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領土戦記  作者: 智恵理陀
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第十二話.開始

「いただくであります!」

「どうぞ」


 よほど腹をすかせていたのか、ルゾンとセルベは卓上に所狭しと広げられた料理を次々と胃袋へ放り込んでいく。


「久しぶりのまともな食事であります!」

「俺の料理じゃあ不満だろうが」

「美味しいであります!」

「それはどうも」

「クウェンにこんな特技があったなんて……是非とも毎日私に料理を作ってもらいたいですね」


 彼女の胃袋を満たすための食材をかき集めるのは大変そうだ。

 乾いた笑いをこぼすしかなく、騒がしい食卓を暫し眺める。

 満腹になるのはいいとして、その後本題に入るのだが先のことを考えずに食べるだけ食べる二人には不安が少々。

 食後にて。


「もう食えないであります」

「満腹です、暫く料理は見なくていいかもしれません」


 休憩が必要かもしれない。

 後先考えずに、欲望に身を任せた結果である。

 後片付けもクウェンが一人でやる羽目になり、テーブルでは「デザートはないのであります?」とか「クウェン、デザートを所望します」などという声が聞こえてくる。

 皿洗いが終わったらお前ら軽くシバく、なんて思いながらクウェンは黙々と皿を洗う。

 背中から漂う怒気に果たして二人は気付いているだろうか。


「よし、終わった」

「ではデザートを」

「クウェン、デザートはなんですか?」

「デザートはこれだ」


 二人へ熱い肩パン。

「ぐはぁ!」

「ふぬぬ……」

 悶絶二人を眺めて気分をすっきりさせるや、酒を取り出して喉へと流し込む。

 疲れた体には一番の栄養剤だと、実に美味しげに。


「そろそろ話をしようや」

「む、そうでありますな」


 目つきをきりっとさせて、ルゾンの姿勢は整えられる。

 気持ちの切り替えはよくできている、彼女の対面に座る少女と違って。


「先ずは、改めてお二方に心から感謝いたします」


 テーブルに額がつくくらいに頭を下げるルゾン。


「本当に、ありがとうございます」


 ここにいられているのも奇跡。


「救われたこの命、是非ご自由にお使いください」

「折角助かったのですから、長生きしていただけると私は嬉しいです」

「それが貴方の命令であれば」

「命令ではなく、お願いですよルゾンさん」

「努力するであります」


 次にクウェンを見て、

「クウェン、貴方も私には気遣いなくなんなりと」

「……気が向いたらな」

 彼女はもはや部下として身を置こうとしている。


 だがクウェンにはその関係はやりづらい、部下を持つことなど今まで一度もない、どう扱えばいいのかも分からないのだ。


 よくよく考えれば、仲間すら、仲間と呼べる者すらも、いなかったかもしれない。

 頭を掻いて、眉間を歪めて酒を飲む。

 まいったなと、言わんばかりの仕草であった。


「先ずは何から知りたいです?」

「そうだな、あんたの内部調査で得た情報を聞きたい」

「内部調査、ふむ……」


 顎に手を当て、目を瞑る。

 記憶を蘇らせているのかもしれない。


「そもそも内部調査の依頼はどなたからなのです?」

「現在のネフォルティア領王、シュナエ・ネフォルティア様でございます」

「領王が……?」

「当時はまだ領王座には就いてませんでしたが、内部調査組織と接触し、密かに両国内の者達を調べていたのです」


 内部調査といっても大したものではないと思っていたクウェンだった。

 というのも当時は師団や兵士団、地区再生組織などの領国組織の一部で汚職が増加の傾向にあった。

 増える入国者に対して賄賂を受け取る者や、入国者への搾取などだ。

 クウェンは汚職に手を染めてはいなかったが――つい最近セルベを入国させるべく汚職したばかりだ。

 最初で最後の汚職……には果たしてなるのやら。


「前領王が在任中に、領国内に怪しい動きがあったとでも?」

「そうなります、シュナエ様は上層部から末端まで詳しく調べるようにと仰ってました」


「死なない十三人の手下が領国内にいるとみて調べさせていたのか?」

「はい、凶悪なテロ集団だと聞かされていましたが、蓋を開けてみれば――」


 ルゾンはセルベを見る。

 凶悪なテロ集団、にしては奇病からルゾンを救った命の恩人、そして凶悪性など皆無の少女が目の前にいる。


「ふっ、女神がいたというわけですね」

「まさにその通りであります!」

「面白いジョークだ」


 と、発言したにしてはつまらなそうな表情のクウェン。

 小さなため息までつく始末。


「それで、内通者は分かったのか?」

「一人は発覚しました」

「何っ!? 誰だ!」

「追い詰めるや躊躇無く自分の頭に鉛弾をぶちこんで自殺されましたが」


 肩をくすめて、残念そうにクウェンは酒を飲む。


「情報が漏れる可能性があるなら迷わず自殺を選ぶような連中、なのですね?」

「そうです、それだけで分かります、恐ろしい相手だと」


 そうじゃなくては、と。

 クウェンは密かに笑みをこぼした。


「自殺した方はネフォルティアの環境管理部に三十年勤めておりました」

「環境管理部?」


 クウェンでもあまり聞かない組織名だった。

 だが、どこかで聞いたことはある。


「地味な仕事ばかりの小さな組織ですよ、ネフォルティア周辺の環境や領土の情勢を調べる組織で一応地区再生部隊の親元なのでクウェンは知っているはずですが」

「……ああ、そうだったな」


 自らが所属する組織にすら興味を持っていないクウェンには、いらない情報として脳内で処理されていたらしい。


「このあたりの地理は敵に把握されているとみていいでしょう、もしかしたら私達でも知らない抜け道があり、敵がそれを使って出入りしている可能性も」

「予想以上に敵が身近に迫っているかもしれないな」


 国の組織にも、そして街にも死なない十三人の手下がぞろぞろといるとしたら。

 侵略が始まれば内側から容易く崩されてしまうかもしれない。


『――日、――て、何者かによって――』


 ニュースや天気予報、それに様々な番組が日々流されている領力映像機、音量を低くしていたが聞き取れた声にふとクウェンは耳を傾けた。


「ん、どうしました?」

「いや、ちょっとな」


 二人もクウェンの視線をなぞって領力映像機へ。

 購入したばかりとあって画質はかなりいい、クウェンの家にも領力映像機は置かれているが写りは比べ物にならない。

 映像は激しく揺れており、スタッフ達もあわただしい様子だった。

 すると――途端に、クウェン達の耳にも届く爆音が鼓膜を刺激した。


「うわっ! な、なんですかねっ」

「爆発、何か爆発したのであります、音からしてかなり遠くですが爆発の規模は大きいかと」


 窓を覗くや、遠くで黒煙が立ち上っていた。


「始まりましたか」

「奴らか……」


 クウェンは武器の確認を始めた。

 剣はある、手入れも済んでいる。

 他には、念のためにと家から持ってきた予備の小剣。

 腰の裏に下げておき、準備を完了させる。


「クウェン、どこへ?」

「あの黒煙を確認してくる」


 行かなくても呼び出しがかかるかもしれない。

 だったら行っておいて損はない。


「私も行くであります!」

「お前はここにいてくれ、何かあったらすぐにセルベをつれて逃げられるようにしておいてくれ」

 何よりルゾンを知っている者が彼女を見てしまったらそれはまた混乱を招いてしまう。

「むっ……しかしっ」

「クウェン、私はついていきますよ!」


 お前は野次馬かと言いたくなるほどに、彼女の行動力には関心までしてしまう。

 死なない十三人に関係しているであろう事件には兎に角首を突っ込みたがるのは仕方のないことではあるが、クウェンはなるべく単独行動をしたかった。

 正直、お荷物だからだ。


「そんな露骨に嫌な顔をしなくても……」

「ただの爆発事故かもしれないし、様子をみてくるだけだ」

「むむむ……」

「師団の連中も来るだろうし、指定居住区外だったら無闇には行けないだろ」


 セルベが拘束されたら厄介にもほどがある。

 クウェンは兎に角理由を一つ二つ、三つと付け足してセルベを席に座らせた。


「いい子にしてろよ」

「私は子供か!」

「ババアだったな」

「いっぺん死んでみますか?」


 本を持って席を立つセルベ。

 急ぎ足でクウェンは家から出るとした。

 外に出るや街は騒然としており、黒煙のほうから人々が逃げるように駆けてくる。

 通り過ぎる街の人々に声を掛けて事情を聞いてみるも爆発があったとだけしか聞けず、何者による犯行だとか具体的な内容は把握できなかった。

 近くにあった領力二輪駆動車が目に留まる。


「いいな、あれ」


 走っていくには距離がある、こういう時には駆動車を使うに限る。

 鍵はその近くに落ちていた、領力で走行するためこの世界では古いといわれるガソリン車ではないので燃料の心配はない。

 一応周囲を見回すが逃げる人々ばかり。

 予想するに、慌てて駆動車に乗ろうとするも鍵を落として、しかし焦燥感に駆られて走って逃げてしまったのだろうと。

 ならば。


「ちょっと借りるだけだ」


 そういう思考が働く。

 鍵を取って駆動車に乗る、椅子の部分など金をかけているようで乗り心地は悪くない。

 鍵を回すやいい音を奏でる、振動も少なくさぞかし走り心地も良いであろう。

 だが人の流れとは逆を走るわけだ。

 そういう面では走りづらい。


「どいてくれ!」


 端を走行していたら誰かが飛び出してくるかもしれない。

 ならば、と思い切って道のど真ん中を走ることにした。

 黒煙の位置を確認しながら走っていると続々と同じ方向へ向かう兵士が確認される。

 師団は見当たらないが、もう現場にいるかもしれない。

 すると再び爆音が発生した。


「ちっ、なんだ!」


 別の方向だ、位置的にはこちらのほうが近いかもしれない。

 ブレーキを踏んで勢いを殺し、角度を変える。

 行くべきは、二度目の爆発のほうか。

 ちょうどいいわき道、人もいない。


「よしっ」

 わき道へ進む、少々狭く人がいつ飛び出してくるかも分からず不安ではあるが、ぶつかったらその時はその時だと割り切るクウェン。

 拝借したものだからか、走行は荒く所々ぶつける始末。

 持ち主のもとへ返された時にはどうなっているのやら。

 向かっている方向にはクウェンの家がある。

 敵が暴れて家を破壊されていなければいいがと心配するが、どうか壊さないでくれと祈ったところで祈りは届かない。


「これで家が吹き飛んでたらタダじゃ済まさんからな」


 進むこと数分、クウェンの家が目視できる通りまで来た。


「ああ、もう許さん、絶対に許さん」


 クウェンの家はどうなっていたかというと。

 炎と黒煙が立ち上り、遠目でもすでに全焼しているのが確認できた。

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