間章 9 開戦前
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです
1941年12月1日。
第1空母機動群はF-35CJの墜落事故が解決した後、再発防止と今後の対策をまとめた後、航海試験と運用試験、実戦を想定した各種演習を開始した。
しかし、墜落事故調査でこれらの試験と演習が一時的に中止になり、予定していた試験内容と演習項目を大幅に変更しなくてはならなかった。
そのため、護衛艦の武器評価試験の一部がまったくできず、作戦準備に取りかかる事になった。
「群司令。統合省防衛局より、通信です」
通信士官が艦橋の司令席に腰掛けている牟田に通信文を手渡した。
「うむ」
牟田は通信文を受け取ると、通信文に目を通した。
「艦隊内マイク」
牟田がそう言うと、通信士が艦隊マイクを手渡す。
「群司令より、達する。本日を持って我が艦隊の試験及び演習は終了した。諸君等はよくこの1年間。頑張ってくれた。菊水総隊より、我が第1空母機動群の初陣が与えられた。我々は大日本帝国海軍と共にグアムを攻略する。これまでの成果をふんだんに発揮し、グアム島攻略に全力を尽くせ。以上だ」
牟田はそう言うと艦隊内マイクを置いた。
「艦長。針路変更。マリアナ諸島へ」
牟田がそう言うと、緒方は復唱した。
「はっ!針路変更、マリアナ諸島へ向います」
緒方は坪井に振り向いた。
「航海長。取り舵20度。速力18ノット」
「はい、取り舵20度。速力18ノット」
坪井が復唱すると、操舵手に指示をした。
緒方は艦内マイクを持って、艦内放送をした。
「艦長だ。これより、本艦は僚艦と共に戦闘海域及び戦闘空域に向かう。対空、対潜、対水上警戒を厳にせよ」
緒方は艦内マイクを元の位置に戻すと、艦長席に腰掛けた。
「では、群司令。我々はグアム島攻略の最終調整に入ります」
上条が陸海空の先任幕僚として牟田に告げた。
「うむ」
牟田はうなずいた。
グアム島攻略の作戦案はすでに軍令部が立案しており、第8艦隊と海軍陸戦隊2個連隊(歩兵部隊)と1個戦車大隊、海軍砲兵中隊が第8艦隊の各艦と輸送船に乗り込み。グアム島に強襲上陸を行う。
グアム島守備隊のアメリカ軍は400名の海兵隊員と現地住民で構成された民兵が350名から400名いる。
史実と少し異なるような気がするが、それもいわゆるバタフライ効果の影響であろう。
アメリカ海兵隊と現地民兵の装備は貧弱で島の警備をするのがやっとであるような装備だ。しかし、油断はできない。
作戦開始は真珠湾攻撃開始と同時刻。早朝にグアム島の攻撃を開始する。
F-35CJの初陣である。対地攻撃だけでは無く、制空戦闘の備えもしている。だが、グアム島にアメリカ軍の戦闘機は無いが、用心に越した事は無い、と言うトラック諸島駐留軍総司令長官である古賀の判断だ。
「艦長。俺の部屋に来てくれ」
牟田はそう言って、司令席を立ち上がった。
「はい」
緒方は艦長席を立ち上がり、水野に艦の指揮を任せた。
「副長が指揮を取ります」
当直士官が叫ぶ。
緒方が司令室に入室すると、牟田は応接用のソファーを勧めた。
牟田は緒方の向かいの席に腰掛けた。
「いよいよ。自衛隊創設以来・・・初めて発令される防衛出動だな」
牟田は小さくつぶやいた。
この時代に派遣された自衛隊の行動はアメリカ軍、イギリス軍等の西洋諸国と戦闘行動をする場合は自衛隊法に明記されている防衛出動である。
「だが、俺は疑問に思う。どう解釈しても防衛出動には該当しないでは無いか、と思う時がある」
牟田が心の中に秘めていた疑問を口にする。
「群司令」
緒方は口を開いた。
「防衛出動は自衛隊最高司令官である首相が外部からの武力攻撃及びその恐れがある場合に、我が国を防衛するために必要があると認められた場合に発令される自衛隊の行動です。史実では連合軍(主にアメリカ軍)は日本固有の領土である硫黄島と沖縄に侵攻し、日本本土をB-29で無差別爆撃しました。これは日本の独立と国民の生命及び財産を脅かす事です。あくまでも超法規的には防衛出動に該当します」
「だが、防衛出動は最高司令官である日本国首相と国会の承認がいる。しかし、原田首相は閣議決定のみで防衛出動、治安出動等を発令した。これは違法では無いのか?」
牟田はまったくその通りの事を言った。
「ですから超法規的措置なのです。この行動は群司令のおっしゃる通り、違法です。しかし、その違法を認めるか認めないかは後世の者たちが決めてくれるでしょう。この派遣に志願した自衛官たちは全員その覚悟で志願したはずです」
緒方の言葉に牟田はうなずいた。
「そうだな。俺たちは全員共犯者。今さら、言っても仕方ない」
緒方の言葉にどうやら牟田は肩の荷が下りたような気がした。
防衛出動。
それは自衛隊法にある自衛隊の行動のうちの1つで、治安出動、施設等の警護出動、海上における警備行動、海賊対処行動、弾頭ミサイル等に対する破壊措置、災害派遣、地震防災派遣、原子力災害派遣、領空侵犯に対する措置等の自衛隊行動の中で最も重大な出動と位置付けられている。
防衛出動はそれ以外の自衛隊の行動とは大きな違いがある。
防衛出動以外の自衛隊の行動はあくまでも軍服を着た警察官としての行動であり、武器の使用は警察官職務遂行法に認められた正当防衛若しくは緊急避難であり、それ以外の武器の使用は部隊指揮官の判断が必要だ。
だが、防衛出動だけはこれ以外の自衛隊の行動とはまったく異なる。
基本的には軍事行動に該当され、最高司令官である首相の指揮監督下で陸海空自衛官に幅広い活動が可能になる。
日本国憲法及び現行法の中では最もハイレベルな自衛隊の行動である。
しかし、よく勘違いされているが防衛出動は戦時国際法では宣戦布告に含まれず、交戦権にはまったく該当しない。あくまでも自衛権である。
そのため、まったく憲法第9条に違反しない。
もし、これが違反するというのであれば日本国の刑法及び民法で認められる正当防衛そのものを否定する事である。
日本国首相である原田の命令のもとで発令された防衛出動は現行法から解釈すれば牟田の言う通り、違反である。
しかし、自衛隊の出動規定で過去の日本に出動する規定は存在しない。
防衛出動は日本国首相の命令で発令できるが、それの承認は国会がしなくてはならない。
だが、緊迫した場合は首相の判断で行える。
つまり、菊水総隊をタイムスリップさせてからは菊水総隊に命令変更ができないため、たとえ、国会が承認しなくても菊水総隊に所属している自衛官たちは原田が発令した命令に従わなくてはならない。
まあ、法的に言えば法の問題点をうまく活用した行動である。
もちろん、菊水総隊の自衛隊が暴走しないように予防措置もきちんとしている。
それが統合省の設置だ。
統合省特別法により、菊水総隊の指揮下にある自衛隊、警察、消防等の組織団体等を指揮監督する権利を有する。
統合大臣が菊水総隊等の最高司令官であり最高責任者である。
以後は彼の命令に従う義務を有する。
ただし、統合省の特別法により、必ずしも統合大臣の許可及び命令が必要な訳では無い。
例えば、陽炎団が自衛隊の出動を要請する事が必要な時は、特別な政治的事情が無い限り、陽炎団団長の判断に委ねられている。しかし、一応報告義務はある。
ただし、その場合の出動内容は大きく異なる。
例をあげるなら、警察官たちで編成されている陽炎団の出動要請であれば治安出動。
消防吏員で編成されている水神団からの要請であれば災害出動。
統合省保安局海上保安部からの要請であれば海上警備行動若しくは治安出動になる。
統合副大臣又は防衛局長官(防衛局の長であり、基本的には元の時代の防衛省と同じであるが、権限は防衛省と異なる物がある)からの命令若しくは要請の場合は警護出動(自衛隊法の規定では警護出動は元の時代の日本の自衛隊施設及び在日アメリカ軍施設を警護するものと規定されているが、ここでは統合省が管理するすべての施設の警護ができる。だが、いろいろとややこしいものがある)というかなり面倒な事になっている。
これは各専門家の縄張り意識からなったものだ。だが、防衛出動に関係する行動であればすべての指揮権は自衛隊が有する事にもなっているから、これで痛み分けという事になっている。
原田や各政府機関等が定めた規定に無い事態が発生した場合は統合大臣の判断であらゆる命令を下す事ができる。
緒方は仮眠と休憩をとるため、艦長室にあるベッドの上に座っていた。
彼は元の時代から持ってきた家族との思い出が詰まったアルバムを開いていた。
妻との結婚式の写真、3人の子供たちが生まれた時の写真、家族との旅行の写真等の大切な思い出が記録されている。
アルバムを開いていくと、息子の少年サッカーチームが優勝した写真が目に入った。
小学校低学年の少年たちと、そのそれぞれの隣で子供たちと同じく嬉しそうな笑顔を浮かべている父親たちが映っている。
その中には腰を低くし、息子と映っている緒方の姿もある。
アルバムを見ながら思い出を楽しんでいると、艦長室のドアからノック音がした。
「入れ」
緒方が許可すると艦長室のドアが開き、水野が入室した。
「失礼します」
「どうした?」
「各分隊長からの分隊に所属する分隊員の精神状態です。医務長にも見せましたが、艦長が見たいとおっしゃっていましたので、持ってきました」
水野が緒方にファイルを手渡した。
ファイルを手渡す際に水野の視界に、緒方のアルバムの写真が写った。
「いい笑顔じゃあないか」
水野が笑みを浮かべて、言った。
「ああ、子供たちはみんな、いい子に育ってくれたよ」
「それは何よりだ。父親として誇りに思うだろう」
水野も嬉しそうに言った。
「水野はどうなのだ。奥さんは今頃、お前の事を心配しているのじゃあないか?」
緒方の言葉に水野は首を振った。
「あいつは俺なんか心配していない。それどころか2人の娘を連れて、他に男を見つけているさ」
「そんな事はないだろう。水野夫妻は20年も夫婦生活をしているのだ」
緒方がそう言うと、水野は艦長室にあるパイプ椅子を持って来て、腰掛けた。
「息子が交通事故で死んだ時、あいつは1人で悲しみに耐えなくてはならなかった。俺は当時、海賊対処行動でマラッカ海峡にいた。あいつを電話で慰める事しかできなかった。本当は側にいて欲しかっただろうに」
「そんな事はない。お前は任務中だった」
緒方は首を振り、告げた。
「あいつは理解してくれない。俺は父親としても夫としても失格だ。捨てられて当然さ」
水野は自分を責めるように言った。
「あんたは家族か仕事か、迷ったのじゃあないか?この任務に志願する時」
水野の言葉に緒方は目を閉じた。
「ぎりぎりまでそれを考えていた。だが、俺の願望が見せた幻かどうかわからないが、妻は俺を励ましてくれた・・・それがなければ、俺はここにいなかったかもしれない・・・」
緒方の言葉を聞くと水野は少し頬を緩めた。
「じゃあ、もしかすると俺が艦長だったかもしれないな」
緒方も苦笑した。
「もしかしたらな」
「すまん、つい愚痴になった」
水野は立ち上がりパイプ椅子を片付けて、艦長室を出て行った。
緒方は水野が持ってきたファイルを開く、各分隊に所属している分隊員の気持ちが書かれていた。
[あまぎ]には心理カウンセラーの資格を有する防衛技官や自衛官(衛生員)が乗艦しているが、まず、最初に相談するのは直属の上官や同僚たちだ。
今のところ[あまぎ]を含めて第1空母機動群の乗員たちに自殺者は出ていないが、今後はどうなるかはわからない。
各分隊長からの分隊員の精神状態について記載された報告書を読んだ後、緒方はファイルを閉じて、仮眠をとった。
[あまぎ]の格納庫で陸上自衛隊即応レンジャー隊航空隊に所属している百瀬源吉1等陸尉は整備されているAH-64E[ガーディアン・アパッチ]を見上げた。
格納庫には整備点検中の海上自衛隊と航空自衛隊の航空機がある。
海自と空自の航空機は緊急発進等に備えて、飛行甲板で待機している航空機もあるが、格納庫では安全管理のために整備点検されている。
陸自が運用する航空機は出撃待機命令が無い限り、格納庫で待機する事になる。だが、いつ出動命令が出ても大丈夫なように常に整備されている。
黒色のデザインがない緑色を基調した迷彩服を着た陸自の航空整備隊(後方支援隊所属)の隊員たちが念入りに点検している。
「百瀬1尉。何か用か?」
百瀬が搭乗するAH-64Dの整備を担当する指揮官の准陸尉が声をかけた。
「別に用と言う訳ではありません。まもなく自分たちも初の実戦を経験します。それを考えますと、自分のヘリを見たいと思いまして」
百瀬は1等陸尉であり、階級上では准陸尉より上位である。しかし、准尉と言うものは自衛隊を含めて軍隊では少し変わったものである。
基本的に幹部候補生学校を卒業したら3尉に入官する。
曹から部隊内の幹部候補生課程に進むとこちらも3尉になる。
つまり准尉は飛び越えるのである。准尉は幹部に進まず、曹のベテランであり、極めて能力が高い者が任命される階級だ。
准尉の階級である隊員は専門的な部署に配置される。そして、幹部でも准尉に対しては上位であっても偉そうにはできない。
百瀬は陸曹の教育訓練中はこの准陸尉が教官だった。そのため、今だに、頭が上がらない。
彼は陸士からの叩き上げの幹部である。
3等陸曹に昇進した後、陸曹航空操縦学生過程に進んだ。
そして、AH-64E戦闘ヘリのパイロットになった。
「それでどうですか、こいつの様子は?」
百瀬の問いに准陸尉は点検中のAH-64Eに顔を向けながら、答えた。
「こいつはまだまだ戦える。エンジン、電気系統もすべて異常なしだ。しかし・・・」
「しかし・・・?」
「これからはこいつを含めて陸自のすべてのヘリは実戦に参加する。想定された訓練では無い。無茶な飛行もするだろう。我々はアメリカ軍のような、金持ちの軍隊とは違う。部品も予備はあるが、新世界連合軍とは違う。彼らは大量の予備部品を持ち込んでいるが、俺たちはそういう訳にはいかない。特に新装備や大量の武器、弾薬等の購入で予備部品の調達は整備のプロとしては少ない。大事に使用してくれよ」
准陸尉が百瀬に顔を向けて、告げた。
特に、大事に使用してくれ、という言葉がとても強かった。
間章9をお読みいただき、ありがとうございます。
誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。




