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領土戦記  作者: 智恵理陀
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第一話.宣言


「私は“死なない十三人”、これより領土侵略を開始する」


 それは唐突に。

 唐突に、世界へ声明が発表された。

 そして同時に、一つの事実を世界は知る。

 先進国の一つであったリグレオ。

 他国の侵攻も跳ね除け、内政も安定しており永く反映するであろう国であったが、その国は“死なない十三人”によって領土を奪われた。

 大きな衝撃が世界中を駆け抜けたであろう、あの国の領土を奪うなど分厚い鉄板をフォークで只管突き続けるようなものだ。

 いつかは穴が開くかもしれないという期待など抱くだけ無駄な行為にも関わらず、穴を開けた者がいる。

 第一の衝撃はそれであったが、何よりも、だ。

 “死なない十三人”というその名が第二の衝撃であった。

 この世界で燻りつつもしぶとく生き残っている昔話、真偽は定かではないものの世界に大きな変化をもたらした者として、親から子へ――その連鎖によって言い伝えられていった。

 ではその気になる昔話、とは。

 七百年前まで戻るとして。

 世界は……簡単に表現するならばものすごく、退屈でどうしようもなく薄っぺらな平和が蔓延していた。

 戦争は起きることが珍しい。争いは数日で止む程度、テレビで報道されれば皆他人事として聞き流し、結局訪れる平穏にやっぱりなと内心思う者もいたであろう、薄っぺらな平和。

 だがある日。

 それは唐突に。

 唐突に、世界は変化した。

 “死なない十三人”と名乗る者達が現れ、ある日世界中の電波を独占し、自分達が行ったことについて丁寧に、咀嚼する時間を与えるかのように説明していったらしい。死なない十三人による領土侵略宣言をしたのと同じようにだったかもしれないが、定かではない。

 世界中に領土核というものが埋め込まれたこと、国境は意味を成さず、これからは領土が国の基準になること、そしてこれまでの世界は終わりを告げたこと――

 その領土核は世界に大きなルールを強いて束縛した。

 束縛、といっても……人の欲までは束縛できながったがともあれ――領土核を一つ支配した者はその付近の領土主となり、絶対的な権力を持つ。これだ。

 領土核さえ見つけて支配できれば誰でも王になれる、領土核の支配した数だけ小国から大国へ。

 その結果、最初の数年は戦争が世界中で勃発し、惨憺たる時代だったという。

 だがどんな時代であれいつかは終わりを迎える。剣で互角に切りあったとしてもいつかはこぼれを起こし、そして折れる。

 剣を持たぬ者が、平和を願う者達が手を取り合って連合国を作り、支配欲に塗れた国を制圧していき、世界は徐々に安定へと向かい始めた。

 ただし、たどり着く安定まではそこから更に十数年が経過していたが。

 領土のシステムは何も悪いことばかりじゃない。

 “共有権”というものがあり、共有権を交わせば他領土の者であれ様々なものを共有できる。

 例えば、言葉の共有権を交わせば言葉が理解できる、おかげで翻訳家の仕事は少し減ったらしい。

 重要なのは、食料の共有権だ。

 食べ物でさえ、別の領土であれば食べられなかったが、共有権によって解消され、国交では大きな交渉の材料となった。

 様々な束縛も共有権を交わせば問題は無いが、共有権は実に重要な交渉といえよう。

 共有することで他国が悪用する可能性もあるのだから。

 食料、言葉、文字、そして――領力。

 領土が施行されてから、新たな力として世界に広まった領力は機械との応用も成功し、大きな発展を向かえた。

 兵器としても利用できる領力を共有する国は中々いない。

 ギクシャクとした国交が続くも、世界はそれなりに平和を取り戻しつつあった。平和といっても、薄っぺらなのは変わりないが。

 こんなルールだらけの世界について長々と述べたところで歴史の授業を聞く生徒の気持ちを抱かせるだけではある。

 そろそろ、話を戻そう。


 そんな声明が世界に発表されて数日。

 一人の青年は車両に揺られながら空を仰いでいた。


「死なない十三人、か」


 世界を変えた者達、名前の通り死なない者達。

 ただの戯言としか思っていなかったがまさか本当に現れ、しかもリグレオを陥落させたことには驚いたものの――死なない十三人を名乗ったテロ集団、としか内心では思っていなかった。


「お前はどう思う?」


 彼の――クウェンの呟きを耳にした男は口端を吊り上げて問う。

 真剣さは無い、この男もクウェンのように死なない十三人など信じていない性質であろう。


「さあね」

「街のばあさん達は慌てふためいてたよ、いつか再び現れると思った~とか。我々の行いが悪いと判断して世界に罰を与えに来た~だとかよ」

「行い、ねえ?」


 行いが悪い、とは。

 さて……。

 何を指すのか。

 生きることで人間は様々な罪を犯す、繁栄は罪の塊であり発展は罪の礎である。

 このことを指しているのだとしたら存在自体が悪い行いと言えよう。

 だったら人類は絶滅するしかないな。

 内心でクウェンは笑う。


「お前はさ、あの死なない十三人は、本当に数百年前の死なない十三人と同じ奴だと思うか?」

「……お前はどうなんだ?」

「俺? 俺は……うーん、もしかしたらそうかもって思ってたり」

「常識的に考えてありえないだろ」


 彼らはその常識を覆らせるようなことをやってのけたにもかかわらず。

 そこには触れずクウェンは答えていた。


「不老不死が実在したかもしれないじゃん?」

「あいつらが今度画面に出てきた時に脳天に銃弾を打ち込んだら信じよう」

「そりゃあ見てみたいな」


 名称の通り死なないと証明するためにそこまでしたら少しばかり気分的に引いてしまうであろうが。


「しっかしうちらは安全じゃねえ? 領力壁だっけ? ネフォルティアはそれを発動して防衛力を高めてるんだろ?」

「そうだな。最近じゃあそれをやるたびにお祭り行事みたくわいわい呑んで食ってるだけだがな」

「平和を喜ぶのはいいことだぜ?」

「平和、ねえ?」


 ネフォルティアの防衛力を高める日は半年に一度、重要な事柄であるも国民は防壁が貼られた空は綺麗に見えるからと酒を片手に空を見て騒ぐばかり。

 それはただの平和呆けをしているだけなのではないかとクウェンは思っていた。


「おい、無駄口を叩くな」


 狭い荷台であるにも関わらず広々と使う大男は威圧的に注意する。

 隊長――いけ好かない奴だ、威張るだけ威張って能力は大したことなどない。


「だと、さ。なんとか言ってやれよ“猛犬”」

「その呼び名は止めろ」


 男を睨みつけ、含ませる雰囲気は隊長よりも威圧的で思わず彼に謝罪を引き出させた。

 隊長に小さく頭を下げて、クウェンはため息混じりに凭れる。

 両腕、両足、胸に頬、額。

 どこを見ても古傷ばかり。

 わが身など構わず敵へ突っ込んでいくその戦いはいつしか彼に猛犬というあだ名を与えた。

 称号、とも言えるが彼にとっては忌々しいあだ名でしかなく、自分がただの獣呼ばわりされているようであだ名を出されるたびに不機嫌になる。

 先ほどよりも声を落として――


「なあなあ、一つ聞いていいかい?」


 隊長に注意されたにも関わらずこの男はまだ口を閉じようとしない。

 呆れたものだと、再びため息をついて聞き耳だけ立てる。


「この前まで第一師団にいたんだろ? そんなお前がなんで地区再生部隊に? 都落ち?」


 誰もが気になりつつも聞けなかった質問だ。

 煙草を吸って雑誌を開き始めた隊長以外、周りの連中も聞き耳を立てていた。


「少しは遠慮ってもんがないのかお前は」

「だって気になるじゃん」


 この手の輩は早いとこ説明して撒いたほうがいい。

 話をしていたらため息があと何回出るやら。


「俺の戦いは隊に迷惑をかけるんだとよ、それで暫くの間この隊で連携を学べだと」

「まあ、うちの隊は基本的に多勢に無勢だしな。お前が来てくれたおかげでその戦法も減ったけどね」


 幼い頃から剣を握っていたクウェンからすれば、地区再生部隊の連中は生半可な腕をそれぞれカバーし合っているようにしか見えなかった。

 それが連携と言えるのか、否――と頭から否定し、未だに隊の連携には協力していない。

 一つ、忘れてはならないのは――領土主が殺害された場合、その者の保有する領土核は全て機能を停止してしまう。

 彼らが今走行している大地は元々ノルヴェスという小さな国だった。クウェンの住む大国ネフォルティアとは国交もあり後にネフォルティアと領土を結ぶはずだったが、数ヶ月前にノルヴェス領王が殺害されたために領土核が機能を停止した。

 時折このような領土事故が発生し、領土核が機能を停止したことによってその土地が衰弱してしまう。

 通りかかる木々は皆水分を失い白くひび割れてしまい、大地は荒廃して緑が一切無い。

 このような状態を死地という、まさに言葉通りだ。

 魔物も寄り付き始めたとあって最悪な環境が加速してしまっている。

 そんな土地を再生すべく彼らはいるが――何が地区再生部隊だ。

 ――魔物を多勢に無勢でただ狩っているだけじゃないか。

 領土核の把握、領力の溜まり具合から領土核がいつ機能を回復するかの予測、やることは山ほどあるがどの部隊もやる気が追いついていない。

 只管魔物を狩るだけ、重要なことは他の部隊がやってくれるさという他力本願。

 彼らの半数は魔物狩りを楽しんでいるに過ぎない。

 こんな部隊に派遣されて満腔の怒りを魔物にぶつける日々は、一ヶ月も経っていないというのにクウェンは限界を感じていた。

 そのうち燎原の火となりて彼らに拳を向けるのも時間の問題か、そうなればどの隊にもいられなくなる。


 最悪だ、実に最悪な気分だ。


 そんな心の中での呟きは一日に一回。

 咀嚼するかのように、必ずだ。

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