第六話
モンスターを倒した二人の青年は、ゆっくりとした足取りでこちらに歩いてきた。
「見たところ、冒険者のようだが、一人なのか?」
黒髪の青年がいぶかしげに私を見る。
怪しい者じゃないですよ!
私は慌てて弁明した。
「ひ、一人ですけど、あの、怪しくはないですよ! 単に、この街に来たばかりで知り合いがいないだけで」
「怪しい」
「うっ」
「と、言うのは冗談だが」
「え」
真顔で言い切ったぞ、この黒髪の人。
私が胡乱げな視線を送ると、黒髪の青年は咳払いをして続けた。
「いくら冒険者とはいえ、その軽装で街の外に出るのは危険だ。街はすぐそこだが」
「俺達、アクアディーネ警備隊が送ってあげるよ。獣人のお嬢ちゃん」
綺麗なウインクを寄越したのは、金髪の青年だった。
「アクアディーネ、警備隊……?」
「あれ? 知らないか?」
「えっと、本当に来たばかりで」
私がもごもごと答えると、金髪の青年は軽く頷いて笑みを浮かべた。
「そうか。なら、少し説明しようかな。アクアディーネ警備隊は、この《水の都》と呼ばれるアクアディーネの首都、リースを守備する機関だ。守備兵とは違って、街の治安維持も俺達の仕事だな」
「警察みたいなものかな」
「なに?」
「な、なんでもないです」
金髪の青年はちょっと首を傾げたけど、すぐにまた愛嬌のある笑顔になった。
「俺はザック、こっちはロイド。お嬢ちゃんの名前は?」
「あ、リンです。あの、助けていただいて、ありがとうございます」
今さらながら頭を下げると、ザックはぱたぱたと片手を振ってみせた。
「それが仕事だから、気にしない気にしない。それより、もう行こう」
「は、はい。ありがとうございます」
「はは。お嬢ちゃんは素直で可愛いなあ」
なんと、ザックに頭を撫でられてしまった。
ザック達の方が年上なのは間違いないけど、私もう子供じゃないんですけど。
困っていると、ロイドの方が止めてくれた。
「いくらもふもふといえど、年頃の婦女子に気軽に触るな」
「ふわふわだぜ?」
「それは、魅力的だな」
「さ、さあ行きましょう!」
この流れは、二人に撫でられるパターンだと感じ、私は急いで歩き出す。
ロイドが私の犬耳を無表情で見つめているのがちょっと怖い。
二人ともすごく格好いいのに、中身が濃いなあ。
街の入り口は本当にすぐそこだった。
「どうしたんだ、今日のパトロールはもう終わりなのか?」
「いや。困ってたお嬢ちゃんを送ってきただけさ。俺としちゃ、もう一杯いきたいとこだけどな」
「同感だ」
「ははは。俺もだよ。お互い頑張ろうな」
「おう」
門を守る守備兵とザック達は軽口を交わし、私に向き直る。
「じゃあ、お嬢ちゃん。俺達は警邏に戻るけど、もう無理しちゃ駄目だぜ」
「金が無いなら、街のギルドで依頼を受けるといい。街中での仕事があるはずだ」
「ギルド。そんな所があるんですね」
いい情報を聞いた、と私が頷いていると、ザックが胸ポケットから何かを取り出した。
「どうもお嬢ちゃんは危なっかしいな。これをやるから、何かあったら警備隊の方に来いよ」
手渡されたそれは、ゴンドラの上で剣と盾が描かれている、小さなボタンだった。
「これは?」
「俺の守備隊徽章、の予備。裏に俺の名前が掘ってあるだろ? これを見せれば、俺に連絡できるから。無くすなよ」
そう言ってザックはまたウインクをひとつ。
そしてそのままロイドと歩き出す。
「あ、ありがとう!」
私は徽章を握り締めながら、慌ててお礼を言った。
ザックは肩越しにこちらを見やり、片手を振る。
その背中を見送っていると、守備兵の男性が声をかけてきた。
「お嬢ちゃん、ずいぶんザックに気に入られたな。その徽章は、よほどの相手じゃないと預けないんだ。大事にした方がいい」
「そ、そうなんですか。わかりました。大事にします」
「そうしな」
ぺこりと頭を下げて、私はもう一度ザック達を眺めた。
なんだか重要アイテムをもらってしまったようだ。
「……いい人達だったね、レヴィ」
「ピィ」
胸ポケットからちょっとだけ頭を出したレヴィが小さく鳴く。
その頭を撫でて、私は徽章をインベントリに仕舞い込んだ。
ギルドの情報ももらえたし、本当に助かったなあ。
「まずは宿屋でログアウトして、後でギルドに行ってみようか」
「ピィ!」
街へと向かう私の顔は、きっと明るく輝いていた。




