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時間跳躍 第7章 時間跳躍

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

 菊水総隊旗艦ヘリ搭載護衛艦[くらま]は横須賀基地を出港し、目的の海域に舵をきった。


 約30年前までは護衛艦[くらま]は第2護衛隊群の旗艦であったが、退役が近づき、就役したヘリ搭載護衛艦[いずも]型2番艦[かが]に旗艦の座を譲り、廃棄処分を待つだけであった。しかし、護衛艦隊旗艦になる話が持ち上がり、[くらま]は近代化改修が行われ、改造と艦齢をのばされた。


 そして、過去の日本を救うために編成された菊水総隊の旗艦として今回の派遣に参加する事になる。


 前方の海上では同じく横須賀基地を出港した第1護衛隊群の艦影が確認できる。


 恐らく佐世保基地の第2護衛隊群、呉基地の第1潜水隊群等も予定通り出港しただろう。


 ちなみに[くらま]の周囲にはミサイル護衛艦[はたかぜ]と[しまかぜ]の2隻がいる。この2艦も退役予定の艦であったが、退役はせず、地方配備部隊に回された。


 他にも菊水総隊の編成と同時に第1護衛隊群、第2護衛隊群とは別に編成された第5護衛隊群並びにその他の艦艇も[くらま]と同行している。


 さらに航空用燃料、艦艇用燃料、陸上部隊用燃料、武器弾薬等を満載した30万トン級タンカーや大型貨物船が10隻以上同行する。


 民間船の操船は民間人が行っているが、彼らも菊水総隊に所属する隊員たちと同様に志願した者たちだ。


「雲1つない青空か。出航には申し分ない天候だな」


[くらま]の艦橋横のウィングで前統合幕僚議長だった山縣幹也はそうつぶやいた。


 彼の現在の役職は菊水総隊司令官である。


「司令官もそう思いますか?」


 山縣は横から声をかけられる。


 山縣が振り向くと、[くらま]の艦長である大西(おおにし)龍地(りゅうじ)1等海佐がいた。


「ああ。海は雲1つない青一色の海を見るのに限る。嫌な事があっても忘れさせてくれる」


 山縣の言葉に大西はうずいた。


「ええ。私もそう思います。青一色の海は辛い事、悲しい事を受け入れてくれます。たとえ、昭和の海に行っても海は変わりません」


 大西が目を細め、青一色の海を眺めた。


「もう俺たちの日本は拝めなくなる。たとえ同じ日本でもそこは俺たちの知る日本ではない。他国の日本だ」


 山縣がつぶやく。


 大西が司令官の顔を見る。


「[くらま]も戦う事ができる事を喜んでいるようですよ。建造されて以来、1度も戦う事がなかった。平和な日本であるから、それはそれでいいのですが、軍艦として生まれたのなら1度くらいは戦いに出たいと思うのではないのでしょうか」


「艦長。君は船の気持ちがわかるのかね?」


 山縣が問う。


「30年も船で生活をしていますと、船の気持ちがわかるような気がします。私の錯覚かもしれませんが、そう思うようになるんです」


「まさに船乗りの模範だな」


 山縣が笑みを浮かべながら、言った。


「しかしながら、菊水とは・・・楠正成の旗印だったというのが有名ですが、縁起の良い名ではありませんが・・・」


「生きて帰れない。という点では間違ってはいないだろう。だが、我々は特攻のために行くのではない、もう1つの日本の未来を生きるために行く」


「確かに」


「艦長。予定海域に到着しました」


 航海長から報告が入る。


「わかった」


 大西がうなずき、艦橋に戻る。


 山縣も大西の後を追う形で艦橋に戻った。


「日本との別れは済んだか?」


 艦橋に戻るとダニエルが山縣に声をかけた。


「日本とは永久にお別れだ。未練はないか?」


 ダニエルの言葉に山縣は苦笑した。


「未練があったら、菊水総隊の司令官にはならない。その覚悟はできている」


 その言葉にダニエルは満足そうな顔をし、うなずいた。


「そうだろうな」


 そう言った後、ダニエルは表情を変え、真剣な顔をした。


「それでは、始めるぞ」


 そう言った後、ダニエルは手を叩いた。


 一瞬だけ目眩がしたが、それ以外は何の影響もなかった。





 第1護衛隊群は母港である横須賀基地を出港し、目的の海域を目指していた。


 ヘリ搭載護衛艦[いずも]を旗艦とする第1護衛隊イージス護衛艦[あかぎ]、汎用護衛艦[むらさめ]、汎用護衛艦[いかづち]。


 第5護衛隊イージス護衛艦[こんごう]、汎用護衛艦[あけぼの]、汎用護衛艦[ありあけ]、汎用護衛艦[あきづき]。


 計8隻である。これに哨戒ヘリコプターのSH-60Kが搭載されている。


 このうち2隻はイージス艦で、過去の日本ではかなりの活躍をするだろうと、期待されている。


 かつては護衛艦8隻ヘリを8機搭載していたため、8艦8機体制の方針が確立されていたのである。


 しかし、ヘリ搭載護衛艦[いずも]型や[ひゅうが]型の登場で、それ以上のヘリを運用できるようになった。


 ヘリ搭載護衛艦[いずも]型は最大14機のヘリを搭載する事ができる。


 ここでわかるように海自は本来、アメリカ海軍の空母を護衛するための、対潜戦闘に特化した軍事組織ではあるが、汎用護衛艦、イージス護衛艦には対潜兵器以外に対艦ミサイル、対空ミサイルを装備している。


 対艦ミサイルは旧海軍の戦艦の主砲に勝る程の威力があるから、ほとんどの護衛艦が戦艦並の戦力になる。


 さらにイージス艦[あかぎ]には対空、対艦、対潜ミサイルだけではなく、対地攻撃用のミサイルを搭載している。これは離島防衛で日本領土が某国軍から奪われた際に陸上部隊の支援のために装備されている。


 護衛艦群は旧海軍の時代では、巡洋艦クラスの艦艇ではあるが、その能力は戦艦を凌ぐ程なのである。


 レーダーシステムも旧日本軍、アメリカ軍のレーダーをはるかに上回る。アメリカ艦隊や航空機が日本艦隊を発見する前にこちらが捕捉し、対艦、対空ミサイルを発射する事ができる。アメリカ側は自分の身に何が起きたかわからず、撃沈、撃墜されるのである。


「司令。予定海域に到着しました」


 首席幕僚である村主(すぐり)京子(きょうこ)1等海佐が司令席に腰掛けている群司令の内村(うちむら)(ただ)(すけ)海将補に報告した。


 異色と言えば異色なのが、この第1護衛隊群の頭脳とも言うべき幕僚と、攻撃、防衛の中心と言うべきイージス艦のトップが女性という事だろう。


 だが、女性といって侮れば、痛い目に合う。双方ともこの地位では、トップクラスの能力の持ち主だ。


 しかし・・・この2人を見た旧海軍の参謀たちはどう思うだろうか・・・


 案外、山本長官は面白がるかもしれないが、参謀辺りは不信感を持つかもしれない。


(まあ、村主にせよ神薙にせよ、そんな些細な事など気にも止めないだろうがな)


「司令?」


 考え込んだ内村の表情を、村主が怪訝な表情で伺う。


「うむ」


 咳払いをして内村はうなずくと、司令席をくるりと回し、部下たちの表情を見回した。


 誰も後悔した顔を見せる者はいない。皆、覚悟ができた表情をしている。


「司令。コーヒーです」


 海士の1人がコーヒーを運んできた。


「ありがとう」


 海士からコーヒーを受け取ると、内村は礼を言った。


 内村がコーヒーをすすると、腹心の部下である彼女に言った。


「いよいよだな。首席幕僚」


「はい」


 村主がうなずく。


「迷いはないか?」


「ありません。もし、あればすでに退艦しています」


「そうだな」


 内村は満足そうにコーヒーをすする。


 今回の作戦については前統幕議長から直接話を聞いている。そして、統幕議長が言った事をそのまま部下たちに話した。


 部下たちも承知している。


 もし、この作戦に迷いがあるのなら、即時退艦を許可する。しかし、作戦についてはいっさい他言してはならないと通知してある。


 退艦者は22名出ただけであり、それ以上は出なかった。内村と幕僚たちは50人ぐらい出るだろうと予測していたが、実際は22名だけである。


「司令。時間です」


 村主が腕時計を見ながら報告する。


「通信機を」


 内村が言うと、幕僚の1人が通信マイクを手渡した。


「総員!タイムスリップに備え!」


 内村からこれまで1度も出た事がない命令が飛ぶ。





「陸海空の各部隊は無事、タイムスリップしたそうです」


 正岡からの報告に、原田は無言でうなずいた。


「例の、アメリカからの払い下げで買った、商品の搬入も無事終わっています」


「しかし・・・あの商品の使い道を知れば、さぞかし怒るだろうな・・・」


「同感です」


 2人の顔に苦笑が浮かぶ。


「別に気にする事もない、使うところで使うのだ。払い下げ品をどう使おうとこちらの勝手だ・・・今の時代では、博物館に展示するしか能のない代物だからな」


 秘書の持ってきたコーヒーを飲みながら、原田は乾いた笑い声を上げる。


「・・・残った我々にも、問題は山積みだしな、細かい事に気を回している暇は無い」


「何しろ、数万単位で自衛官が、忽然と消えたのですから隠し通す事など不可能ですからね・・・」


「フフフ・・・一世一代の大芝居と行こうじゃないか。私はね、1度やってみたかったのだよ、世紀の大詐欺師という役を、日本国民・・・いや、世界を完全に騙し切ってみせよう。下らない詐欺で小金を騙し取って喜んでいる小悪党どもに、本当の詐欺とはこういうものだと見せつけてやろう」


「人が悪いですね、総理・・・」


 正岡が苦笑する。


「さて、記者会見の時間だ・・・」


 腕時計を見て、原田は立ち上がった。





 わずかに目眩を感じた。


[あかぎ]艦橋の艦長席で、神薙はそう感じた。


 目前の海原は、先ほどと変わらない。天候も変わらず、雲一つない青空だ。


「・・・・・・」


 その時、CICから連絡が入った。


「艦長、対空レーダーに感あり。本艦右舷前方より、時速100ノットで接近中の飛行物体有り」


「IFF(敵味方識別信号)は?」


「IFFに反応無し」


 それを、聞いて神薙は艦長席から立ち上がった。


「[いずも]に連絡。対空警戒を厳にせよ。見張り員、飛行物体を目視にて確認せよ」


 自らも双眼鏡を手に、ウイングに出た神薙は、アンノウンの来る方向に視線を向ける。


「誰か、旧日本軍の航空機に詳しい者はいないか?」


「確か・・・第4分隊の給養員長が、戦闘機のプラモデルマニアだったはずですが・・・」


 切山が答える。


「呼んでもらえないか?」


「はっ」


 航海士が艦内電話に飛びつき連絡している。


「可能性から見て偵察だろう。CICに対水上と、念のため、対潜に注意するよう、指示を出せ・・・最も、砲雷長の事だ、とっくに警戒しているだろうが・・・」


 そうこうするうちに、給養員長の1等海曹が艦橋に姿を現した。


「1曹、確認してくれ」


 切山が自分の双眼鏡を渡しながら言った。


「はい」


 30代後半の1曹が、興味津々で双眼鏡を覗いている。


「おお~っ!!!」


 1曹が、奇声を上げた。


「あ・・・あれは、九四式!!?マジで飛んでるっ!!!」


「・・・・・」


 航空機なのだから、飛んで当たり前だろう。と、神薙は思ったが、1曹の興奮振りに少し引いた。


「九四式という事は、九四式水偵という事か・・・」


「そうです、九四式水上偵察機。昭和9年に日本海軍に制式採用された、水上偵察機ですっ!!!」


 これが漫画だったら確実に、この男の目には星が瞬いているな・・・


 ウイングにいる全員がそう思った。


 すでに、双眼鏡を覗かなくても確認できる距離に水偵は、近づいていた。


 主翼を上下に振っている。


「あれは、バンクですね。味方機である事を示す当時の合図です」


 航海長が述べた。


 操縦席から、パイロットが敬礼をしているのが見えた。


 神薙と切山は答礼をする。その隣では・・・


「すごい!すごすぎる!!大日本帝国バンザ~イ!!!」


 自分の世界へ旅立ってしまった1曹が、感激のあまり叫んでいた。


 水偵は、艦隊の周囲を1周してから、元来た方向に飛び去って行った。


「どうやら、あの水偵は露払いだな・・・という事は」


「恐らく、本命がやって来るでしょう」


 2人の予測通り、CICから連絡が入る。


「艦長、右舷前方より時速25ノットで接近中の艦艇あり。恐らく駆逐艦クラスと思われます。間もなく視認距離に入ります」


 砲雷長の報告に、神薙はうなずいた。


「事前の通達通りだな。[いずも]に連絡、指示を乞う。とな」





 神薙の報告と同時に[いずも]の水上レーダーも接近中の光点を確認していた。


「全く、実感がなかったが・・・どうやら、夢でも幻でもないようだな」


 内村がつぶやく。


「接近中の駆逐艦は睦月型と思われます。いかがいたしましょう?」


 双眼鏡で確認した村主が振り返る。


「発光信号で交信せよ」


「内容は?」


「こちら、日本国海上自衛隊第1護衛隊群旗艦[いずも]、貴艦の所属、艦名と目的を知らされたし。だ」


 村主は復唱し、担当の航海士に指示をだす。


[いずも]の発光信号から数10秒後、駆逐艦から返信があった。


「こちらは、大日本帝国海軍所属、駆逐艦[菊月]、貴艦隊の来訪を歓迎す。我に続け。以上です」


 航海長が、信号を解読し報告する。


「了解。と返信せよ。[あかぎ]に連絡、本艦隊は[菊月]に同行する」


 ここまで、あっさりしているのはどうも落ち着かないが、自分たちはまな板の上の鯉だ。


 悩んでも仕方がない。


 内村は、司令席で前方を見つめていた。


「神薙です。このまま[菊月]に同行すれば、恐らく横須賀、呉のどちらかに入港すると思われます。我々の存在をこの時代の人間に知られる事になりますが、よろしいのですか?アメリカ等の諜報機関に知られれば、厄介な事になりませんか?」


 指示に対し、神薙から直接通信が入った。


「神薙艦長のおっしゃる通りです。ですが、問題はないでしょう。この時代の戦艦と我々の護衛艦は建造された目的が違います。アメリカ側に我々の存在を知られても、理解されないでしょう。せいぜい、新型艦としか認識されないと思います。コソコソするより、堂々と入港する方がいいと思いますよ」


 内村に代わり、村主が神薙の危惧に答える。


「成程、一理ありますね」


 神薙は、了解の意を示した。


 この2人は、同期で防大、幹候、幕僚課程で並み居る男たちを退けて、首席の座を競い合っていた。


 仮に、2人の立場が入れ替わったとしても、どちらも職務を自然にこなすだろう。


 内村は、歴史改変より軍隊は男の職場と信じ込んでいるであろう、旧日本軍の将校の反応を見る方が、密かな楽しみであったりする。


 勿論、そんな事は当人たちにとってどうでもいい事だろうが。

 時間跳躍 第7章をお読みいただき、ありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

 次回の投稿は7月20日までを予定しています。

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