策動の太平洋 番外編 北の防衛線
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。
北海道西海岸の某地に向かう菊水総隊陸上自衛隊陸上予備団が管理する3トン半トラックの列が整備された道路を進んでいる。
現代とは違い雪が積もっても雪を溶かす設備が無いため、第2機動師団が所有する雪上車が先導を走り、積もった雪を除去する。
3トン半トラックの荷台に搭乗しているのは陸上予備団に所属する予備自衛官出身の陸上自衛官だ。
3トン半トラック、1トン半トラックを合わせて数10輌に225名の隊員と資材等を満載していた。
「どうして、こんな時にソ連軍侵攻に備えた防衛陣地の構築をするんだ?」
20代後半の陸士が隣に座る同僚に聞く。
「ソ連軍が北海道に上陸する可能性があるからだろう」
同僚はあまりにも寒いのか防寒着の上にさらに毛布を巻いて、ぶるぶる震えながら答えた。
「なんで、ソ連とは不可侵条約を締結しているんだろう。なんで攻めてくるんだ?」
陸士が首を傾げる。
「お前、第2次世界大戦の資料を読んでいないのか?ソ連軍はドイツが降伏した後に日本との不可侵条約を破って、侵攻してくるんだ」
30代ぐらいの小柄な陸士が言った。
「それぐらいは知っているよ。でも、なんで?新聞やニュース、ラジオではドイツ軍の侵攻でソ連はモスクワを奪われて、スターリンは行方不明だろう。最高指導者が不在の状態で、ドイツの進撃を防がなくてはならないのに、ここで俺たちに喧嘩を売っても何もならないじゃあないか?」
陸士の言葉に、周りでその話を聞いていた隊員たちはため息をついた。
答えられない事を聞くのは、この陸士の悪い癖だ。
誰もが聞きたい事である。
しかし、第2機動師団司令部はもちろんの事、その上部組織である統合防衛総監部も彼らに何も教えていない。
ようやく、彼らを乗せた輸送隊は目的地に到着した。
225人の隊員たちは防寒着を着たまま、64式7.62ミリ小銃を肩にかけて、下車し、整列した。
予備自衛官出身の陸上自衛官の装備は89式5.56ミリ小銃等では無く、64式7.62ミリ小銃や分隊支援火器として装備している機関銃は62式7.62ミリ機関銃等の旧式の装備だ。
「どうやら、呼ばれているのは俺たちだけではないようだ」
先ほどの陸士がつぶやく。
300人程度の大日本帝国陸軍の兵士たちが整列している。
「おい、中隊長が見えたぞ」
陸士の隣に隊員が声をかける。
「本日から、ここがお前たちの職場だ。主な作業は防衛陣地の構築とソ連軍の強襲上陸に備えた防衛訓練と退却訓練等も行う」
自衛隊の定年年齢を迎えた1等陸尉が自分の部下たちに訓示を行う。
彼は定年年齢を迎えたが、再任手続きを行い今も現役である。
しかし、前に所属していた部隊では無く、予備部隊の中隊長だ。
さすがに士から幹部自衛官まで昇進しただけはあって、かなり訓示にも迫力がある。
「各区隊長は隊員たちを宿営地に移動させろ」
簡単な訓示が終わると、中隊長は隊を解散させ、各区隊長の指示の下で宿営地に移動した。
陸上予備団は一部の部隊を除き、教育隊で編成される区隊編成である。
基本的には陸上予備団から必要に応じて戦闘団又は戦闘群が編成された時に通常の部隊編成となる。
ニューブリテン島に駐屯していた陸上自衛隊の戦闘団も、陸上予備団から編成された戦闘団だ。
宿営地はトレーラー等で輸送が可能な簡易な建物である。
強風や大雨等に耐えられる強化プラスチックで作られており、内部はベッド・マットレス等の寝具と冷暖房設備があるだけだ。
トイレや炊事場は、別の場所に設置されている。
「快適では無いが、俺たち自衛官は贅沢な方だ。ここに派遣されている大日本帝国陸軍はあまりいいものでは無かったぞ」
区隊付の陸曹が30人ぐらいの陸士たちに言う。
ここに派遣された大日本帝国陸軍の宿営地は木材で建設された施設で、よく映画等で見る神風特別攻撃隊の急増基地のような簡単な造りだ。
暖房設備は薪ストーブがあるだけで、後は寝具が置かれているだけだ。
そのため、自衛官、軍人の寝泊まりする宿営地にはかなりの差がある。
陸軍の宿営地内の司令部の置かれた施設の一室で、北部方面軍副司令官の石原莞爾中将は、広げられた世界地図を前に、熱い茶をすすっていた。
「満州を占領したアカの連中は、どう動く?頭が無くなった手足は厄介な事この上ない」
日ソ不可侵条約は、すでに消えたと石原は考えていた。
彼の国の事だ。
無くなった、頭の代わりになろうと手足が蠢いているだろう。
取りあえず、手取り早く功績を挙げるために、強大な軍事力を持つドイツ第3帝国を相手取るより、東へ目を向けるはずだ。
それが、現在空席の最高指導者への最短の道になると考える、近視眼的な野心家がウジャウジャ涌いてきそうだ。
「さし当たり、朝鮮半島、中国北東部・・・そして、北海道だろう」
茶をすすって、石原は北海道の地図を広げる。
「来るなら来い、アカ共。ノモンハンで我々が受けた屈辱を倍にして返してやろう。それに・・・」
そのまま、視線を地図からストーブに移す。
ストーブの側では、茶をすすりながら暖を取っている1人の将校がいた。
その将校は、浅黒い肌の色の東洋人ともヨーロッパ人とも違う顔立ちをしていた。
「・・・貴様等は、預かり知らぬところで、随分と恨みを買っているようだ。それを、知った時の顔が見物だな」
新世界連合軍連合支援軍の支援軍司令部から派遣されてきた、北海道の地政学、地形、動植物の調査等にきた、部隊。
新世界連合軍を構成している7ヶ国の国軍と異なり、支援軍は陸海空3軍がそれぞれ別の国々の国軍で構成されている混成軍と説明されている。
価値観の違う者同士で、よく統合出来るものだと感心する。
軍人というより、戦士といった風体の将校を見ながら、彼らがどんな戦い方をするのかに非常に興味が沸く。
この時代のソ連人なら「知らねーよ」と言うだろうが、彼らは未来のソ連に祖国が蹂躙された事を昨日のように覚えているらしい。
伝え聞くところで、相当な決意で参加を具申したそうだ。
新世界連合軍は、現在のところ武力介入は表明していないため、先遣隊としての参加だそうだ。
親の因果が子に報い・・・で始まる怪談話があるが、よもや子孫のしでかした事が親に返る等と言うことがあろうとは・・・
「まあ、何があっても私の知るところではない」
石原は小さくつぶやいた。
策動の太平洋 番外編をお読みいただきありがとうございます。
誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。




