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策動の太平洋 第8章 反攻作戦の序曲 1 策動の太平洋

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

 今回の話は2話同時投稿です。

 

 今回登場人物の中で、差別的発言をする人物が出てきますが、この時代ではこういう人物もいるだろうという事で書いています。

 そういった表現が嫌いな人がいましたら、すみません。

 

 南太平洋洋上。


 100隻以上の輸送船団が護衛艦隊に守られながら、南の海に白い航跡を引いていた。


 その輸送船団と護衛艦隊は、3つの国旗が掲げられていた。


 アメリカの星条旗、オーストラリア国旗、ニュージーランド国旗である。


 開戦以来、アメリカは日本軍の進撃により負け続けており、今回の作戦は日本軍がオーストラリア等の南太平洋にある大陸や島々へ侵攻するのを阻止するためだ。


 アメリカ海軍籍の輸送船の甲板で、アメリカ海兵隊の戦闘服を着た兵士たちが雑談していた。


「・・・その時エマは、俺にこう言ったんだ。『私のすべては貴方のもの』ってな」


「それで?」


「おっと、それ以上はナイショだ。野暮はナシだぜ」


 1人の兵士の話に数人の兵士たちが聞き入っている。


 その傍らではラジオから賑やかな音楽が流れている。


 戦場へ向かう時でも明るい話題とジョークは欠かさない、アメリカ人らしいといえばアメリカ人らしい。


「ああ~、早くジャップとの戦争を終わらせて、故郷でエマと結婚式を挙げてぇ~」


「ちくしょう~、お前だけに良い思いをさせねえ。俺も戦争を終わらせて、良い女を見つけて結婚するからな!」


 笑い声が響く。


「これから行く島に良い女はいねえ。猿みたいな野郎ばかりだからな~」


 茶化すようなセリフに、さらに笑い声が大きくなる。


「日本人は決して猿では無い。古い時代の教えを心から愛し、サムライの魂を持った戦士なのだぞ」


 黒色が混じった茶色の髪の男が、同僚の軽口に反論した。


 彼はアメリカ海兵隊第1海兵師団第1海兵連隊に所属するジョン・エファーソン3等軍曹である。


「日本軍に占領される前のハワイで日本人と会った事があるが、とても戦士には見えなかったぜ」


 がっちりした体格の同僚が言った。


「どんな感じだった?」


 エファーソンが聞く。


「一言で言うなら、小男、小女だったぜ。まだ、昔のインディアンどもの方がはるかに戦士らしい。野蛮人という意味ではだがな」


 同僚の言葉には、侮蔑の響きがある。


「だが、相手は日本人だろう。まともな近代国家でもなかった頃に、2つの大国に圧勝したぞ。特にすごいのはロシア帝国と戦争した時だ。ロシア陸軍は新しい戦術である機関銃銃座を配備した陣地で日本兵と戦ったそうだが、昔ながらの突撃戦法に敗北した」


 ロシア語訛りの英語を話す同僚がつぶやいた。


「俺も祖父から聞いたが、日本兵は殺しても、殺しても、地面からわき出るように次々と現れるそうだ、とても恐ろしかったと言っていた」


 同じくロシア語訛りの英語を話す兵士もその言葉を肯定した。


「そんな、悪魔の秘術のようなものを使っているのか日本人は・・・?」


「そういえば、日本は宇宙人と手を組んだそうだ。俺たちが想像できない超兵器を保有しているとか・・・」


「宇宙人どもは、今の世界を滅ぼして、新しい世界を創ろうとしているそうだ。ジャップどもは連中に洗脳されて、操り人形にされたそうだ」


「そう言えば、海軍のハルゼー提督は空母を宇宙人に沈められた時に何かされて、頭がおかしくなって、海軍病院に入院しているとか・・・」


「・・・・・・」


 噂というものは、人伝てに伝わっていくうちに、尾鰭がつくものだが、当の自衛官たちが聞けば、「知らね~よ!!」と言いたくなるような噂が広まっていた。


 それまでの陽気な雰囲気は消え、誰もが日本兵に対し、弱音を吐いていた。


「日本兵と遭遇したら・・・それより、宇宙人と遭遇したら・・・どうしたら、いいのか・・・」


「何を、弱音を吐いている」


 その時、1人の士官が背後から彼らに声をかけた。


 エファーソンたちが振り返ると、そこには自分たちの上官が立っていた。


「中隊長!」


 エファーソンたちが慌てて立ち上がる。


「そのままで良い。まあ、聞け」


 中隊長が穏やかな口調で言った。


「お前たち、日本人を過大評価も過小評価もするな」


「で、ですが、かつてのロシアでは日本兵は戦いに優れた戦士と言われていました。死を恐れず、天皇万歳と叫びながら、突撃してくるそうです。彼らは、攻略しろ、と命令を受けたら、攻略するまで死体の山を築いても、突撃するのをやめないそうです」


 海兵の1人が告げる。


 中隊長は笑みを浮かべて、部下たちの危惧している事を解決した。


「そんな事は無い。彼らも死を恐れるし、共に戦う仲間が死ぬのを恐れる。俺は友人の1人に日本軍将校がいる。その友人と話して、わかった事があるが、彼らも我々と同じだ。天皇を神として崇めているが、心の中では家族や恋人と楽しい日々が送れるよう夢を見ているのだ。我々と同じ人間だ。決して人外を越えた者たちでは無い」


「では、宇宙人はどうなのですか?とんでもない、モンスターの軍団がいるとか・・・」


「戦場では、そういったオカルト話はつきものだ。三流新聞の部数伸ばしのための、ガセネタに惑わされるな。記者という連中はピンからキリまでいる。レベルの低い奴はどんな嘘でも、さも本当のように書き立てるからな。騙されてはいかん」


 そう言った後、中隊長は部下たちの顔を見回した。


「軍人魂は国が違っても、どの国軍にもある。我々にもアメリカ軍人としての魂があるように彼らも日本軍人としての魂がある。彼らが宇宙人の手先になったなどナンセンスだ。自分の国を愛する気持ちは、どの国の人間でも変わらない。それを忘れずに戦え」


 中隊長の言葉にエファーソンたちが「サー・イエス・サー!」と叫んだ。


「ああ、そうだ。エファーソン軍曹。師団長がお呼びだ。君にしかできない特別任務がある。すぐに俺と来い」


「サー!」





 アメリカ海兵隊第1海兵師団長であるアレクサンダー・ヴァンデグリフト少将がいる執務室のドアを中隊長がノックした。


「入れ」


 執務室から入室の許可が出た。


「失礼します」


 中隊長がドアを開けると、中隊長の後を追って、執務室に入った。


「ジョン・エファーソン3等軍曹を連れてきました」


 中隊長が、執務室のデスクに座る中肉中背の中年の男に声をかけると、彼は机を指でトントンと叩きながら、顔を上げた。


「2人共、休め」


 デスクに座るヴァンデクリフトが大きくない声で言った。


 中隊長とエファーソンは、不動の姿勢から休めの姿勢になった。


「エファーソン軍曹。君の軍歴は見た。海兵としてはなかなかの成績だ。射撃、対人格闘、戦う兵士としては十分なものだ。だが、軍人としての軍歴以外の経歴はあまり感心しない。中学校では乱闘騒ぎを起こし、高校でも在学中に教師を殴り、全治5ヶ月の重傷を負わせる問題児。その後、高校を中退。職歴はなかなかのものだな。どれも1年ぐらいの勤務だが、どれも高度な技術が求められるものだ。君は技術者希望だったのか?」


 ヴァンデクリフトが聞いた。


「いえ、給料が良かったからです、サー」


 エファーソンがすぐに答えた。


「それなら、なぜ、海兵隊に入った。君が海兵隊に入る前に勤務していた仕事は海兵隊の兵卒の月給よりも1.5倍はいいぞ」


「確かに給料だけで判断すればその仕事がいいです。しかし、その仕事は給料だけはいいのですが、退屈な仕事です。やはり、自分は喧嘩がするのが何より好きなのです。そのチャンスを与えられるから、海兵になりました、サー」


 エファーソンの言葉にヴァンデクリフトがうなずいた。


「君に極めて困難な任務を任せたい。まあ、何事も起きなければ退屈な任務だが、日本軍に見つかれば少数で多勢の日本兵と戦わなければならない。やってみるか?」


 ヴァンデクリフトが質問する。


 エファーソンは何も考えず、即答した。


「やります、サー」


 戦えるのならエファーソンは、文句を言う気はなかった。


 ヴァンデクリフトがうなずき、エファーソンにその任務内容を説明した。


「君は、この武力偵察のために特別に編成された、偵察隊の護衛部隊に入ってもらう。この偵察隊は自然と共に生きるインディオたちで編成された偵察隊だ。君が所属する護衛部隊は万が一偵察活動中に日本兵と遭遇したら、その偵察隊が安全な場所に逃げ切れるまで日本兵を食い止めてもらう。それだけだ」


 ヴァンデクリフトの説明にエファーソンは疑問に思った。


(武力偵察・・・?)


 聞いたこともない言葉だ。


 偵察は2つの種類に別けられる。


 隠密偵察と威力偵察である。


 隠密偵察は敵に気づかれないように敵の各種情報を収集する。


 一般的に偵察とは隠密偵察がイメージされる。


 威力偵察は部隊を展開し、小規模な攻撃を行い敵の動き等を把握するものだ。


 武力偵察という偵察区分は存在しない。


 ヴァンデクリフトがエファーソンの表情を見て、彼の疑問に気づいた。


「これから話す事は極めてレベルの高い極秘事項だ。それでも聞きたいか?」


 ヴァンデクリフトが聞くと、エファーソンはうなずいた。


 エファーソンには、この第1海兵師団の本当の任務が聞かされた。


 第1海兵師団とオーストラリア、ニュージーランドの連合上陸軍そのものが、偵察部隊なのである。


 上陸部隊2万名は、目的地のニューブリテン島に強襲上陸を行う。


 ニューブリテン島の日本軍守備隊は、陸軍と海軍陸戦隊だけでも4000名であり、他に航空隊や駆逐艦群がいる。


 だが、それだけでは無く、ニューブリテン島には、日本とアメリカが開戦して以来、現れている新兵器が配備されている。


 今回の上陸はニューブリテン島攻略では無く、その新兵器の情報を収集する事である。


 それがヴァンデクリフト指揮の連合上陸部隊の任務だ。


 最後にヴァンデクリフトは、苦虫を噛みつぶしたような表情で告げた。


「今回の作戦行動は、ハワイ奪還作戦に向けての非常に重要な布石なのだ。そのために、君たちの偵察部隊の護衛任務は最も重要な任務だ。ただし、1つ誓約してもらう。君たちがこれから行う任務中に、見聞きした事は他の部隊の同僚たちに一切口外してはならない。よいかね?」


 その口調は、どこか嫌悪と躊躇いを感じているようにエファーソンには思われた。


「サー・イエス・サー」


 特に深く考えず、エファーソンは答えた。


 ヴァンデクリフト自身が今回の任務に、疑問を覚えているように見える。


 しかし、自分には関係のない事だ。





 2人を退室させた後、ヴァンデクリフトは大きくため息をついた。


「大統領の取り巻き連中は、何を考えているのだ。一体、大統領に何を吹き込んだ!!こんな、国民である兵士たちを使い捨てるような作戦を、大統領の命令で押しつけてくるとは・・・」


 数週間前、特別命令という事で、大統領の側近が口頭で大統領令を伝えてきた。


「!!」


 ヴァンデクリフトは、腹の底から湧き上がってくる怒りのままに、作戦計画書のファイルを目に見えない何かに思い切り叩き付けた。





「エファーソン軍曹」


 執務室を退室し、歩きながら上官は小声で話しかけてきた。


「さっき、俺の友人の話をしただろう」


「はい」


「去年の夏だった。国同士の関係はあまり良くなかったが、俺とその友人の友情には関係なかった。その友人から手紙がきた。それには、『陛下が幽霊に洗脳された。自分はなんとしても陛下を幽霊どもからお救いし、お目を覚まして頂くために戦う』といった内容が書かれていた」


「何です。それ?」


「わからん」


 エファーソンの問いに、上官は短く答えた。


「わからんが、日本でこの1年程の間に何か尋常でない事が起こったのは確かだ。彼は冷静に物事を判断できる男だ。浅はかな考えで動いたりはしないし、妄想に囚われる事もない。去年の9月に日本で大地震が起こったことは知っているな」


「はい」


「あのすぐ後に、友人に手紙を送ったのだが・・・返事はこなかった・・・」


「・・・・・・」


「すまんな。重要な任務の前に、こんな話を聞かせて・・・貴官らには、全てありのままを見てきてほしい。俺たちも知りたいのだ。アメリカと日本の戦争の行き先がどこに向かうのかを・・・」


「申し訳ありませんが、自分にはそのような難しい話はわかりません。しかし、任務は確実に遂行します」


 一介の海兵隊員でしかないエファーソンには上の思惑はわからない。


 ただ、受けた命令を忠実に実行するだけである。





 ハワイ諸島が大日本帝国陸海軍に占領された翌日にニューブリテン島も、大日本帝国陸海軍の上陸を受け、わずか数日で陥落した。


 ニューブリテン島を占領した目的は、南太平洋から北上する可能性がある連合軍の攻勢を阻止するのと、オーストラリア等の連合国に属する国家への威嚇目的である。


 ただし、守備隊の数は最小限で陸海軍合わせても5000名程度であり、それ程多くない。


 しかし、連合軍が強襲上陸を開始した場合は、ただちにトラック諸島等から増援部隊が派遣される事になっている。


 ここは南太平洋から連合軍の北上を阻止するための日本の防衛地点であるから、菊水総隊から陸上自衛隊の部隊が派遣されている。


 ただし、部隊は師団や旅団では無く、戦闘団編成の部隊が配備されている。


 ラバウル地区に独立編成された第1戦闘団が簡易な駐屯地を造り、駐屯していた。


「こいつの状態はどんな具合だ?」


 迷彩服と作業帽を被った、日に焼けた肌の色の小柄の男が、今の陸上自衛隊では退役しているOD作業服と隊員たちの間で呼称される65式作業服を着た、第1戦闘団後方支援隊戦車直接整備隊の陸曹に声をかけた。


 迷彩服が陸上自衛隊の被服として登場する前まで、65式作業服が戦闘服としても使用された。


 だが、迷彩服が全隊員に貸与されると、その姿を消しつつあったが、現在では私物として現職の自衛官が購入し、車両整備等の汚れやすい作業をする時に、この作業服が使用される。


 それはタイムスリップした自衛官たちも同じだ。


「10式戦車、16式機動戦闘車が登場したからと言って、まだまだ、こいつの時代は終わりではありませんよ」


 整備員の陸曹が整備中の74式戦車の整備の手を止めて、立ち上がりながら、つぶやいた。


「そうだな。第14機動旅団が16式機動戦闘車を配備してから、こいつは中部方面隊の管理の下で廃棄処分されるはずだったが、活躍の場が与えられた」


 迷彩服の男はこの74式戦車の車長であり、第1戦闘団戦車中隊第3小隊小隊長付け陸曹である古村(ふるむら)(じゅん)()1等陸曹である。


 10式戦車、16式機動戦闘車の調達により、74式戦車は順次退役したが、世の中は思ったように行かない。


 2016年以降、法改正と防衛予算の増額により、陸海空自衛隊が定員の増員、新しい装備、艦艇、航空機の調達が開始され、特に装備の調達は海空自衛隊が優先された。


 そのため、10式戦車の調達数が減少し、74式戦車の退役が見送られた。


 そのおかげで、まだまだ、74式戦車は現役である。


「こいつの整備はしっかり頼む。もしかしたら、90式戦車、10式戦車より先にこの74式戦車が実戦を経験するかもしれん。今後の戦いのためにも存分に戦えるようにしてくれ」


 古村が整備員の陸曹の肩を叩いた。


「任せてください。でも、こいつは実戦を経験せず、鉄屑になる事を望んでいるかもしれませんが・・・」


 整備員の陸曹が74式戦車の車体を愛おしそうに撫でながら、つぶやいた。





 ラバウルに置かれているニューブリテン島守備隊司令部の会議室ではニューブリテン警備団司令官である汲崎(くみざき)(よし)(もり)少将とその幕僚、歩兵聯隊、騎兵隊、警備団戦車隊、警備団砲兵隊、警備団工兵隊等とニューブリテン島海軍陸戦隊、ラバウル飛行場に配備された陸軍航空隊、海軍航空隊の指揮官クラスが集まり、菊水総隊陸上自衛隊第1戦闘団の団長である佐々(ささくら)1等陸佐と統合省防衛局団長付防衛政務官補の尾柿紗(おがきさ)()の2人以外に海空自衛官の佐官クラスが2人、会議室の席にいる。


「陸軍参謀本部からの情報によれば最近になってオーストラリアとニュージーランド、アメリカの統治下にある軍港で、動きがあるとの情報が入った。陸軍参謀本部の予想では近い時期にニューブリテン島への強襲上陸があると予想される」


 汲崎の言葉に海軍陸戦隊の指揮官である海軍大佐がうなずいた。


「その事については海軍軍令部でも予想されている。もっとも、我々以上に情報を把握している連中がここにいるがな・・・」


 海軍陸戦隊の大佐が緑色を基調した迷彩服、青色を基調した迷彩服、灰色を基調した迷彩服、紺色と黒っぽい青の色をした作業服を着た男女に視線を向けた(防衛局から派遣された文官以外は男性である)。


「その事については、予想できた事ではないのですか?」


 キーボードを叩きながら、若い女性の声が会議室に響いた。


 尾柿はノートパソコンの画面に視線を向けながら、続けた。


「人類が誕生してから、戦争において当事者たちの予想通りに物事が進んだ試しはありません。ハワイが占領されたからといって、アメリカ軍がハワイ奪還だけに神経をそそぐ訳がありません」


 尾柿は40歳未満の女性だが、防衛局に所属する局員の中ではかなりの切れ者に入る文官だ。


 彼女の家系は、男子は全員大日本帝国陸海軍の将校であり、戦後も男子は警察予備隊、保安隊、自衛隊に籍を置いており、世に言う軍人家系である。


 尾柿はそれなりの名門大学で西洋史、東洋史を勉強し、防衛省でも将来を期待された人材として入省した。


 しかし、ずば抜けた観察能力、分析能力、情勢判断能力が災いし、同僚からも上司からも快く思われていない。


 大学で西洋近代史と東洋近代史の勉強を専門としていたため、第2次世界大戦についてはかなり詳しい。


 尾柿にもっともな意見を言われて、帝国陸海軍幕僚や指揮官クラスたちは黙るしかない。


「まったく、未来の日本の女性はどいつもこいつも、男より肝っ玉が強いな。これでは男の見せ所がないな・・・」


 ニューブリテン警備団歩兵聯隊長である大佐がつぶやいた。


 その大佐は男性自衛官たちに、同情するような視線を向けている。


 尾柿はまったく気にせず、ノートパソコンのキーボードを叩きながら、画面を見続けている。


「それに我々と違い。自衛隊は自分たちだけで決定する権利が無い。すべて文官や文民の判断が求められる。日本固有の領土を守るだけならともかく、これでは、うかつに戦火を広げられない。軍人の地位は小さくなったものだ・・・」


 ニューブリテン警備団の幕僚がつぶやいた。


「それでいいのです。軍人が国防のため、国家の利益のため、という理由で勝手に戦火を広げられては勝てる戦争も勝てません」


 尾柿は簡単に彼らの主張を跳ね返した。





 深夜。


 密かに上陸舟艇で、ニューブリテン島に上陸した特別偵察隊(通称コヨーテ隊)。


 先に砂浜に足をつけた、エファーソンたち護衛小隊が周囲を警戒する中、大日本帝国陸軍の軍服に似せた服を着用した、ネイティブ・アメリカンの男たち(軍属)が、カメラや撮影機等の機器を持って降りてきた。


「チッ。あんな格好をしていると、ますますジャップにそっくりだな。所詮、野蛮人は野蛮人という事だな」


「貴官は、インディアンを嫌っているのか?」


 何気なしにエファーソンは尋ねた。


「嫌いという言葉は、同じ人間に対して使う言葉だ。奴らは人の皮を被ったケダモノだ。俺の爺さんの叔父さんは、60年ちょっと前に奴らの卑劣な奇襲に遭って、惨い殺され方をしたんだ。爺さんは死ぬまで奴らを憎んでいた」


 60年以上も前の事を、蒸し返すなよ。とエファーソンは思った。


 そもそも、あの戦いの発端は、ネイティブ・アメリカンとの協定を一方的に破って、彼らの聖地へ遠征を行った連邦政府側に問題があるだろう。


 この同僚の言っている、奇襲にしても功名心に駆られたのかどうかはわからないが、連隊長のジョージ・アームストロング・カスター率いる第7騎兵隊の無謀な強攻策が原因である。


 たまたま、第7騎兵隊に所属していたらしい、彼の祖父の叔父は、不運だったとしか言いようがないが。


「頼むから、私怨で任務をぶち壊さないでくれよ・・・」


 ため息をつきながら、エファーソンはぼやいた。

 策動の太平洋 第8章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

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