第十四話
南門を出てしばらく歩くと、小さな森が見えてくる。
森の中はそれほど薄暗くはなく、以前行ったシルト村近くの森を思い出した。
あの時は露草やユノと一緒だったっけ。
懐かしいなあ。
今回は一人……いや、レヴィもいるので一人と一匹かな。とにかく、あの時より人数が少ないのだから、注意しないといけないな。
「レヴィ。気をつけて採取しようね」
「ピィ!」
レヴィはキリッとした声で返事をして、油断なく辺りを見回している。
可愛いなあ。
私は森に入り、見本として見せてもらった薬草の特徴を思い浮かべながら【鑑定】していった。
ポーションに使えそうな物もついでに採取していく。
「この辺りには無いのかな。もう少し奥に行ってみようか」
「ピィ」
森の入り口付近には、それらしい薬草はなかった。
私は辺りを窺いながら、慎重に奥へと歩を進める。
そうして、しばらく歩いた時だった。
ーーしくしく……しくしく。
誰かが泣いている声が聞こえてきたのだ。
え。こんな所で?
泣き声に戸惑って私はどうしようかと悩んだ。
怪しい……けど気になる。
よし、見に行ってみよう。
「こっそり、こっそりね」
小さく呟き、声のする方へと向かう。
茂みに隠れながらそっと覗いた私は目を丸くした。
「妖精……?」
木の根元でしくしくと泣いていたのは、手のひらサイズの小さな妖精の女の子だった。
「誰っ!?」
小さな声で呟いたはずだけど、妖精の女の子には聞こえたらしい。
ぱっと顔を上げて、今にも逃げ出してしまいそうだった。
「あ、待って! 怪しい者じゃないの!」
慌てて茂みから出て引き止めると、女の子は警戒心もあらわに私を見た。
「獣人……? あなた、誰?」
「私はリン。冒険者だよ。あなたは?」
「アタシは……ミューレ」
ミューレ、と名乗った女の子は、涙のあとが残る頬を手の甲で擦った。
その様子が痛々しくて、私は尋ねてみた。
「あの、どうして泣いていたの? どこか痛い?」
「……困ってたから」
「困っていた?」
ミューレがぽつぽつ話してくれたところによると、森の中をお散歩していたらモンスターに襲われたらしい。
なんとか逃げ出したものの、気が付いたら大事な物をなくしてしまっていた、ということだ。
「あれは大事な物なのに……どうしよう」
星のようなサファイアの瞳に、じわり、と涙が浮かぶ。
とたん、無機質なシステムボイスが響いた。
ーークエスト《小妖精の探しもの》が発生しました。
選択可能です。受けますか?
またクエストだ!
……でも、これは難しいかも。
森は広いし、モンスターというのも気になる。
探しものが何かはわからないけど、あっさり見つかるとは思えない。
だけど……。
しくしくと泣くミューレを見つめて、私は気合いを入れた。
「私も一緒に探してあげるよ。だから、泣かないで」
「ほんとう? ……ありがとう!」
私の言葉にミューレはようやく笑顔になった。
うん。
小さな女の子が泣いているのをほっとくわけにはいかないものね。
頑張りましょう!
「あの辺りでモンスターに襲われたの」
「なるほど」
森の中、私はミューレとあちこち探し回った。
そうしてしばらく、私はなんとなく嫌な感じを覚えていた。
「この先……ちょっと危険かも」
毛が逆立つようなこの感じ。もうわかっている。
格上のモンスターがこの先にいるのだろう。
「アイツがいるのかも……」
ミューレが襲われたというモンスター。
木々の向こうにいたのは、大きな黒い蜘蛛だった。
「あ!」
小声で叫ぶ、という器用なことをして、ミューレは蜘蛛の足もとを指さした。
「あれ! あのフルートが私の落とした物なの!」
蜘蛛の長い脚のひとつ、その足もとに確かに小さな金色のフルートが落ちていた。
「あのモンスターが持っていたのか……」
モンスターを【鑑定】すると名前とHPバーが浮かび上がる。
ブラックスパイダー、HPバーはオレンジ、か。
格上だけど、……やってみようかな。
買ったばかりのパラライズ・ダガーを握り締めて、私は覚悟を決めた。
「行ってくる。ミューレはここで待ってて」
「ええっ!? 危ないよ!」
「うん。でも、あのフルート大事な物なんでしょう?」
「……それは、そうだけど」
ミューレはしばらく悩み、そして言った。
「なら、アタシも力を貸すわ! ーー《妖精の祝福》!」
ミューレから暖かな力が伝わってくる。
バフーー一時的な強化魔法だ!
「ありがとう! 行ってくるね!」
私はそっと蜘蛛に忍び寄り、パラライズ・ダガーを振り上げた。
さあ、戦闘開始だ!
蜘蛛は強かった。
八本の脚を使った攻撃に、口から吐き出す糸。
危ない場面は一度や二度じゃなかった。
「ピィ!」
「こっちよ!」
レヴィが時々ヒールをかけてくれて、ミューレが蜘蛛の注意をひいてくれて、なんとか綱渡りするような戦いは続いていく。
そして、ついにその時がやってきた。
パラライズ・ダガーで斬りつけた時、ビク、と蜘蛛が痙攣して動きを止めたのだ。
麻痺状態だ!
チャンス、とばかりに私は蜘蛛の懐に入った。
狙いは、首!
ーークラス【首狩り暗殺者】の効果が発揮される。
残っていた蜘蛛のHPバーが一気に消える。
軽快な音楽とともに戦闘終了のボイスが聞こえて、私は詰めていた息を吐き出した。
お、終わったあぁぁ!
「死ぬかと思った……」
パラライズ・ダガーがなかったらと思うと、寒気がするね。
喜ぶレヴィとミューレを見ながら、私はへなへなとその場にしゃがみ込んだのだった。
「本当に、本当にありがとう!」
ミューレは取り戻したフルートを大事に腕で抱えて、何度もお礼を言ってくれた。
「もういいから。それより、帰りは気を付けてね?」
「うん! ーーリンはまたここにくる?」
「そうだね。たぶん、ううん、きっと来るよ」
薬草も採取したいし、ちょくちょく来るかもしれない。
私の言葉にミューレは嬉しそうに笑い、くるりと一回転した。
「じゃあ、また会おうね! リンはアタシの《友達》よ!」
ーー新しい称号を取得しました。
システムボイスが告げる。
称号は【小妖精の友人】で、幸運の値が上がりやすくなる、とあった。
ミューレと別れた後はモンスターとも出会わずにすんで、依頼の薬草も見つけることが出来た。
ブラックスパイダーのドロップアイテムがいいお値段で売れたこともあり、無事にガードリングもゲット!
よかった!
ちなみに、ガードリングはレヴィに装備させてみた。
私が危ない時に使ってくれるんじゃないかな。
ガードリングを首輪のように装備して、頑張る! と訴えるレヴィが可愛いくて、私は頬を緩めたのだった。




