第三話
さてさて。
まずはなにをしよう……やっぱり、情報収集かな?
あとは、武器とアイテム……は、初心者用装備があるかな?
そう考えながらインベントリを調べてみようとした時だ。
小さな鈴が鳴り、私にチャットが来たことを告げた。
『――リンか? 久し振りだな』
その声の懐かしさに頬が緩む。
「うん、久し振りだね。――トオル」
私の初めてのフレンドである、地龍族の鍛冶士、トオル。前回のプレイでも、最初にチャットしてくれたのはトオルだったなあ。
『今、どこにいるんだ? ユノと露草も探してるぞ』
「あ、えーと……それがね……」
探してくれているのが嬉しい。けど、私はロゼルト皇国にはいないわけで……。
なんとなく気まずくなりながら、今までの経過を話し、さらには再スタートはしないと決めたことを告げる。
すると、トオルは呆れかえったと言わんばかりに大きくため息をついた。
『……おい。考え直した方がいいぞ。お前、ちょっと甘く考えてないか?』
「う。そうかな?」
『ああ。だいたい、かなり先の場所みたいだからな。雑魚モンスターさえ倒せないんじゃないか?』
「う。そ、そうかな」
『それに、攻略の情報とかも探れないだろうし、ソロでプレイしなくちゃならないのに、装備は初心者用。……詰んでるんじゃないか?』
「ううっ」
トオルの容赦ない状況判断に、私は反論出来ずに黙り込む。
予想はしていたけど……ううう。でも……。
「……でも、決めたこと、だから」
レヴィと一緒に冒険したい。その気持ちを無視出来なかったから、困難な道程だけど、頑張ることにしたのだ。
トオルは私の言葉にもう一度ため息をついた。
『……お前は、言いだしたら聞かないよな』
「うん、心配してくれたのに、ごめん」
『それはいいけど……まあ、わかった。おれ達も出来るだけ早くそっちに向かうから、合流するまでのんびりしといたらどうだ?』
「あはは。うん、それもいいね」
トオルのぶっきらぼうな気遣いが嬉しくて、口元に笑みが浮かぶ。
口は悪いけど、世話焼きなところ、変わらないな。
しばらく、トオルと情報をやりとりして、私は最後にユノや露草に伝言を頼むと、チャットを終えた。
「……要は、《白の都》までたどり着けばいいんだよね」
「ピィ?」
私のつぶやきに、チャットの間大人しくしていたレヴィが首を傾げる。
「つまり、だよレヴィ。モンスターを避けまくって先を進んで、なんとかロゼルト皇国に行く。これが当面の目標だね」
「ピィ、ピーィ」
もちろん、口でいうほど易しくはないと思うけど、ここで何もせずに合流を待つだけなんて、嫌だしね。
うん、決めた。
「そうと決まれば、情報収集だ! 頑張ろうね、レヴィ!」
「ピーィ!」
私は勢いよく立ち上がり、まずはこの街のマップを買うために、雑貨屋を探すことにした。
所持金は、1000C。よく考えて使わないといけないな。
「……あれ?」
広場から出ようとして、ふと足が止まる。
今、ほんの一瞬だけど頭上に名前の表示がない――NPCではない、青年がいた気がしたんだけど……。
「気のせいかな」
さすがに、私みたいにバクでここに飛ばされたプレイヤーが他にいるわけないよね。
苦笑して、私は再び歩き出したのだった。