間章 8 動き出す策謀
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。
国分は[あまぎ]から乗艦許可がでると、その翌日に[あまぎ]に乗艦した。
今、彼女は[あまぎ]の士官予備室にいる。
士官予備室は[あまぎ]の陸海空自衛隊幹部乗員が雑務等を行う部屋である。
室内の規模はかなり小さい。主な使用は[あまぎ]の陸海空自衛隊幹部が自分の指揮する曹士と雑談し、理解を深める事が主流である。
国分はここを間借りしたのである。
彼女の背後に[あまぎ]の広報担当の3等海尉と第1空母機動群警務隊海上自衛隊警務分遣隊に所属している警務官の3等海尉が控えている。
国分が女性であるから、広報官は女性である。
ドアからノック音がすると「失礼します」という声と共にドアが開いた。
航空自衛隊の夏服姿の男が入室した。
脱帽状態であるから、航空自衛官は10度の敬礼をした。
国分は立ち上がり、その航空自衛官に軽く会釈した。
「どうぞおかけください」
国分はその航空自衛官に語りかけた。
「失礼します」
航空自衛官は椅子に腰掛けた。
国分も椅子に座り、早速彼から話を聞く事にした。
「まず、貴方の所属、役職、階級、氏名、墜落事故で殉職したパイロットとの関係を教えてください」
国分が尋ねると航空自衛官は口を開いた。
「航空自衛隊第1空母航空団衛生隊、多田順一2等空曹。織部圭3等空尉とは友人関係でした」
多田は聞かれた事に余計な事を言わず、答えた。
「多田さん。織部さんと最後に会話したのはいつですか?」
「夜間発艦する1時間前に艦内の軽食店で簡単につまみながら、雑談していました」
「その時、何かおかしな事はありましたか?」
「はい、その時は、かなり疲れている表情をしていました。本人は大丈夫だと言っていましたが、自分は上官の医官と織部3尉の直属の上官に伝えました」
多田は少し自分を責めているような顔をしながら、答えた。
「その時、多田さんの上官と織部さんの上官はどうしましたか?」
「2人共、自分の意見を聞いて、織部3尉から話を聞くと言っていました」
「しかし、織部さんは2人の上官に問題ないと主張した」
国分は第1空母警務隊と航空機事故調査委員会から提出された報告書の内容を口にした。
「はい、その通りです」
多田はうなずいた。
国分も納得したようにうなずいた。
「じゃあ、次は彼の心情について質問します。織部さんはどんな人ですか?」
国分の質問に多田はすぐに即答した。
「はい、とてもプライドが高く、第1空母航空団第101戦闘飛行隊の中でトップを目指すといつも言っていました。もともと、この時代に来るのを志願したのも自分の強さと生まれついての才能を見せつけるためだ。とも言っていました」
多田は嘘偽りのない目と声で国分に言った。
「つまり、織部さんは愛国心があった訳でも日本の悲惨な歴史を回避するという考えもなかった。と?」
国分の質問に多田は少し躊躇った顔をしたが、正直に答えた。
「はい、その通りです」
「では、次の質問です。友人である貴方の目から織部さんは部隊内での人間関係は良かったですか?」
「はい、自分の知る限り、織部3尉はプライドが高い人ですが、人との関係は大事にする人です。誰かに後ろ指を指されるような真似はしません。その事は自分が証明できます」
多田の言葉に国分はうなずいた。
「わかりました。話は以上です。お話を聞かせていただきありがとうございました」
国分は立ち上がり、多田に礼を言った。
[あまぎ]に乗艦して、関係者から話を聞いた国分は仮事務所に戻り、航空機事故調査委員会と第1空母機動群警務隊から提出された各種報告書を何度も確認した。
報告書はかなりのものであるから、すべてを確認した時には、すでに深夜を過ぎていた。
国分は頭を休めるためにソファーで仮眠をとった。
日が昇る頃に国分が目を覚ますと、書類整理等の彼女を補佐する事務員が朝食の弁当を持って、事務室に入ってきた。
「おはようございます。国分検事。朝食をお持ちしました」
事務員が塩おにぎり3個と味噌汁の入ったやかんを持っていた。
「おはよう」
国分は自分の席に移動すると事務員がデスクの上に朝食を置いた。事務員は事務室に置いてあるポットからお湯を出し、お茶を紙コップに淹れた。
「どうぞ」
「ありがとう」
国分は朝食を食べる事にした。
朝食を終えた後、航空機事故調査委員会に顔を出していた副検事が戻って来た。
「検事。ただいま戻りました」
副検事が戻ったのを確認すると、国分は彼と今回のF-35CJの墜落事故についての相談をした。
2人はソファーに座り、2人の真ん中にある机には事務員が淹れたコーヒーがある。
「検事。今回の墜落事故についてはどうしますか?」
副検事が尋ねる。
「航空機事故調査委員会と第1空母機動群警務隊からの事故報告書から、墜落事故の原因は織部圭3等空尉の操縦ミスと健康面での自己管理ができていない事は明確だわ。群司令並びに航空団司令の業務上過失致死の容疑は適用できないわ。でも、パイロットの健康調査や精神面での検査をしっかりしていたら、今回の事故は防げた可能性もあるけど・・・自己申告しなかった織部さんに非があるわ」
国分はコーヒーが入った紙コップを口に運んだ。
「では?」
「不起訴処分よ」
国分の判断に副検事はうなずいた。
「確かにそうですね。ではすぐに書類を作成します」
副検事の言葉に国分はうなずいた。
国分から了承を得ると副検事はコーヒーを飲み干し、立ち上がり、自分のデスクに座るとノートパソコンを起動させ、検察局に送る書類の作成を行った。
今回の墜落事故で起訴にするか不起訴にするかの判断は国分に任されている。作成されている書類は不起訴にした理由が書かれている。
この書類と第1空母機動群警務隊と航空機事故調査委員会からの報告書と墜落したF-35CJの飛行記録等が記録されたデータを検察局に送って、今回の事故は解決である。
「これが元の時代だったら・・・」
国分は小声でつぶやいた。
恐らくニュースでも新聞でもトップを飾る内容だろう。防衛大臣と航空幕僚長等が記者会見で頭を下げる光景が彼女の頭の中に過ぎる。
だが、この時代では最新鋭ステルス戦闘機であるF-35CJが墜落した事とパイロットが1名事故死した事は公開されない。
(この時代に派遣された菊水総隊で初めて出た死亡者が戦闘では無く、単なる航空機墜落事故とは、何一つこの時代に来た実感が沸かないわ。そして、この時代に派遣されて私が担当したのが墜落事故・・・)
国分はそう思いながら、紙コップに入ったコーヒーを飲み干した。
F-35CJ墜落事故として記録された今回の事故はF-35シリーズを運用するアメリカ軍を含む各国の空軍及び海軍、海兵隊で運用が開始されてから初めての事だ。
アメリカ軍を含む各国軍で航空自衛隊が最初の墜落機1号を出したのだ。
しかし、これは記録されない。
F-35CJの墜落事故についての詳細な報告書と不起訴処分にする書類を千葉県の一部地域を購入した土地に建設された統合省検察局(東京府に比較的近い位置)に送ってから、3日後。
春島に設置された統合省総務庁(総務庁は統合省に属する内局と外局をまめとめる役目と統合省のナンバーツーに位置する機関だから、局では無く庁にされた)通信本部から派遣された春島派遣通信所から統合省検察局から返信がきた。
春島派遣通信所に所属する通信官が国分たちに貸し与えられている仮事務所に出頭し、総務庁通信本部が使用する暗号文を解読した通信文を手渡した。
国分はそれを黙読すると、笑みを浮かべた。
「どうされました?」
副検事が尋ねる。
「検察局に戻るように、ここでの仕事が終わったから」
国分の言葉に副検事がうなずいた。
「それもそうでしょうね。それでいつ飛行機が出発するのですか?」
副検事が尋ねると国分は通信文をデスクに置いて、答えた。
「飛行機が出発するのは3日後。それまで、この島でのんびり観光を楽しめって、東京に戻ったらかなり忙しくなるから、3日間ぐらいはゆっくりしていいって」
国分の言葉に副検事は首を傾げた。
「あの~、この島で休暇を過ごしていいって言われましても、トラックに何があるのですか?自分たちの時代でしたら、トラックには観光名物はいくらでもありましたが、この時代は軍港であり、海軍基地ですよ。すべて海軍軍人たちが長い船旅や戦闘に疲れた英気を養う娯楽設備しかありません」
副検事の言葉に国分はお茶を飲みながら、答えた。
「史実ではね。でも、この時代は違うわ。日本本土だけでは無く、日本の統治下にあるトラック諸島は軍港や海軍基地としての機能を維持するだけでは無く、観光目的の島としての機能を持てるように私たちの時代から来た各専門家が整備しているわ」
国分の言葉に副検事はうれしそうな笑みを浮かべた。
「じゃあ、自分たちがこの島の最初の観光客になれるのですか?」
「その通り」
国分はうなずいた。
「さて、上から休暇を貰ったし、久々に友達とこの島を観光でもしましょうか」
国分の言葉に副検事が首を傾げた。
「友達?」
「ええ、歳は離れているけど私の実家の隣家で暮らしていた友達。今は空母[あまぎ]の売店のスタッフをしている伊藤恵美よ」
国分の答えに副検事も何か納得したようにうなずいた。
恐らく国分たちに休暇を与えるよう指示したのは検察局局長であろう。局長はこういうことにはすぐに配慮する人だ。
第1空母機動群でも墜落事故が解決したから、事故の防止と今後の事故対策として関係者と会議するそうだが、その期間中は第1空母機動群に所属している全隊員に休暇を与えるそうだ。
国分は個人的な願いを受け入れて貰うため、1枚の書類を作成していた。
副検事は事務員に指示を出して、トラック諸島の観光用に整備されている島の地図とパンフレットを持ってくるように指示した。
「検事。トラック諸島、特に観光用に整備されている島の治安はいいのですか?」
副検事は新世界連合軍最高司令官グレン・フォード・ハンプソンが巡回中の巡査に暗殺されそうになった事件を思い出す。
「憲兵隊の報告では憲兵、警察官の身上調査等は行ったと聞いたわ。それに陽炎団からも公安警察官が派遣され、内部捜査を極秘裏にしているわ」
国分が簡単に答えた。
もっとも公安警察にトラック諸島に駐留する軍人、文民(大日本帝国人)の内部捜査の許可書にサインしたのは彼女だ。
国分がプライベートなバカンスを満喫している頃、1機のVC-130輸送機が春島飛行場に着陸した。
VC-130はC-130をVIP輸送機仕様にした輸送機だ。
主に自衛隊の高級幹部や幕僚クラスの幹部自衛官や他の現場担当(主に制服組)の上級幹部等の人員輸送を担当している。
ちなみに、統合大臣、統合副大臣は数年前まで日本国政府専用機として運用されていた、ボーイング747-400が担当している。しかし、この時代のほとんどの国家で使用されている飛行場では、当機の離着陸は困難であり、陸海空自衛隊が運用する入間航空基地の格納庫で整備点検等が行われているだけだ。
もちろん、大日本帝国の本土及び統治下の一部地域の飛行場を当機が離着陸可能な各種改修工事を行っている。
タラップから4つの桜の階級章をつけた空将と、2等海佐の階級章をつけた男が降りてきた。
「はあ~煌めく海にサンサンと降り注ぐ陽光。これ以上ない絶好のシチュエーションだと言うのに・・・どうして僕の隣には、麗わしのお姉様がたではなく加齢臭プンプンのおっさんがいるのだか・・・愛しのお姉様がたは、今頃鹿児島の錦江湾で、むさ苦しい大日本帝国海軍の野郎どもと演習の真最中だというのに・・・」
軽くため息をつきながら、これ以上ないくらいのふざけた口調で、聞こえないくらいに小さく、本当に小さくぼやく、2佐。
「何か言ったか?」
ジロリと空将が睨む。
「いいえ、何でもありません」
そう言って、笑った2佐の顔はその口調と同じく、軽薄を絵に描いたようだ。
空将は少し鼻白んだが、何も言わなかった。
この男が、こういった軽薄な態度の時は何かを企んでいる時だと知っているからだ。
「ところで2佐。君は大日本帝国にあるイタリア大使館の駐在武官と随分親しくしていたそうだが?」
「ええ、昨年の10月頃、休日に外出した時に、たまたま出会いまして意気投合したのですよ。特に女性の話で・・・」
「・・・・・・」
「いやあ~、ラテン系の人って、みんな陽気なドスケベなんじゃないかと思ってしまいましたね。色街で一晩中飲み明かしましたが、ウインク1つで女性が群がって来るなんて、モテ期なんてホントにあるのだなと、その人物を見て思いましたよ」
しまりのない表情で語る部下に、単に飲んでいただけじゃないだろうとジト目で見ながら空将は無言だった。
「・・・まあその人も、イタリアに戻ると言っていましたが・・・昨年の11月11日と12日にはターラントには行くなと注意はしましたけどね・・・無事だったらいいな。また、会いたいと思える人でしたからね」
「・・・空爆か・・・そこの所は史実通りだったようだな・・・」
「ええ。史実では、あの下らない真珠湾攻撃に影響を与えた空爆ですよ。アメリカとの早期講和なんて絵空事のためにね。あれがきっかけとなって、日米でどれ程の国民が死んだのやら・・・あのA級戦犯のせいでね・・・」
「君は確か彼を昔から批判していたな」
「違います、心底嫌って軽蔑している。ですよ」
眼鏡を直しながら、それまでの軽い口調ではなく、吐き捨てるように言う2佐の目は冷たかった。
(蛇の目だな)
それを見てそう思った。
「・・・どちらにしても、事故のせいで大幅に予定が狂った。この分ではどれ程急いでも、開戦までに予定されていた訓練や演習を消化する事はできないだろう」
「それはそれで良いかと」
「?」
「単に計画通りの結果の決まった演習や訓練など、実戦においては役に立ちませんよ。僕が小学生の時に学校で地震や火災等の避難訓練をやりましたが、全校生徒が集合するのに5分遅れたというだけで、先生がたは怒っていましたが・・・あれに何の意味があるのやら・・・出来るまでやり直しなんて、どこの共産主義国家かと思いましたよ。そもそも、なぜ遅れたのか、計画的に無理がなかったのか、どうすれば時間制限を達成できるのかの議論はガン無視。できないのが悪い、みたいな決めつけなんて、民主主義の理念に反していませんか?で、実際災害が起これば不測の事態のテンコ盛りですからね。それと同じようなものです。戦争になれば、やり直しはできません。士や曹はともかく、指揮官クラスは開戦すれば、今まで通りにいかない事を思い知る事になる。自分や部下を生き残らせるための決断を迫られる事もあるでしょう。我々の保有する兵器はこの時代の人間から見れば、超兵器です。しかし、最新鋭の兵器を持った軍隊が、劣った軍隊に敗れた例はいくらでもありますから」
「・・・・・・」
「まあ、それはさておき、新世界連合軍も惜し気もなく技術や資材、資金を大日本帝国に供与していますが・・・経済制裁が全然痛手になっていないって知ったら、ルーズベルトさん辺りは発狂しそうですね。それはそれで笑いますが」
「新世界連合軍にも思惑はある。戦闘データが欲しいというのが理由の1つだ」
「それだけでなく、この時代の各国家の国力をジワジワと削り取り、権力中枢を乗っ取り、造り変える。中々エグイやり方ですね」
「中途半端な改変など意味がないからだ。やるなら徹底的にやる」
「ハッハハハ。僕としては非常にやりがいのある仕事ではありますが」
このまま放っておけば、好き勝手に喋り続けそうな2佐をそろそろ窘めなくてはならない。
「ところで2佐、我々がここに来た理由を忘れていないだろうね」
「はい勿論ですよ。綺麗なご婦人がたの水着姿を堪能しに来たわけではないのは、よぉ~く理解していますので」
どこまで本気かわからない、ふざけた口調と表情で蛇の目を持つ2佐は笑った。
間章8をお読みいただきありがとうございます。次回は第1空母機動群の初陣の話になります。
グアム島を攻略します。
誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。
次回の投稿は4月26日を予定しています。




