間章 10 初陣
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。
[おおなぎ]型通常動力型潜水艦2番艦[ゆうなぎ]はグアム島の海岸から数10キロの距離にいた。
「ソナー。周囲に何か音はないか?」
[ゆうなぎ]の艦長である松永成史2等海佐が目を閉じながら、聞いた。
「こちらソナー。異常なし」
ソナーからの報告に松永は目を開いた。
「潜望鏡深度まで浮上」
「潜望鏡深度まで浮上!メインタンクブロー!」
潜航指揮官が号令を出し、[ゆうなぎ]のメインタンクから大量の海水が排水される。
「深度50、40、30、潜望鏡深度です」
潜航指揮官が報告する。
「潜望鏡を上げ」
松永が指示すると潜望鏡が上がる。
[おおなぎ]型潜水艦の潜望鏡は前型の[そうりゅう]型潜水艦と同様に艦長等の一部の士官が潜望鏡を覗くのでは無く、潜望鏡に装備された360度回転可能な高性能カメラで外の映像を撮影し、発令所のモニターで高性能カメラが捉えた映像を見る。
高性能カメラが360度すべての映像を撮ると、潜望鏡は自動的に下がる。
「海上の様子は異常ありません」
副長がつぶやく。
「浮上しろ」
松永が指示すると潜航指揮官が指示し、[ゆうなぎ]を海上に浮上させた。
「陸上自衛隊即応レンジャー隊レンジャー中隊偵察小隊に連絡。作戦を開始だ」
松永がそう言うと梯子を昇り、艦橋に出た。
月明かりに照らされた黒い海面が目に入る。
[ゆうなぎ]はゆっくりと前進し、グアム島に近付く。
[ゆうなぎ]の艦体は海上でも海中でも高いステルス性を持っている高性能艦だ。
乗員数は前型の[そうりゅう]型潜水艦と同様に65名であるが、特別警備隊(SBU)や特殊作戦群若しくは第1空母機動群に配備されている陸上自衛隊即応レンジャー隊レンジャー中隊等の部隊を1個小隊クラス乗り込ませる収容スペースがある。
松永が艦橋に出て双眼鏡で周囲の海上を確認していると、即応レンジャー隊レンジャー中隊偵察小隊の隊員たちがゴムボートの準備をしていた。
相変わらずグアム島は静かなものだ。
ゴムボートの準備ができ、偵察小隊の隊員たちがゴムボートに乗り込み、エンジン音を出しながら、グアム島に向かった。
彼らが使用するゴムボートは一見すると普通のゴムボートだが、普通のゴムボートでは無い。赤外線装置等に発見されないような工夫が施されている。
「よし、潜航用意。総員、発令所へ」
松永が指示すると、艦橋見張り員たちが発令所に戻った。
ハッチが閉められ、潜航可能になる。
「深度30まで潜航し、通信ブイを上げろ」
「深度30!」
「通信ブイを上げます」
潜航指揮官と通信士が復唱し、指示する。
「[あまぎ]に通信。第1段階に入る、以上だ」
「はっ!第1段階に入る、送ります」
通信士が復唱し、[あまぎ]に通信する。
ゴムボートでグアム島の海岸に上陸した偵察小隊は素早く、ゴムボートを巧妙に隠し、89式5.56ミリ小銃を構える。
「各班へ、これより状況を開始する。ゴー」
偵察小隊隊長から指示を受けると偵察小隊が行動を開始した。
即応レンジャー隊レンジャー中隊偵察小隊は2つの班と本部班で編成されている。2つ班はそれぞれ役目が異なる。
深部偵察班は敵中奥深くに前進し、隠密偵察及び必要に応じて威力偵察も行う。そして、もう一つの班である先遣班はレンジャー中隊の本隊の上陸誘導若しくは空挺降下誘導も担当するのと、それらの援護も行う。
隊長を含めて2つの班の班長には艦砲射撃、近接航空支援等の要請権がある。
[あまぎ]のCDCで緒方はディスプレイを眺めていた。
第1空母機動群は作戦海域に到着しており、いつでもグアム島攻略作戦を開始できる。
「群司令。即応レンジャー隊出撃準備完了しています。命令が出ればいつでも[あまぎ]から発艦できます」
辻村が報告する。
「グアム島の偵察状況は?」
牟田が浜中に顔を向けた。
浜中は偵察隊に連絡し、状況確認した。
「先遣班は上陸地点と降下地点を確保しました。敵の妨害はありません。深部偵察班は仮設の収容所に接近中」
グアム島攻略の第1段階は偵察隊を島に隠密上陸させて、上陸地点と降下地点の候補の確定と安全確保であるのと、グアム島に住んでいる数10人の日本人の救出と安全確保である。
史実でも日米開戦と同時にアメリカ軍にグアム島に住む日本人たちは逮捕監禁されていた。
これは今も変わらない。
史実と異なり、日本政府はアメリカ政府に最後通牒を出しており、グアムにいる日本人は早い段階で逮捕監禁された。
偵察隊深部偵察班は仮収容所を襲撃し、拘束されている日本人たち全員を救出し、彼らの安全を確保する。
史実では逮捕監禁された日本人たちには危害は加えられなかったが、史実通りに守備隊司令官である海軍大佐が素直に降伏する可能性は無く、史実とは異なる状況が予想されるからだ。
「深部偵察班より、報告。目的地に到着しました」
即応レンジャー隊本部中隊に所属する通信小隊の通信員が報告する。
「深部偵察班に連絡。状況開始。しかし、仮収容所を警備するアメリカ軍のMPは可能な限り殺傷するな」
辻村は念を押した。
なぜ、このような命令を出したかと言うと、MPたちは軍人でも無い日本人たちを逮捕監禁しているとは言え、虐待等はしていないからだ。
これは現地にいる協力者から知れされている。
それにMPの数は少なく、十分彼らだけで対応できる。
「群司令。予定通りグアム島への空爆を開始します」
第1空母機動群の空自の先任幕僚である折原が具申した。
「うむ」
牟田がうなずいた。
折原はCDCにいる関島にうなずいた。
関島がうなずくと、ヘッドセットから航空管制室に連絡した。
「攻撃部隊の出撃を許可する」
関島の指示でF-35CJの発艦を知らせるブザー音が艦内に鳴り響く。
CDCのディスプレイの1つに飛行甲板の状況の映像が映し出される。
発艦するF-35CJは6機で4機にJDAMを装着したMk84爆弾を搭載しており、隠密上陸している陸自の先遣班からの誘導で目標を爆撃する。
2機のF-35CJは制空戦闘装備で4機のF-35CJの護衛機である。
この第1次の精密爆撃が完了してから、即応レンジャー隊レンジャー中隊に所属している2個小隊がグアム島に上陸及び降下し、1つの小隊がグアム島守備隊司令部を襲撃し、司令官に降伏を促す。
もう1つの小隊は上陸する海軍陸戦隊の援護である。
必要に応じて第2次攻撃としてF-35CJ隊の準備も行われているし、[みかさ]以下他の護衛艦による艦砲射撃も実施される。
[あまぎ]のカタパルトでオレンジ色の閃光を出しながらF-35CJが発艦する。
「第1空母機動群の初陣が日本の防衛では無く、敵の領土奪取とは皮肉なものだ・・・」
緒方は小さくつぶやいた。
「サーベルタイガー1より、指揮所へ、グアム島に接近中。爆撃まで5分」
サーベルタイガーのコールサインを持つ、航空自衛隊第1空母航空団第101戦闘飛行隊隊長である坂水淳史2等空佐は[あまぎ]のCDCに報告した。
彼が操縦するF-35CJの主翼下にはJDAMを装着したMk84爆弾が4発搭載されている。
JDAMは1つの兵器では無く、無誘導の自由落下爆弾に精密誘導能力を追加させる装置である。この装置を取り付ける事でMk84爆弾を全天候型の精密誘導爆弾(スマート爆弾)に変身させる。
通常はGPS衛星による誘導を行うのだが、この時代にそんなものは無いので、F-35CJから直接誘導する必要がある。
「指揮所より、サーベルタイガー1へ、爆撃目標への爆撃を許可する」
[あまぎ]からの指令が届いた。
「こちら、サーベルタイガー1。ラジャ」
ステルス戦闘機である本機はアメリカ空軍が運用しているF-22[ラプタ―]程の対地対艦攻撃能力、制空戦闘能力、ステルス性能は落ちるが、F-22と同様の第5世代ジェット戦闘機に分類される。
航空自衛隊では、2種類のF-35を採用している。
F-35AタイプをライセンスしたF-35JとF-35CをライセンスしたF-35CJである。
F-35Aはアメリカ空軍以外にも採用国が多く、Aタイプはかなりの数が大量生産されているから、調達費も他のタイプと比べれば安価だ。
しかし、F-35Cはアメリカ海軍の艦上戦闘機として開発され、採用国が他のタイプより少なく、日本仕様にしてしまったため、かなりの高価になった。
牟田が言ったようにF-35CJの調達費は1機当たりF-15J改の3機分(F-35Jであれば2機購入してもお釣りが出る)だ。
坂水は対地レーダーを表示している液晶画面に視線を落とす。
「爆撃開始まで2分前。全機、爆弾投下準備」
坂水は自分以外の3機のサーベルタイガー編隊に告げた。
彼も液晶画面をタッチし、JDAMを装着したMk84爆弾の投下準備に入る。
「爆撃目標にレーザー照射」
レーザー誘導でJDAMを装着したMk84爆弾を誘導し目標を破壊するのである。
「照準よし」
コックピットに表示されているデジタル時計が爆撃時間になる。
「爆弾投下」
坂水は投下ボタンを押した。
主翼下に搭載されている4発の精密誘導爆弾が切り離され、爆撃目標にピンポイントで16発の爆弾が着弾し、炸裂した。
1発につき、400キロの炸薬である。それが16発、キロ数にすると6400キロである。
爆撃された地点はその時、太陽が昇ったように見えたと言う。
「爆撃成功。これより帰投する」
坂水は[あまぎ]に報告する。
「了解」
[あまぎ]からの返答が来ると、坂水は操縦桿を倒し、F-35CJの機首を[あまぎ]がいる方向に向けた。
F-35CJが爆撃したのはグアム島守備隊の駐屯地である。もちろん、司令部を爆撃又は破壊しないように念入りに計算し、駐屯地で兵士たちが休んでいる兵舎、武器弾薬庫、食糧倉庫、発電所、変電所を破壊した。
これでグアム島の防衛機能は完全に奪えた。
グアムで生き残った守備隊は警備配置についている兵士とたまたま外に出ていた兵士ぐらいだ。
それでも半数以上はいるだろうが、予備の武器と弾薬、食糧がすべて灰になった以上は戦闘を継続できない。
グアム政庁の総督室で守備隊司令官であり総督でもある海軍大佐は守備隊が駐屯する駐屯地が爆撃された事を聞かされた。
「なんだと!それで被害は?」
大佐が通信兵に問うと、通信兵は慌てて報告した。
「駐屯地は司令部を残し、壊滅。兵舎にいたアメリカ海兵隊員はほとんどが戦死した模様!」
通信兵の報告に海軍大佐は力が抜けたように椅子に腰掛けた。
「と、いう事は、残存する兵士は警備配置についていたアメリカ海兵隊員と民兵だけか・・・」
海軍大佐がつぶやくと、別の通信兵が総督室に突入してくるように入って来た。
「警備部隊より、緊急連絡!日本軍が上陸してきました!」
「上陸兵力は?」
「1個連隊以上との事です!」
「・・・・・・」
通信兵からの報告に海軍大佐は言葉を失った。
残存する兵力ではグアム島を守る事もできない。
アメリカ軍は日本政府が最後通牒を出した時、グアムの防衛はまったく考えていなかった。日本の勢力圏に包囲されているグアムを防衛したとしても、いたずらに犠牲者を増やすだけだ。
そう結論を出したアメリカ軍上層部はグアムには警備兵力だけを配置したままで海軍大佐が要請した増援部隊は送られなかった。
「もはや、ここまでか・・・」
海軍大佐は満足に抵抗できない事を悟った。
武器や弾薬が破壊されただけでは無く、食糧もすべて灰にされたのでは、グアムに駐留する残存するアメリカ兵やグアムにいるアメリカ市民を含む住民たちを殺す事になる。
軍人として死は恐れないが、無駄死にとわかって兵たちに死ねとは命令できない。
その時、政庁の外で銃声が聞こえた。
「どうした!?」
海軍大佐が叫ぶと、政庁の警備指揮官である海兵隊員が総督室に慌てて入り、報告した。
「日本軍の襲撃です!」
この報告を受けて海軍大佐は決断した。
「警備隊長。反撃は不要だ。全警備兵に降伏するよう指示しろ」
「なっ!」
警備指揮官は声を上げたが、反論はしなかった。
彼もアメリカ軍部の決定は知っている。自分たちは見捨てられた。
ここで抵抗しても無駄である事は彼も理解している。
「・・・イエス・サー」
警備指揮官は小さくつぶやくと政庁で戦っている警備兵に抵抗をやめるように指示した。
「通信兵。各警備部隊に連絡。抵抗をするな。降伏するように指示しろ」
海軍大佐がそう指示すると通信兵たちは総督室を出て、通信室に向かった。
グアム島の戦いは史実とあまり変わらない結果で日本軍に占領された。
グアム島における戦闘は1日もかからなかった。
アメリカ軍守備隊400人中、戦死者150名。負傷者は200名(そのほとんどが、F-35CJの爆撃によるものだった)。50名が無傷だった。
日本軍側は、海軍陸戦隊が民兵との銃撃戦で2名が戦死、5名が負傷した。
グアムに住んでいた日本人数10人は第1空母機動群即応レンジャー隊レンジャー中隊偵察小隊深部偵察班により、解放されたが、1名の隊員が不注意にも誤射し、同僚の足を撃つ事故を起こしたが、それ以外の損害は無い。
捕虜となったアメリカ兵は、民間のアメリカ人等と共に、アメリカ本土に戻りたい者は自衛隊の輸送機でハワイに移送し、オアフ島パールハーバーに停泊している輸送船とハワイ諸島にある民間の船舶に乗せて送り帰そうとしたが、ハワイ諸島の民間人(主にアメリカ人等の白人)が優先されたため、全員を乗せて送り帰す事はできなかった。
そのため、送り帰せないアメリカ兵は菊水総隊が管理する捕虜収容所に収容した(負傷したアメリカ兵等は病院船[こんよう]若しくは菊水総隊が管理する捕虜病院に搬送した。
ほぼ同時期に、アメリカ領ウェーク島は大日本帝国海軍の別動隊によって、占領された。
数週間後、グアム政庁に翻る事になる、見慣れない青い旗と共に掲げられた、アメリカ国旗、イギリス国旗、フランス国旗、カナダ国旗、日章旗と見た事の無い国旗群。
それを見た、グアムの残留民間人と原住民は首を傾げる事になるが、それはまた別の話である。
間章10をお読みいただき、ありがとうございます。
誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。




