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間章 7 事故調査

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

 本章及び次章では、菊水総隊等の制服組と現場組を管理監督する上位組織が登場します。話がややこしくなると思いますが、今月末に投稿される外伝(現在投稿中外伝とは別物です。これは、現在投稿中の外伝は本編と同様に制服組が主体だからです)は背広組とそれを補佐する制服組の話であり、政治、外交等がメインです。

[あまぎ]の艦内にある警務室で、鈴山は昨晩発生したF-35CJの墜落事故の書類をまとめていた。


 警務室は第1空母機動群警務隊が使用する部屋だ。ここで陸海空の警務官たちが書類をまとめたりする。


「司令。指示通り、群司令と第1空母航空団司令の2人は自室で謹慎させました。それ以外の事故の関係者たちは保護室に入れました」


 警務室に戻った副司令が報告した。


 保護室とは、第1空母機動群に所属する艦(潜水艦は除く)に設置された24時間監視可能な個室である。わかりやすく言えば営倉に近いものがある。


 本来は軽度の隊規違反を犯した自衛官や軽犯罪等に該当しない問題行動を起こした民間人を2日以上10日まで収容する部屋だ。


 警務官では無い自衛官たちは懲罰房と呼称する者もいる。


 収容するには軽度の隊規違反をしたと疑われる自衛官若しくは現に犯した自衛官を陸海空の警務官(陸自隊員の隊規違反者は陸自警務隊、海自隊員の隊規違反者は海自警務隊、空自隊員の隊規違反者は航空警務隊、民間人の場合は第1空母機動群警務隊の指揮下として派遣されている海上保安官が担当する)が担当し、事情聴取をした上で第1空母機動群警務隊司令と[あまぎ]に乗艦する検察庁から派遣された副検事の判断で、収容するか否かを判断する。


 収容すると判断された場合は書類を作成し、それを群司令及び艦長の承認を得る必要がある。


 ただし、保護室の使用はこれだけでは無く、第1空母機動群で重大な事件及び事故が発生した場合は関係者を一時的に収容する事もできる。


 この場合は第1空母機動群警務隊司令と副検事の判断で行う事ができる。この場合の収容期間は無制限である。ただし、個室を与えられている自衛官、民間人の場合は特別な理由と法的根拠が無い場合は、収容は認められない。


「群司令と空母航空団司令の部屋には監視の警務官は配置しているか?」


 鈴山は書類の手を止めて、顔を上げた。


「はい、海自と空自の警務官をそれぞれの部屋に1名と[あまぎ]保安員を同じくそれぞれの部屋に1名配置につかせております。ご指示通り、両名の面会はいかなる場合も認めてはならないと指示しております」


 副司令が言った保安員とは[あまぎ]のみに編成された警衛組織だ。


 基本的には陸海空自衛官の3曹から曹長までの曹が任命される。わかりやすく言えば自衛艦のCPO室を拡大した物だ。


 保安司令は陸海空自衛隊の曹長が任命され、艦内の規律の維持等を担当する。事件や事故が発生した時は警務隊の支援に当たる([あまぎ]のみ先任伍長は海自の保安司令である海曹長が担当する。


 副司令の言葉に鈴山はうなずいた。


「トラックに戻りしだい、F-35CJの墜落事故の調査が開始される。我々の出番でもある。トラック泊地で錨を降ろしたら、関係者たちから事情聴取を行う。事故だけでは無く、事件性も視野に入れて捜査する」


 鈴山の言葉に副司令はうなずいた。


「彼らの容疑は業務上過失致死の疑いで捜査します」


 自衛隊の警察機関である警務隊は全員自衛官ではあるが、法を順守する警察官でもある。


 何か起きればそれが事故なのか事件なのか捜査し、真相を明らかにする。


 自衛隊内の犯罪を取り締まる法の番人であるのが彼ら警務官だ。


 鈴山は再びデスクに視線を落とし、書類の作成を行った。


 第1空母機動群警務隊の忙しい仕事はこれから始まる。





「当機はまもなく、トラック諸島春島飛行場に着陸します。乗客の皆様、もうしばらくお待ちください」


 客室乗務員からの放送を聞き、ボーイング737に搭乗している統合省検察局に所属する国分(こくぶ)雅美(まさみ)検事は統合省防衛局から提出された報告書を黒革の鞄に入れた。


 統合省とは、菊水総隊の上位組織(制服組)のさらに上の背広組の組織で、自衛隊、警察、消防、海保、警備官、民間企業等に所属している民間人たちを管理、監督する組織である。


 統合省は日本の省庁から派遣された官僚で編成され、統合大臣、統合副大臣は大臣又は副大臣が任命されている。


 統合省の外局として検察局、裁判所、弁護協会等がある。


 国分が乗り込んでいるボーイング737には、統合省で編成された航空機事故調査委員会委員と調査官たちが搭乗している。そして、彼らを警護するために警備本部(統合省内局である保安局の下に属する警備官たちを管理する本部)と警備会社から警護要員が派遣されている。


 試験航海と運用試験並びに各種演習を行っていた第1空母機動群で同部隊に所属していた航空自衛隊のステルス戦闘機F-35CJの墜落原因を調査する為である。


 検事である国分がいるのはこの事故が業務上過失致死の疑いがあるからだ。


 もちろん、それだけでは無い。自衛隊等の現場組織が暴走しないように検察局の立場をはっきりさせておくためでもある。


(さて、この時代に派遣されて初めての仕事)


 国分は目を閉じた。


「乗客の皆様、当機はまもなく着陸態勢に入ります。シートベルトをしっかり締めてください」


 客室乗務員からアナウンスが入る。


「国分検事。着陸って大丈夫ですかね?」


 彼女の補佐を任されている若い副検事が声をかけた。


「大丈夫よ。春島の飛行場はしっかり整備されているのだから、大型旅客機が着陸しても問題ないわ」


 国分はシートベルトをしながら、答えた。


「そ、そうですか」


 副検事が心配そうにつぶやいた。


「着陸時に喋ったら、舌を噛むわよ」


 国分の言葉に副検事は、今、それを言いますか、と言う顔をした。


 副検事は慌てて、シートベルトを締めた。


 ボーイング737はゆっくり高度を下げ、雲の上から雲の下に移動した。


(まもなく着陸ね)


 国分は窓際に座っているから外の光景を見える。


 彼女は青い海を見下ろした。


 トラック諸島方面の青一色の海が彼女の目に入った。


 ボーイング737は春島の飛行場に着陸した。普通の空港の滑走路に着陸するような衝撃で終わった。


「乗客の皆様、当機は無事トラック諸島春島に着陸しました」


 機長がアナウンスする。


 国分はそのアナウンスを聞くと、シートベルトを外し、立ち上がった。


 ボーイング737に搭乗した事故調査委員会と調査官、検察官、その警護要員たちが春島の地面に足をつけた。


「暑いですね。日本とは全然違いますね」


 副検事が春島に足をつけた最初の感想がそれだった。


「ここは1年中海水浴ができる島よ。暑いのは当たり前」


 国分が当たり前のように言った。


「でも、サメがうようよしているでしょう」


「当然」


 国分は即答した。


「それじゃあ海水浴なんてできないです」


 副検事が小さく抗議した。


(貴方は、ここに来た理由を忘れていない?)


 国分はそんな事を思いながら、用意されたバスに乗り込み、それぞれの宿舎に案内された。


 調査は明日から開始される。





 第1空母機動群警務隊航空警務隊警務分隊隊長である3等空佐は[あまぎ]に設置されている取調室にいた。


 警務分隊は航空警務隊の地方警務隊より下で警務連絡班より上という位置で編成された警務部隊だ。主に[あまぎ]に乗艦する航空自衛官の犯罪捜査及び犯罪の防止等を行う。


 彼の隣には書記として2等空尉が座っている。


 取調室のドアからノック音がする。


「入れ」


 3佐が許可するとドアが開き、関島が入室する。その後ろから警務分遣隊に所属している警務官補の空士長が取調室に入る。


「第1空母航空団司令をお連れしました」


 空士長がそう言うと、3佐は「ご苦労」と言って、彼を退室させた。


「どうぞおかけください」


 3佐は穏やかな口調で言った。


 あくまでも彼の仕事は事情聴取であり、尋問では無い。それに関島は容疑者でも無い。今のところは・・・


 関島はパイプ椅子に腰掛ける。


「それではF-35CJの墜落事故について話を聞かせてもらいますが、まず、貴官の所属、役職、階級、氏名を言ってください」


 3佐はマニュアル通りの質問をする。


「航空自衛隊第1空母航空団司令関島欧也1等空佐」


 関島は堂々とした態度で言った。


「では、最初の質問です。関島1佐は事故が発生する前に気象長から天候が悪いと報告を受けていましたか?」


「牟田海将補からその話を聞いた」


 隣で書記の2尉がカチカチとノートパソコンのキーボードを叩いている。


「その時、報告に問題はありませんでしたか?」


「まったくない」


「気象情報、各種計器類に問題ないと把握していましたか?」


「各指揮官からの報告と自分の目でも確認したが、まったく問題ないし、把握していた」


 関島の言葉に3佐はうなずいた。


「わかりました。墜落事故を起こしたパイロットについてですが、織部圭3等空尉はご存知ですか?」


「アメリカ海軍航空隊基地で何度か会ったし、少し話をした」


「では、その時、何か感じましたか?」


 3佐が質問すると関島は眉をひそめた。


「何か、とは?」


「例えば、性格に問題があったとか、操縦等のミスを起こすような感じです」


「いや、織部3尉と会話した時は特にそんな感じはしなかった・・・いや」


 関島の最後の言葉を3佐は聞き逃さなかった。


「何かあったのですか?」


「そう言えば、織部の上官と医官から精神状態に問題があると聞いた事がある」


 その事については3佐も知っている。


 統合省防衛局に織部の身上調査書とこれまでの入院歴、手術歴、病歴等を送るように要請した時、防衛局から出されたそれらの書類の中にそのような記述があった。


 織部はアメリカ海軍航空隊基地で短距離離着陸訓練中に医官の問診を受けた時、軽い鬱病の疑いがあると診断された事がある。しかし、本人は何の問題も無いと主張したし、今までの訓練でも何の問題もなかった。


 そのため、詳しい検査は行われなかった。


「次の質問です。織部3尉の部隊内及び部隊外での人間関係は聞いていますか?」


 3佐の質問は[あまぎ]の乗組員になった時、空自だけでは無く、海自、陸自の隊員たちとどのように接していたのか、それを聞いている。


「いや、特に何か問題があるとは聞いていない」


 3佐は関島の目をしっかり見ながら、彼の言葉を聞いた。


 関島は嘘を言っていない。


 3佐も警務官として20年務めた。犯罪に手を染めた航空自衛隊員を何人も尋問した。その経験から、彼が嘘をついていないのはわかる。





[あまぎ]の警務室で鈴山は彼の指揮下に置かれている陸海空自衛隊からの警務隊の報告書を読んでいた。


 F-35CJの墜落事故について、自衛隊がまとめた事故原因報告書をまとめるためだ。


 すでに統合省航空機事故調査委員会委員も、調査官たちからの報告書をまとめている頃だろう。


 統合省航空機事故調査委員会は、統合省の外局である。


 主に統合省監督下にある自衛隊、警察、消防等のすべての組織が運用する航空機事故の調査をする。もちろん、自衛隊や警察の航空機が敵対国家及び敵対勢力からの攻撃を受けて撃墜された場合は不自然な事が無い限り調査はしない、と決められている。


 調査官たちはかなりの時間をかけて関係者たちから事情聴取と[あまぎ]のコンピューターに記録されている墜落したF-35CJの交信記録を分析した。もちろん、これは第1空母機動群警務隊航空警務分遣隊も調べた。


 すでに海上に墜落し、海底に沈没したF-35CJのブラックボックスは回収され、航空機事故調査官と航空警務分遣隊が調査した。


 すでに2ヶ月半の調査だ。


「司令」


 副司令と検察庁から派遣された苅田(かりた)大輝(だいき)副検事が鈴山のデスクの前に立った。


「どうした?」


 鈴山は報告書をデスクの上に置いて、聞いた。


「春島の仮事務所にいる検察局から派遣された国分雅美検事が本艦に乗艦申請してきました」


 副司令の報告に鈴山は眉をひそめた。


「それは俺では無く、艦長の判断だろう」


 鈴山が当然の事を言った。


「それなのですか、艦長では判断に困る事がありまして」


 副司令が苅田と顔を見合わせた後、口を開いた。


「国分検事は今回の墜落事故に関係している自衛官から話を聞きたいそうです。あくまでも話を聞くだけで、尋問でも事情聴取でもないそうです。建前は・・・」


「報告書はすぐに提出すると、言ったはずだが・・・何か問題でもあったのか?」


 鈴山は事故調査委員会が自分たちと違う報告でもしたのか、思った。


「いえ、そのようなものではないようです。直接会って、関係者から話を聞きたいそうです」


 副司令の言葉に鈴山は顎を撫でた。


「それは検察官の職務では無いのではないか?検察官が捜査する場合は大型の経済犯罪や政界絡み汚職事件等だったはずだが、今回の場合は単なる事故の可能性が高いし、事件性があるとは思えないが・・・」


 鈴山は別に自衛官たちを庇っている訳では無い。あくまでも法の番人として言っているのだ。


「とりあえず、法的根拠がない以上は部外者を容疑者と会わす訳にはいかない」


 鈴山がそう言うと苅田が口を開いた。


「そこを曲げてほしいそうです。一応ではありますが、法的手続きを行っています。統合大臣、法務局長官、防衛局長官、検察局長からの許可をとっています」


 苅田は自衛隊の事をまったく知らない人間では無い。


 元は陸上自衛隊の幹部で警務官だった。


 3尉以上の警務官は副検事選考試験を受験でき、合格すれば副検事に任官できる。


 近年の自衛隊では規律を正すため、[あまぎ]と同様に保護室制度が承認された。


 保護室に収容するか否かは副検事の署名がいるため、自衛隊が使用する施設すべてに副検事が1名派遣されている。


 苅田のように自衛官出身者が多い。


「その書類はあるのか?」


 鈴山は苅田に顔を向けた。


「はい」


 苅田は1枚の書類を渡した。


 鈴山はそれを確認する。


 確かに書類には不備はなかった。


「わかった。艦長にも伝えて、国分検事の乗艦許可をもらってくれ。そして、国分検事による関係者との面会を許可する。しかし、防秘等の事について、誓約書に署名させるのと警務官1名と広報官1名を同席させる事が条件だ。それを承認するなら許可する」


 鈴山の判断に苅田はうなずいた。


「そう伝えておきます」


 間章7をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

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