだけに、無限の命を求めてみたくなりそうではありますけど、そのような努力をする時間が読書のためのそれを邪魔するので、結局探求はとっかかりから頓挫するわけですけど」ちょっと、遠くを見て話題を広げようとする詩織さんです。


 「途中で終わっているというか、お話が途切れてしまっているものもありますよね、作者が途中でやる気を失せたとかなら、まだ救いがあるような気がしますが、寿命が尽きたとかで続きが書かれなくなって、しょんぼりとするようなものもあるわけですから、ここは、読者よりも先に、作者を不老不死にするべきではないでしょうか?」優さんが真面目な顔をして、冗談を言います。


 「むしろ、お亡くなりになってしまえば、それはそれで諦めもつくわけでございますけど、精神的に挫折してしまって、続きが書かれなくなったりしたのでは、と感じるものですと、なんとか続きが書かれるかも、とかそこはかとないくらい淡い希望を捨てきれないので、もやもやとしたものが湧き上がるのですが」ちょっと首をかしげて、応える詩織さんです。


 「完結しているお話しか読まないようにすればその胸の苦しみも少なくなりますよ?」

「だって最初の方でとても面白くて引き込まれたのですもの、仕方ないじゃありませんか?」


 「商業的な観点から、続きがなくなってしまったものもありますよね」優さんが、あれこれと、続刊の刊行が未定になった作品を思い浮かべます。

「そうですね、職業としての作家さんですから、経済的に成り立たなければ、続きが出ないということは自然な流れではありますね、それを望む少数のユーザーのために、赤字覚悟で続刊を、というのはわがままであるとはわかっているのですが」しょんぼりとした表情の詩織さんです。

「中には、直接的にweb上とかで資金を募って、新シリーズを書いてしまうという方もおられますけどね、よほど自信がないと無理なのでしょうかね?」作家としての才能と、商売人としての才能は違うところが多いですから、万人には難しい手ではありそうですね、と続ける優さんです。


 「結局のところ、小説だけでは生活できないから、続きが出ないという例は多そうですよね」せちがないですね、と詩織さんが言います。

「娯楽はそうですね、社会全体に余裕がないと、それは発展していかないのは事実ですし。個人的な点で見ても、衣食住が保証されて書物に集中できる環境がある方が、成功する可能性は高いでしょうね。才能は環境で作ることができる、のかもしれません」優さんがちょっとつまらないですね、というような表情で言います。


 「パトロンを得て、芸術活動をしています、とか表現すると、かなりこう、社会不適合なイメージが浮かんでくるわけなのですけど?」ちょっと怪しい視線を向ける詩織さんです。

「作品が日の目をみるかどうかは結構、水物だとは思いますよ。世の中何が人々の琴線に触れるか何て、予想が難しいですから。仕掛けとかしっかりしておけば、ある程度は誘導できるかもしれませんが、費用に対する効果が十分に期待できるか?というと、これも時世によりますからね、よほど体力のあるところが、複数の作家を抱えて、初めて事業として成功する可能性があるかもしれない、くらいのレベルではないでしょうか?」現実の出版社とかを思い浮かべながら、語る優さんでありました。


 「話が発散していますね。今問題なのは、自分の好みにあう作品がすでに世の中にあるはずであるのに、見つけられないということなのですよ」優さん、と詩織さんが言います。

「結構検索機能が秀逸である、小説を発表しているサイトとかありますから、調べて見つけてみるのはどうでしょうか?」詩織さんに、ぽちぽちと、小説投稿の巨大サイトをタブレットで見せてみる優さんです。

「50万以上の作品の中から探すのはちょっと疲れるのです、あと、玉石混合すぎて、時間がかかりすぎるのです」

「ランキングの上位から読んでいくとかも手ですが?」僕もよくします、と優さんが言いますと。

「累計の完結済みで300位までの作品は、全部試しましたよ?」途中で読むのをやめた作品もありますけど、と、さらりと応える詩織さんでございます。

 どうして、これが上位に食い込んでいるのでしょうか、というような作品も多かったですけれど、ただ、私と趣味が合わなかっただけなんでしょうね、と納得はしています、とさらに続ける詩織さんでございました。


 「その勢いで、読み尽くしてみるのはどうなのですか?」優さんがもしかしたら詩織さんならできるのでは、というような期待に満ちた目で見てきます。

「嫌ですよ、一年で100作読むとしても、ざっくり計算して、5000年かかるじゃないですか」

「いや短編を含めますからもう少し早く読めるとは思いますけどね?」


 「だいたい、祖父が集めた本もまだまだ未読なものが多いですからね、手を広げる余地があまりないのです、人生は短いのですよ、優さん」

「いや、小学6年生に人生の短さを指摘されると、納得がいかないような気がするのですが?」


 「気に入った作品があったら、同じ作者の作品を読んでみるという手もありますよ?」優さんが指摘します。

「当然ですね、基本ですね、飽きるまではその作者の全作品を、しらみつぶしに読んでみたりしますよ。ただ、よほど工夫をしていないと、パターンが読めてしまって、途中でやめてしまったすることがありますけど」

「そうなのですか?」

「さすがに似た話で100冊を超えられてしまうと、追いかけるのは躊躇しますね。それでも全て読んでいる作家さんも多いですけれど」

「あれ?話を聞いていますと、とても12歳くらいで読み切れるような読書量ではなさそうな?」

「時空が歪んでいますからね、内緒ですよ、ゆーさん」


 「最終手段として、未完の作品は続きを妄想で補ったりしますね」優さんがちょっとした技術を提供します。

「ええと、2次創作ですか?」

「稀に文章にすることもありますから、そうかもしれませんね。後日談を考えたりもします。自分好みにお話を作れるので、結構楽しいですよ」

「……なるほど、優さんそれ楽しそうです」

「その辺り、自分ならこうするとか思考を深めていきますと、テーブルトークRPGのシナリオ作りにも活かせたりしますね、というか、結構多いですね、とっかかりとして」

「いいですねそれ」


 「結論としては、好みの作品を見つけるのに疲れたら、自分で書いてしまえ、ということでしょうか?」可愛らしく首をかしげて言う詩織さんでございます。

「そうして、また埋もれていく作品が増えると考えると、なんとももしょもしょいたしますね」

「……まあ、自分にははっきりと見えるのでよろしいような気がいたします、ので、良いことにいたしましょう」結論が出て、すっきりしたような詩織さんでございました。


 そうしましょう、よかったよかった、と喜び合って、二人はまたお互いそれぞれ、活字の続きを目で追っていくのでありました。


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