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策動の太平洋 第10章 反攻作戦の序曲 3 地獄の島

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

 菊水総隊陸上自衛隊第1戦闘団司令部は、ラバウル地区某地の地下施設に置かれている。


 薄暗い部屋に陸海空自衛官たちが腰掛け、簡易に設置可能な大型の液晶モニターとニューブリテン島の地図が広げられている。


「防官補、団長。ニューブリテン警備団司令官より、アシハラ協定の手順に従い自衛隊の出動要請が出ました」


 団司令部の通信隊所属の、通信科の3等陸尉が報告した。


 佐々倉は、通信隊の3尉が持ってきた通信文を受け取り、すばやく目を通す。


「尾柿防官補。現地の大日本帝国軍より、出動要請を確認しました。第1戦闘団を展開してよろしいですか?」


 佐々倉が手順に従い、作業服姿の彼女に尋ねる。


 菊水総隊の自衛隊を含めて、すべての組織は大日本帝国の組織の指揮下に入ってはいない。


 自衛隊の行動は、大日本帝国と日本共和区で締結されたアシハラ協定に従い、共同による行動が認められている。


 これは大日本帝国固有の領土及び、統治下になった土地の防衛と、大日本帝国陸海軍が遠征する場合等の軍事行動で大きく異なる。


 大日本帝国陸海軍が国家の防衛、又は国家の安全保障等のその他の目的のために、他国に武力行使を行い、武力による制圧を行う場合に自衛隊に出動要請が出た場合は、菊水総隊司令官である山縣幹也海将と防衛政務官の2人が協議し、その要請を受諾する判断をした場合、ただちに、統合省防衛局と統合幕僚本部にそれぞれ報告する。


 防衛局長官と統幕本部長は、大日本帝国陸海軍が行う軍事行動を検討し、自衛隊の出動はやむを得ないと判断したら、自衛隊の行動計画書を作成し、これを統合大臣に提出しなければならない。


 自衛隊の行動計画書が提出されたら、統合大臣は各局の長官と長官官房を招集し、会議を開かなくてはならない。


 ここで、全長官が自衛隊の行動に賛成した場合は、そのまま出動が認められる。


 しかし、1人でも反対者がいた場合は、日本共和区議会を召集し、共和院議員の過半数の賛成を得なければならないと規定されている。


 基本的に自衛隊の出動が認められれば、大日本帝国陸海軍と共同で作戦行動が行えるが、認められなければ、出動はできない。


 しかし、これはあくまでも他国に遠征をする場合に限り、行使される手順だ。


 防衛に関しての手順は、柔らかく規定されている。


 総隊司令官、総監、師団長、旅団長、団長、司令等を含む上級指揮官クラス又はそれに相当する指揮官には防衛局から総隊司令官付又は総監付防衛政務官(こちらは総監以上に配置される)と部隊指揮官付防衛政務官補が配置される。


 守備隊として配備されている、大日本帝国陸海軍の部隊から防衛のための出動要請が出た場合は、防衛政務官又は防衛政務官補の判断で行う事ができる。


 しかし、防衛政務官補が判断した場合は、現場指揮官が出動命令を出してから4時間以内に、防衛政務官に報告する義務を有する。


 いくつか制限はあるが、ある程度の事は防衛政務官補でも判断できる。


 ここまで言えばわかるように、自衛隊の行動はあくまでも大日本帝国からの要請が必要である。


 どうしても要請を待つ余裕が無い場合に限り、統合大臣の判断、命令で出動できると規定されている。


 かなり面倒くさい事ではあるが、これが民主主義の日本国である。


 きちんと手順に従わなくてはならない。


「要請を確認しました」


 尾柿は佐々倉から通信文を受け取り、これが正規の出動要請であるか、確認してから口を開いた。


「佐々倉1佐。アシハラ協定に従いに自衛隊の防衛出動を許可します」


 尾柿が許可を出すと、佐々倉は指揮所にいる幕僚たちに命令を出した。


「出動許可が出た。ニューブリテン島防衛のため、各部隊に出動命令を出せ」


「はい」


 佐々倉の指示で第1戦闘団副団長がうなずき、各科長たちの意見を聞いた。


「防衛作戦、A-4号の発動を具申します」


 作戦及び運用担当の幕僚である第2科長が言った。


「了解。A-4号作戦を実施する。海自と空自に連絡し、部隊の出動要請」


 佐々倉の指示で、空自と海自のデジタル迷彩服を着た幹部自衛官が連絡した。





 太陽が沈み、一面を暗い世界に変え、夜を迎えようとしている時・・・


 トラック諸島春島航空基地で、管制塔から指示のもと、菊水総隊航空自衛隊第11航空団第11飛行群第第10飛行隊に所属している2機のF-2改が誘導路から滑走路に移動した。


 この2機のF-2改には、JDAMを4発爆装している。


 轟音と共に滑走路を滑走し、2機のF-2改が離陸する。


 出撃したF-2改は、近接航空支援のためにニューブリテン島に向かう。


 爆装したF-2改が離陸する前に、この2機を護衛するため、制空戦闘の装備をしたF-2改が2機離陸している。





 ニューブリテン島ラバウル地区で、菊水総隊陸上自衛隊第1戦闘団は2個普通科中隊を基幹として、偵察隊、戦車中隊、特科隊、第5対戦車ヘリコプター隊から派遣されている第2飛行隊等の部隊が出撃し、A-4号作戦に規定されている防衛陣地に展開した。


 第1戦闘団の副団長は82式指揮通信車に搭乗し、前線戦闘指揮官として、展開部隊の後方に配置についた。


「上陸した連合軍は?」


 副団長が部下に聞いた。


「偵察隊第1班より、連合軍は1個歩兵連隊を基幹として最前衛に偵察中隊1個、その後方にM4A1[シャーマン]中戦車を中心した1個中隊、その後方に1個歩兵連隊です」


 副団長は顎を撫でた。


「M4[シャーマン]中戦車が早くも登場したか・・・ずいぶんと敵は本気でこの島を攻略に来たのか?」


 副団長は小声でつぶやいた。


 ハワイ諸島が大日本帝国に占領されているのに、ハワイの奪還をせず、南から攻める。


 戦略的に見ると、まったく間違いでは無い。


 戦う時は、相手が予想しない攻撃をする。


 それが常識である。


「しかし、夜襲とは・・・連合軍は何を考えている・・・」


 副団長は首を傾げた。


 不思議なのは、連合軍のニューブリテン島強襲上陸だ。


 上陸地域への艦砲射撃は行ったが、空母艦載機や近くの航空基地から戦闘機や爆撃機が出撃していない。


 これは、アメリカ軍が行う戦法の中ではなかったものだ。


「何かあるのか?」


 副団長が小声でつぶやく。


「副団長。会敵まで10分。対戦ヘリ隊はまもなく現着」


 82式指揮通信車の通信室で隊員の1人が報告する。


 副団長は他の事を考える事をやめた。


 今は、進撃中の連合軍を叩き潰すのが先決だ。


「こちら前線指揮隊。各部隊は予定通りに配置についた。状況開始の合図を待つ」


 副団長は、司令部との直通の通信回線を繋いでいる無線機の受話器を耳に当てて言った。





 第1戦闘団指揮所では、前線指揮隊からの報告を聞いて、佐々倉は深呼吸した。


「尾柿防官補。各部隊が配置につきました。状況開始してもいいですか?」


 佐々倉が最終確認をする。


 これまで自衛隊が経験した戦闘とは違う、本格的な実戦である。


 佐々倉はその覚悟を持って、彼女に確認した。


「許可します」


 尾柿の言葉を聞いて、佐々倉は顔を正面に向けて言った。


「状況開始。射撃を許可する。射撃開始」





 第1戦闘団司令部から、状況開始と射撃開始の指示を受け取ると、副団長は「射撃開始」と告げた。





 防衛陣地の前衛に展開した87式偵察警戒車2輌が車体を隠しながら、進撃中の連合軍偵察部隊に主装備の25ミリ機関砲の砲口を向けた。


 偵察隊であるから主にジープがメインの編成である。


「車長。射程に入りました」


 砲手から報告が入る。


「射撃許可を確認した。射撃開始。撃て!」


 2輌編成された87式偵察警戒車の車長であり、班長の陸曹長が叫んだ。


 87式偵察警戒車から25ミリ機関砲が火を噴き、軽装車輛を撃破可能な徹甲弾が連続発射される。


 通常の戦闘はまず、威力偵察から開始される。


 これは敵の戦闘能力を把握し、最適な攻撃を行うためだ。これは可能な限り火力を節約するためもある。


 いきなり総攻撃をしてしまうと、その分弾薬の消耗は激しくなる。


 いくら、後方支援態勢を万全にしても、確実にそれが届くという保障は無い。


 そのため、最適な火器を選ぶ必要がある。


 87式偵察警戒車は、2輌合わせて400発の機関砲弾を、連合軍の偵察部隊に撃ち込んだ。


 ジープ等を含む非装甲車輛は、その砲撃に堪えられず、火の塊と化した。


 しかし、偵察部隊は散開し、進撃を続行した。


 偵察部隊は、M4A1[シャーマン]中戦車で編成された戦車中隊と交代し、M4A1を前衛に前進した。


 87式偵察警戒車は射撃をやめて、すぐに後退し、最前線を離脱した。





「連合軍。なおも前進中。後退の気配なし」


 82式指揮通信車の隊員が報告する。


「連合軍から榴弾砲や迫撃砲等の火力攻撃は?」


 副団長が聞くが、隊員は首を振った。


「ありません」


「もう少し、威力偵察を続行しよう。コブラの20ミリ機関砲で機銃掃射を行え」


 副団長が指示する。





 OH-1からの情報と前線指揮隊から、威力偵察を続行せよ、という指示を受けると第5対戦車ヘリコプター隊第2飛行隊第2小隊隊長の1等陸尉が陸上自衛隊の主力である対戦車ヘリコプターAH-1S[コブラ]の操縦席で、AH-1Sを操縦しながら、射撃態勢に入る。


「フォーゲル1。了解、これより、威力偵察を開始する」


 本機は、1981年から導入され、現在まで陸上自衛隊の主力対戦車ヘリコプターを務めた。


 今では退役する方向でAH-1Sが存続している。


「各機へ、射撃用意。目標正面、20ミリ機関砲を射撃準備」


 小隊長の指示で前席に座る副操縦士兼射撃手を務める3等陸尉が20ミリ機関砲を選択し、照準を合わせる。


「照準よし」


 射撃手の報告を聞くと、小隊長は各機に指示した。


「撃て」


 その号令と共に機首下に搭載されている3砲身が回転し、M197機関砲が火を噴いた。


 20ミリ機関砲弾が戦車の急所である上部装甲に被弾した。


 20ミリ機関砲弾でも弾種にもよるが、20ミリ装甲板を貫通する事もできる。


 戦車は特に上部装甲が薄い。


 AH-1Sの20ミリ機関砲弾の直撃には耐えられない。


 4機のAH-1Sから数100発以上の機関砲弾が浴びせられる。だが、連合軍はどういう訳か、進撃をやめない。


 どうやら、ある程度の被害は最初から覚悟の上なのだろう。


 それとも、弱気の姿勢を見せたくないのか・・・





 OH-1からの威力偵察の結果を聞いた副団長は第1戦闘団司令部に連絡し、誘導弾から戦車砲弾までを使用し、完全に侵攻部隊を壊滅させる事を司令部に具申した。


 司令部からはすぐにその判断を承認する返答が来た。





 前線指揮隊から誘導弾等の重火器の使用が許可されると、偽装工作で完全に身を潜めていた第1戦闘団対戦車中隊が、連合軍の侵攻部隊に攻撃準備を整えていた。


「発射用意!目標、戦車を含む各種車輛」


 対戦車中隊に所属する射撃小隊の隊長が号令を出す。


 隊員たちがこれまでの訓練通りに規定の手順に従い、対戦車火器を操作する。


 彼らが使用する対戦車誘導弾は96式多目的誘導弾や中距離対戦車誘導弾が正式に採用され、配備が進むにつれ、その姿を消しつつある対戦車誘導弾。


 重MATの通称で各師団、旅団に配備された79式対舟艇対戦車誘導弾である。


 日本の国情に考量して開発された79式対舟艇対戦車誘導弾は対戦車攻撃だけでは無く、上陸舟艇への攻撃能力を持つ、誘導弾だ。


「照準よし!」


 照準器を担当する誘導手が報告する。


「撃て!」


 射撃小隊長の指示が飛び、隊員が発射ボタンを押す。


 並べられた発射機から、次々と対戦車榴弾を弾頭に装備した誘導弾がオレンジ色のロケット噴射し、高速で飛翔する。


 同時に上空にいるAH-1S群からも対戦車誘導弾であるTOWが発射される発射音と飛翔音が響いた。


 数10発以上の対戦車誘導弾は何の躊躇いも無く、M4A1中戦車やその他の車輛に命中した。


 M4A1中戦車の装甲板を貫き、対戦車誘導弾が内部で炸裂し、一瞬のうちに中戦車、車輛群を炎の塊に変えた。


「第1射、全弾命中!前進中の敵戦車中隊は5割以上損失!後続の歩兵部隊も3割以上を損失!」


 前進観測班から無線で報告される。


 第1戦闘団と会敵した連合軍部隊はすでに全体の4割以上を失った事になる。


 つまり、軍事上の常識としては進撃中の連合軍部隊は、全滅した事になる。


 通常、部隊の損害で全滅、壊滅、無力化の規定はいくつかの細かな規定があるが、基本的に4割以上を失ったら全滅、3割以上で壊滅、1割以上で無力化とされる。


 しかし、これは師団又は旅団編成での事であるが、わかりやすく言えば、こう説明される。


 ただし、後方の態勢や増援部隊を即時投入できる場合は例え4割以上の損耗を出しても全滅扱いにならない事があるが、そう言った状況はあまり多くない。


「・・・連合軍残存兵力を結集し、進撃続行中!進撃速度に変化なし!」


 観測班からの報告が入ると、すぐに連合軍側からまったく理解できない現象が起きた。


 なんと、照明弾が何発も発射され、暗い戦場を明るく照らしたのだ。


「どういう事だ?」


 射撃小隊の隊長はまったく意味がわからなかった。


 こちらは暗視装置や赤外線装置等を駆使し、圧倒的すぎる火力で連合軍を圧倒している。


 なのに、さらに狙いの的になるような行動をとる意味がまったくわからないのだ。


「第2射用意!」


 対戦車中隊本部から指示が出る。





 照明弾の中でも榴弾砲から撃ち出す照明弾が発射され、第1戦闘団の防衛陣地を明るく照らした。


 大規模な榴弾砲による火力支援でも来るのか、と思ったが、そんな事はまったくなかった。


 それどころか次々と照明弾が上げられている。


「アメリカは何を考えている・・・」


 74式戦車の車長席で古村はその光景を見ながら、つぶやいた。


「全小隊に告ぐ、射撃用意!対戦車隊と対戦ヘリと共同で進撃中の連合軍に攻撃を開始する」


 中隊長の通信が直接ヘッドセットから響く。


「射撃用意の指示が出た。いつもの通り訓練通りにやれ!」


 古村は車内にいる3人の部下に言った。


 74式戦車は車長、装填手、砲手、操縦手の編成である。


 無線手がいないのは、通信機能が向上した戦後の戦車には必要が無いからだ。


 古村が乗る74式戦車の砲塔がゆっくり旋回し、進撃中の連合軍部隊へ砲口を向ける。


「照準よし、いつでも撃てます!」


 砲手を担当している陸曹が報告する。


「車長。自分もいつでも榴弾から徹甲弾まで何でも装填できます!自動装填装置に頼っている90や10には負けません!」


 装填手の陸曹もやる気のある声で、古村に言った。


「こいつは俺たちと同様に歳を取った。だから、10だの90だのに乗り込む若造どもに戦車のお家芸をここで見せるぞ!」


 古村はそう叫んだ。


 第1戦闘団戦車中隊に所属している戦車乗りはかなり平均年齢が高い。


 もともと74式戦車一本の戦車乗りがこの中隊に集まったのだ。


 74式戦車は16式機動戦闘車と10式戦車の配備で退役が進んでいる。


 いくら存続が認められても、それは全部では無い。


 当然、退役した74式戦車に搭乗していた隊員は新しく導入された10式戦車又は16式機動戦闘車に乗り換えるか、他の部隊に異動するかのどちらかだ。


 古村が所属する戦車中隊の戦車乗りたちは全員10にも16にも乗り換えなかった隊員たちだ。


 そのため、気合に関しては熱血親父よろしく、と言った感じで極めて高い。


「各小隊。進撃中の残存連合軍部隊に向けて射撃開始。撃て!」


 中隊長の指示で古村は「撃て!」と叫んだ。


 その瞬間、74式戦車の105ミリライフル砲が吼えた。


 これまで、射撃演習や駐屯地祭等で74式戦車の戦車砲が吼える経験は何度も経験しているが、今回の経験は今まで味わった事も無い感情が、心の奥底で湧いてくる。


 しかし、その感情は拭き出したアドレナリンが緩和した。


 18輌の74式戦車から放たれた105ミリ砲弾と、対戦車隊、対戦ヘリ隊から発射された対戦車誘導弾及びロケット弾が、進撃中の連合軍部隊に襲い掛かった。


 僅かに残った戦車を火の塊にし、後続の歩兵部隊にも襲い掛かり、彼らを吹き飛ばした。


「命中。攻撃続行!続いて撃て!」


 中隊長から指示が飛ぶ。





 リアルタイムでその映像を見ていた第1戦闘団司令部では、連合軍は、進撃をやめるどころか、さらに増援部隊を送っているとの報告を受け、佐々倉は鼻を鳴らした。


「もはや、容赦無く攻撃するしかない。特科隊に攻撃開始を指示。それと上空待機中のF-2に航空攻撃開始を指示せよ」


 佐々倉の指示はすぐに実行された。





 戦車中隊、普通科部隊が展開している防衛陣地より後方の場所に設置されている、4門の155ミリ榴弾砲FH-70が一斉に火を噴いた。





「コントロールより、タイガー1、2へ。航空攻撃を開始せよ」


 トラック諸島夏島航空基地に設置されている航空作戦指揮所から第1戦闘団が戦闘を開始している地域上空を飛行中の2機のF-2改に爆撃開始の指示が届いた。


「こちらタイガー1、ラジャ。爆撃を開始する」


 タイガー1のコールサインを持つ、F-2改のパイロットである1等空尉はディスプレイを操作し、JADMを選択する。


「レーザー照射」


 レーザー誘導であるJADMは地上部隊又は対地攻撃能力を持つ航空機からレーダー照射する必要がある。


「第1次攻撃開始」


 1尉がそう言うと、JADMの投下ボタンを押した。


 F-2改の左右の主翼下に搭載されている4発のJADMの内、2発が切り離された。


 後続機からも2発のJADMが投下された。


 4発のJADMはそのまま、落下し、着弾地点に正確に落ちるよう微調整しながら、弾着する。


 230キロの炸薬が炸裂し、すさまじい爆発が起きる。榴弾砲や戦車砲の砲弾とは比べものにならない程の爆発が起きる。


 その後、すさまじい爆風と衝撃波が発生する。


 恐らく、これでかなりの数の連合軍兵士が命を落としただろう。


 すぐに爆撃効果確認の作業が行われる。


「残存中の連合軍部隊は進撃を中止し、退却を始めた」


 OH-1からの報告が入る。


「全部隊に告ぐ、攻撃中止。別命あるまで待機せよ」


 第1戦闘団司令部からの新たなる指示が入る。





 夜間、日本軍との本格的戦闘が開始され、アメリカ海兵隊第1海兵師団を含むオーストラリア軍、ニュージーランド軍の陸軍部隊で混成された連合軍が日本軍の防衛陣地に攻撃を仕掛け、その鉄壁と言うべき防衛線を突破できず、退却してから、数時間後。


 夜が明け、それらの報告を聞いたヴァンデクリフトは司令部テントでコーヒーを飲みながら、黙っていた。


「この武力偵察結果は?」


 ヴァンデクリフトは静かに幕僚たちに聞いた。


「コヨーテ隊(特別偵察隊)が撮影した写真や映像は陸海軍参謀本部及び海兵隊司令部からの指示通りの日本軍の新兵器を撮影する事ができました。夜間だったので、少し心配でしたが、月明かりと照明弾の効果のおかげで十分な日本軍の戦闘データを入手する事ができました。コヨーテ隊、護衛隊は1人の脱落者も出さずに無事、帰還しました」


 幕僚の報告にヴァンデクリフトは目を閉じて、聞いた。


「我が軍の損害は?」


「はっ、第1海兵師団とオーストラリア軍、ニュージーランド軍の混成部隊を合わせて、戦死者及び行方不明者は5000人を超えています。参加上陸兵力の3分の1を失いました」


 幕僚の報告を聞いて、ヴァンデクリフトは思った。


(負傷者はこの倍以上か・・・いくら、敵の詳細な情報が必要だからと言って、兵たちにこのような命令を出すのは、正直、きつい・・・)


 ヴァンデクリフトは苦虫を噛み潰したような表情になった。


「1つ、聞きたい。これ以上の情報収集を目的とした攻勢は必要か?」


 ヴァンデクリフトが幕僚たちに質問すると、幕僚たちは、必要なしと答えた。


 それを受けて、ヴァンデクリフトは撤退準備にかかるように、指示を出した。


 もともと、予定されていた事だから、撤退作業はスムーズに進んだ。


 日本軍の陸上部隊の新兵器等の戦闘データは十分に入手した。


 後はワシントンDCにいる上の連中がその写真や映像等を分析して、対策を考えるだけだ。


 ニューブリテン島攻略の本当の任務は単なる情報収集だ。


 ハワイ、フィリピン等の日本軍の侵攻で確認された、見た事も無い兵器の出現に、アメリカ陸海軍等を含む対日戦略を計画した政府機関、各省は計画を大きく変更しなければならなかった。


 そのため、威力偵察、挑発行為、そして、今回のような武力偵察で情報収集を行わなければならなかった。


 目的が達成できたのだから、後は撤退だけだ。


 もちろん、これはニューブリテン島攻略に参加したアメリカ海軍、オーストラリア海軍、ニュージーランド海軍の連合艦隊も同じだ。


 しかし、これは海軍の仕事であり、ヴァンデクリフトの仕事では無い。


 策動の太平洋 第10章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

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