第二話
気がつくと、私は雑踏の中にぽつんと立っていた。
辺りを見回すも、見覚えのない景色。
大きな噴水があり、青と白のコントラストが美しい街の中で、人々が忙しそうに動いている。
「え。ここ、どこ?」
どこを見ても知らない景色で困惑してしまう。私は――うん、《リン》だ。
と、いうことは、ここは《World》なのだろうけど……。
「ピィ!」
その時、途方にくれる私の耳に、懐かしい鳴き声が飛び込んできた。
「え、レヴィ!? うわ、レヴィも引き継げたんだ!!」
「ピィ、ピーィ!」
甘えるように私の頬に頭を擦り付ける、小さな白蛇のレヴィ。
とあるイベントで入手した卵から孵ったこの子は、簡単な回復をして戦闘をサポートしてくれる、いわば私のパートナー的存在だ。
まさか、製品版でも引き継げるなんて、すごく嬉しい!
ひとしきりレヴィと戯れた後。
少し冷静になった私は、運営に連絡することにした。でも、その前に状況を確認するために、ここがどこか、くらいは聞いた方がいいかな、と思う。
NPC相手なら、人見知りの私でも話しかけられるしね。
「あ、あの。すみません、ちょっといいですか?」
ちょっと緊張しながら、私は人の良さそうな老人に声をかけた。
「なんだい? お嬢さん」
「あの……ここはどこなんでしょうか?」
老人は不思議そうな顔になるも、丁寧に教えてくれた。
「ここかい? アクアディーネの《水の都》だよ。変わったことを聞くお嬢さんだね」
「アクア、ディーネ……あの、ロゼルト皇国は、近いんでしょうか?」
「ロゼルト皇国? あんな遠い国に行くつもりかい? よした方がいいよ。女の子が一人で歩けるような道程じゃないよ」
「……えっと」
遠い、のか。しかも、旅の道程も険しい、と。
……いったいぜんたい、どうなっているのー!?
虚ろな目になり、心の中で叫んだのも当然だと思う。
*****
「うーん……弱ったなぁ」
「ピィ……」
私は公園らしき広場の片隅に置かれたベンチに座り、悩んでいる。
私の状況を運営に知らせたところ、おそらく接触障害によるバクである、との解答がきた。
それはいい。
だけど、スタートからやり直す場合、なんと引き継ぎ要素がなくなってしまうというのだ!
「スキルとかは最悪諦められるけど……うーん」
「ピィー」
レヴィは私が悩んでいるのがわかるのか、心配そうに鳴いている。
引き継ぎ要素がなくなるということは、レヴィも当然いなくなってしまうだろう。
再会を喜んだばかりなのに、それはちょっとつらい。
ちらり、と見下ろすと、レヴィはつぶらな瞳で私を見上げている。
うう。
再スタートしたほうがいいのはわかっているけど……駄目だ。
「やっぱり、見捨てられないよね……」
私はひとつ息を吸って、覚悟を決めることにした。
「再スタートはしない。たとえぼっちプレイになっても、頑張る!」
「ピィー!」
拳を握って高らかに宣言すると、つられたようにレヴィも鳴く。
強制ぼっちプレイは少し……けっこうつらいけど、まあ、うん。
頑張ろう。
こうして、私は本来のスタート地点であるロゼルト皇国の《白の都》からだいぶ離れた、アクアディーネの《水の都》から再出発することになった。
前途多難ではあるけれど、まあ、なんとかなる!
……と、いいな。




