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領土戦記  作者: 智恵理陀
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第十三話.髑髏の男、再び

 今から行って消火活動をしても時既に遅し。


「家にいなかったのは幸運だったな」


 その時、後ろから男の声がした。

 聞き覚えのある声だ。

 反射的にクウェンは上体を屈める。

 頭上を何かが通り過ぎる、髪の毛がいくつか切断され、空を舞った。

 攻撃はまた来る、駆動車から転がり落ちるように降りるや、クウェンの座っていた場所は真っ二つ。


「おいおい、これ借り物なんだが」


 どう見ても廃車確定である。

 おまけに爆発、運転手が駆動車の心配をしていたとしてもまさか真っ二つになって木っ端微塵となっているだなんて思ってもいないだろう。


「髑髏野郎……」


 どう呼べばいいか分からず、しかし深く考える必要もないため安直な呼び名をつけるとした。


「今日は挨拶に来た」

「……挨拶?」


 挨拶にしては、と剣を構える。

 鎖のナイフによる攻撃――剣で弾くも距離が悪い。

 頬に、太ももに、ナイフがかすっていく。


「侵略開始の挨拶にな」

「菓子折りくらいは持ってこい」

「代わりなら持ってきたさ、いい爆発だっただろう?」


 ああ、なるほど――と。

 後方で燃えているであろう我が家を思い出す。

 手土産は自宅へ直接届けられたらしい。


「お返しに何かやらねえとな」

「お気遣いなく」


 髑髏の男がここにいるということは、ルゾンの言うとおり彼らはネフォルティアの地理を把握し、抜け道を使っていると判断してよさそうだ。

 空からの降下に関しては目立ちすぎて侵入など許されない。

 門からは入国管理局に必ず引き止められる。

 抜け道がどこにあるのか、突き止める必要がある。

 上質なチーズのはずがいつの間にか穴あきの、エメンタールチーズのようになってしまったネフォルティア。

 かじりつく鼠をどう追い払うか、今は一つの分水嶺、髑髏の男を倒せるか否かで今後大きく変わるとクウェンはみる。


「前とは状況が違うぜ? ここはネフォルティア領内だ」

「知っている」


 髑髏の男は領力石を一つ取り出す、こぶし大の大きさ――師団長格の者でも彼が持っているものよりもふた周りは小さい。

 敵地でも領力をふんだんに使えること間違いない。


「私は肉料理が好きなんだ」


 髑髏の男は鎖のナイフを振り回す、クウェンに向けてではなく自分の周囲であるため攻撃はまだこない。


「丸々とした肉をナイフで薄くそぎ落とすのも好きだ、一cmほどの厚さで切るのも好きだし、サイコロ状にして切るのも嫌いじゃない」

「今日はどんな切り方をするつもりだ?」

「ミンチになるまで切り刻む」


 領力を得た鎖のナイフは前回とは非じゃない速度、攻撃力も増して彼の周辺は既に切り刻まれて粉微塵だ。

 領力を込めた剣で対抗は出来る――であろうが、自身の体は無事では済まなそうである。


「動くな!」


 現れたのは師団の兵士達、領力銃を向けるが髑髏の男はまったく動じず、ゆっくりと兵士達へと顔を向けた。


「なんだこいつは!」

 誰もが驚くであろうあの顔は。

 サーカスのピエロでさえ絶対に言う、間違いなく言うはずだ。


「武器を地面に置いて両手を上げろ!」

「て、抵抗したら、撃つぞ!」


 もし撃ったとして、髑髏の男の周りを高速で動き回る鎖のナイフをすり抜けられるだろうか。

 遠目から見ればまるで円球。

 それほどまでに高速で、死角などない。


「邪魔だ」


 ナイフが放たれる――が咄嗟にクウェンは軌道を読んで先回りし、ナイフを弾いた。


「お前ら早く逃げろ!」

「し、しかしだな……」

「今の攻撃をかわせたっつうんなら加勢しろ!」


 二人の兵士は顔を見合わせ、両者が苦笑いを浮かべる。

 どうやら、今の攻撃に反応すらできなかったようだ。


「師団長を呼んでこい! もし見つからなきゃ住民の避難だ!」

「わ、分かった!」


 もう片方の若い兵士は、なにやらぼそぼそと呟いていた。

 彼が噂の“猛犬”ですか? というのだけは聞き取れてクウェンはその兵士を睨む。


「お前は、分かってんのかあ!?」

「い、行ってきます!」


 更なるナイフによる攻撃、それらをクウェンは防ぎながら彼らがこの場から無事に逃げられる時間を稼ぐとした。


「……やるな」


 遠距離ならばそこそこ攻撃は見切れる、目視ではなく攻撃がくる一瞬の音を聞き、後は敵の立場になって考え、攻撃を読む。

 ベルエスから学んだことを、一つ一つ復習して、彼は動く。


「クウェン・アルトバス、やはりお前は実に良い人材だ」

「家どころか名前も把握済みか。お前、ストーカーか何かか?」

「強者は私好みだ」


 背筋に寒気が走る。

 まさかこの男……と、クウェンは表情を歪めた。


「弱い奴は退屈だ、まずい料理を食べて喜ぶ奴などいるか? いないだろう? 強者と戦うこと、すなわちそれは美食」

「となると俺は高級料理か何かか? 食べたら腹下すぜ」

「クセのある料理でも美味しければ問題などないのだよ。分かるかね?」


 若干、分からなくもないと同感するクウェン。

 だがしかし、例えられても嬉しくはなかった。


「実のところ、私の単独行動は私情が混じっている」

「そうかい。興味ないね」

「そう言うな、強者を求めてこうして訪れたのだ、本来ならば私はあのお方のために国の中心地でことを起こすつもりだったのだよ」


 ならば、自分が髑髏の男の興味を引いたのはある意味被害を軽減できたのかもしれない、とクウェンは思った。

 クウェンの家は町外れ、爆発も中心地には被害は及んでいない。

 では自分は今何をすべきか。

 ――囮となって髑髏野郎を引きつけて援護を待つ。

 考えは、固まった。

「嬉しいね、認めてくれて。じゃあ思う存分やりあうかい?」


「言っただろう、今日は挨拶に来たと。メインディッシュはまだ先さ、だがその前に前菜を頂くのも、大切ではあるが……なあ!」


 機会があれば、彼は自分と戦いたがっている。

 その気持ちを汲みつつ誘導する、後方遥か先ではあるが避難する住民が見える。

 このまま圧されれば住民に被害が及ぶ、それだけは避けねばならない。

 ――クウェンは、前進する。


「前菜で満腹になるなよ!」

「胃袋は空だ、前菜程度じゃあ足らん!」


 鎖のナイフは集約されて大剣へと成り代わる、振り下ろされるもクウェンは右へ交わす――だが、地面へつくや否や、いくつものナイフが放たれた。


「くっ!」


 辛うじて避ける、それも一本は口内へと向かってきたために刃を噛んで止める芸当を難なく振舞う。


「素晴らしい、素晴らしいぞ!」


 この程度の攻撃では死なないと見ていたものの、クウェンの華麗とも賞することのできる立ち回りに髑髏の男は歓喜した。

 そりゃどうも、と呟きクウェンは前進する。


「糞髑髏が……」


 一瞬たりとも油断はできない。

 領力を剣に込める、ネフォルティアから領力を共有できる分前回よりも高い効果を得られる。

 供給できる量は人によって差が出てくるが、これまで如何に領力を使った戦闘をしたかという経験と鍛錬がものをいう。

 生まれもっての才もあるが、クウェンはというと――どちらも、得ている。


「この、領力量は……」


 剣からあふれ出る領力、それらですら攻撃性を帯びていた。

 斬られずとも、火花のように放たれている領力に触れるだけで重傷は免れない。


「他の奴らとはどうも得られる領力量が違うらしくてな」

「面白い、この領力石に込められた領力、全てを解放して戦うとしよう」


 領力石が強く発光する。

 髑髏の男の持つ鎖のナイフはクウェンの剣と同様に、領力があふれ出ていく。

 双方、最初の一撃。

 武器が接触しただけで衝撃が生じ、周辺の物という物が吹き飛ばされた。

 お互いに身体へも領力を込めている、飛礫などが体に当たるも軽傷で済み、故に手加減など一切なく全力でぶつかり合った。


「今ここで、ぶっ倒してやる!」

「その意気や良しだ! 存分にやってみろ!」


 鎖のナイフが降りかかる、それを避けるや鎖のナイフは分解され、無数のナイフが無差別に放たれた。


「ぐぅ……!」


 三本、クウェンの体にナイフが刺さった数だ。

 肩、左腕、太もも、だが深手ではない。

 反撃に入り剣を振るう、相手は今鎖のナイフを解いた状態――髑髏の男はナイフを一本持ち出すがそれでは剣は防げない。


「たまらんね」


 ナイフは容易く折れ、瞬間的に髑髏の男は上体を引いて剣の軌道から外れる――も、先端はかわせず一太刀浴びた。

 もう少し深手を負わせるつもりだったが……と、舌打ち。

 続く攻撃は突きに変更し、鎖のナイフを作る隙は与えず。


「どこで鍛えた? 良い剣術だ」


 流れるように突き、突き、一閃、体を回転させて遠心力で更なる一撃――どれも攻撃はかする程度。

 髑髏の男の表情にはどこか余裕も見られる、攻撃は既に見切られ始めているのだとしたら――否、まだまだ領力は全力ではない。


「さあ、こちらもいくぞ」


 鎖のナイフ――それも二つ形成し左右からの攻撃を繰り出してくる。

 考える暇はない、本能に身を任せる――


「なっ!?」


 剣を地面に刺し、柄に手を置いて逆立つ。

 まるで曲芸だ。


「しかし、どうする?」

「こうするさ!」


 剣へ領力を思い切り込める、それにより剣から放出された領力は威力を増して鎖のナイフを吹き飛ばした。


「ははっ!」


 喜んでくれたようだ、クウェンの戦い方に。

 クウェンは着地して腰から小剣を取り、髑髏の男へと距離を詰める。


「これほどの強者、なんという天命よ!」


 ナイフを向けてくるも弾いて髑髏の男に肘で一撃を与えた。


「ぐ、はぁ……!」


 再びナイフが向けられ、頬を掠める。

 一瞬一瞬、油断できない。

 クウェンは領力を練り、しかし髑髏の男は領力の発動を阻止すべくナイフを顔面へと振り下ろした。


「なにっ!?」


 ナイフの刃を、噛んで歯で挟みおさえこんだ。

 少し間違えれば死、彼の死を恐れない戦いあってこその技であろう。


「一回、食らっておけ!」


 領力を引き出し、髑髏の男に剣で一閃――峰打ちとはいえいくつか骨が折れたのは間違いない。

 上空へと投げ出され、地面へ叩き落されるのは見ていても痛々しい。


「降参しろ」


 髑髏の男はそれでも起き上がろうとするも、クウェンは小剣を首筋へ当てて取り押さえる。


「く、ふ、ゆ……愉快だ」

「何が愉快だこの野郎」


 周辺は酷い有様だった。

 建物という建物にナイフが突き刺さり、街頭は最初の一撃によってあらぬ方向へと曲がっている。

 もしこのあたりに逃げ遅れた人でもいたら大怪我は免れない。


「今日は挨拶だといったな、本命の襲撃はまた別にあるのか?」

「素直に答えるとでも?」

「ちっ、そりゃ答えねえよな」


 敵地に単身乗り込んできた――捨て駒という役割を担っていなければできない。

 自白させようものならば迷わず自害するのではないだろうか。


「どうであれ」


 クウェンは髑髏の男に拳をめり込ませた。


「うぐっ……」

「俺の家をぶち壊しやがって、許さねえからな」


 領力が宿った一撃は強力、髑髏の男を気絶させてその場は収束することができた。

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