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策動の太平洋 第7.5章 苦い結末

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

[いずも]の司令公室で、特別救助隊の被害状況が報告された。


 土川が報告書を持って報告した。その手はかすかだが、震えていた。


「撃墜されたCH-47JAは跡形も無く爆発炎上し、ほとんど原形はありませんでした。当機に搭乗していたパイロット、機上整備員、医官、看護官、保安要員たちは全員死亡。遺体どころか、骨すら灰になりました。地上にいた隊員、難民たちの犠牲者は15名です。負傷者は30名以上です」


 土川の報告に司令公室は重い空気が流れた。


 この時代にタイムスリップした時から、ここにいる自衛官たちは死ぬ覚悟はしていた。


 しかし、開戦開始から今日まで戦闘による戦死者はいなかった(フィリピンでの非公式の作戦で戦死した特別警備隊(SBU)の隊員1名は公式記録では病死であるため、ここにいる者たちは知らない)。


 戦争で死ぬのならば理解できるが、難民の救出活動中に襲撃され、犠牲者が出たのは、とても、割り切れるものでは無い。


 内村はじっと目を閉じて、重い空気に耐えていた。


 そもそも、救助を待つ難民たちの周辺地域を念入りに偵察しなかった。


 確かに改修され、偵察能力等が向上したOH-1で偵察させたが、このような事態になった。


 後でこの事について、なぜ、そうなったかをイギリス陸軍将校に原因について聞いてみると、そもそも偵察飛行をさせた時間が問題だった、と言う。


 もっとも太陽がぎらつく時間帯に偵察させても、赤外線カメラを含む各種偵察機材では現地の地形を完全に把握した武装勢力と彼らが保有する兵器を発見する事はかなり難しい。


 どんなに時代が進歩しても偵察方法の基礎はあまり変わらない。


 人間が空から偵察をする術を考えた時点で、その対策は同じ時期に議論された。


 そして、さまざまな偽装工作が誕生した。


 その工作は各国の軍隊どころか、武装グループ等でも数多く存在する。そのため、各国軍の情報部でも把握してない事もある。


 ただ、1つ言えるのは古代から使われている偽装工作で、いくつかのものは現代の偵察機器を最大限に使用しても発見できないものもある。


 これはゲリラ戦術を最大の武器にして、戦った軍隊や民兵の戦闘記録を見ればわかる。


「・・・人命救助に行って、殺されるのはとても救いようがない話だな。もともとある程度の犠牲者が出る、という事を想定していても、とても心情は暗いものだ」


 内村がつぶやいた。


「首席幕僚。救出対象者の艦の収容はどこまで進んでいる?」


 内村はもう1つ確認しておかなければならない事案を聞いた。


「[しもきた]、[のつけ]に救出対象者はすべて収容しました。これで外務局の要請をすべて完遂しました。後は帰投するだけです」


 村主が報告書を見ながら、報告した。


 救出対象者の在留外国人は救出派遣艦隊がすべて収容した。一応、彼らの任務は完了した。


 かなり後味が悪い結果ではあるが・・・


 村主の表情と顔色がそれを物語っていた。


 最悪の事態は避けられたものの、対策はすべて後手に回ってしまった。


 結果、犠牲者を出してしまった。


 罪悪感と後悔に精神を苛まれても、それを表情に出すこともできない。


 村主の感じている苦痛は、ここにいる誰よりも深い。


「では、これより、我が艦隊はオアフ島真珠湾基地に帰投する。護衛艦は対空、対水上、対潜警戒を厳にし、帰路につく」


 内村はそう指示すると、司令公室にいる陸海の自衛官たちがうなずいた。


「この時代に来て、初めて海外の土地で命を落とした自衛官が、日本共和区平和神社に祀られるのか・・・」


 内村は小さくつぶやいた。


 日本共和区平和神社とは、日本共和区に建てられた神社の1つだ。


 戦死、殉職した自衛官たちを祀るために建てられた神社だ。


 当初、自衛隊員から「不吉だ!」、「勝手に殺すな!」等と反対があったが、警察、消防等は日本共和区に殉職した後に祀られる神社を創る話が持ち上がった時、これに9割以上の警察官、消防吏員等が賛成した。


 そのため、自衛官たちもしぶしぶ承諾した。


「今、思えば作ったのは間違いでは無かった」


 内村は小声でつぶやいた。





 深夜。


 夜間照明になった通路をレイモンドは1人で歩いていた。


 どうしても、眠れなかったので甲板で夜風に当たるつもりだった。


(トウゴ少佐・・・ニノミヤ中尉・・・)


 陸軍と海軍という違いはあるし、祖国も違う。


 それでも、短い間ではあったが彼らとの交友は、レイモンドにとってかけがえのないものだった。


 しかし、もう2人はいない。


「・・・・・・」


 どうしようもない喪失感を覚えながら、レイモンドは冷静に状況を分析していた。


(彼らとて、万能ではない)


 アメリカの総力をもってすれば、決して勝てない相手ではない。


 そう結論付けていた。


 あの後、イギリス軍の部隊の戦闘の様子も見たし、巡洋艦[こんごう]のハープーンと呼ばれるロケット弾(対艦ミサイル)発射の光景も見た。


 マーティはただ、ただ、唖然としていたが、リアルタイムで戦況の推移を確認できる通信技術は驚くべきものだ。


 だが、そこに付け入る隙はある。


 彼らはそういった、高速通信技術の恩恵に慣れている。もしも、何だかの手段でそれを妨害できれば・・・


 こんな時にそう考えている自分に嫌悪感を、感じてはいたが・・・


「・・・スグリ大佐・・・?」


 甲板に先客がいた。


「・・・・・・」


 レイモンドの声に振り返った村主の表情は酷く疲れていた。


「・・・・・・」


 かける言葉が見つからなかった。


 レイモンドは、ふと思いついて無言で村主の手を取った。


「・・・・・・」


 一瞬、村主は驚いた表情を浮かべたが、レイモンドのしたいようにさせてくれた。


「・・・子供の時でした・・・」


 村主の手を優しく撫でながら、レイモンドは独り言のように語った。


「こんな外見ですから、僕は周囲に馴染めず、いつも孤立していました。そんな時、母はこうして僕の手を取って、撫でてくれたのです。子供だましかも知れませんが、こうされる事で辛かったり、悲しかったりする気持ちが溶けていくような気になりました・・・」


 正直、彼女のこんな表情は見たくない。彼女の心の痛みが少しでも和らぐなら・・・


 レイモンドの偽りない気持ちだった。


「・・・・・・」


 村主は無言で聞いていた。


 どれ位、時間が経ったのか・・・


「・・・ありがとう、ラッセル少尉・・・」


 僅かに微笑を浮かべて、村主が言った。


「どういたしまして」


 レイモンドは笑顔を返す。


「ところで、ラッセル少尉」


「何でしょう?」


 村主は悪戯っぽい微笑を浮かべた。


「いつまで私の手を握っているつもりなのかしら?」


「スベスベして気持ち良いので、つい・・・」


 同じように悪戯っぽい笑顔を返しながら、しっかり握った手をレイモンドは離さなかったが。


「まあ」


 そう言って村主は笑った。それは、少女のような無邪気な笑顔だとレイモンドは思った。





「あぁ~ぁ・・・」


 その2人の様子を見てしまった氷室は、気付かれないようにため息をついた。


「良い所を星の王子様に持って行かれたな」


「うきゃん!?」


 後ろからかけられた声に変な声を出す。


「星の王子様?」


「彼の事だよ」


 そう言って、イギリス海軍中佐は顎で、レイモンドを指した。


「彼のセカンドネームのアーナック。あれは、ネイティブ・アメリカンのある部族の言葉で星を意味するからね」


「へ~え。なかなか意味深ですね」


 感心したように氷室はつぶやいた。


「それより、ニューワールド連合軍と君たちの統幕本部より連絡が入った。Bプランの発動だ。[オペレーション・スウェルフィッシュ]と同時進行で計画されていた[オペレーション・USS・IP]を実行段階に移す」


「いよいよですね」


「しかし、この艦隊の誰も気付かなかったようだね。この救出作戦の真の意味を」


「ええ。姉さんは疑問に思ったようですが・・・ヒヤヒヤしましたよ。気付かれたら、僕は姉さんを殺さなくてはなりませんでしたから・・・」


「しかし・・・目的の完遂のためには必要とはいえ、慕っている従姉を殺せるのか?」


「だからこそですよ。他の誰にも姉さんには手を出させません」


 口の端を吊り上げて氷室は笑った。


 幼い時からずっと一緒だった従姉でさえ知らない、もう1人の氷室。


 毒蛇の笑いだった。


 策動の太平洋 第7.5章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

 次回より、アメリカ軍のハワイ奪還戦の序章となる、反抗作戦が開始されます。

 次回の投稿は6月28日を予定しています。

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