第十話
「え? 初心者講習ですか?」
ある日ギルドに行くと、受付のお姉さんから初心者講習のお誘いがきた。
「ええ、ギルドに入ったばかりの子達を集めて、座学と実地訓練をやるのよ。参加してみない?」
「そ、そうですね。えーと……、はい、参加してみます!」
少し悩んだけど、ここはやってみることにしよう。
ちょっと緊張するけど、きっとプレイヤーは私だけだし。
いくら人見知りの激しい私でも、NPC相手なら大丈夫だしね。
ギルドで手続きを済ませ、私はわくわくとした気持ちで当日を待つのだった。
当日は気持ちの良い晴天だった。
すでに午前中を使って座学は済ませてある。
アクアヴィーネ周辺に出現するモンスターの話や、スキルの話、はてはちょっとしたお金稼ぎのコツまで聞くことが出来て、とてもお得な内容だった。
そして昼食をはさんで、午後は近場での訓練である。
「いいか、よくモンスターの動きを見るんだぞ」
私達は四人づつのチームに分かれ、モンスターの相手をしている。
予想通り、私以外は全員NPCだ。
仲間になった三人は、剣士と弓使いが男の子でヒーラーが女の子。小さな頃から仲の良い幼なじみらしい。
「女の子が一緒でよかった。仲良くしてね」
ヒーラーの女の子、キャシーが嬉しそうに笑いかけてくる。
「うん、よろしくね」
私がそれに笑い返すと、男の子二人ーーアベルとカイもそれぞれよろしく、と手をあげた。
気の良い子達でよかった。
私達はまずじっくりとお互いの武器やスキルについて話し合い、それから狩りに入った。
まずは弓使いの男の子、カイが矢を放って獲物を引き寄せる。
巨大な兎のモンスター、ビッグラビットが一匹やってくると、次は私の出番。
うまくタゲを取り、敵の攻撃を避けつつダメージを与える。
そしてここぞという時に、剣士のアベルが大ダメージを与えるのだ。
ラビットの攻撃を避けきれなくてダメージを受けた時は、後ろに控えるヒーラー、キャシーが回復してくれる。
私達のパーティーはなかなかうまくいっていた。
「よし、休憩だ! 皆よくやったな!」
岩のような大男、ギルドの引率者であるガランドさんの声で皆は狩り場を離れる。
全員で十数人くらいだろうか。
同じ年頃の子が多いが、中にはまだ子供と呼べる年の子もいる。
大人は三人。ガランドさんと他二名の男性が私達の先生兼護衛役だ。
私はパーティーの皆と木陰に座り、水を飲んでいた。
「今日はかなりいい調子だな」
「リンちゃんのおかげよ。うまく注意を引いてくれているもの」
「そうだね。ありがとうリンさん」
「えっ。う、ううん。私こそ皆のおかげでうまく戦えているから、こっちこそありがとうだよ」
お互いに感謝し合って、次も頑張ろうと励まし合う。
うん、良い感じだな。
後半もこの調子でいこう、と考えていた時だ。
「リン。少しいいか?」
難しい顔でガランドさんが私を呼んだ。
「すまんが、ちょっとコイツとこの先を調べてきてくれないか? 獣人の勘を当てにさせてもらいたい」
コイツ、と指で示されたのは細身の男性だった。
「ええと、構いませんけど……」
「すまんな。何か妙な気配を感じるんだが、姿が見当たらなくてな」
ポールと名乗った男性に連れられ、私は林の奥に進んだ。
とたん、毛が逆立つようなピリピリとした感覚に襲われる。
とっさに周囲を見渡すが、どこにも怪しいものはない。
逆に言えば、ラビットすらいないのが不自然ではあるけども。
ポールさんも注意深く辺りをうかがっているが、何も発見出来ずにいるようだ。
「どうだ? リン」
「ええと、何かの気配は感じるんですけど……」
「そうか……」
考え込むポールさんの隣であちこちに目をやるが、特にこれといったものはない。
仕方なく、二人で元の場所に戻った。
私達の報告を聞いたガランドさんはしばらくの間考え、そして言った。
「仕方ない。今回の講習はこれで終わりだ」
予想はしていた言葉だけど、残念だなあ。
その気持ちは皆も一緒だったようで、口々に不満の声が上がった。
しかし、ガランドさんの決定はくつがえらない。
皆残念がりながらも帰路についた。
あーあ、とアベルが頭の後ろで手を組む。
「せっかく良い感じだったのに、悔しいな」
「そうね。ねえ、リンちゃん。よかったらまた一緒にパーティー組まない?」
「え? いいの?」
「リンさんが一緒だと僕らも助かるよ」
私は一緒にパーティーを組んだ子達と再開の約束をして、笑顔でアクアヴィーネに帰ったのだった。
「無事に終わってよかった。ね、レヴィ」
「ピィ!」
ちなみに、林の向こうへはしばらくの間立ち入り禁止となった。




