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領土戦記  作者: 智恵理陀
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第四話.髑髏の男

「はあ……」


 あれから何度も何度もセルベはクウェンに世間話から世界事情、しまいには今日食べたいものとどうでもいい話を延々と聞かされながらもようやく無事に登ることには成功した。

 体力には自信のあるクウェンだったが流石に疲労を隠せず一旦地面に腰を預けた。


「お疲れのようですね」

「誰のせいでお疲れなのかおわかりか?」

「私のせいですか? いやー私は軽いですし貴方の疲労にはそれほど影響は与えていないかと」


「尻の軽い女で助かったよ」


「おい言い方」


 不服な彼女は置いといて。

 周囲を見渡す、風は落ち着いてきたようで土煙が軽く舞う程度。

 魔物の姿は一体とて見当たらない。あの魔物達は皆崖下へ転落してしまったと考えられる。

 思わぬ一網打尽を出来ていたようだ。

 後は隊長にこのことを報告して魔物の死体を回収する、今日の仕事も終えられて一石二鳥である。


「お前、なんでこんなとこにいたんだ」


 それでは。

 休憩がてら彼女へ質問の時間と致そう。


「私ですか? そう、ですね。ネフォルティアを目指して歩いていました」

「ネフォルティアに? あそこから出てきたんじゃなくか?」

「はい、最初はノルヴェスへ行く予定でしたが来てみたらこの有様で」

「それまではどこに?」

「転々としてました」


 妙な話である。

 昔は世界を旅するなんてことも出来たであろうが今はそうもいかない。

 領土の共有権が無ければ他国で食料にもありつけず、領力も得られない。言葉は独学で学ぶのも可能だが、たとえ会話できたとしても大事なのは言葉ではない。


 他国に入るたびに共有権の審査も必要だ、国によっては食料の共有権も与えられない、審査の間はどうやって食料を得る?

 転々と旅をするなんて、あまりにも難しい。


「そんな簡単にできるものかよ」


「出来るんですよねそれが。私が今までいた国のお話でもいたしましょうか?」


「……いや、いい」


 調子を狂わされっぱなしだった。

 こいつには普通ではない、自分の常識が一つ既に粉砕された時点でちょっとしたことならば何でも出来るのではないかとクウェンは深く考えるのをやめた。


「ネフォルティアには何をしに?」

「故郷がどうなっているのか気になりまして」


 ただそれだけの理由か。

 他にも何かあるのではないか? 怪しさしかない、人外――だとしても、魔物ではない何か。

 今のところ害は無いが、彼女を保護して国へ連れ帰るべきなのか正直悩むところであった。

 選択肢を一つへ絞るためにも、セルベについて詳しく知る必要がある。


「とりあえず、行くか」


 周囲の観察も済んだ、マップコアで元の場所を指して戻るとした。


「最近はこれまた便利なものが出てきましたね」

「まあな」

 一般には配られてはいない代物だ、知らないのも無理はない。


「ほうほう、崖は意外と長く続いているのですね。おや、この点々は?」

「地下に空洞でもあるんだろ。この辺りは多いって隊長が言っていた」

「あら、貴方が隊長ではないのですか? 相当な実力者と見受けますが」

「世の中、力ある者が上に立つとは限らないだろ」

「はは、確かに」


 実際、隊長がどれほどやれるのかクウェンも知らない。

 いつも怠けていて魔物の一体もまともに倒せるか疑問であった。

 それより、自分の腕を素直に褒めてくれたことには正直嬉しく思ったクウェン。誰かに褒められるなどいつ以来か。


「そろそろ教えてくれるか?」

「はい?」

「何故あの高さから落下して生きていられているのか、をだ」

「あー」


 何があーだ。

 その質問が来ることなど分かりきっていたのに、彼女は惚けて目線を空へ。

 首の骨が折れていたのだ、それがこうして治ってしまっただなんて奇跡などという言葉を使っても言い逃れなどできない。

 死なない――待て。

 クウェンの思考が、戻される。

 あの男との会話まで、戻された。

 死なない十三人。

 その名称、もしも実際にそうなのだとしたら。


「お前……死なない十三人か?」


 彼女の足が止まる。

 沈黙を嫌がる彼女が今は沈黙してしまっている。

 本を握り締める力が強まる音すら聞こえるほどの静寂。

 今は何を考えているのか窺えない無表情、なんと答えればいいのか考えている最中なのであろうか、沈黙からの開口一番は実に気になる。

 しかしだ。

 クウェンの中にある死なない十三人のイメージはフードを深々と被った男達。実際に映像でも見たのでその外見が染み付いていた。

 他の者のイメージも大体筋骨隆々な大男か一見地味そうで実は殺し屋旧の腕前を持つ優男といった連中ばかりで、少女なんているわけがない――とは思っていた、いや今でも思っている。

 だからこそ目の前で死なない十三人と思しき雰囲気を取られると正直困惑してしまう。


 だがしかし。


 ああやはり。


 彼女が死なないというのは、揺るがない事実ではないか。死なない十三人という名称との共通点としては十分ではないか。


 セルベは一度視線を地面へ落とし、小さなため息をついた。

 これ以上言い訳をしても意味がないと察したのか、その仕草は諦めを表しているようにも見える。

「返答次第で如何様な行動を?」


 それは。

 それは、自分が死なない十三人であると認めているも同然だった。

 だがここでクウェンはというと、


「あの、だな……」

 口篭る。

 相手が死なない十三人だったからといって、自分がすべき行動は何なのかはっきりとはさせていなかった。


「ふむ」


 セルベは小さく頷く、その頷きの意味とは。


「そうです、私は死なない十三人です」


 唾を飲み込み緊張すら抱いていたクウェンに肩透かしを食らわせたのは彼女の潔すぎる態度だった。

 何かと言い訳をするわけでもなく、その場から逃げるわけでもなく、彼女は無垢な笑顔を浮かべてクウェンの隣へと肩を並べる。


「さあ、行きましょう」

「い、行くって……」

「ネフォルティアにですよ、当然でしょう? 貴方は自分の家に帰る、私は故郷へ里帰り。目的地はネフォルティアで双方一致しております」


 それはそうだが、と。

 今現在世界中を騒がせている死なない十三人と共に国へ帰るというのは、どういうことであるのか思考が落ち着きなく揺らいでいた。

 彼女の目的とは?

 まさかネフォルティアを侵略しようとしている? だとしたらここで阻止せねばなるまいが。


「安心してください、何もしないですよ。というか何も出来ない普通の死なない少女です」

「死なない時点で普通じゃない」


 単純に、一つの観点から注目してみよう。

 彼女がネフォルティアに来て何が出来るというのか。

 戦力は数字で表すなら、とクウェンは横目で彼女を下から上へとなぞるように見る――上での結果は1、ようく吟味した上で、自身を100とすると彼女の戦力は1だ。

 主に本の攻撃力によるもの、彼女のか細い腕でその本を振り下ろされたとして、怪我しない程度に痛い。

 辛辣な評価をする者がいれば戦力は0か、0.5としたかもしれない。


「ささっ、連れて行ってください」

「お前……俺が師団に突き出すとは考えないのか?」


「考えられますが、よければ私が死なない十三人であることは秘密にしてくれませんか? 無理を承知でのお願いします」

「無理にもほどがある、お前らは何をするか分からない」


「一つ誤解があるようですが、私は世界を騒がせているあの輩とは別ですよ」

「別?」


 というのは、どういう意味か。


「ま、私の考えでは――」

 すると彼女の言葉はそこで止まる。


 何かが近づいているのを感づいたか、クウェンも意識はとっくに彼女から前方へと移っている。

 まるで針でも刺してくるかのような視線を感じ、本能的にクウェンは剣に手をかけていた。

 いつでも抜ける、一瞬で戦闘態勢に入れたのは幸運だったと言えよう。

 風を斬る音を聞き逃さなかったというのは、思い返せば冷や汗を誘う。

 もしもほんの少しでも戦闘態勢に入るのが遅れていたら、集中が一瞬でも遅れていたら、今彼の指に挟まれているナイフを防ぐことなど出来なかった、ああ、確実に出来なかった。


「なんだよおい!」


 フードを深々と被った者が一人。

 服の輪郭から得る体格は男――死なない十三人を彷彿させる。

 まだ判断はつかないが、現時点で一つだけはっきりとしているのはむき出しの敵意が向けられており、戦闘は避けられないということ。

 約六メートルの距離であれ眉間へ正確にナイフを投げる時点で、敵の技量は察した。

「あいつは、お前の仲間か?」

「いいえ、違いますね。死なない十三人ではありません」

「じゃあ何なんだよありゃあ」

「死なない十三人の信仰者でしょうかねえ」


 だったら死なない十三人であるお前がどうにかそのむき出しの敵意を収めてと説得してくれ――なんて言おうとしたその時、再び投げつけられるナイフを受け止めた。

 それも彼女の眉間、すれすれで。


「ただし、私には信仰してくれていないようですが」

「そのようだ」


 それと、今更ながらクウェンは思う。

 別にセルベは守らなくてもいいのだな、と。

 どうせ大怪我を負っても回復する、ナイフが刺さったままの場合はどうなるのか少々見ものではあるが結局生き返るだ彼女は。


「頑張ってください、私は応援しかできません」

「俺が負けたらどうするよ」

「その場合は死んだ振りでやりすごしますので」

 死なないというのは便利である。


「ちなみに俺の生存率は?」

「まあ、47%ってとこでしょうか」

 その数字の根拠はどこから出てくるのかは定かではないが、彼女はクウェンの実力を軽く見ているのは理解できる。


「貴方は傷跡が多くて一見強そうですが、防御が下手そうで」


 舐められたものだ。

 いいように言われて内心で不満を漏らしながらも、ならば見せてやると地区再生部隊に入ってからは一度も無かった全身を駆け巡る集中力。

 敵もその集中力からクウェンがやり手だと気づいたのか、フードを後ろへと追いやり素顔を見せた。


「なんつう、顔してるんだ」

「骨かと思いましたが髑髏の刺青のようですね。あの様子じゃ全身に刺青でも入れてるのではないでしょうか。老後のことを何も考えてませんね、きっと刺青もしわしわになって目も当てられなくなりますよ」


 いや、そういうことではなく。

 冗談を呟くのならば引っ込んでくれると助かる。クウェンの集中力を欠かさずに済む。

 クウェンはゆっくりと剣を抜く。

 最初に動いたのは髑髏の男だが、それは攻撃ではなく先ほどから髑髏の男の後ろにあった何かを引っ張り出す動き。


「お前……」


 何を出してきたかというと、クウェンの後ろをついてきたあの兵士だ。

 ぐったりとして動きが見られない、既に死亡している可能性は高い。

 これはお前の仲間か? と言いたげに髑髏の男はクウェンを見る。


「挑発のつもりかおい」


 仲間をやられて激怒して飛び掛るのを期待しての演出か、動じずといったら嘘にはなるがクウェンは至って冷静だった。

 髑髏の男は何も言葉を紡がず、袖からナイフを取り出す。

 両手に四本ずつ、サーカスでナイフ投げの練習をしていたのならばまだしも普通の人間にはナイフ投げなど難しい技術だ。


「お前は守らなくてもいいよな」

「お気遣い無く」


 当人もそう言っているのだ、お荷物となる要素は早々に切り捨てるのが吉。

 その一瞬にも、ナイフは既に放たれていた。

 本を抱えて地に伏せて我関せずの行動を取るセルベ、に対してクウェンはナイフを避けながら前進した。

 遠距離ならば相手のほうに武がある。

 クウェンが好機を見出す距離は中距離、それまでの間合いを詰めるのは至難の業。

 相手の能力全てを把握しているわけではない、ナイフを使うという情報以外を得る必要がある。


 何よりも、ここは互いに領土外。


 勝負を分けるのは個人に宿る領力による戦闘と領力石。

 如何に領力を温存して相手の体力を削り、如何にここぞという時に領力を使って叩きのめすか。

 果たして領力石は持っているのだろうか、持っていたとしてその大きさは? 少なくとも有無はどうであれ持っていると見て戦うべき。

 クウェンはそう考えているが、髑髏の男はどのように出るか。

 最初から領力を使って何もさせずに一気に落とす――といった行動に出る可能性もある。

 僅かな数秒、髑髏の男がどう出ようがすぐさまに対応できるべく考えを加速させる。

 俺ならどうするか、ふと自分に問いかけ。

 一度足を止めた。


 どうしてこうもすんなりと前進させてくれるのだ。

 そもそもそれがおかしい。


「罠かっ」


 髑髏の男が右手を横に振る。

 ナイフは一本だけだが、それは手放さない。

 まだ距離はある、届くはずがないのに何故そんな動きを?

 すると、今まで防御や回避をして地に落ちたままのナイフがふわりと宙へ舞い、刃と柄が分離される。

 刃だけとなるや磁石がついたかのように引き寄せられ、それはまるで一つの鎖のように、しなり具合は一つの鞭のように。


 真横からナイフの鞭による一閃――かろうじてかわすが肩を掠めた。


 赤い線が引かれ、遅れてやってくる痛みと出血。

 領力によって操作性と切れ味が上がっている。

 今ならば十センチ程度の刃渡りしかないあのナイフで人の首が飛ぶのは確実だ。

 奴もそれを狙っての攻撃だった、もしも避けるのが一瞬でも遅れれば地面にクウェンの首が荒野を転がる回転草のようになっていたであろう。

 生死の駆け引きは幾度と無く体験してきた、乗り越えられなかった者が棺に入り、乗り越えた者が未来に両足で立っていられている。

 後者であるクウェン、だからといってこのような場面に慣れなどない。

 いつだって心臓の鼓動は脈動し、背中には恐怖が引っ付き、だからこそ警戒心と集中力に磨きがかかり、クウェンは冷静を保つ。


 相手の攻撃を一つ見た。

 大きな成果だ。


 髑髏の男は今の攻撃を避けられるとは思いもよらなかったのか、表情にはようやく変化が見られた。

 誰がどう見ても、所謂顔に書いてあるというもの――まさか、避けるとはという一文である。


「驚いたかい?」

「驚きました」


 セルベには言っていない。

 敵の攻撃は一つ把握した、次に同じ攻撃が来ても対応はできる。

 クウェンは一気に距離を詰め、中距離へと入り込む。

 敵の射程距離は一度考え直さねばならない、近距離と中距離――遠距離も可能、ではあるがその中でも然程の脅威ではない距離は近距離。

 中距離もナイフの連結具合から危険な距離ではあるが、近距離でのナイフならば脅威は低い――中距離気味の近距離が適切。


 先ずはそこで剣を地面へと突き刺して振り上げる。

 男の舌打ち――目くらましを兼ねた飛礫による攻撃は面倒であろう。

 横移動しかせざるを得ず、クウェンにとっては右と左の二択。


 髑髏の男は右利きと思われる、そして左手にはナイフを所持していない。次なる行動は左に動いて右手でナイフを振る可能性が高い。


 といったクウェンの予想は、

「くそっ」

 見事に外れて敵は右へ。


 事前にナイフを地面に刺しておいたのだろう、左手にナイフが収まりクウェンへそのナイフが放たれる。

 体の重心は微かながら左に寄っていた、避けられない――なら、避けなければいい。

 ナイフを左腕に食らいながらもクウェンは剣を振るう。


「何っ」


 髑髏の男がようやく言葉を発した、それほどにクウェンの行動は予想外だったようだ。

 クウェンが攻撃を避ける前提で右手のナイフを使うつもりだったのだろう。


「おらぁあ!」


 辛うじて致命傷は避けたものの髑髏の男の体を斜めに一閃、傷は深くはないがクウェンの威圧感に思わず次なる攻撃が遅れていた。


「遅ぇ!」


 ここでの領力は一気に放つ、剣に領力を込めた斬撃、射程距離が伸び、その攻撃力は普通の剣では成しえないほどに上昇する。

 人に使うのは久しぶりだ、使うべき相手だと判断した上での攻撃。

 まるで青い炎のように剣から放たれる、クウェンの目の前一帯を包み込み土煙が舞い地面がえぐれ宙へと投げ出された。

 だがその中に敵の姿は確認できない。

 もし避けられても人形のように宙へ投げ出されるのを想像していたのだが。


「おおっ、すごいすごい」

 後ろから送られる小さな拍手。


「どうも」

 まだ油断はできない、じっと土煙の中を凝視するクウェン。

 ようやく土煙が落ち着き、人影が浮かぶ。


「立ってられてるとは、驚いたよ」


 左手で防御したようだ。

 服は肩までなくなっており、刺青にまみれた男の左腕が露出していた。

 完全に防御はしきれなかったようだ。

 領力を素手で受け止めるなどという芸当をしてみせたのはクウェンにとっても驚きだがそれでも左腕は一見して重傷。

 火傷に裂傷、しかしながら表情には一切出さない。


「私も驚いた。師団以外でも腕の立つ者はいるようだな、勉強になったよ」


 言葉が通じる。

 ネフォルティアの言葉の共有権を得ているのか、元々ネフォルティア国民なのか、それとも独学か。

 またはネフォルティアと言葉の共有権を交わしている連合国所属とも考えられるが絞り込むのは現時点で難しい。


「そりゃあ良かったな」

「お前のような危険要素は報告しておかねばな。貴様の剣はあの方には届くことなどありえないが、たとえ欠片であれ時には躓く原因となる」


 あの方、とは。


「報告って、死なない十三人にか?」

「我が主は死なない十三人の一人、ログレウス様だ」


 セルベを一瞥する、彼女はその名に聞き覚えはあったようで「ああ、あいつか」と口が動いていた。


「じゃあ死なない十三人の命令であんたは動いてるってわけだ。それで、俺達を襲った理由は侵攻の一つか?」


 いや、クウェンの性格上謝らない。


「この辺り一帯にいる者を掃除しろと言われた、ただそれだけだ」


 命令にしては大雑把だ、明確な命令はきちんと受けているかもしれないがだとしても相手にすんなりと教えるような輩ではあるまい。


「単純な返答ありがとよ」


 何かしら目的があるとは思われるが、彼に与えられた指令はここ周辺にいる者達を排除すること、であるらしい。


「そうだ、よけりゃあ教えてもらいたいんだが、なんで死なない十三人は世界の領土を奪おうとするんだ?」


 少しでも情報は引き出しておきたいが、どこまで話してくれるか。


「まとめるためだ」

「まとめる?」

「誰かが何かをまとめるというのは当たり前のことだろう? 家族には大黒柱がいるように、お前の部隊にも隊長がいるように、領国に領王がいるように」


 髑髏の男は饒舌に語りだす、しかし何を言いたいのかクウェンには伝わらず、眉間にしわを寄せて、とりあえず話を聞くだけ聞いてみよう――といった気難しい人と話をするかのような気分に浸りながら腕を組んで耳を傾けた。


「では世界は? 誰がまとめる?」

「……まさか世界征服ってんじゃあないだろうな」


 これから難しい話が展開されるのかと思いきや、むしろ単純でしかも落胆を誘う内容に思わずため息が漏れる。


「違う、統一する。征服するつもりなどない」

「領土を統一してても訪れるのは独裁政治じゃねぇか。とりあえず洗いざらい吐いてもらうぜ」


 最初は領土拡大が目的かとクウェンは予想していたが、規模は比べ物にならないものであったようだ。

 征服であれ統一であれ、世界中の領土を一つになどなったら単純に上に立つ者が独り占めできる。

 一人のために皆が怯える世界――そのような世界の訪れを、クウェンは許しはしない。

 剣を握る手が再び強まる。

 殺意を察して、髑髏の男は二歩後退し、口を開いた。


「領力石を持ってこなかったのは失敗であった」


 もし敵が領力石を使っての戦いだったらこうもクウェンが優勢を握れはしなかった。


「そうだな、完全に失敗だぜ」


 相手が領力石を持っていなかったのは幸運だと、表情には出さず密かに安堵するクウェン。


「次はもう少し準備をしてから参ろう」


 討つならばここで――

「逃がすかよ!」

 すると空に一つの影、そこへ鎖のナイフを投げつけて引っ掛けて髑髏の男は空へと上昇していった。


 領力式小型飛空艇――領力さえあれば事実上永遠に飛空が可能、領力石が領力を得られない場所でも長期間の飛行ができる。

 髑髏の男が領力石を持っていなかったのは飛空艇に積んでいたからだ。

 追撃しようとするも、地面にはカチカチと時計の針を刻むような音。

 まさか、と視線を落とすやいつの間にか黒い球体がばら撒かれていた。

 空へ意識させた時に撒いたのだ。


「くっ!」

 爆発は大きくないものの、連続での爆発により威力は増大。普通の爆弾とは違い、爆発が続くほど最後のほうは威力が高まっていた。


「くそっ!」


 自身の腕に刺さっているナイフを投げつけるも届かず逃がしてしまった。

 しかし……撃退はできたのだ。

 素直に喜ぶべき結果だ。

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